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第三章:再生の岸辺

「行くぞ」ゴンドが声を落とした。「道は前だ。」


仲間がためらうと、ゴンドはペルに手を差し出し、司祭にも目をやった。「寒さは奴隷商ほどすぐには殺さねえが、じわじわ命を奪う。」


「それに、船から見えない場所に行きたい」ペルが地平線を睨んだ。


シムが静かに頷く。「内陸だ。真水がある。」砂丘の間を指差す。「ノミトリソウとハマカンザシが小川のそばに生えている。あれを辿れば水場だ。」その声には、土と共に生きてきた者の落ち着きがあった。


ゴンドはその言葉を胸に刻む。司祭の知識は、神秘的な呪文ではなく、地に足のついた生き抜く術だった。彼は浜辺の残骸を見渡す。樽が波に揺れ、網が岩に絡み、板切れが骨のように散らばっている。


ゴンドは反った船鉤を拾い、重さを確かめる。ペルは木片を握り、即席の棍棒を腰に差し込んだ。シムはフジツボだらけのひょうたんを耳元で振り、中身を確かめてから満足げに頷いた。


三人は細い水流を辿り、冷たい小川が流れる狭い谷へと進む。ペルは腹ばいになり、飢えた獣のように水を飲んだ。ゴンドは慎重に口を湿らせ、尾根の上を警戒する。海岸には砂草と低木、風にねじれた灌木しかなく、身を隠す場所はない。むき出しの大地に立つ心地がした。尾根の向こう、盆地に落ちる細い滝の脇から煙が上がっている。ゴンドは再びその煙を見つける。灰色の空に細く汚れた筋が伸びていた。


進む道は煙の方角へ続いていた。崖を登り、風に削られた岩の間を縫って進む。ゴンドたちは警戒しつつ尾根を越えた。頂のすぐ向こう、灰色に風化した小屋がスレート色の丘に溶け込んでいる。曲がった煙突から薪と薬草の香りを含んだ煙が立ち上る。


ゴンドが扉に手をかける前に、中から開いた。年老いた女が槍を構え、敷居に立つ。目は濡れた服、即席の武器、脱走奴隷の絶望を見抜いていた。


「名を。武器を下ろしな。」


ゴンドは船鉤を下ろす。「ゴンド。」


「ペル。」棍棒が地面に落ちる。目は絶えず動き、出口や武器、女の構えを計算していた。路地で生き抜く者の癖だ。


「シム。」司祭は両手を広げ、掌を見せる。「温もりと安全を求めている。害意はない。」


女の槍は揺るがない。視線は一人ずつの顔を読み取る。捕らわれの虚ろな目、かばう手足、足枷の痕。やがて彼女は槍を下ろした。「一時間だけだ。それ以上は無理だよ。」


中に入ると、暖かさが包み込む。外の冷たい風と対照的だ。乾いた薬草の土の匂い、炉の薪が爆ぜる音、小さなヤギの寝息。垂木には薬草の束が吊るされ、馴染みあるものも、見知らぬものも混じる。タイムとセージの下に、ヤナギの皮やフィーバーフュー、鼻をくすぐる香り。すり鉢が炉端に置かれ、石の上で薬草をすり潰す音が微かに響く。


シムの目が束の上を静かに動き、乾いたコンフリーや野生のニンニクに留まる。


女──マエラと名乗った──は迷いなく瓶を選び、手際よく動く。小さなヤギが火のそばの籠で眠り、呼吸は穏やかだ。壁一面に地図が貼られ、複雑な経路と記号が描かれている。


マエラは木の椀に湯気立つスープを注ぎ、乾燥薬草を一つまみずつ加える。シムの椀にはミントの香り、ペルのには苦い薬草。ゴンドの椀には三種の薬草が、怪我の治療に慣れた手つきで計量された。


ゴンドの手は椀を唇に運ぶとき微かに震えた。魚と野生のタマネギの香りが立ち、記憶のどんなご馳走よりも旨い。ペルもシムも、同じように飢えた獣のように食べ、顔色が戻っていく。


