chapter5:新しい友達
怒濤の入学式が過ぎ、次の日―――
「おはようございます。」
一年三組に元気な声が響き渡る。
またもや、一人を除いて―――
「それでは、出欠席を確認します。近くの席でいない子はいますか?」
担任の先生は市井 梓先生といい、女子バスケット部の顧問であり、体育教師である。普段は穏やかで優しいのだが、厳しい面も持っている先生だ。
「先生〜、日下さんがいませっ『います、いまーす。』
ガラリと教室のドアが開き、ちとせが入ってくる。
「日下さん、一年のこの時期から遅刻じゃぁ進学あぶないわよ?!」
「す、すいませーん…‥」
日下ちとせ、早くも浪人決定?!の瞬間であった。
ちとせは微妙な面持ちで席に着いた。
ちとせの席は廊下側の後ろから二番目で、その後ろが純ちゃんである。純ちゃんの隣は香山で、紫月の席は窓側の真ん中となっている。
そうこうしているうちに朝の会は終わり、いよいよ中学での初授業が始まろうとしていた。
…とは言っても、入学早々から授業らしい授業があるわけでもなく、午前の授業は、自己紹介や係り、委員会決め、掃除当番や給食当番決めで終わった。
係りはちとせ、純ちゃん、紫月の三人で書記係りとなった。
委員会はというと、ちとせの策略で純ちゃんが女子の学級委員となった。
当のちとせは香山と体育委員になり、紫月は図書委員になった。経緯はどうであれ、皆、自分にあった委員会に就くことができた。
掃除や給食当番は名前順で決めたので、紫月のみ分かれてしまった。
そして給食の時間―――
しょっぱなから給食当番のちとせは面倒臭そうに純ちゃんと食器を取りに行った。
給食当番がクラスメイト全員に給食を配り終えると、日直があいさつをし、皆一斉に食べ始める。
ここでおきまりの給食の取り合いという名の戦争がちとせと香山の間で勃発した。
そして、ちとせは本日、二度目の注意を受けた。
給食の時間も過ぎ昼休み、食器も片付け終え、ちとせは
「今日はツイてないなぁ…」
などと考えながら、純ちゃんと紫月の会話に耳を傾けていた。
「紫月は、部活どーすんの?」
「えっ?私は、色々見学してから決める。純ちゃんはバスケ続けるんでしょ?!」
純ちゃんは小学校の頃からバスケのチームに入っている。その活躍を紫月はずっと見てきた。
「もちっ!!!紫月も今日バスケ部見に行かない?」
運動神経の良い方ではない紫月は、迷っていたが、結局バスケ部を見に行くことにした。
「ちとせも一緒に行かない?」
突然、話をふられたちとせの脳裏に彼がよぎる。
「いや、あたしは…吹奏楽見に行く。」
ちとせの言葉に二人は少し驚いていたが、そんな二人の様子にちとせは気付いていなかった。ただ彼のことを考えていた。
もっと彼の事を知りたい。
自分の事を彼にもっと知ってほしい。
もう一度、話してみたい。あの声に名前を呼んでほしい。
そして、あの透き通るような目にもう一度映ってみたい――――
「あのっ日下さん、吹奏楽部見に行くの?」
突然、ちとせの前の席の少女に話し掛けられる。
霧島 円、入学式の呼名で確かそう呼ばれていた。
ショートヘアのよく似合う“カワイイ”という部類に入る少女だ。
「うん…」
とちとせが答えると円はパァッと顔を明るくさせて
「私も吹奏楽見に行こうと思ってたんだぁ。だけど一人じゃ行きづらくて。」
と言い笑った。
円はその親しみやすさで、すぐに三人と仲良くなった。
午後の授業は学校案内だった。
ちとせと円は音楽室の場所をチェックし、放課後、純ちゃんと紫月と別れたあと早速、音楽室にむかった。