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ーUntil the Daybreakー  作者: Lauro
序章 ーin the Duskー
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第6章 ーDawn of the Last Farewellー

「セルシウスてめぇっ…!!」

威圧の鎖から解き放たれたライカはすぐさまセルシウスに襲いかかるが

セルシウスの足元に紅い光を放つ魔術陣が展開し黒焔は虚空へと消えていった

「グレンさん今助けるから!!」

メリッサは急いで紅に染まるグレンに駆け寄り治療魔術をかけ始めるが

「メリッサ…もう…いい…致命傷だ…助からん…」

掠れた声と力を無くした手でメリッサの杖をどかそうとするが

本人が致命傷と言うとおりメリッサの杖をどかすことはできない

いや、例えその力があったとしてもメリッサがそれを全力で阻止しただろう

「うるさいな!これが私の仕事なの!!だから…!!」

メリッサは眼に涙を一杯に溜めながら治療を続けようとする

「ラルク…やめさせて……くれ…」

「ふざけんな!黙って寝てろよ!!死んだら俺達の事守れないだろ!!!」

ラルクは簡単に自分の死を悟り、受け入れる父が許せなくて叫んだが

そんなラルクの頭にグレンは力ない左手を置いた

その手はいつか昔に触れて感じた父の温もりだった

「ラルク…剣を取る者は……剣によって滅びる…だが…俺には……手を汚しても…守りたいものが…あった……これで…いい…んだ……」

グレンは剣で体を貫かれ痛みで声も出せない筈なのにラルクに微笑んだ

不覚にもその笑顔に安心してしまった自分がいた

「シルヴィア……来な…さい…」

そう呼ばれ1番遠い所に立っていたシルヴィアがグレンの側に跪いた

グレンはシルヴィアの白い頬に右手を当てて撫でた

彼もグレンの掌が温かいと感じているのだろうか

「シルヴィア…俺は…お前…の…父親になれて……いたか…?…傭兵団は…家族だ……ラルク…達を……頼んだ…ぞ…」

「はい…」

シルヴィアは静かに頷いた

そしてグレンはゆっくりとライカに顔を向けた

ライカはグレンの意を察し治療をするメリッサをグレンから離した

「やだっ!ライカ離してよっ…!!」

ライカは暴れるメリッサを何とか抑え付ける

「バカァ…ライカなんて…大っ嫌い……!!」

メリッサはライカの服の裾を握りしめ

ライカの胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす

ライカはその頭を優しく撫でる

「メリッサ…ありがとう…おかげでまともに喋れる様になった…」

声は弱々しいままだが言葉の途切れが少なくなった

だが、メリッサはライカの胸に顔を埋めたままだった

「ライカ…すまないが…ラルク達を頼むとオルフェウスと…ゲルダに伝えてくれ…あと…メリッサの事…そろそろちゃんと…考えてやれ…」

「おっと…最期に痛いとこ突かれたな…」

ライカはいつもの軽口だがその口調は静かだった

「…セレン」

グレンに名を呼ばれると

その場にヘタレこんでいるセレンの小さな弱々しい肩がビクッと震え

「…あ…っ……!」

グレンが崩れ落ちた時から絵画の様に制止していた彼女の体が小刻みに震え始めた

「ごめん…なさ…い…私……私っ……」

この時初めてこの事態を招いたのは自分だという事を自覚したのと同時に

眼に一杯の涙が湧き上がってくる

「いいんだ…セレン…ありがとう…俺を助けようとしてくれて……」

グレンが手を伸ばしセレンの手を取ろうとすると彼女の震えはより一層大きくなり

涙が頬を伝ってゆっくりと流れ落ちる

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

セレンはただその言葉だけを繰り返す

「セレン…どんな結果を招こうと…その他者を慈しむ心を大切に…しなさい…」

グレンはセレンの頭を優しく撫でるとセレンは我慢できずに嗚咽を漏らし始める

そしてグレンはまたラルクを見る

「ラルク…アルトに…辛い時は仲間を頼れと…伝えてくれ……アルトはああ見えて抱え込むヤツだからな……」

ラルクは言われた事に静かに返事をした

なぜだろうか、自分は父親の最期をなぜこんなに穏やかに見送ろうとしているのだろうか?

父の死が不可避なモノだからだろうか?