マエラは無駄のない動きで三人の間を行き来し、ペルの肋骨を布で縛り、シムの足を調べ、ゴンドの傷と額の烙印を涙が出るほど沁みる軟膏で拭った。


「治療師か?」シムが作業を見つめて尋ねる。


「昔はブラックウォーターの神殿にいた。」声には古い失望が滲む。「腐敗が慈悲を上回った。ケミスの司祭は神殿の階段で奴隷を競り、鎖を聖水で祝福した。」口元が歪む。「商いが慈悲より神聖になった。」


ゴンドの顎が固くなる。彼もその競売を見たことがある。群衆の中で、入札を眺め、自分には関係ないと心を閉ざした。司祭の祝福が全てを正当化し、嵐や干ばつのような世界の秩序に思えた。耐えるしかないもの、戦うものではないと。


*あの神殿の階段を何度通り過ぎた?* 人の悲惨の上に築かれた帝国に、剣一本で何ができると?何人の烙印を押された顔を見て見ぬふりをした?組合の手は港も宮殿も覆い、神殿さえ祝福していた。


臆病だった。それを現実主義と呼んだが、ただの臆病だ。


マエラはシムを一瞥した。「あんた、丸腰かい。戦わんのか?」


シムは膝の上で手を組んだまま。「私の道は慈悲です。癒し、導くのです。」


ペルが鼻で笑う。「平和主義者が奴隷狩りからどうやって身を守るんだ?祈り殺すのか?」


シムの目は静かだった。「小さな野ネズミでさえ攻撃されれば身を守る。アラニィはそれを祝福される。」


マエラが鍋をかき混ぜる手を止める。「アラニィ…」その名を噛みしめるように繰り返す。「その名が敬意を込めて語られるのを聞いたのは何年ぶりだろう。昔はアラニィの祭りで、貧しい者に無償で食事を配った。今は…」首を振る。「最近はほとんどがトゥリンを好む。力による正義、武力による秩序。トゥリンの司祭は『強者が弱者を支配するのは自然の摂理』と説く。」椀の縁をなぞる。「神が慈悲より秩序を重んじる時、どんな取引も正当化できる。」


「取引?」ペルが尋ねるが、口調は知っているようだった。


「奴隷制さ。」マエラの声は乾いている。「漁業に次ぐブラックウォーターの産業。船が毎週来る。商品を運ぶものも、人を運ぶものも。港には特別な檻が作られた。効率的だ。」


ゴンドの拳が椀を握りしめて白くなる。「そして神殿がそれを祝福する。」


「もちろん。ケミスは商業を、トゥリンは秩序を祝福し、両方の神が利益の上がる事業に微笑んでいる。」マエラは火の世話に立つ。「塩鉱山も採石場も、労働者は常に必要だ。ほとんどは六ヶ月、強ければ八ヶ月持つ。誰かが探しに来る前に忘れられる。」


「でも探しに来る者もいる」シムが静かに言う。


マエラの火かき棒が炭の中で止まる。「いる。そして求めているものを見つける者も。」目は棚の小箱に向かう。エルフの模様が刻まれているように見えた。


「癒し、導くか?ならこの二人を生かしておきな」シムに言い、席に戻る。口元がわずかに動く──笑みにはならないが、近いものだった。


ゴンドは空の椀を置く。手が微かに震えていた。怒りか、不安か、自分でも分からない。「俺たちはブラックウォーターに行く。用がある。俺を裏切った男たちを探してる。宿屋で手がかりを探すつもりだ。清算すべき借りがある。」声が低く唸る。「奴らが俺に負ってるものを回収する。」


*だが本当にそうか?* 胸の奥で疑問が渦巻く。復讐が自分を突き動かしているが、その先は見えない。ボリンとケールを見つけて、それで終わりか?血を流して、それで何が残る?


