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MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚~  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.55 BAKU編~仲間~

「どうやら、やられてしまったようですね」


 レイヤは静かに斬り捨てられた合成獣たちを見下ろした。


「クラフト構成員は、ここにいる者だけで三体。先程院内でやれたのが一体。外に放ったものは六体。合成獣化させた人間を含めると、合計で三十四体。つまり、三十四名がたった今殺されました」

「……殺されたって……。全部お前が仕向けたことじゃないか!」

「手を下したのはあなた達ですよ」


 万寿の反論にレイヤは冷たく言い放った。対してタンバは無表情のままそこに立っている。


「やっぱり怖い人だ、あなたは。感情を失えば仲間に手をかけるのも容易いですか」


 感情を失う……?


 万寿はタンバの背中を見つめる。タンバは剣から滴る血を振り払うと、静かに答えた。


「確かに。私は過去自らの記憶を消し去り、その結果感情をなくしました。何が楽しくて笑うのか、何が悲しくて涙するのか、何ひとつ理解できなかった。リーダーに『感情』という能力を与えられるまで。今も大して変わりはしませんよ。ですが、かつての仲間に手をかけることは悲しい。それと同時に何とも言えない憤りも感じる。怖さもあれば、安心感もある。すべてが入り乱れた言葉に出来ないこの感情。あいにく私にはわかりかねますが、彼らの流す涙がその答えでしょう」

「……?」


 その時耳元で通信音が鳴り響く。万寿はすぐにその通信を受けた。


《こちらダンテ。Kを確保。負傷者移送へ移る》

《こちらジョニィ。B、確保。負傷者数名発見、応援要請求む》


 聞きなれた二人の声。だがその声はどことなく物静かで、悲しみを帯びているように聞こえた。


「平気なはずはない。彼らはどの部隊にいようとも、我々と共に命を懸けて戦ってきた仲間です。顔を合わせたことも、話しをしたこともなかったかもしれない。けれど、失っていい命ではなかった。誰かを殺めてしまう前に、人として最期を迎えられるよう手を下す。それがせめてもの手向け」


 ダンテとジョニィは頬を伝う涙をぬぐうと、それぞれ街に散らばったかつての仲間たちの残骸へ片膝をついた。タンバもまた、その場で同じように片膝をつく。


「《最後まで生き抜いた彼らに、祈りを捧げます》」


 万寿はただ黙ってその様子を見つめていたが、自然と同じ姿勢になっていた。レイヤはそんな彼らの姿を鼻で笑った。


「くだらないですね。実に」

「理解していただかなくて結構です。どうやら君はもう、人ではなくなってしまったようだ」


 タンバは立ち上がると、ついていた膝の汚れを軽く払った。


「なぜあの時君を殺さなかったのか、今なら少し分かったような気がします。あんころ君に助けて欲しいと言われた時、それは君を赦し生かすことだと思っていました。必ず君はそれを受け入れもう一度あんころ君が望む道を進めると思ったから。そう信じていたのです。ですが……やはり殺しておくべきだった。――君が人である間に」

「……」

「君に人の心が残っているならどうぞお話しください。クラフトは相手と戦う際、なぜそのような行動をしたのか真意を確かめることを義務づけられています。話せるのなら、聞きますが」


 レイヤは少し間を置いた後、睨みつけるような目で万寿を見下ろした。そしてゆっくりと口を開く。


「……俺はレイヤ」

「…………」

「十五歳でクラスメイトからいじめを受けたことがトリガーとなり、リミット能力者になった。何度もサイトにアクセスした。でも、クラフトの人間は誰一人僕のことを見つけてはくれなかった。そして選ばれた。僕ではない。――僕を虐めた人間が、正義だともてはやされる世界に」

「……っ」

「本当はそこには、僕がいるはずだったんだ。あなた達の本当の仲間は僕だったんだ。まんじゅうは僕と同じ境遇だった。だからまんじゅうは僕なんだ。なのになんでお前がそこにいて、僕はこんな姿になっているんだ。何が違う。お前と僕は同じなのに、なんでお前が僕の立つべき場所に立っているんだ。許せない。あんころもお前も。全部全部、僕の居場所を奪っていく!」


