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第二章:鎖を断つ

船体は老人の骨のように軋み、その音が牢獄の日々を刻んでいた。ゴンドの頭蓋骨はまだ誰かにハンマーで叩かれたように痛んだが、霧は晴れ、思考ははっきりしてきた。周囲には嘔吐、すすり泣き、鎖の音が交じり合い、悲惨な交響が続く。


日々は這うように過ぎていく。ゴンドは投げ込まれる残飯を食べ、塩辛い水をすすり、観察を続けた。衛兵たちは日に日に怠惰になり、日課は日の出のように予測できた。


隣でヨルドが何度目かの身じろぎをし、鎖がガチャリと鳴る。男の肩は突進前の雄牛のように盛り上がり、呼吸は速く浅い。寒さの中、額には汗が滲んでいた。


「早まって飛び出せば、全員魚の餌だぞ」ゴンドが目を向けずに呟く。


ヨルドは無言で顎を動かし、ぎこちなく頷いた。


後ろではペルが鷹のような目で全てを見ていた。上の足音や衛兵の声の変化に敏感に反応し、腐った夜警や残酷な監督官の動きを見逃さない。ゴンドに目配せし、ハッチを顎で示す。


「一人、いつも身を乗り出しすぎる奴がいる」ペルが囁く。「歯抜けで脂ぎったやつだ。食い物を振り回して、俺たちに見せびらかすのが好きなんだ。」


ゴンドも気づいていた。その衛兵は自分が賢いと勘違いし、囚人たちが鎖に引かれて手を伸ばす中、干し肉を手の届かないところでぶら下げていた。


「奴の番を待つ」ゴンドが低く言う。


ペルの目が飢えより鋭い光を帯びる。風化した手にはロープ仕事の胼胝があり、海の話になると声は潮風に染まる。「この海岸線は自分の傷跡のように知ってる。昔はミルヘイヴンから出る漁船で働いてた。」その苦い響きは「利益の上がる仕事」にも鎖があったことを示していた。「昨日から船は北西に向かってる。ウィドウズ岬が近い──折れた指みたいに突き出た岩場だ。船長たちは深い海流を避けて、あの辺りを通る。」


