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01. 死者統括庁 転生科


 主食は労働者の味方エナジードリンク。睡眠時間は常に三十分がデフォルト。身に覚えのない失敗で上司に理不尽に怒鳴られたかと思えば、ムカツク同僚に仕事を押し付けられる始末。



「毎日仕事任せちゃってごめんねぇ橋下さん♡私のパパがここの社長なばっかりに♡でも橋下さん仕事大好きだしいいよね!じゃ、頑張ってねぇ〜」



 黙んなさいよこのアバズレクソビ〇チ。どうせお前私に仕事押し付けてこの後男とホテルだろ。いいよなぁ社長令嬢は良いご身分でさ。

 お陰でこっちは今日も帰れそうもないよ。社泊最高記録達成〜アハハ。


 社長を父に持つ彼女に逆らえる者は誰一人いない。

 課長も部長も彼女に甘々で、ミスをしても怒られるどころかなぜ彼女のミスをちゃんとカバーできないのかと周りの人間が責任を負う。

 彼女はこの会社のお姫様なのである。


 …あーまずい、眠気が限界に達してきた。

 最近ほとんど寝てなかったもんな…最後にちゃんとベッド入ったのいつだっけ。二週間前…いや一ヶ月前か?

 手元のエナドリを喉に流し込みつつ、ふとディスクのすぐ側の窓に目をやると、何やらスラッとしたイケメンと腕を組んで歩く例のお姫様の姿が目に入った。

 はぁ、もし私が彼女の立場だったら、人に仕事押し付けて男とイチャイチャするなんてこと絶対しないのに。自分のせいで怒られてる人を見てニヤニヤ笑ったりだってしないし、自分が恵まれてるからって人を蔑んだりしないのに。



『え〜?!橋下さんって、“橋の下の子”だから橋下って言うのね!知らなかったぁ』


『ちょ、姫川さん…』


『だって本当の親には捨てられて、今のご両親には拾われたんでしょ?そういうのって橋の下の子って言うんですよぉ?』


『そうかもしれないけど、そんなこと本人に言うなんて…』


『うるさいなぁ、別に私本当のことしか言ってないし悪くなくないですか?あーあ、私いつもこう。全然悪くないのにすーぐ悪者扱い。あんまり言うならパパに言いつけますよ〜?』



 嫌なことを思い出した。


 はいはい、どうせ私は橋の下の子ですよ。実の親には捨てられて、育ての親にだってただの金ヅルとしか思われてない、ただのロクデナシですよ。


 そんなことより仕事仕事!明日までに終わらせないといけない仕事が山積みなんだから、一分一秒無駄にできない。

 …のに、あれ。なぜか書類の文字が読めない。

 文字があることは認識できるのに、それが頭にまるで入ってこない。目の前がぐにゃぐにゃしている。

 座っているだけなはずなのに身体が横に傾いて、バランスを保とうとディスクの上にある物を咄嗟に掴む。エナジードリンクの空き缶がメコッと軋む音がした。


 これもしかして、ヤバいやつ?


 視点が定まらないどころか段々視界が狭窄してきた。

 嘘、私もしかして死ぬの?ブラック企業で散々こき使われて、権力だけが取り柄の女から押し付けられた仕事に囲まれて死ぬの?

 …まぁ、それならそれでいいかもしれない。むしろ全部から解放されて清々する。本当、最後まで最悪な人生だったわ。


 そうして私は薄れゆく意識の中、片手に書類、片手にエナジードリンクの空き缶を手に、一人ディスクに突っ伏して死んでいったのであった。




 __死者統括庁。転生科にて。



「えっと…つまり、私はそちらの手違いで間違った所に生まれて早死した…と。」


「まぁ、平たく言うとそういうことになりますね。」



 死んでからというもの、他の魂たちとは違い私は何故かすぐに違う場所に連行され、市役所の窓口みたいな所で急に頭を下げられたので吃驚である。



「本来なら姫川愛子という人物として生まれ、愛される幸せな人生を送る運命だったんですがねぇ…生まれる前にこちらで魂の取り違えが起こってしまいまして。まぁ赤子の取り違えみたいな感じで、ないことではないんですが。」


「姫川愛子…って、え、もしかしてあの社長令嬢の?」


「そうです、貴女と同じ会社で勤めていた彼女で間違いないですよ。」



 なんと、私はずっと心の奥で羨んできた彼女の境遇を手にするはずだったらしい。それを手違いで失っただって?

 私は当然憤慨した。



「信じられない!私がどれだけ苦労したと思ってんの?!今回過労死したのだってあの女から仕事散々押し付けられたことも理由の一つなのに!!」


「ま、まぁまぁ落ち着いて…」



 これが落ち着いていられるか!赤子の取り違えだって大問題なんだし、魂の取り違えなんてもう

取り返しつかないじゃない!

 目の前の役員らしきおじさんはわたわたと私を宥める。



「今の姫川愛子の魂は元々前世で問題があった方でして、ハードな生まれで人生を歩む予定だったんですよ。けれどそれが全て、これまで何の問題も無い貴女が肩代わりするような形となってしまったので、こちらとしても貴女にはお詫びをするということが先の会議で決まりまして。」


「お詫びって?」


「貴女には、次の人生での希望を募りたいと思います。普通は希望どころか意見も全く聞き入れられないので、破格の待遇ですよ。」



 おじさんが目をやった先には、「次!はい次!」と次々と何やら真っ黒い穴に落とされている人たち。

 怖っ、転生ってあの穴に落ちなきゃなんないの?



「あ、時間が無いので早くしてくださいね。この窓口に来てる時点で普通に時間ロスなので。」



 さっきまで散々へこへこしてたのに急かすのかよ。まぁいいや、私の来世での希望なんて一つしか無い。



「ズバリお姫様になること!もう他に無駄な希望は言いません、とにかくこれだけ叶えてくれれば言うことないわ!」



 本来は私が手に入れるはずだった、喉から手が出るほど望んだ姫川愛子のような立場。

 彼女のように金と地位があれば顔が多少不細工でもイケメンと結婚できるだろうし、能力が低くてもコネ入社できる。お姫様という立場一つあれば、来世では何でも叶うし手にはいるってことよ!


 私が心の中でこんなことを考えているとは露ほども知らないであろうおじさんは、「な、なんと謙虚な…!」と感激し出した。



「絶世の美貌とチートスキルと社会の絶対的地位と完璧な恋人くらいはマストで言われるかと思っていましたよ。お姫様に生まれ変わらせるくらいの希望なら簡単に通りますよ、どうせなら小国じゃなくて大国がいいですよね…皇女なんてどうでしょう。」



 …ん?ちょっと待って、なんか勘違いされてない?


 私が望んでるのはお姫様みたいな立場であって、別にガチのお姫様になりたいとか思ってない。お姫様(概念)であってお姫様(物理)じゃないのよ。

 っていうか地球限定の話じゃないの?皇女って完全に小説の中の世界じゃん。



「あ、そろそろ時間ですね。じゃ、行ってらっしゃーい!」


「えっちょ待っ」



 誤解をとく間もなく背中をドンッと押され、私はすぐ側にあった穴に落ちてしまった。


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