外伝 ーthe Best Friends have a Quarrelingー Last Part
「ラルク、アルト…」
シルヴィアは背後に気づかぬ間に忍び寄っていた2人の姿を見るとボソッと名前を呼んだ
「じゃあ、頭の良いシルヴィア君に質問だ。もし俺が戦場で敵に囲まれてたとする、シルヴィアは俺を見捨てて逃げるか?」
ラルクはシルヴィアに歩み寄って少し身を屈めて眼線を合わせた
「助けます、絶対に…!」
シルヴィアはラルクの質問に答えがひとつしか用意されていないかのようにはっきりと即答した
それに対してラルクは口元を緩ませてアルトを見た
「今シルヴィアが答えたみたいに、私達がシルヴィアを信頼してどれほど大切に思っているかは貴方自信が知っているはずよ?」
アルトは少し首を傾けてシルヴィアに確認した
「役に立たなくなったからって家族を捨てる奴はいねぇよ」
ラルクは当たり前のことだと言わんばかりにシルヴィアに呆れた顔を見せる
「ですが…僕はラルク達とは…!」
「血が繋がってない、って言いたいんだろ?」
ライカがシルヴィアの台詞を先読みしてメリッサを見た
「前にも話したけどさ、もちろんアタシとライカは血が繋がってないけど、今まで家族みたいに一緒に暮らしてきたよ?」
メリッサはライカの腕に絡みつくがこの時はライカはあまり嫌な顔を見せなかった
「まぁ、一度受け入れちまうと血が繋がってるだとか顔形とかはどうだってよくなっちまうもんだよ」
「私もお父様とお母様、それからエルシアやたくさんの方に育てられてきました」
セレンは笑顔をラルク達に見せる
彼女にとってラルク達もまた自分を変えてくれたという意味を含めている
「血が繋がっているかどうかは大した問題ではない…?」
「そういうことだな!…だから、心配すんなよ」
ラルクが優しく撫でるように言うとシルヴィアは小さな声ではいと答えた
「えっと、これで一件落着ってことでいいのかい?」
ライカがラルクとシルヴィアの間に視線を行き交わせる
「シルヴィアの機嫌次第ね」
アルトはシルヴィアを見る
「そもそもケンカの発端って何だったわけ?」
敢えてメリッサ達はシルヴィアの感情を逆撫でしないために今回の2人のいさかいの原因は詳しく聞かなかったが今となってはそれを聞いても問題はないだろう
「あぁ、さっきせっかく温泉に来たからたまには昔みたいに一緒に風呂入ろうって言ったんだ」
「まったく、私も聞いて呆れたわ…」
ラルクは2人のケンカの発端にしてはあまりにも呆れた理由を明らかにした
「なんだよ〜思春期か?シルヴィア、おい〜」
ライカはニヤニヤしながらシルヴィアを肘で小突くがシルヴィアは何か含みを持たせたように唇をつぐんでいる
「いえ、実は肌を…肌を見せたくなかったんです…」
シルヴィアがそれを口にした時にその場の空気が鎮まりかえった
「もしかして…体に大きな傷でもあるんですか?」
セレンが恐る恐る聞くとシルヴィアは首を横に振った
「それは出来れば言いたくありません…」
「でも、昔は3人でよく一緒にお風呂に入ってたわよね?」
「君達一体どんな関係よ…ってか羨ましいぞっ!?」
ライカはもちろん食いついてきた
「アタシだってライカと一緒にお風呂はなかったよ〜!」
メリッサは唇を尖らせる横で悶えるライカの足を踏んでいる
「レギオンには大衆浴場があったからな、イテテッ…」
「もしかして、ラルクに子供扱いされるよりラルクに肌を見せる方が嫌だったんですか?」
セレンの察しにシルヴィアは少し躊躇いながらも小さく頷いた
「ラルクになら見せてもいいとも思っていましたが…」
時が経ち、成長していくにつれて自分に対する劣等感や後ろめたさなどが芽生えてきたのだろう
「別にいいじゃねぇか、シルヴィアが何を持ってるかなんて大したことじゃないだろ」