ペルの目が街の話で輝く。「機会に満ちた街だ。金が手を変える。情報が売り物になる。」


「この烙印でどこまで行ける?」シムが額の印に触れながら尋ねる。


マエラは計算するように三人の顔を見比べる。「クリムゾン・カンパニーが脱走奴隷に報奨金を出し始めてから、ブラックウォーターは賞金稼ぎで溢れてる。烙印を押された戦士一人につき二百五十ロイヤル。他の犯罪で指名手配ならもっとだ。」


ゴンドの顎が固くなる。「報奨金に詳しいな。」


「情報は伝わる。商人は話すし、漁師は噂する。」マエラは肩をすくめるが、ペルの目は何かを見抜いていた。


「ここから南東に巡礼宿駅がある」マエラは地図を取り、炉端の棒で海岸線をなぞる。「これが私たちの位置。」内陸の一点を指す。「アラニィの古い祠、今は放棄されている。石の壁、良い水、主要道から隠れている。昔は旅人が祝福と休息のために立ち寄った。」


「今は?」シムが身を乗り出す。


「今も時々立ち寄る。違う種類の旅人だが。別の…道を求める人々。」その意味が煙のように漂う。「祠は維持されている。必要な時に物資が現れる。食料、毛布、薬。神の摂理だと言う者もいる。」


ペルが鼻を鳴らす。「他の者は?」


「慈悲が何かを覚えている人々がまだいる。」マエラの手が地図の細部を指す。「宿駅は避難所だが、一時的なもの。休息と計画の場で、隠れ家ではない。道に近すぎて、特定の…関心を持つ者たちによく知られている。」


彼女は洞窟を指でなぞる。「ただ、あの洞窟は異様に隠されている。奴隷商は一度も入ったことがない、私の知る限り。祝福が残ると言う者も、呪われていると主張する者もいる。」ゴンドと目が合う。「仕事に口出しはしないが、祝福も呪いも本気の追跡は止められない。その保護も永遠じゃない。」


「永続的な隠れ場所は?」ゴンドが尋ねる。


マエラの棒が北の丘陵地帯を指す。「ソーンウッドの丘。内陸六十マイル、険しい土地。洞窟と谷、獲物と水。地形が追跡を断つ。補給車は入れず、賞金稼ぎも登攀を嫌う。」一息。「だが厳しい。冬は準備不足の者を殺し、外の情報や物資、反撃の希望から切り離される。」


ゴンドの目が地図に釘付けになる。「反撃…」


「ブラックウォーターは烙印持ちには危険だが、不可能じゃない。街は奴隷の金で太り、衛兵は買収でき、役人は見て見ぬふり。影を使いこなせる者には道がある。」マエラは視線を合わせる。「だがクリムゾン・カンパニーは最近パトロールを倍増した。情報に報奨金も出している。顔はすぐに知られる。」


「反対を勧めてるのか」シムが観察する。


「慎重を勧めてる。復讐は生きてる者だけの贅沢だ。死者が取り立てる借りはない。」マエラは棚に向かい、品を選ぶ。声は平坦で、一語一語が秤の上の硬貨のよう。「だが他人の選択はしない。それぞれ自分の道を行く。」


大きな袋をシムに渡す。乾燥食料、薬草、物資。「まず宿駅だ。休み、計画し、決めろ。丘は選べばまだある。ブラックウォーターも、先にお前たちを選ぶかもしれない。」


マエラは高い棚の小箱──エルフの模様──から銀緑色の葉を取り出し、シムの手に押し付ける。


「ささやかなものだ」声が柔らかい。「古き民の贈り物、子供の遊び用だが…」シムと目が合い、何かが通う。「司祭よ、お前にはそれ以上かもしれない。真の聖域を求める時、それを持て。手を…導くかもしれない。」唇に微かな笑み。「そして、そういう印を持つ者には時に影がまとわりつき、追跡を難しくする。小さな祝福さ、この暗い時代の。」


