第十八章:初陣
伝令が正午、谷へと駆け込んだ。馬は汗と泡にまみれ、男は鞍から転げ落ちそうになった。ペルが支えると、その足は震えていた。
「三つの縦隊、東から接近中……」斥候はペルの腕を掴み、息を切らせて続けた。「おそらく二百。陣形は乱れず、落伍も迷子もいない。奴隷商人の群れじゃない、本物の軍勢だ」
ゴンドが評議会の天幕から現れ、ソレクとエレナが両脇に並ぶ。ドワーフの手はウォーハンマーに、エレナの指は剣の柄に添えられていた。
「どれほど近い?」ゴンドが問う。
「半日ほど……夕方には到着します」伝令の目が賑わう集落を見渡す。「外の哨戒を避けたか、信じ難い速さで険しい地形を越えたのでしょう。攻城梯子に弩兵中隊もいます。これは襲撃じゃない、正面からの攻撃です」
ソレクが地面に唾を吐く。「やっと本物が来たか。いつまで素人を寄越すのかと思ってた」
エレナが東の尾根を見据える。「二百の職業軍人……大きな投資だ。誰かが軍を雇ってまで、お前を狙ってきた」
ゴンドの顎がわずかに引き締まる。集落は三百人近くに膨らんでいたが、戦えるのは半数ほど。残りは避難者や子供、老人──戦を望まず、安息を求めてきた人々だ。
「グリムジョー!」ゴンドが呼ぶ。
巨体のドワーフが攻城兵器の影から現れる。青銅で補強された機械が朝日に輝き、髭の奥で金歯が光る。「どうした、若造?古女房たちの出番か?」
「三つの縦隊が東から来る。お前の兵器で進入路を抑えられるか?」
グリムジョーはにやりと笑う。「抑える?燃える墓場にしてやるさ。標的だけくれりゃいい」
ソレクがうなずく。「兵器の配置は良い。弩の陣地と射界が重なる。ただ、二百の兵……」編み込んだ髭を撫でる。「一つでも多く利を取らねばな」
エレナが集落の配置を指し示す。「敵は寄せ集めの壁に隠れるだけの避難者を想定している。でも実際は、備えた陣地と連携した防御が待っている」
ゴンドは準備に動く人々を見渡す。シムは戦士たちの間を巡り、古傷を確かめていた。シルヴィアナは樫の老木に手を当て、唇で祈りを紡ぐ。アリアとダックスは矢と弩矢を配り、その顔は険しくも決意に満ちていた。
「ペル、最良の二十人を連れて東の峠上の岩場に潜め。最初の縦隊を通してから、背後を突け」
ペルはうなずき、すでに素早く部下を選び始めていた。
「エレナ、弩兵中隊を指揮しろ。段階的な一斉射で混乱を最大に」
「了解しました」
「ソレク、お前と俺は主力と共に中央を守る。敵が攻撃に集中したら、反撃だ」
ドワーフの目が光る。「昔の盟約の時代みたいだな、二柱が肩を並べたあの頃の」
ゴンドの胸奥に熱が灯り、血管を伝って広がる。戦いの気配に力が応え、指先がうずいた。「その遺産に恥じぬようにしよう」
◇ ◇ ◇
太陽が西の丘に沈みかけた頃、敵が尾根に現れた。鎧が夕陽に赤く染まる。斥候の報告通り、三つの縦隊が規律正しく進む。旗も印もなく、雇われの傭兵だ。
ゴンドは補強柵の陰に身を潜め、丸太の隙間から様子を窺う。先頭は攻城梯子と鉤縄を運び、二番目は弩で武装。三番目は後方で控え、隊長が望遠鏡で谷を見渡していた。
「賢いな」エレナが隣で呟く。「こちらを侮っていない」
敵隊長が望遠鏡を下ろし、手を上げる。角笛が谷に響き、音が丘に反響した。
「来るぞ」ソレクが唸る。
最初の縦隊が斜面を下り、盾を固めて梯子を構える。弩兵は尾根に陣取り、武器を壁に向けた。