ラルクは本当に何も損得や打算もなく自然にその言葉を口にした
「ラルク…本当はみんなの前でこのことを言いたくはなかったのですが……」
「みんなに嘘つきだって思われたくなかったの?」
メリッサは再び素直にシルヴィアに質問した
こういう場合においては彼女のような性格の方が相手は心を開き易いのかもしれない
「いくら信頼している相手と言えど、やはり不信に思われたらと思うと…」
きっと怖いだろう
人の中で人と違うというのは計り知れない程の劣等感を生んでしまう
本人や周囲がその違いを肯定出来なければ
「それがシルヴィアじゃないですか。色々言いながらも私達のことをいつも考えてくれるから私達は今こうして一緒にいられるんですよ」
「そゆことよ、いちいちお互いの腹ん中のもん引っ張り出してまで信頼出来るかどうかなんて正直面倒くさいじゃん?」
ライカはセレンに続いてシルヴィアの悩みを何でもなかったかのように笑い飛ばしてしまう
「この先、それを隠したまま僕は貴方達を裏切るかもしれませんよ?」
「ふふ…素直じゃないわね、シルヴィアは。もし、そうなったらきっと私達が間違った方向に向かっているか、私達があなたを受け入れてあげられていなかったってことだから、シルヴィアはきっと悪くないわ」
アルトは口元に微かな笑みを浮かべた
「ほらっ!話しがまとまったところで仲直りの握手!」
メリッサは恥ずかしがる両者の手をとって繋ぎ合わせる
「それから温泉ですね!気持ちいいですよ〜」
セレンはキラキラと輝く眼で2人を見る
「ラルク…こんな僕でも、受け入れてもらえますか…?」
シルヴィアは白く小さな手でラルクの大きなゴツゴツした手を握りながら上目遣いに見る
「なぁにを今さら、当たり前だろ?これからも俺達は家族だからな…」
2人はガシッと握手を交わした
「男の友情ねぇ〜」
アルトはほのぼのとした様子で2人を見る
そして、2人はいつものように仲睦まじく広場から出て行った
「これで一件落着ですねっ!」
「よかったよかった!」
セレンとメリッサがお互い手を合わせてキャッキャする
「なんかさー俺思ったんだけどさー」
「ん?どうしたライカ?」
アルトは問題が解決したにも関わらず少し不満そうにするライカに眼を移す
「折角温泉に来たんだからもうちょっとお色気絡みの事件があってもいいんじゃないの?!」
「それはまた今度来た時ね」
アルトも少し安心したような表情で笑みを浮かべた
「ラルク…」
皆から離れて戻る中でシルヴィアはラルクの一歩後ろを歩きながら見上げた
「ん?どうした?」
ラルクは振り返らずに返事をした
「いえ、なんでもありません……………ありがとう……」
ーthe Endー
いかがでしたでしょうか?
今回の本編が終了してからの外伝はラルク達の過去を中心とした物語ばかりでした。これから先の物語にもしかしたら繋がってくるかもしれませんね。
それと、実は今回のお話を持ちましてーUntill the Daybreakーは完結となります。長らく読んでいただいた読者の皆様、本当にありがとうございました!現在、第二部と新作を制作中です。それでは、新作の予告をちょっとだけ…
【小説のハウツー】
大学に入りはしたが友達も少なく、異常な程退屈な生活を送る大学一年生の桂。そんな毎日を変えようと桂は小説を書こうと思いたち、物語を作るための資料を探すため大学の図書館へと足を運ぶ。
そして、その図書館の一番奥で、ある怪しげな本が目に入り、その本を手にとると白紙のページの中にある呪文のような文が書かれていた。
桂はその呪文を思わず唱えてしまい、気がつくと桂は見知らぬ森の中にいるのだった…
これは「今までの僕に別れを告げて、新しい君に出会う物語」




