あとがき
本編のネタバレが多分に含まれます。本編未読の方はご注意ください。
まずは最初に、サイトからお越しの方はいつもお世話になっております、そうでない方は初めまして、作者の佐倉アヤキと申します。この度は「アテナのリコリス」を最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。最後まで読んでない方もようこそいらっしゃいました。
アテナのリコリス第一章完結ということで、いろいろと感慨深い思いでいっぱいです。が、きっと裏話を期待してこのページを拝見していただいている方もいらっしゃると思いますので、しんみりした話は置いといてさくさく本編では明かせなかった裏話などを取り上げていきたいと思います。
ちなみに以下からは、サイトにて連載中のアテナ補完作品「白きロナネッタ」のネタバレも大いに含まれておりますので、お読みいただいている方はご注意ください。
《裏設定1・ラファ君の出生について》
まずはアテナ1でもっとも謎とも言えるこれ。一応本編では、「レーチスが(多分)祖父」だということになっており、レーチス自身もラファ君のことを「息子の息子」と呼んでいますが、はっきりとした証拠は出てきておりません。act.6でもミリカはほぼ断定を避けていますし、結果ラファ君の「ノルッセル」の血筋はどこから来ているのかは本編中不明としています。
で、これもまたかなーりややこしい設定があるのですが、とりあえず結論から。【レーチスはラファ君の祖父ではありません】。
といいますか、そもそもラファ君は「この時代に存在するはずのない人」だったりします。
細かいことは後述しますが、ラファ君はとある人のとある陰謀により、本来の時代に生まれることができず、アテナ1の時代に生まれることになってしまった、とまあ大体そんな感じ。
これについては最後にまた記載を加えたいと思いますので、気になってしょうがないという方は一番下の項目までスクロールをお願いします。
《裏設定2・ラゼと巫子の継承理由について》
ところで最終話act.57で、トレイズとマユキとの再会時にトレイズの瞳のことを「グランセルドが持つ金の瞳」と言っています。また、act.27でも金の瞳はグランセルドの証だという話が出てきています。
基本的にこの世界、決まりきった容姿を持つのは基本的に不老不死一族なのですが、グランセルドだけは唯一例外で、「金の瞳」という容姿設定がくっついています。
そこでラゼとトレイズの話です。ラゼはact.21で「赤ちゃんの頃に捨てられてレイセリア様に拾われた」と話しています。お察しの方もいらっしゃるかと思われますが、ラゼはグランセルド一族の捨て子です。ちなみにトレイズとは兄妹にあたります。
実はこれ本編で絶対出したいと思ってた設定なのですが、意外にもグランセルドの出番が少なく書きようがありませんでした…無念すぎる。
そもそも巫子を継承する人物には、act.51でギルビスが言っていた「条件を満たす」ということ以外にも、ある程度の制約があります。それは、「不老不死」または「第九の巫子と縁のある者」であること。
それを踏まえると、今回の巫子勢の継承理由は以下の通り。
第一の巫子/フェル:"神の子"。ソリティエの分家。
第二の巫子/ラファ:ノルッセル。チルタとは過去の世界で出会っている。
第三の巫子/ギルビス:濃紺の髪と瞳はソリティエの証。
第四の巫子/ラゼ:チルタの家族を殺した仇であるトレイズの家族。
第五の巫子/マユキ:チルタの友人であるラファの親友。ソリティエであるエルフェオの血を引く。
第六の巫子/ルナ:チルタの幼馴染。シエルテミナ。
第七の巫子/トレイズ:チルタの仇。
第八の巫子/ロビ:エファイン。仇であるトレイズの幼馴染。
第九の巫子/チルタ:--
第十の巫子/シェロ:"世界王"。ソリティエ。
まあこの流れを汲めば、エルミやレーチス、ユール、リィナ、エルディあたりも巫子になる条件は満たしてます。個人的にエルディ君が巫子だったら面白そうだね。
《裏設定3・グランセルドの末路》
アテナ2でこの話を出すか出すまいか未だに悩んでるので、とりあえず書いておきます。2でこの話を執筆することになったらこっそりとこの話は消えてると思います。
act.4で、深夜トレイズとエルディの会話シーン。トレイズが「巫子を匿っていた暗殺者集団が全滅した」と話していますが、これはグランセルドとトレイズのことを指しています。
トレイズは過去のシェイルディアでラファ君に銀時計の魔術を使われて、「グランセルドなんてやめる」という言葉を実行します。そして彼は単身ファナティライストに渡り、スラムでロビと出会う、という流れです。
ただ、ロビ、ナエとトレイズが別行動になってからの話はact.27でも深くは語られていません。「別行動してたら俺は色々あってフェル様に拾われて」とそれだけ言っていますが、その間にトレイズは一度グランセルドと合流している、という設定があります。