シムは葉を握る。冷たく滑らかな感触。一瞬、真珠色の光が葉脈を走った気がしたが、すぐ消えた。そっと上着にしまう。


「他の者も助けてきたな」ゴンドが言う。疑問ではない。


マエラの手が袋の紐で止まる。「怪我を治し、道を示し、食料を分けた。それが治療師の役目だ。」


「負傷者が脱走奴隷でも?」


「特にその時だ。」目に一瞬、激しさが閃く。「神殿は慈悲を忘れたが、私らの中には覚えている者もいる。」


ペルは壁の地図を盗賊の目で眺めていた。「あの道、主要道を避けてるな。」


「巡礼者は静かな道を好む。混雑しないからな。」マエラの口調は中立だが、ゴンドは微かな強調を感じた。


「記号は?」シムが地図の印を指す。


「安全な家、井戸、旅人が助けを得られる場所。」マエラは経路をなぞる。「この道は、乗客に質問しない船長の漁村へ。これは慈善を実践する修道院へ。そして…」ブラックウォーター近くの印に触れる。「娘を借金のために売った酒場の主人がいる。彼は覚えている。」


ゴンドは女の顔を見つめる。「人を消すことに詳しいな。」


「人を生かすことに詳しい。」マエラは小さな包みを渡す。「干し魚と旅のパン。宿駅にも物資はあるが…時に足りなくなる。」


「誰が維持してる?」シムが尋ねる。


「仲間さ。金より大事なものがあると信じてる連中だ。」ゴンドは彼女の手に古い火傷や刃の傷を見つける。薬草師だけの手ではない。


外から三短二長の口笛。意図的で計算された音。ゴンドとペルが警戒し、手が武器に伸びる。マエラの顔から仮面が外れ、獣のような鋭さが現れる。


沈黙。マエラの手が槍に近づく。


「漁船が戻った」やや安堵したが、作られたもの。「潮が変わった。」


ゴンドはペルと目を合わせる。口笛は漁師の合図ではない。漁師がこんな時間に戻ることもない。


「行こう」ゴンドが立ち上がる。「十分にもてなされた。」


「もてなしじゃない。だが、そうだ、日が高い。宿駅まで二日歩きだ。」


マエラは扉を開け、外を確かめる。「雷の傷のあるオークまで南へ。そこで東に曲がり、小川を辿れ。歩調を保てば明日の日没前に着く。」


外は風が唸り、灰色の雲が空を駆ける。岩に冷たい水滴が落ち、ゴンドは船鉤を握り直す。背後で海が永遠の秘密を囁く。前方にはブラックウォーター。不確かで危険な街。


出発の準備をしていると、マエラがゴンドの腕を掴む。「探してる男たち──ボリンとケール。ブラックウォーターは大きいが、奴隷取引がそれを小さくする。特定の界隈では噂が早い。」声が低くなる。「奴らがいれば、お前が来ると知る。備えろ。」


「奴らがブラックウォーターに?」


「ああ、ああいう男は楽な金に引き寄せられる。奴隷取引は今、儲かるからな。」握りが強くなる。「だが覚えておけ──復讐は運ぶ者も焼く火だ。時に最良の勝利は、ただ生きて次の夜明けを見ることだ。」


ゴンドは頷く。この女は多くの脱走奴隷を見てきた。復讐の飢えが人をどう変えるかも。


「感謝する」短く言う。


「生き延びて感謝しな。三人とも。」マエラは下がるが、目は警戒を解かない。「世界には墓が多すぎる。」


「俺たち、妙な組み合わせだな」ペルが棍棒を直し、マエラから受け取った古いナイフも腰に差す。


「妙だが、案外バランスが取れてる。」シムがゴンドを見つめる。「時に一番奇妙な同盟が、一番強い目的を持つ。」


その言葉は静かな水面に落ちる石のようにゴンドの胸に沈んだ。仲間を見やる──戦士、盗賊、司祭。生き延びるため、鎖を断ち切った三人。


ゴンドは内陸の道へ歩き出す。眉の下の目は石のよう。振り返らなかった。


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