第5章 ーTrial of Courageー
ラルク達は城を出てすぐ用意された馬車に乗り込み
途中いくつかの街を経由しながら3日程でミラクへと向かう行程となった
「んでメリッサ…試練の内容を話してくれるか?」
馬車に揺られながらラルクはライカの横で楽しそうにしている少女を見た
今はライカにベッタベタだが
彼女自身非常に人懐っこくラルク達にすぐに溶け込み
まるで旧知の仲のように思わせられる
「そうだったね!今回の試練はぁ…肝試しでぇすっ!!」
メリッサの発した言葉にアルトとライカが顔を引きつらせる
「肝試しって何ですか?」
「すんごい楽しい遊びだよっ!!」
「んなわけねぇだろ…」
ライカは肝試しがあまりにも嫌なのか何の面白味もないツッコミを入れる
「どこでやるんですか?」
シルヴィアはいつも通りに無表情だ
そういえば、シルヴィアの驚いた顔というのを見た事がない
ラルクは今のやり取りを見ながらそう思った
「なんとなんとぉ……」
メリッサは勿体つけるながら笑顔になる
「ガルシアで1番怖いと言われる岩窟島でぇっす!!」
しかし、具体的な反応を見せたのは頭を抱えこんだライカだけだった
シルヴィアは無表情として
アルトはガルシアで1番怖いという言葉に震え上がり
ラルクとセレンはポカンとしている
「それでそこに行くだけでいいんですか?」
シルヴィアにあっさりと返されてしまい
メリッサは顔を紅くしながら乗り出した体を戻す
「え、えっとぉ…本当の目的は最近ミラクで起きてる連続誘拐事件の調査なんだ」
「誘拐?」
肝試しのような楽しそうな単語とは裏腹に物騒な言葉が出てきた
「うん、何日か前に報告があってさ…報告する前に街の人達で何とかしようとしたらしいんだけどダメだったって…」
「でも、その連続誘拐事件と岩窟島に何の関係があるの?」
話しが真面目な方向になった事でアルトはようやく口を開いた
「う~ん…報告によると誘拐された人達が岩窟島に連れていかれてるって噂が挙がってるんだよね」
「噂止りなら岩窟島まで調査しなくてもよいのでは?」
「そうそう…わざわざそんなとこ行く事ないって…」
ライカも小声でシルヴィアに同意する
「でも、今別の調査隊がミラクの街を調べてるから私達は岩窟島に行けってさ…」
メリッサは嬉しそうに言う
「結局行くのね…」
3日後の朝、シルヴィアに起こされ眼を覚まし馬車を降りると予定通りミラクに到着していた
辺りを見回すとちらほら人の歩いている姿が見られる
それに海が近いからか塩のなんか生臭い香りがする
「港街ってこんな風になってるんですねぇ」
嬉しそうにセレンははしゃぐが空は先刻から雲行きが怪しいらしく鉛色だ
「港街にしては人少ないな…」
天気のせいか人通りが物流の拠点の港街にしては少ないように思える
ラルクも港街へは初めて来るがもっと活気があるものと想像していた
「いつもはもっと賑やかなんだけどねぇ…」
メリッサの言葉を聞いてラルクは岩窟島の話しは定かであるか分からないが
この街の連続誘拐事件の話しは本当なのだと思った
「とりあえずは情報収集ね」
アルトがそう皆に促して歩き始めると
鉛色の空から雨粒が1滴、2滴、そこからラルク達を待ち受けていたかのように雨が降り始めた
「やっぱ俺達帰った方がいいんじゃねぇの?」
ライカがそうボヤくのを聞きながらラルク達は雨を凌ぐため近くの酒場に入った
「いらっしゃい…」
酒場にはまだ夕方前からなのか誘拐の話しが本当だからなのか黒いフード付きマントを着た男が1人と
店主が覇気の無い様子でラルク達を迎えた
「最近この街で起きてる連続誘拐事件の話しを知らないか?」
ラルクが短刀直入に聞くと店主はうんざりした顔をする
「あぁ…ここ最近毎晩攫われてるらしいよ、おかげで商売上がったりだけどね…」
これで誘拐は本当に起こっていると確認できた
後は岩窟島だ
「他に何か心当たりはないかしら?」
アルトが聞くと男はカウンターから身を乗り出しラルク達に耳を近づけるように手招きをする
「あまりデカイ声じゃ言えないが、あそこにマント着た奴が座ってるだろ…?」
ラルク達は男の方を見る、背丈からすると多分男だろう
ラルク達の視線に気づいた男はテーブルの上に金を起き酒場を出て行った
「あいつここんとこ毎晩誘拐が起きてるってのに街中をうろついてるらしいぜ、しかもあいつが来たのも誘拐事件が起きるようになってからだ…」
ラルク達は近くの宿に部屋をとり雨が弱まるのを待つ事にした
「う~ん臭うなぁ…」
ライカが歩き回りながら腕を組むメリッサの首すじに顔をよせる
「…メリッサ香水変えた?俺こっちの方が好きだぞ」
「そうそう!ライムの香りなんだ…!…ってそうじゃなくてあのマントの話しだよっ!」
「そういえば、夜の街を歩いてるってお店の方が言ってましたよね?」
「ただのプレイボーイなんじゃねぇの?」
「プレイ…ボーイ?」
セレンが初めて聞く言葉に首を傾げる
「ライカ!セレン様に余計な事を吹き込むな!」
「へいへい…そんじゃ夜中張ってみるかい?」
「しかし、あの男が犯人だと断定するのは早いのでは?」
壁にもたれながれ腕組みするシルヴィアが言う
「でも、今んとこそれ位しか手がかりが無いんだろ?」
「それもそうですね、ダメもとでやってみましょう…」
シルヴィアがそうまとめてラルク達は解散した
解散した後
馬車の長旅で疲れていたラルクは部屋で昼寝をしていた
そして、眠りから覚めて窓の外を見ると
相変わらずの雨で陽が沈んだのか鉛色の空はさらに色を濃くしている
何気なく宿の前の通りを見下ろすとやはり事件のせいで人通りがない
だが、そんな状況の中で通りを歩く男がいた
さっき酒場でみた黒いマントの男だ
それを見てしまったラルクは
気づかない内に体が動き荷物に立て掛けてある剣をとろうとしていたが
一瞬伸ばした手が止まってしまった
だが、迷ってる暇はない
ラルクは迷いを残しながら剣を腰のベルトに留め部屋の扉を勢いよく開けた
宿を出ると冷たい雨粒がラルクの肌に落ち鳥肌が体全体にゾワァっと広がっていく
通りを確認すると、迷っている時間がいけなかったのか男の姿は無かった
諦めて宿に戻ろうと踵を返そうとした時
近くの路地裏の入口に人の気配を感じた
ラルクは無意識の内にその路地裏に吸い込まれていった