ゴンドは攻撃者が谷底に達するのを待った。「グリムジョー、歓迎してやれ!」
攻城兵器の枠組みが巻き上げ機の解放で軋み、投射腕が雷鳴のように跳ねる。石が鎖網の中で落下し、松脂を塗った小岩が火を噴いて縦隊の中央に降り注いだ。燃える松脂が広がり、整然とした陣形は一瞬で崩れる。
「もう一発だ!」グリムジョーが吼え、部下たちが巻き上げ機を回す。
二発目が尾根の弩兵を散らし、三発目が盾の壁を突き破り、負傷者の悲鳴が谷に響いた。
だが職業軍人はすぐに適応した。残った兵は散開し、地形を盾に使う。弩の矢が雨のように降り注ぎ、守備側は壁の陰に身を伏せるしかなかった。
「左翼を回っている!」エレナが叫ぶ。
兵の一団が主攻撃から分かれ、集落の最も脆い地点へと動く。ゴンドはその意図を見抜いた──正面で守備を釘付けにし、別働隊で突破を狙う。
「シルヴィアナ!」ゴンドが叫ぶ。
エルフが傍らに現れ、瞳が力で輝く。「見えています」
彼女が手を掲げると、空気がきらめいた。回り込む兵たちがよろめき、混乱に陥って列が乱れる。何人かは自軍に戻り、他はその場で凍りついた。
「エルフの魔法か」ソレクが感心して呟く。「何十年ぶりだ」
だが敵隊長も抜け目はない。この瞬間のために予備兵を温存していた。新手が斜面を駆け下り、ペルの陣地を圧倒する。ゴンドは友の部隊が数に押され、必死に後退するのを見た。
「突破された!」誰かが叫ぶ。
東の壁が鉤縄と梯子の衝撃で揺れる。守備側が駆けつけるが、敵は勢いに乗っていた。
ゴンドの胸の熱が炉火のように燃え上がり、力が筋肉を駆け巡る。剣が銀光を放ち、ゴンドは突撃に身を投じた。
「自由のために!」彼が吼える。
叫びが集落の隅々に響き渡る。ソレクのウォーハンマーが唸り、頭蓋を砕き盾を粉砕。エレナの刃は水銀のように舞い、鎧の隙間を正確に突いた。
だが流れを変えたのはゴンドだった。力が溶けた金のように体を巡り、速度も意識も研ぎ澄まされる。彼は流れるような所作で敵陣を駆け抜け、燃える剣で立ちはだかる者を斬り伏せた。一撃ごとに次の動きが生まれ、足は危うい地面でも確かな踏みを見つけ、刃は敵の間を舞う。
弩の矢が肩を貫き、体が回転する。別の矢が腿をかすめたが、傷はすぐに塞がり、肉と骨が編み直されていく。
敵兵たちが動揺し始めた。彼らが想定していたのは絶望的な避難者であり、ドワーフの攻城兵器やエルフの魔法、聖騎士の力ではなかった。
「後退!」隊長が叫ぶ。「尾根で再編成だ!」
だがゴンドは止まらない。攻撃を押し進め、戦士たちを率いて斜面で反撃に転じた。敵は崩れ、谷底に死者を残して逃げ去った。
◇ ◇ ◇
朝日が昇る頃には、代償を数え終えていた。敵の死者四十三、残りは丘へと逃げた。だが勝利の代償も重い。
ゴンドはオリフの遺体の傍らに膝をつく。若者の顔は死の中で穏やかだった。最後の突撃で槍が心臓を貫いたのだ。その隣には、数週間前に加わったばかりの老女オレガが横たわる。子供たちを守ろうとして弩の矢に倒れた。
七人の死者、十九人の負傷者。集落は最大の攻撃を退けたが、痛みは深かった。
「よく戦った」ソレクが静かに言う。「名誉ある死だった」
シムは負傷者の間を巡り、アラニィの癒しを導いて手を光らせる。だがその力でも、死者は戻らない。
シルヴィアナが厳しい顔で近づく。「敵はまた来ます。これは試しに過ぎません」
