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それでも、朝が来る

作者: ごはん

雨が降っただけで、心が沈んでいた時期があった。

友達の一言、上司のため息、鏡の中の自分の顔——

そのどれか一つが引き金になって、「あ、もうダメかもしれない」と思ってしまうような日々。


沙耶さやは、自分が“壊れやすい器”のように思えてならなかった。

それでも、誰にも気づかれないように笑って、

ちゃんとしているふりをして、今日までなんとかやってきた。


だけどある日、限界が来た。

朝、靴を履こうとして、そのまま動けなくなってしまった。

「もう歩けない」と思った。

生きているのに、どこにも向かえない。

そんな日が、しばらく続いた。


だけど、そのあとだった。

何もできなかった時間の中で、

ふと、窓の外に目を向けることが増えた。

カーテン越しに見る光や、通りすぎる季節。

誰かが植えた花が、名前も知らずに咲いていること。

自分がいなくても、世界はちゃんと回っている。

けれど、自分がいるからこそ気づける光景も、ある——

そう思った時、心のどこかに、小さな“点”が灯った気がした。


そして今日。

雨が降った。

冷たい風が吹いた。


でも、沙耶は外に出た。

近くの公園のベンチまで歩いて、腰を下ろし、空を見上げた。


「雨だなぁ……でも、寒いだけじゃないね」


かつては、こんな日が来るなんて思いもしなかった。

些細なことで、自分が壊れてしまうと思っていたあの頃。

でも今は違う。


不安がなくなったわけじゃない。

泣きたくなる夜だって、まだある。

でも——もう、「それだけで終わり」だとは思わなくなった。


明日は、今日より少し違う朝が来るかもしれない。

それだけで、十分だ。


ベンチから立ち上がるとき、雨は少し弱くなっていた。

空の雲が、ほんの少し、ゆるんだように見えた。

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