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MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚~  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.47 BAKU編~決意~

「BAKU……」


 万寿は呟くようにその名を呼んだ。するとずっと座って足を組んでいたタンバが立ち上がり、さらに二枚の写真を取り出した。そこには髪の長い男女がそれぞれ書かれている。


「おまんじゅう君の記憶からあぶり出したBAKUの賛同者です。近々大きなテロを起こすつもりだったようですね。今回合成獣が放たれたのはその予行演習でしょう」

「じゃあ戦う相手は三人……」

「プラス、合成獣ってことですね」


 ダンテの言葉に、るい太が付け足すように言った。タンバが話を終えると、リーダーが再び口を開く。


「おそらくBAKUは自分の持ち場からは離れないだろう。彼はあくまでも一人の医師を演じている。二人が街で暴れれば暴れるほど、被害者は増える。そして医師として被害者を受け入れながら己の存在を確立し、壮絶な現場を見せつけながらクラフトがいかに悍ましい組織であるかを提言する。恐怖は支配への一番の近道になる」


 ダンテはタンバから差し出された顔写真を持ち上げた。


「じゃあ直接やりあうのは、この二人だな」

「そうだね。二人を仮に女性をB、男性をKと呼ぶよ。二人はこの病院から遠く離れた場所には出現しないだろう。彼が勤務する病院はこの地域の三次救急を請け負う救急指定病院だ。多くの傷病者はここに運ばれてくることを考えると、対応しやすい近辺に出没する可能性が高い。我々が現れた際にも指示を送りやすいからね。と言っても半径十キロ圏内は注意深く捜索を続ける」


 イッチとニィニが頷いた。


「BとKは合成獣を連れて来る可能性が極めて高い。クラフトからの失踪者を含め他の人間も合成獣にされていると考えてもおかしくはないよ。Bの出現地にはジョニィ、Kの出現地にはダンテを派遣する。合成獣は抹殺、ただしリミットは殺さず確保せよ」

「了解」

「るい太はその中間地点から部下に指示を下ろし自らも負傷者の治療に専念」

「了解」

「BAKUは手持ちのものを全て解放し病院内でさえ混乱に陥れる可能性も視野に入れ、直接BAKUとも対峙する。ただし普段は日々命と向き合う総合病院として機能しているため、相手に接触する、もしくは相手がアクションを起こすまではこちらからは手出しは出来ない。きわめて慎重に行う必要がある。BAKUと接触する者は――タンバ。そしておまんじゅうの二名だ」

「――え」


 リーダーの言葉に、万寿は小さな驚きの声を漏らした。


「待てよ、リーダー!」


 すると万寿より先にダンテが非難の声を上げる。思わずソファから立ち上がり、リーダーへと迫り寄った。


「万寿をBAKUの所へ向かわせる気かよ⁉︎ しかもこんな奴と! 危険すぎる! 納得できねえ!」

「気持ちはわかるが、ダンテ。君も知っている通り、今現在実戦に向いている戦闘組織は君とジョニィの二名だけ。彼を実践向きの現場に向かわせることの方が危険だよ」

「でも! BAKUはこの事件の発端者だろ⁉︎ 何しでかすかも分からねえやべー奴の所に、まだ数か月の万寿と――なんでこいつを……!」


 ダンテがタンバを睨みつけると、タンバは眼鏡をかけ直しながら冷静な対応をとる。


「何か不都合なことでも?」

「テメーは信用ならねえんだよ! 特に――特に今回の相手はな……!」

「『彼』と重なりますか?」

「――っ! テメー!」


 タンバの言葉に、思わずダンテはタンバへと殴りかかろうとした。タンバへその手が届く前に、リーダーは片手で軽々しくダンテの胸倉を掴むと、ひょいっと掌を返すようにしてダンテを地面へと転がしていた。


「くっ――」


 あのダンテさんを赤ん坊みたいに……! なんて力だ――っ!


 リーダーはそっとダンテから手を離すと、再び背中で両手を組み前を見据えたまま言葉を発した。


「ダンテ。今仲間内でやりあっている場合じゃない。君も分かっているだろう」

「……っ」

「確かに君は過去、大切なものを同時にいくつも失った。その恐怖はその身に沁みつき、冷静ではいられないかもしれない。だからこそ、同じ過ちは繰り返してはいけない。それを成長と言い、前進という。信じて歩きなさい。彼もそれを望んでいる」