 レイヤは周囲にあるものを無作為に突き飛ばして、暴れ始めた。


「お前だって殺したいだろう⁉︎ 自分を虐めた人間を! なぜ殺さない! なぜ赦せる! 自分を殺そうとした人間を、なぜ友人と呼べるんだ! お前は僕だ! お前もこっちに来い! 殺せ! 殺せよ! そしたらもう、誰も僕を虐める人間はいなくなる――」

「違うよ」


 万寿は、はっきりと答えた。


「僕は、君じゃない」

「……なんだと?」

「僕は、誰も殺さない。たとえそれが、僕のことを虐めていたり殺そうとした人間であったとしても。確かにクラフトは正義のヒーローだよ。人々にとって君たちは悪と呼ばれる存在。でも、今までたくさんのパラドックスに出会って分かったことがある」

「……っ」

「君の出した答えは、君にとっての正義だ。何も間違えてはいない。けれどその結果誰かが傷つき泣いているのだとしたら、僕はそれを間違いだと呼ぼう。気が付き道を変えようというのなら、僕がその手を引いてあげる。君が選んだその先に僕がいるのなら、僕は君の友達になるから」

「――知ったような口を利くな!」

「君も本当は分かっていたはずだ。君はさっき『死ねると思った』って言った。本当は、誰も殺したくなんてなかったんだ。けれど、引くに引き返せなくなった。必死にもがいている間に元の姿も失って、死ぬ方法を探していたんじゃないの? そして蜘蛛頭と出会った」

「黙れ」

「『君の毒なら僕を殺せるのではないか。』君はそう言った。けれど彼はこう答えた。『もう誰も殺したくはない。』」

「黙れ」

「君は人々の儚い夢を喰らうため、BAKUになったんじゃない。自らの悪夢を終わらせるために、夢を食う魔物になったんだ」

「黙れ!」


 レイヤは万寿へと飛びかかっていた。十分――時が刻まれる。時間は止まった。


「レイヤ君……これでもう、全て終わりです。さあ、るい太君から預かった睡眠薬を」


 タンバが促すと、万寿は首を横に振った。そして睡眠薬の代わりに一枚の手拭いを取り出す。


「……おまんじゅう君?」

「ごめんなさい、タンバさん。もう少しだけ。もう少しだけ、彼と戦わせてください」

「――なぜ」

「彼は多くの人を傷つけた。それは赦せない事です。だからこそ止めたい。『仲間』として」

「――っ」


 彼は手拭いを頭に巻くと、両端を力強く結び合わせた。――そして、時は動き出す。レイヤは身を翻して、まっすぐに万寿へと向かってきた。


「おまんじゅう君……!」

「お前も味わうがいい! 死ねずに足掻き続けるこの苦しみを!」


 レイヤは自分の右手で己の右目を、そしてもう片方の手で万寿の顔に手を伸ばした。だがそれは叶わなかった。万寿はレイヤの左手を払うと、そのまま彼を殴り飛ばしていた。


 様々な医療器具をなぎ倒しながらレイヤは冷たい地面に転がる。


「――っ!」

「ジョニィさんが言ってた。ちゃんと喧嘩しろって。でもそれは、相手を一方的に傷つけることとは違う。そしてやられたからやり返すとか、私利私欲なものでもない。誰かを巻き込んだりその人が涙を流すなら、それは正しい争いの方法ではない」

「……っ」

「分かり合うためには時間がいるかもしれない。殴り合うほどの怒りが沸き上がってくるかもしれない。でもそこに相手を尊敬し思いやる心があるのなら。きっと正しい方法で争えるから。必ず分かり合える時が来るから。だから僕は無理やりでも君を連れて帰るよ。僕らの場所、クラフトに!」

