部活
そうそう、私も中学のときに音楽部だったんです。まぁあんまりやる気のない部活でしたけど。
その日の放課後、奏は授業が終わるとすぐに音楽室へ行った。
「さっそく今日の放課後から部活始めるからね」と先輩に言われていたので、放課後が待ちきれず、全く授業に集中することが出来なかった。とにかく、あの先輩の側にいたかったしピアノを弾いている姿を見たかったのだ。
「奏、今日は一緒に帰らないの?」
天音が教科書をバックに詰めながら聞いてくる。
「うん、部活に入ったからね」
「ふーん・・・って、え!?」
「今日の昼休みに決めたんだ。まぁ明日説明するら、じゃあね!!」
と言って教室を勢いよく出て行った。そして音楽室へと続く階段を一段とばしで駆け上がる。いつもは一段飛ばしなんてしないが、今日はテンションが高く無意識のうちにやってしまった。そのままの勢いで、勢いよく音楽室のドアを開けた。
「こんにちは~」
勢いよく開けすぎて、その衝撃でドアが跳ね返りしまってしまう。それを脚で防ぎながら中に入ると先輩が来ていて、ピアノをあけたりしていた。
「こんにちは。カバンはそこの机の上に置いてね」
と先輩は机を指差した。
「はーい」
奏は言われた通り机の上にカバンを置きピアノの側に立った。
「それじゃあ部活始めようか。まずは自己紹介しよっか。私は立川恋です。クラスは2-9よ。これからよろしくね」
「私は美空奏です。クラスは1-6です。こちらこそよろしくお願いします」
そしてぺこりとお辞儀をした。
「『奏』っていかにも音楽やってそうな名前ね。」
先輩はくすりと笑った。笑った顔もかわいらしく、抱きしめたいなぁと思わず思ってしまう。
「よく言われます。幼い頃から中学入る前まではピアノやってました。立川先輩はいつからピアノやっていらっしゃるんですか?」
「『恋先輩』で良いわよ。私は3歳の頃からずっとやってるわ」
「だから恋先輩はすごい演奏が出来るんですね」
「私、そんなに大したことないわよ。私よりもっと上手な人はたくさんいるわ」
「そんなことないです!私は先輩の弾くピアノ、大好きですよ」
そんな奏を見て、先輩はまたくすりと笑った。
「ありがと、奏。」
先輩はピアノの椅子に腰かけた。
「奏の入部記念に、一曲歌うから聴いていてね」
そういうとピアノを弾き始める。音楽室にその演奏が響き渡る。八小節目から歌い始めた。先輩はピアノだけでなく歌もすごくうまい。声が透き通っている上に高音も出ている。まさに完璧。奏は自分のためだけに憧れていた先輩が歌ってくれていると思うと、思わず嬉しくって涙があふれそうになってきた。
「すごい…」
曲が終わると一生懸命拍手した。
「聴いてくれてありがと、奏」
「こちらこそありがとうございました。私のために歌ってくださるなんて…。先輩、すごかったです!!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。じゃあ奏も歌おうか。まぁ最初だから発生練習からね」
結局二時間ぐらい練習したが、奏は全然疲れを感じなかった。憧れの先輩とこんなに近くで関われていると思うと、疲れなんて消えていってしまったのだった。
「結局二時間ぶっ通しでやっちゃったわね。そろそろ帰ろうか、奏」
「そうですね。今日はありがとうございました」