深い設定は実際に書くか書くまいか悩んでいるので細かく決めているわけではありませんが、とにかくトレイズはグランセルドに匿われている間にチルタに見つかって、チルタは仇であるグランセルドを全滅させた。けれど赤い印を継承しているトレイズを殺すことはできず(act.15でチルタが「赤の巫子を殺せるものは存在しない」と言っています)、生き延びたトレイズがフェルマータに拾われた、とそれだけ考えています。
そういうわけでトレイズにとってもチルタは仇であり、ラストで、結果的にラファがチルタ側につくことになったのを認め切れなかったのはこのことが絡んでいます。トレイズは元々自分の正義をどこまでも信じて貫いていくタイプなので、よく言えばまっすぐ、悪く言えば頭が固いです。
《裏設定4・レーチスとエルミリカの不仲》
それではそろそろ本題です。レーチスは本来「エルミリカ・ノルッセルを生き返らせるため」に赤の巫子の秘術に手を出したわけですが、それにしてはact.54でレーチスはミリカに「最低」呼ばわりされているし、お世辞にもこの二人、仲がいいようには見えません。
その理由のご説明の前に、まずは「過去夢の君」と「予知夢の君」の能力について再確認。
・過去夢の君は、過去を司る。過去に行ったり、過去の情景を見たり、果ては過去を変えたりできる。
・予知夢の君は、未来を司る。未来に行ったり、未来の情景を見たり、果ては未来を変えたりできる。
そして肝心なことがひとつ。こと「過去夢の君」において、過去夢の君がたとえば「過去を変えた」として、そのことに「全ての人間が気づく術はない」、要するに、過去を変えた場合は、世界に住まう全ての人間は、過去が変わってるだなんて分からない、ということです。
つまりは、そもそもアテナ1の世界においても、知らない間に過去が変わっていて、そこは本来全く別の歴史を辿るはずだった世界なのかもしれない。
細かい話は「白きロナネッタ」のほうで連載しているので、読む気がしないという方向けに大まかに流れだけ抜粋します。
まず肝心なのは、「レーチスが救おうとしたエルミリカ」と、実際にアテナ1で登場した「エルミ」には、レーチスとの関係において差異があるようだ、という点です。
結論から申しますと、これは、前者と後者のエルミリカが、「実は別人」だということに起因しています。
実は世界創設戦争でロゼリー帝国が滅亡したときに、本物のエルミリカ・ノルッセルは死に、別の人間が「エルミリカ」としてその立場についています。ちょっと分かりにくいたとえではありますが、死んだエルミリカの代わりに、彼女と全く似ていない別の人間をその地位につかせた挙句、世界中の人間に暗示をかけて、その別の人間が本物のエルミリカだと勘違いさせる、というメカニズム。平たく言えば影武者みたいなもの。
だから現代の世界の人びとにとっては、エルミリカはロゼリーでは死んでいないし、エルミリカはその後世界創設者の一人になって、黒い本を書いて、赤の巫子を作って崖から落ちて死んだ、ということになっているわけです。
つまり、「レーチスが救おうとしたエルミリカ」は影武者のほう、本編で登場しているエルミリカはロゼリーで死んだはずの王女、ということです。
act.34のあとがきで「この小説では登場人物が嘘をついている」と言っていますが、ここでその嘘を明かしたいと思います。
まずはact.34の嘘該当部分。
「ええ、私の名前はエルミリカ・ノルッセル。かつてロゼリー帝国の女王だった、そして黒い本を書いた、…赤の巫子を考案した、世界一の罪人です」
「"私"は未来を捻じ曲げたんです。自分が殺されることを"視て"いて、納得していたはずなのに…崖から突き落とされたとき、私は"死にたくない"と思ってしまったんです。まだ、死にたくない、死ねない理由があるって」
両方ミリカの台詞です。まずは一つめの台詞から検証していきます。
上記した内容からいって、「かつてロゼリー帝国の女王だった」という部分は嘘ではありませんが、「黒い本を書いた」と「赤の巫子を考案した」は嘘。
また、二つ目の台詞は「崖から突き落とされた時」の話は世界創設者としての話なので嘘です。
本物のエルミリカは、ロゼリーで死んだ場面から直接孤児集落に飛んできており、そのため本来は世界創設者時代の「影武者エルミリカ」の存在は知りません。神護隊に入ってからレーチスにその話を聞き、あたかもエルミリカは最初から一人しかいなかったかのように振舞っています。
《裏設定その5・指輪と影武者エルミリカ》
それを踏まえて、まずはミリカがラファ君に貸していた「銀の指輪」について。act.18で指輪からエルミリカと名乗る謎の人物が出てきましたが、じゃあ彼女は一体何者なのかというと、本編ではきちんとした説明がなされていません。act.34でもミリカが言葉を濁しています。