「どのくらい近い?」ゴンドが尋ねる。


「泳げるくらい近いさ、絶望していればな。」ペルの目が光る。「タイミングが合えば。三番目の見張りの時に船が向きを変える──その時に脂ぎった奴が番に就く。」


「神様に頼んでおけよ」ヨルドがシムに呟く。「きれいごとだけじゃ足りねぇぞ。」


シムはかすかに微笑む。「女神はいつも聞いておられる。」


◇  ◇  ◇


計画が動き出したのは翌夜だった。衛兵たちがサイコロ遊びに夢中になり、船倉が不穏な静けさに包まれた時、ゴンドは仲間に近づき、鎖が木に擦れる音を立てた。


「よく聞け」息を殺して囁く。「チャンスは一度きりだ。」


ヨルドの筋肉がばねのように張り詰める。指が太ももを神経質に叩く。「いつでも行ける。奴らを引き裂いて──」


「全員魚の餌にする気か」ゴンドが遮る。「脂ぎった奴は三番目の見張りのたびにハッチに身を乗り出す。いつも同じ場所で、食い物を見せびらかす。」


ペルの目が上から漏れる薄明かりにきらめく。「ハッチから左舷の手すりまで十二歩。数えた。大檣の近くにロープの束がある──暗闇で足を取られるかもな。」


「よし。」ゴンドは将棋の名人のように手順を組み立てる。「シム、鍵を渡したらできるだけ多くの囚人を解放しろ。」


「承知した。」司祭の声は静かで揺るぎない。


「三十秒以上かけるな、それから俺たちに続け。全員は救えない。できるだけ多くを解放しろ、だが一分以内に手すりに来い。さもなければ骨も残らん。」


ゴンドはシムの視線を捉え、男が渋々頷くまで離さなかった。


「弩兵は俺がやる。ペル、お前が鍵を取ってシムを解放しろ。ヨルド──」


「何をすべきか分かってる」ヨルドが唸り、拳を握ったり開いたりする。


「本当に分かってるか?」ゴンドの視線が鋭く突き刺さる。「お前が階段を上って豚みたいに吠えたら、衛兵全員にバレるぞ。」


シムがヨルドの腕にそっと手を置く。大男の呼吸が少し落ち着くが、筋肉は弓弦のように張ったまま。「川は力じゃなく、粘り強さで海に辿り着く」司祭が呟く。


「川の水じゃ弩の矢は防げねぇ」ヨルドがぼそりと返すが、肩の力が少し抜けた。


ゴンドは手首で繋がれた大男に向き直る。「ヨルド、俺の指示に従え。突進も咆哮もなしだ。覚悟が決まるまでは静かに動け。」


「うまくいかなかったら?」ヨルドが尋ねる。


シムの微笑みは夜明けの光のように穏やかだ。「その時はアラニィが道を示してくださる。どんな道でも。」


「女神を信じろ、でも命が惜しけりゃ必死で泳げ」ペルが皮肉っぽく付け加える。


ゴンドは彼らの命の重みを肩に感じた。四人の男、共通の絶望と鎖だけが絆だった。数日後、自由か死か──どちらかだ。


◇  ◇  ◇


その瞬間は三夜後に訪れた。脂ぎった奴がハッチに身を乗り出し、塩漬けの豚肉をゴンドの手の届かないところで振る。「腹減ったか?犬みたいに吠えれば──」


ゴンドの手が跳ね上がり、衛兵の上着を掴む。一気に引き寄せ、頭蓋骨を樫板に叩きつけた。


「今だ!」


ペルが動く。衛兵の体を越えて鍵と短剣を奪い、鋼が閃く。自分を解放し、鍵をシムに投げる。シムが受け取り、ペルは短剣をゴンドに投げ、衛兵の短刀を掴む。


「ヨルド、*待て*──!」ゴンドが言い切る前に、大男はすでに鎖を振り回しながら咆哮して突進していた。上から叫び声が響く。


「神に見捨てられた馬鹿め!」ゴンドが悪態をつき、後を追うしかなかった。


甲板が騒然となる。衛兵たちがよろめき、武器を探す。ゴンドの刃が肋骨の隙間を突き、衛兵が剣を抜く前に倒れる。脇腹を押さえ、手すりに崩れた。


「船の向こうへ!」ゴンドが叫ぶ。


ペルが肩に現れ、短刀で素早く衛兵を仕留める。囚人たちが壊れた堤防から溢れる水のように飛び出し、鎖を引きずる者も必死に続く。ゴンドはペルとシムが手すりに到達し、飛び越えるのを見た。


振り返ると、叫び声に引き寄せられた四人の衛兵が武装してヨルドの左から迫っていた。


ヨルドは掴んだ衛兵の頭を叩くことに夢中で、死が近いことに気づかない。


ゴンドは大男を肩で突く。最も近い衛兵の一撃が索具に絡まって外れるが、ゴンドの左肩に鋭い痛みが走る。


「船から出ろ!」ゴンドが怒鳴る。


そしてゴンドとヨルドは立ち上がり、手すりを越えた。冷たい水が体を打ち、肺から空気を奪う。水に落ちる直前、弩弦が鳴り、ヨルドが痙攣し、矢が胸を貫いた。血が噴き出し、目が見開かれ、やがて暗くなった。ゆっくり沈み始め、まだゴンドの手首と鎖で繋がれていた。


