第5章 ーa Diary of Tragedyー
しばらくするとやっと体に力が戻りやっと起き上がれるようになってきた
当然ながらマントの男は既に姿を消している
残ったのは男が残していった紙切れだけ
「誘拐された者達は解放した、早くこの島から離れろ…だとよ」
「そ、そうだな…こ、こんなとこさっさと出ようぜ…?」
ライカが一も二もなく賛成しアルトも小さく頷く
「でも調査が…怖いですけど…」
「そうだよ!折角来たんだからもうちょっと探検しようよ!」
メリッサがライカの腕を引っ張る
「ま、一応試練だし犯人もまだはっきり分かった訳じゃないからもうちょっと調べてくぞ」
「ラルクは怖くないの?!」
ライカが見兼ねて聞いてくる
「幽霊なんて眼に見えねぇしな、実感ねぇからあんま怖くないかもな」
本当に怖い者は他にある…
それから嫌がるアルトとライカを何とか部屋の捜索に参加させた
シルヴィアが言うにはラルク達が今いる部屋は実験室らしく
実験器具や本棚には大量の資料や魔導書が並んでいる
「死人に口なし、貴重な情報源だったのですが…」
シルヴィアが先程マントの男が殺した男の服を探り出す
人形を触るかのように無造作に
しばらくシルヴィアの手の行方を見ていると彼の細い指に一本の鍵が握られていた
「ラ、ラルク…こんな物が…」
振り返ると震えるアルトは手を震えさせながら一冊の本を持っていた
「研究…日誌?」
辺りを探していたセレン達も集まる
ラルクは表紙を開き1ページ目を読み始める
「ラグナシア暦459年獅子宮の月2の日、私はここにいる囚人達を使って思念体を作ることに成功した…さっきのメリッサの話し本当っぽいな…」
「いいから続きは?」
メリッサが先を読むように急かす
「えっと…処女宮の月9の日、それから私は複数の思念体を作り出し独房に閉じ込めた囚人に定着させた、3日もすれば完全に定着するだろう…独房?シルヴィア、その鍵…」
「独房の可能性は高いですね」
シルヴィアが眼を眇める
「でも459年って私達が生まれるかなり前ね…」
アルトは寒気がするのか腕をさすりながら言う
「その先は…?」
セレンはラルクの脇から日誌を覗きこむ
「いや、その先は…ん?何だこれ…?」
ラルクが日誌をパラパラめくっていくと
途中に一枚の紙が挟まっていた
「これは…この部屋の間取り図ですね」
その紙には部屋の間取りと印が一つ記されてあった
「おいおい…まさかその印の先に例の独房があるってんじゃないよな…!?」
どうやらその印の場所は部屋の北西の角に置いてある本棚の所のようだ
「でもいろいろおかしくねぇか?この日誌は俺達が生まれるずっと前のもので、誘拐事件とあの研究者みたいな奴は関係無いんじゃないか?」
ラルクの言う通り段々話しが変な方向にズレて来ている
「連れ去られた者はあのマントの男が解放したと言っていたから大丈夫だと思うけど…やっぱり関係無くてももうちょっと探ってみた方がいいんじゃないか?」
アルトも恐怖に耐えながらやっとその気になったようだ
「でもこの壁何も無いですよ?」
印がつけられた場所の本棚を退かしてみたが特に何もない
「いえ、ここの壁、よく見ると他の場所より若干新しいですね…多分あの研究者が出入りしたのでしょう」
シルヴィアが壁を錬成術で分解しようと手を触れるが何も起こらない
「ダメか?」
「普通には分解出来ないように何か仕掛けてありますね」
「何か手がかりかなんか書いてないの?」
メリッサが間取り図を除きこむ
「なんか図の下に字が書いてあるけど読めねぇ…古代語?」
「それ、光を当てろって書いてあるんじゃねえの…?」
意外にもライカから答えが出てきた
どうやら学もあるようだ
「この壁に光を当てろという事かしら?」
アルトは魔導書を取り出し手を壁にかざしながら詠唱すると光の玉が出現した
すると、光の玉で照らされた壁に薄っすらと影が浮かび上がった
「アルト、そのままに…」
シルヴィアが詠唱し影の部分を正確に焔で焦がして痕をつける
「これって焔系の魔術陣かしら?」
攻撃に使用する魔術を使えるアルトには分かるらしい
「これが恐らく鍵に…」
シルヴィアがもう一度痕のついた壁に手を触れるがまたしても何も起きない
「ん~…セレン他に何か書いてある~?」
メリッサがつまんなそうにいう
「えと…この先は…難しくて読めません…」
セレンが頭を悩ませていると今度はシルヴィアが紙を覗きこむ
「古代語に暗号化ですか…よっぽど見せたくない物でも隠しているんでしょうね…」
「少年、人生の先輩として一つ忠告してやろう…世の中知らない方が幸せな事もある!」
シルヴィアは全く聞いてない
しばらくシルヴィアは考えこむと口を再び開いた
「そういえばこの部屋の中央、魔術陣の跡が幾つかありますね。それに実験室だというのに燭台が一つもない…」
「シルヴィア先生、つまりどういう事だ?」
「この古代語の暗号には魔術陣の事が書かれていました。この魔術陣は人体から精神を乖離させるものであるようです。それとこの魔術陣とあの壁は連動しているようです…ちょっと眼を瞑っていて下さい…」
シルヴィアはそう促すと眼を閉じながら詠唱すると
眼を閉じていても目の奥が痛くなるくらいの眩い光が部屋中を照らす
そして、またラルクが眼を開けた時には中央にまた別の魔術陣が現れた
シルヴィアは部屋の中央の魔術陣を壁の魔術陣にまた焔で焼いて重ね合わせ再び手を触れる
今度はちゃんと壁が分解され下へ続く階段が現れた
「すごい!探偵さんみたい!」
メリッサが分解された壁を見てシルヴィアを褒める
「この奥に独房が…」
アルトは地下へと続いていく階段を見下ろす
階段の奥に淀んでいる闇を見ていると吸い込まれてしまいそうな気分になる
「これ…ホントに降りてくの…?!」
「面白そうだから行こうライカ!」
メリッサが嫌がるライカの腕を引っ張って行きラルクも階段の奥の淀んだ闇に進んで行く
「ウッ…!」
「どうした?」
セレンのうめき声が耳に入り振り返るとセレンが身を屈めて腹を抑えていた
「大丈夫です…ただ、少し空気が重いような気がして…」
雰囲気に少し飲まれてしまっているのかもしれない
もしくは、霊感…というやつだろうか?
