第3章 ーReality is Pointed atー
そして深夜
ラルク達はライカとの待ち合わせ場所の酒場に向かった
深夜だがここの酒場だけは他の場所のように静まりかえらずに盛り上がっている
「本当にあの男は来るのか?」
壁にもたれたアルトが言う
確かにその場にいる全員が同感だ
「私眠いです…」
セレンは眼をこすりながら言う
「お待たせぇ、んじゃ行きますか!」
夜の闇の中からセレンとは対照的に元気なライカが現れた
「それはいいんですが、まだ僕達は仕事の内容を伺ってません」
「まぁそれは後のお楽しみって事で…」
ライカはそう言って歩き出した
ライカについて少し歩いて行くとこの街で一番大きな建物の前に到着した
「ここは?」
ラルクが建物の警備に見つからないよう小声で聞く
「ここはエルクの領事館だ」
「領主の方にでも会うんですか?でもこんな時間に…」
セレンの頭上に疑問符が浮かび上がる
「ちょっと書類を借りに来たのさ」
ライカはそう言いながら辺りを注意深く見回す
「警備も手薄だし裏から入るか…」
ライカはラルク達を裏口へ誘導する
「え?表から入らないと失礼なんじゃないですか?」
セレンが表の門を指差す
「嬢ちゃん、俺が借りようとしているのはここにいる領主様が人に見せたくないモノなんだよ」
ライカはセレンを諭しながら裏側の表門とは違い小さな門の鍵を外し始める
「それって…盗むって事ですか?そんなのダメです!」
ライカを止めようとする
「シーッ…!嬢ちゃん声デカイ」
ライカはセレンの唇に人差し指を当てて口を封じる
「その書類の中に嬢ちゃん達の欲しい情報が含まれてんの」
「私達何時の間にかドロボウになっていたんですね…」
セレンはショックと言わんばかりにうつむく
ライカの鍵開けが終わり領事館内に入ると灯りは点いておらず人気もない
「セレン、早くこないとおいてくぞ」
とラルクは一人扉の外にいるセレンに声をかける
「やっぱりこんなドロボウみたいな事ダメです!アルトも騎士なんだからみんなを止めて下さい!!」
と頑なに入ろうとしない
「すみません…これもセレン様をお守りする事につながりますので」
さらっと答えられてしまう
「んぅ~…シルヴィアァ…」
今度はシルヴィアが論理的に皆を諭してくれる事を期待する
「ドロボウになりたくなかったらそこで待っていて下さい…」
最後の砦も崩壊した
「すぐ帰ってくる」
ラルクにとどめを刺され
「もぉっ…!私もいきますよ!!」
セレンは暗い建物内に入るラルク達を追っていった
建物内は少なからず衛兵がいる
戦闘になったらまた殺さなくてはいけないのか…
と考えていると
「殺すと後々厄介だな…面倒だけど気絶させてくか…」
ライカの提案にラルクはホッとした
また殺さなくて済む
「さぁてと…どうやって奴らを気絶させるかが問題だな…」
ライカの呟くのを横目にシルヴィアはナイフを廊下の角から投げる
するとナイフが廊下に飾ってあるいかにも高そうな壺にあたり大きな音をたてて割れる
「なんだ!?」
衛兵はビクッとなって割れた壺の方を向く
シルヴィアはそれを計算したのか衛兵が割れた壺を見る事でこちらを向く形になった
「みんな眼を瞑っていて下さい」
シルヴィアに指示されたようにすると
シルヴィアは魔導書を素早く取り出し魔術陣に手をかざす
すると小さな光の球が現れ一気に破裂し光が眼を瞑っていても痛いくらいに広がる
まともに光の球を見ていた衛兵は苦悶の表情を浮かべ眼を抑える
それと同時にライカが一番に飛び出し衛兵の首を絞め気絶させる
どうやらこのライカという男
ただの情報屋というわけではなくかなり戦い慣れているようだ
一瞬にして衛兵を気絶させてしまった
「やるネェ、小さな魔導士君」
ライカはパンパンと手をはたきながらシルヴィアを冷やかす
「一言余計です…先に進みましょう」
ラルク達は頷いたが、1人だけ頷かない者がいた
「ちょっと待って下さい!この壺割ったままじゃダメですよ!!」
またしてもセレンだ
「そんな事気にしてる場合じゃねぇって、時間ないからいくぞ」
ラルクが現れセレンを振り返ると
壺をどうにかしないとここから一歩も動かないと言わんばかりに見つめられる
「…わぁったよ、シルヴィア、何とかなんないか?」
シルヴィアに頼むと、仕方ないですねといいながら壺の残骸の前に跪き手を触れると
割れた壺が割れる前の形に姿を変え始める
「へぇ、シルヴィアは錬成術も使えんのかぁ、しかも錬成陣無しで…」
ライカは興味とも詮索ともつかない眼差しをシルヴィアに向ける
「…一応奥義を悟っているので」
シルヴィアは上手く言葉を濁して躱した
そしてラルク達は奥へと進んでいった
しばらく進むとライカは扉の前で足を止め
「ここがエルク領主の執務室だな、多分ここなら報告書類なんかが見放題だと思うぜ」
扉を開けるが当然誰もいない
「これは…」
アルトが机の上に置いてある書類を手に取る
「なんかあったか?」
ラルクが聞くとアルトは書類を握りしめ歯を噛み締めていた
「王宮内が制圧された……!!」
「ッ…?!」
一瞬時が止まったかの様に思えた
「そんな…っ!!」
セレンの肩が驚愕と不安に小刻みに震える
ラルクはなんとかその衝撃に耐え恐る恐るアルトの持っている書類を手に取る
「何とかいてありますか?」
シルヴィアは顔色ひとつ変えずに聞く
「今回の件についてグレイド夫君率いる革命軍に物資を供給するなら、貴殿、エルク領主には新政権確立の際に高位を約束するものとする、加えてセレン王女は数人の仲間と共に逃亡している模様であり、見つけ次第仲間を殺害し王女を捕縛して王都への身柄の引き渡しを命じる…」
「そんなっ…お父様がっ…!!」
セレンはラルクの腕にすがる
とうとうバレてしまった、セレンの父グレイドがこの謀反の首謀者だということに
「アルト!エルシアとお母様は無事なのですか?!」
まるで助けを乞うかのようにアルトに問うが
「わかりません…」
眉間にシワを寄せうつむきアルトにはそうとしか答えられなかった
「必要な情報は手に入りました。早くここを出ましょう」
シルヴィアはこの重い空気の中淡々と切り出した
「そうだな…セレン、行こう…」
受け入れたくない事実を前にし立ち尽くすセレンに声をかける
顔を覗き込むと彼女はその茶色の瞳一杯に涙を溢れさせている
無理もないだろう
自分の父が敵となり家族や国民、そして自分の命をも脅かそうとしているのだから
「ラルク……」
泣きそうな声でセレンは返事をする
「今はとにかくここを出るぞ…お父さんのことはちゃんと俺達の眼で確かめよう…」
「ハイ…」
とだけ返事をしセレンは優しくアルトに背中を押され部屋を後にした




