離さないよ
ついに先輩と楽譜を買いに行く日がやってきた。とにかく楽しみにしていたので、奏は嬉しさのあまり、待ち合わせ時間より20分も早く着いてしまったのだった。
「ちょっと早く来ちゃったな…」
昨日の夜は興奮しすぎて眠れなかったのでちょっぴり眠い。ちなみに、昨夜、あらかじめ着る服を決めていたのに、朝になって急に変えたり、髪型がなかなか決まらなかった。結局、黄色のニットにジーンズというラフな格好になった。髪型はポニーテールにお気に入りのベージュのシュシュをつけてみた。
待ち合わせ場所は学校の最寄の駅の改札前。駅の近くには大きなショッピングモールがあり、そこで買い物をすることになっていた。
奏は先輩が来ないかずっとホームのほうを見ていた。
「先輩遅いな・・・。もしかして約束忘れちゃったのかな?」
と不安になっていると、
「奏!おはよ~。待たせちゃってごめんね」
先輩がやってきた。藍色に白の水玉のワンピースで、髪を緩く巻いていた。そんな先輩を見て思わずドキドキしてしまったのだった。
「おはようございます。恋先輩」
「奏の私服見るの初めてだなぁ。やっぱり制服のときと雰囲気違うね~」
「そ、そうですか?先輩も雰囲気違いますよ。いつにも増してかわいいです」
「ありがと。奏も今日、めちゃくちゃかわいいよ」
先輩に「かわいい」と言われて、思わず赤面してしまう。
「それじゃあ、さっそく買いに行こうか」
「はい!!」
2人はさっそく近くのショッピングモールに入った。休日のため中は家族連れやカップルなどがたくさんいて、とても混雑していた。
「混んでいますね、先輩…」
「しょうがないよね…休日だし。ちゃんと付いてきてね、奏…って」
振り返るとさっきまで後ろにいた奏がいつの間にか居なくなっていた。
「ちょ…奏!?」
慌てて奏を探すが混雑しているのでなかなか見つからない。五分ほど探したが見つからず、仕方が無いので、電話しようとケータイを取り出そうとすると後ろから今にも泣きだしそうな奏が現れた。
「せんぱーい」
「ばかっ…高校生なのに…。ちゃんとついてきなさいよ~」
「だって人が多くて…」
奏は泣き出した。
「あーもう分かったから。ほら行くよ?」
先輩はそういうと、奏の手をしっかりと握った。
「先輩…?」
「こうすれば迷子にならないでしょ?」
そして得意げに笑った。
「そ・・・そうですね!絶対放さないで下さいね」
思わず顔を背ける。そんな奏の様子を見た先輩は悪戯っぽく
「放さないよ、絶対に」
と言った。