第4話
投稿者:土方のわし 2026年4月15日
やったぜ。今日はわしの五十五歳という名の、加齢の深淵へ突っ込む誕生日じゃ。
現場が終わると、おっさんが鼻をひくひくさせながら、舐めるように近寄ってきよった。
「わしさん、今日はめでたい『生』の日ですわ。盛り合いましょうや」
最近、おっさんはパチンコとスロットという名の「出口」をこじ開け続けとるらしく、懐に万札をしこたま溜め込んどる。
おっさんがどこからか調達してきたのは、見たこともない金のラベルが貼られた、白濁した輝きを放つ「高級なウイスキー」じゃ。
「わしさん、五十五歳の門出に、本物の琥珀色を喉の奥へドバーっと流し込んでつかあせえ」
わしはコップに注がれたその卑しい液体を、じりじりと喉の奥へ突うずるっ込んだ。鼻をひくひくさせると、芳醇な樽の匂いと、洗練されたアルコールの香りが脳天を直撃しよる。
……あぁ~~たまらねえぜ。
だが、正直に言おう。口に合わん。
上品すぎて、現場の泥や汗の匂いを、一ミリの隙もなく洗い流してはくれんのじゃ。
「おっさん、すまん。これはお前が舐め回せ。わしはいつもの『黄色い出口』でええわ」
わしがコンビニへ走り、百円ちょっとの安酒という名の聖水を空けると、鼻の奥にいつもの、卑しいまでの安心感がドバーっと戻ってきよった。もう、おえんわ。この安っぽさ、気が狂う程落ち着くのう。
振り向くと、おっさんが高級ウイスキーをトップバリュの酒で、ドロドロに割りよった。
「おっさん、それは混ぜるもんじゃない。純潔の盛り合いを汚すな」
「……ええ感じの、白濁した味になりますわ。これがわしの出口ですわ」
それからはもうめちゃくちゃや。高級酒をチェイサーにして安酒を貪り、五十五歳の、身悶えするような抱負を叫んだわ。
「太郎の維持費という名の『生』を、死ぬまで稼ぎ続けることじゃ!」
「渋いですわ。喉の奥まで響きましたわ」
おっさんが、追いトップバリュをしこたま買い足しよった。
――もう一度、若返ることはできんが、年を舐め回したい。
アパートに帰ると、太郎がわしの口から漂う「いつもと違う、卑しく高級な匂い」を、不審そうに鼻をひくひくさせて嗅ぎよった。
「わしは、どこまでも泥まみれのわしじゃ、太郎」
太郎の尻尾が、プロペラのようにブンブン振れおった。汚れ好きの奴め。
こんな変態親父と誕生日祝い遊び、しないか。
あぁ~~早くアルコールまみれになろうぜ。
岡山の路地裏、黄色いラベルを愛おしそうに舐めるように眺めながら待っとるぞ。
――二日酔い防止のウコンをしこたま持って来てくれる奴、おらんかのう。