「上でアルトについてもらって休んでるか?」
セレンは額に少し汗を滲ませながら無理矢理笑顔をつくる
「大丈夫です、もし気を失って動けなくなったらラルクが助けてくれますから…」
「あぁ……」
大丈夫だろうか?何も無ければいいのだが
「セレンいいなぁ…もしアタシが気を失ったら、ライカ助けてね!?」
「そんなの俺が助けて欲しいぜ…」
さらに階段を降りていくと闇の淀みが深くなっていく
セレンの言っていた空気が重いというのもあながち冗談ではないようだ
そして、闇の奥から現れた鉄の扉の鍵穴に鍵を差し込み、回す
「真っ暗だね…」
嫌な音をたてて開いた扉の先は自分の手も見えない程の闇だった
「独房ですからね」
シルヴィアは掌に光の玉を浮かべ狭い範囲だが視界が出来た
「…?…こ、これ…また日誌?」
アルトは爪先に当たった本に気がつき拾いあげる
「ちょっと貸して下さい…ユアン?ここに監禁された者の名前でしょうか?」
「女性の名前ですよね…?」
シルヴィアがユアンと名前の書かれた本を開くと皆が覗きこむ
「日記のようですね…ラグナシア暦459年双児宮の月16の日、あなたがいなくなってひと月、私はあなたの事が心配になってあなたを探すために旅に出た、旅の途中あなたがここにいるという話しを聞いてここに来ると、あの魔導士に捕まりここに監禁されてしまった…ここではこの日記を書く事だけが許された…」
「この方は何の罪も無いのにここに監禁されたのでしょうか…?」
「という事はあの研究者が犯人という事…?」
「もしかしたら犯人は別の奴なんじゃないか?生きてる時間が明らかに違うだろ…」
今回の誘拐事件はあのマントの男が拉致された人々を解放してくれたから解決したとして
今ラルク達が見ている問題はどうやら別問題のようだ
知りませんでしたでは済まされないところまで知らず知らずの内に踏み込んでしまったのかもしれない
「んでシルヴィア、続きは
?」
今まで怖がっていたライカも心なしか真剣になってくる
「…双子宮の月19の日、あれから3日、ここには光も音もない…絶望と孤独は募るばかり…怖い…でも、もしかしたらあなたが私を助けに来てくれるかもしれない…そんな微かな望みがあるから今日も生きていける…」
「このユアンという方が探しているのはこの方の恋人でしょうか…?」
セレンが胸の前で両手を握りしめる
「続きを読みます…獅子宮の月2の日、最近上から人の叫びが聞こえてくるようになった、私も近くああなってしまうの…?…怖い…早く助けに来て…」
シルヴィアが更にページをめくっていくとシルヴィアは眉を潜めた
日記が書かれている文字が同一人物とは思えないような字だったのだ
「処女宮の月12の日、私は3日前独房から連れ出されたらしいがそこからの記憶がない…眼を覚ますと私の体は傷だらけ、私の体の中に何かがいる…苦しい…怖い…どうやらあの日誌に書いてあった思念を憑依させられたのはこの人のようですね」
またページをめくる
「キャッ!血ッ…!!」
今まで怖がる素振りすら見せなかったメリッサが小さく悲鳴をあげる
シルヴィアがめくったページには血で文字が記されていたのだ
だが、シルヴィアは構わず読み進める
「憎い…!あの男が憎い…!殺したい…!…ここにいる者を皆殺しに…!」
「こわっ!」
ライカが身を引く
「どうやらこの人の体には複数の人の思念が憑依していたらしいですね」
そこから先のページは延々と恨み辛みが書き綴られている
ユアンという女性の筆跡は既になくなっていた
そして、最後のページに辿り着いた
「ついに私達はあの魔導士をつかまえた…楽には死なせねぇ…しかし俺達はこの体の女に抑えつけられて奴を仕留め損なった…!だけどあの男の精神を既に崩壊させた…じきに死ぬだろう…いい気味だ………気がついたら私はこの独房で倒れていたみたい…もう私の体はボロボロ…ダメね…私は自分の血で魔術陣を描き私の体に宿る思念体を封じた…ごめんなさい
、もうあなたに会えそうにはないわ…最期にあなたにもう一度会いたかった…ずっと愛してる…アロン…」
「結局この方は最期にアロンという方に会えずに亡くなってしまったんですね…」
セレンはうつむきながら感傷に浸る
「悲恋ね…」
「この部屋に思念を封じたって、魔術陣はどこだ?」
シルヴィアは掌に浮かべた光の玉で壁を照らしてみる
すると、正面の壁に血で描かれた大きな魔術陣が姿を現した
「……」
「……」
それを目の当たりにしたラルク達は黙ってしばらくの間見入ってしまっていた
「そ、そろそろ行こうぜ…?」
ライカが沈黙を破りラルク達は独房を後にした