 タンバも静かに、リーダーの言葉に耳を傾けていた。


 リーダーに諭され、ダンテは無言で立ち上がるとそのまま扉の方へと歩いていく。


「ダンテさん……!」


 万寿が慌てて声をかけると、ダンテはうつむき加減のまま万寿を振り返った。


「勝手に突っ走んな。タンバの指示を待て」

「え? あ、はい……」

「ぜってー死ぬなよ。名前の通り、長生きしてくれや」

「ダンテさん……?」

「また、後でな」


 ダンテは一方的にそう言うと、先に部屋から出て行ってしまった。


「相変わらず、せっかちなのも変わりはしませんね」


 タンバはそう言いながら、再び眼鏡を押し上げる。


「さて、おまんじゅう君」

「――っ! はい!」


 突然名前を呼ばれた万寿は、ピンっと背筋を伸ばしリーダーの方を向き直る。リーダーの赤黒い瞳が万寿をとらえて離さない。


「ここまで話しておいてと思うかもしれないが、君にはこの戦いに参加するかどうかをまず問いたい」

「え……?」

「先ほども話した通り、これからは全人類に姿を見せて戦う。もしも人間に受け入れて貰えなったなら、今回BAKUを退けられたとて我々に未来はない。それでも僕たちがすべきことは変わらない。能力を持たない一般市民の安全と生存を確保し、この命を懸けて能力を駆使し使命を全うすること。しかし存在が露呈する以上、クラフトに属することが不都合になる者もいるだろう。その場合は、リミットの能力抹消、脱退も視野に入れて貰って構わないよ」


 まさか、そんなところにまで話が広がっていたとは。万寿はぎゅっと手を握る。


 この戦いで、今までは都市伝説だと世の中から消え入りそうになっていたリミットが再び、全世界に明かされる。だがその先に共存する未来が確実にあるとは言い切れない。それでも、リミットは戦わなければならない。力を持って生まれてきたのだから。それを自分の利益や支配のために利用するのではなく、人のために活かし、守るために使うと決めて、クラフトここに来たから。でも……。


「君は、どうしますか?」


 戦わなければその先に未来はない。戦ったとて明るい未来が保証されている訳でもない。だがここで能力を捨てれば、確実に生き残る未来がある。


 万寿は少し視線を落とす。リーダーはまっすぐに万寿を見つめたまま続けた。


「大丈夫。君の答えを、僕は絶対に裏切りはしません。戦うことも、戦わないことも、あなたが選んだ答えです。自信を持ってください。そこに正解はないのだから。あなたが後悔しない道を、あなた自身が選んでいいのです。もしもその先でその選択を悔やみ誰かを恨みたくなったなら、どうか命令を下さなかった僕を恨んでください」


 万寿はゆっくりと顔を上げた。そしてまっすぐリーダーを見つめ返す。


「怖い、です……」

「……」

「けれど、ひとつだけ、受け取ったものがあって……。蜘蛛頭に乗っ取られた時、多少ながら彼の記憶が僕の中に入り込んできました。彼の苦しみとか、恐怖とか。でもそれ以上に強い思いがあって……。もう誰も殺したくない。助けて欲しいって言う気持ちだったってことが分かるんです」


 万寿の瞳からは自分の意と反して、ぽろぽろと涙があふれ出して来ていた。次に出た言葉は、まるで蜘蛛頭が万寿の体を借りて話しているようであった。


「自分は人殺しだ。今更何を言うかと思うだろうが、もう誰も殺したくはない。私はひとつでも多くの命を救うために、医者になったのだ。もう私のせいで、誰も死なないでほしい。――どうか、彼を止めて欲しい。助けて欲しい。もうこれ以上、誰も殺さないで欲しい。あの子も、被害者に過ぎないのだから」

「……」


 万寿の口からそこまで語られると、今度は自分の意志でハッキリと答えた。


「僕は――、戦います」

「分りました」


 リーダーは万寿の言葉を聞くと、すっと片手をあげた。


「全員、出動準備。地上でまた会いましょう」

「了解」


 リーダーの言葉で、それぞれが持ち場へと散って行った。


 ◆


 ジョニィは最後まで一人部屋に残っていた。全員が出て行ったことを確認すると、やっとその重たい腰を上げて扉の方へと向かって行った。扉を開こうと手を伸ばしたが、その手は扉に触れる前で止まった。彼女はそっとリーダーを振り返る。


「リーダー」


 消え入りそうな声でそう呼ぶと、リーダーは組んでいた腕を解き彼女へ両手を広げた。


「おいで」


 ジョニィは迷うことなくリーダーの胸の中へと飛び込んでいく。リーダーはジョニィを受け止めると、しっかりと抱きしめ返した。


「怖い?」

「少し」

「ジョニィちゃんなら大丈夫。逃げたくなったら、いつでもここに帰ってくればいいからね」

「ううん、最後まで戦う。リーダーが作ったこの組織、守りたいから」

「ありがとう。絶対、無茶だけはしないように」

「……うん」


 そう言うとリーダーは、自らの髪の毛を結んでいた赤いリボンをほどいた。そしてそのリボンで、ジョニィの長い髪の毛をひとつに束ねてやる。


「お守りだよ。幸運を」

「……ありがとう、リーダー。行ってきます」


 ジョニィは名残惜しそうにリーダーから離れると、今度は振り向くことなく扉を開けて出て行った。

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