「やってみろよ、饅頭ごときが」

「ごときってなんだよ! ムキムキの饅頭だよ!」


 万寿はレイヤへと立ち向かっていく。レイヤは床に散らばるメスや注射針を万寿の肉体へと融合させようとその手を伸ばすが、つなぎ合わせた腕は思うように動かずいとも簡単に弾き飛ばされた。万寿はレイヤの胸倉を掴むと、そのまま地面へとたたきつける。その様子をタンバは目を丸めて見つめていた。


「おまんじゅう君……。一体どこでそんな護身術を――」

「この前ダンテさんに散々殴られたので、それを再現してみました。イケてますかね?」

「なんというか、随分な目に会われたようで」


 その後二人はしばらくただの殴り合いを続けていたが、レイヤは次第に抵抗するのを辞めてその場へと座り込んだ。万寿はそれを確認すると、能力を解く。


「ジョニィさんはこうとも言ってた。喧嘩した後は皆友達なんだって」

「……」

「ほら、一緒に帰ろう」

「……っ」


 レイヤへと手を差し伸べる万寿。レイヤはゆっくりと右手を持ち上げると――自分の額に触れた。左手には錆ついたサバイバルナイフが握られている。


「――っ! なんで――!」


 万寿はすぐにサバイバルナイフを弾き飛ばそうとしたが、すでにそれは額に突き刺さっていた。タンバも思わず駆け寄る。そしてあの日あんころを抱き上げたように、タンバがレイヤを抱き上げた。


「レイヤ君」

「最初から、こうすれば良かったんだ。本当は知っていた、でもやらなかっただけ。せめて誰かに殺してほしかった。一人で死ぬのは怖かったから」

「……」

「でも今気づいた。俺。一人じゃかったみたい」


 レイヤはそっと左目に触れた。


「友達、隣に居たよ」


 そう言うと、彼は両目を細めて笑った。そしてそのまま、静かに息を引き取ったのだった――。


 ◆


 その後合成獣とリミットはクラフト内へ全て回収され、世界は一時的な平穏を取り戻した。


 彼らの姿はすぐに全世界と拡散された。リミットがこの世に存在することだけでも特大ニュースであったが、それと同時に『クラフト』という組織は多くの人から称賛され、特に最前線で戦っていたダンテとジョニィは時の人としてマスコミに大いに取り上げられた。


「少なからず負傷者は出ましたが、第四部隊によって治療を施され死者はゼロ。素晴らしい快挙です」

「お金も取り放題! ……とかって考えてます?」

「これも仕事の一環ですので」

「今度はぼったくり組織として名を馳せますよ」

「だから契約書にサインをいただいているんじゃないですか。同意を得た上でのお支払いです」

「半ば強制的では?」


 すっかり意気投合したタンバと万寿は、リーダーの部屋へと向かっていた。その手には小さな紙袋を抱えている。クラフトの本拠地は地下に存在し続けるものの、地上にもまた支部という形で新たな建物が出来ていた。噂によると新たに広報部隊が設立され、世の中のリミットたちがより住みやすいよう活動していくとか。


「リーダー」

「お疲れ様。入って良いよ」


 扉を開けた先では、長い髪をなびかせながら風に当たるリーダーが立っていた。


「たまにはいいね、地上というのも」

「そうですか? 私は早い所ツェッペリンへと戻りたいところですが」

「リーダー、これBAKUから回収した機械です。確かに十個、ありました」

「そう、ありがとう。皆おかえり」


 リーダーはそう言うと、大切そうにその機械の入った袋を受け取った。


「君たちも今回は随分と大変な思いをさせてしまったね。今日の所はゆっくり休んで」

「はい、失礼致します」


 タンバと万寿は一礼するとすぐに部屋を後にした。リーダーは機械を机に広げると、その中の一つを持ち上げる。少し力を加えると、その機械はいとも簡単に二つに割れた。その中には小さなチップが入っており、そこには『ankoro』と表記されていた。


「彼のを入れて十個。――ひとつ足りない」

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