あの指輪に宿ったエルミリカは「影武者」のほうのエルミリカです。よって神護隊のミリカとは別人。ですが、チルタがミリカの盲目を治すときに、彼女の魔力の一部を指輪に移し変えているため(act.33でミリカとチルタが対峙したときにその話が出てきています)、その指輪を通してミリカは「影武者エルミリカ」のことも感知することができる。要するに指輪の中で、二人のエルミリカが同居している感じといえばまだ分かりやすいでしょうか。
じゃあその「影武者エルミリカ」の正体とは誰なのか。そこでact.31のレーチスの手紙、二枚目にあった絵が要となります。
あの絵にも色々とややこしい設定が付きまとうので、突っ込んだ話は割愛しますが、「影武者エルミリカ」は、あの肖像に書かれていた「ウラニア」という召使です。世界創設戦争の時代、過去夢の君だったレーチスの策略でエルミリカの身代わりになって、その際エルミリカの持っていた「予知夢の君」の能力も受け継いでいるため、レーチスは「二人が最後の予知夢の君となりますように」と書き添えています。
本来、ウラニアがエルミリカになったときに、「ウラニア」という存在そのものがほぼ抹消されているので、そもそもその肖像が存在すること自体がおかしいのですが、レーチスはある程度、自分が過去を変えたことについておぼろげながら覚えています。それであの手紙で、ラファに「過去夢の君は過去を変えることができる」という話を持ちかけているわけです。
《そして裏設定1・ラファ君の出生について》
まずは一項目めから飛ばしてきた方向けに、超簡単なまとめ。
・レーチスはその昔過去を変えた
・それはエルミリカの存在。実は本物のエルミリカはロゼリー帝国滅亡時に死んでいて、世界創設者になって赤の巫子を発案したエルミリカはまったくの別人、影武者だった
・影武者のエルミリカは本名をウラニアといい、ミリカの召使をしていた
・ちなみに、本編登場のエルミはロゼリーで死んだはずの本物のエルミリカ
これを踏まえて、じゃあラファ君は何者かについてのご説明に移ります。
ラファ君は本来、エルミリカの召使だったウラニアと、レーチスとの間に生まれるはずだった子供でした。ウラニアは本編記載はありませんがブラウンの髪に瑠璃色の瞳の容姿なので、ラファ君の容姿とも合致しています(指輪のエルミリカの姿は諸事情あってエルミと同じ姿をしています)。
ただ、ウラニアがエルミリカの身代わりになる際、その時ちょうどお腹にいたラファは、「存在を抹消されるウラニア」とレーチスの間の子なわけですから、当然生まれてこれるわけがありません。ウラニアがいなくなれば、ラファ君の存在も消えてしまいます。
そこで死の間際のミリカが「予知夢の君」の力を使います。「ラファ君が消える」という「未来」を改変し、まあ、ラファ君の魂とでも言えばいいでしょうか、それを別のところに移してしまったわけです。別の者の子供として生まれてくれば、ラファ君は矛盾なく存在することができます。
要するにラファ君は、実際に生まれてきた血筋はノルッセルとなんら関わりはありませんが、もともとの存在がウラニアとレーチスの子供なので、結果、突然変異的にノルッセルの姿を持って生まれています。まあ、不老不死とはかかわりのない一般人の女性の身体を借りて生れ落ちたノルッセルの子、というところでしょうか。
だから正確に言えば、レーチスとラファの関係は親子になります。肉体的じゃなくてもっと存在観念的な。科学的にはわけわからんお話なのですが、そこはフィクションということでご容赦ください…!
ところでエルミリカの呼び名がいろいろあって区別が分かりづらいですが、影武者話が出てきてからの区別は以下のとおり。
・「エルミリカ」はどちらとも言いづらい、もしくは両方をひっくるめて言いたい時。
・「影武者エルミリカ」はウラニアのこと。
・「ミリカ」は本物のエルミリカのこと。現代に飛ばされてきてからのエルミリカは「エルミ」と呼んだりもしています。
しかしこうして見るとじっつにやっやこしいお話ですね!細かい話が好きなもので、説明文が苦手な方にはちょっと苦痛な小説だったかもしれませんが、少しでもお楽しみいただければ書いた甲斐があります。
さっきから散々言ってますがこれから続編の2を書きたいと思います。今回のアテナから25年後を舞台にしたお話で、主役交代しつつアテナ1のキャラにもスポットを当てて、今回は見えなかったアテナの世界をお楽しみいただければと思います。ちなみに次回は主役が3人いるので、それぞれの視点から違った世界観が見えてくると思われます。
ただ、次回話の展開上、どうしても「娼婦」とか「身売り」とかいう話が出てきてしまいまして…直接的な性描写などは全く入ってこないと思うのですが、単語から連想されるイメージを踏まえますと、次回作はR15にしようか検討中です。よろしければ皆様のご意見をいただけると嬉しいです。
それでは、長々と語ってしまいましたが、今回はこの辺で失礼いたします。
最後になりましたが、皆様ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました!
また次回作でお会いできますことを、心より願っております。
2011.3.25
佐倉アヤキ 拝