ゴンドは大男の重みに引きずられ、負傷した肩に激痛が走る。うめき声とともに肺の空気が抜けた。


塩水が目と鼻を焼く。ヨルドの死重と格闘する。


刃をヨルドの手首に当て、腱を断ち、骨を削る。血が水に広がる。


──手首が離れた。


肺が破裂しそうだ。耳が鳴る。凍える水の中を必死に掻き上がる。短剣は深い闇に沈んでいった。


ゴンドの頭が水面を破り、塩と自由の味がする冷たい空気を吸い込む。周囲では他の体が波に飛び込み、すぐに沈む者もいれば、鎖に引かれて最後の息を水中で失う者もいた。生き残った者は水面でもがき、必死に腕を動かす。弩の矢が空を唸り、逃げる奴隷たちの周りの水を叩く。農夫の手をした女が目の前で撃たれ、驚愕の表情のまま沈み、暗い海に飲まれた。


二十ヤード先で、ペルとシムが手枷のまま力強く泳いでいる。


岸は絶望的に遠く見えたが、ゴンドは痛む腕を無理やり動かした。肩が焼けるように痛み、負傷に合わせて泳ぎ方を変えた。一かき一かき、荒い息一つ一つ、膝が砂を擦り、浜に這い上がるまで。


顔から砂に倒れ込み、肺が焼け、全身が悲鳴を上げる。近くでペルが仰向けに転がり、息を切らしながら笑った。


「まあ」盗賊が海水を吐きつつ苦笑する。「計画通り…完璧だったな?」


シムが隣で横たわり、唇が静かに動く──感謝の祈りだろう。肩が震えている。寒さか、安堵か。


ゴンドの胃が痙攣し、身を二つに折って海水と胆汁を吐く。塩と血の味が口に広がる。吐くたびに肋骨と肩が痙攣した。


「楽にしろ」シムが静かに言い、鎖のまま近づく。司祭の声はいつもの落ち着きで、ゴンドの不快を和らげる。「体には、不要なものを出す時間が必要です。」


嘔吐が収まると、シムが法衣から裂いた布を持って隣に跪いていた。優しい手がゴンドの傷を拭い、その温もりが氷のような肌に染みた。


意識が薄れる中、シムの顔が暗くなっていくのが見えた。


◇  ◇  ◇


ゴンドが目を覚ますと、ペルがどこからか錆びたやすりを取り出し、手枷に黙々と当てていた。


「他に助かった者は?」ゴンドが尋ね、シムが悲しげに首を振る。


ペルが自由になると、やすりをゴンドに渡す。ゴンドの手は制御できないほど震え、骨の奥まで冷え切っていた。唇は感覚を失い、春の空気なのに白い息が漏れる。ペルがやすりを取り戻す。


「じっとしてろ、畜生」ペルが歯を鳴らしながら呟く。「このままじゃ年寄りになる前に死ぬな。それでも溺れるよりはマシだが。」


シムはやすりが回ってくるのを辛抱強く待ったが、ゴンドには司祭の肩が寒さ以上の重みで縮こまっているように見えた。死んだ脱走者たちの重みが皆にのしかかる。だがシムにとっては、死に慣れた傭兵たちよりも辛いはずだ。脱出の暴力が──必要だったとはいえ──彼の中の何かを切り裂いたのだろう。


「まあ」ペルが砂を払いながら苦笑する。「少なくとも魚の餌にはならなかった。」海を振り返り、肩をすくめる。「でも魚の方が楽だったかもな。」


冗談は重い空気の中で静かに響いたが、目的は果たした──生きていること、失ったものの重みを抱えつつも前に進むという証だった。


◇  ◇  ◇


最後の手枷が外れると、ゴンドは立ち上がり、服から砂を払った。足はまだ震え、肩はズキズキと痛み、世界が揺れるが、無理やり直立する。内陸には煙突の煙が見え、温もりと避難所を約束していた。


思いがけない仲間たち──鋭い目の盗賊と優しい司祭──がそばにいる。


胸の奥で何かが締まり、そして解けた。長く張り詰めていた弦が、ついに緩んだようだった。


完全な信頼ではない──だが、たぶんその遠い親戚だ。共に血を流し、苦しみ、友を失った。それはきっと、何かの価値があるはずだった。


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