「ラルク…もしお前達が自分の事を知りたいと思うなら……この右腕を持っていけ…お前達が何者なのか知る術に…なる…」

グレンは震える手で右腕の服の袖を捲り上げる

すると、グレンの右腕は白銀の光を放っていた

「親父それは…?」

義手だ…

今まで長いことグレンの息子をやっていたが彼の右腕が義手だという事は知らなかった

故に衝撃は大きいし様々な疑問が浮かび上がってくる

「ラルク…シルヴィア…お前達はもしかしたらこの先……俺を激しく恨む時がくるかもしれない…だが……今も昔も…そしてこれからも…お前達を……愛…して…いる…」

既にグレンの蒼の瞳は光を失っていた

もう、決して宿ることのない光…

「親父……ありがとう…」

ラルクは光を失ったグレンの瞳にそう告げた

そして、瞳から光を失った代わりにグレンの体から淡い光が昇り始め

グレンの体が消え始める

「…アルナ……今…俺…も……」

グレンの体が消えていることに気づいたセレンはもしかしたら慌ててグレンの体に手を伸ばす

「ダメ…!逝かないで…」

グレンの消えゆく体にはもうセレンの涙が落ちる事はなかった

「…………」

なんでだよ!?

なんで涙すら出ねぇんだよ!!

親父が…死のうとしてんだぞ!?

ラルクの心にはグレンが死ぬ事の寂しさや悲しみより

今は自分を責める気持ちだけが心を支配していた

なぜグレンの体が消え行くのかも疑問にせず

ただ見ているだけしかラルクには出来なかった

そして最後の光がグレンの魂を天へと運んでいった

グレンの横たわっていた場所を見ると

銀の腕輪とグレンが使っていた剣が残されていた

この腕輪はきっとグレンが持っていけと言っていた彼の右腕なのだろう

立ち上がり沈黙の中にグレンのいた場所を見つめる

なぜだろう…ちゃんと立っているのに足元が床から浮いているような

そんな感じがした

体から何かが抜けて力が抜けたような

そんな感じが…


「グレン!お嬢の救出は終わったか!?」

沈黙の中にゲルダの声が響いて来たがラルク達の中で誰も返事をしなかった

グレンは、もう…

「おいどうした?グレンの野郎は…?」

その言葉を聞きラルクは奥歯を噛み締め視線をグレンの遺した遺品へと落とす

「親父は…殺された……セルシウスに…!」

ゲルダは一瞬息が詰まったように言葉を失った

「ちゃんと…手前ぇらを守ったんだな…?」

ラルクは声を絞るように返事を返した

「…俺より先にくたばりやがって……!だが、アイツらしいじゃねぇか…」

憎まれ口だがゲルダなりの受け止め方なのだろう

「外の様子はどうでした?」

シルヴィアはさっきのやり取りがなかった様に切り出した

「やられたな、もぬけの殻だ…来て見たらこのザマだ…!」

ゲルダは斧を床にヒビが入るくらい強く叩きつける

「僕達はセレンの救出も済みましたし王都に戻ろうと思います」

本当は済んでなんかない

グレンを失ったのだから…

「俺達も戻る…グレンのヤツを弔ってやらねぇとな…」

ゲルダの拳は握り締められたまま震えていた

「グレンの事は俺から話しとく、手前ぇらはゆっくり帰って来い…」

ゲルダは少し寂し気な背中を見せながら部屋を出て行った

「……俺達も行こう…」

ラルクはグレンの剣と腕輪を拾い上げて皆に促すが返事は返ってこないが

ライカは彼の胸で泣いているメリッサを抱え上げ出口へと歩き出す

それに続きシルヴィアも出口へと向かう

そして、部屋にはラルクと少女が残された

「セレン…行くぞ…」

うずくまり嗚咽を漏らすセレンは首を横に振る

「行きたくない…置いてってよ…」

セレンの前に跪いたラルクに向かってセレンが言う

「夜明けは冷えるぞ…」

ラルクはセレンの背中に自分のマントを羽織らせ力の抜けた彼女の体を背負った

その体は力が抜けているせいか重かった

アルカナ城を出ると薄明るくなり始め、肌寒い外の空気がラルクの肌をなぞる

ラルクはセレンを背負い黎明の中を歩いて行った


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