エレナがうなずく。「我々の力と数を報告するでしょう。次はもっと多く、もっと巧妙な軍が来る」
ゴンドはゆっくり立ち上がり、癒しを受けても肩の痛みは残った。「ならば備えよう」
彼は人々を見渡す──人間、ドワーフ、エルフが闇の中で肩を並べていた。最初の真の試練に勝ったが、代償は想像以上に重い。
「我々は死者を弔う」ゴンドが集落に響く声で言う。「そして彼らがなぜ死んだかを忘れない。征服や栄光のためではなく、自由に生きる権利のために」
ペルが包帯を巻いた頭で足を引きずりながら近づく。「これが最後じゃないと分かってるな」
「それでいい」ゴンドが答える。「来るなら来い。備えはできてる」
だが葬送の薪が燃えるのを見つめながら、ゴンドは思う。戦が終わるまで、あと何人が倒れるのか。自由への道は犠牲で敷かれ、指導者の重みが身に染みていく。
力はまだ血管に響いていたが、今は違う──重く、厳粛に。命を失い、勝利を重ねるたび、彼はもう不本意な指導者ではなくなっていた。
彼は真のアラニィの聖騎士となった。
◇ ◇ ◇
夜更け、集落が不安な眠りに沈む中、ゴンドは東の壁で見張りに立つ。敵の死者は武具を剥がされ、腐肉鳥の餌として残された。埋葬する余力はなかった。
ソレクが隣に立つ。ドワーフの鎧にはまだ血がこびりついている。
「最初の大きな戦は、いつも一番きつい」戦闘司祭が言う。「よくやった、若造。お前の人々は獅子のように戦った」
「七人の死者だ」ゴンドが答える。「俺を信じて守られると約束した七人だ」
「そうだ。だが何もしなければ、もっと多くが死んでいた。何人が鎖につながれたままだったか……」ソレクの声は優しくも揺るがない。「指導者は困難な選択を背負うものだ。死者も危険は承知だった」
ゴンドはうなずくが、胸の重みは消えない。「敵の隊長は手練れだった。これは奴隷商人の襲撃じゃない。本物の兵を雇った者がいる」
「お前の小さな反乱が、ついに脅威と見なされたんだな」ソレクが獰猛に笑う。「やっと時が来た」
集落の中央近くで騒ぎが起き、マエラが小さな騎馬の一団を連れてくる。馬は夜気に湯気を立てていた。
「また避難者か?」ゴンドが問う。
「いや」ソレクが新顔を観察しながら言う。「あれは兵士だ。馬の座り方、警戒の仕方が違う」
ゴンドは壁を降り、ソレクと並んで一団に近づく。ドワーフの見立て通り、彼らは避難者ではなく、武装した戦士たちだった。
先頭の騎士が下馬し、兜を脱いで風化した顔と白髪を見せる。鎧にはトゥリン騎士団の交差した槌が刻まれていたが、鉄の盟約を示す細かな違いがあった。
「戦闘師コルガン・アイアンシールド」ドワーフが名乗る。「鉄の盟約高等評議会の使いだ」
ソレクが前に出て戦士の敬礼を返す。「兄弟よ、知らせは?」
コルガンの表情は険しい。「奴隷都市が同盟を結んだ。五つの港が資源を集め、軍を編成している。今度は傭兵ではなく、自前の兵だ。攻城兵器と騎兵もいる」
ゴンドは胃が締め付けられる。「数は?」
「二千、いやそれ以上。一月以内に動くはずだ」
死の宣告のような数字が場を凍らせる。三百の半数が訓練不足の彼らに、二千の職業軍。
「まだある」コルガンが続ける。「宗教騎士団が分裂した。お前を支持する者もいれば、異端と呼ぶ者もいる。神殿は混乱している」
シルヴィアナが影から現れ、エルフの輪郭が月光に浮かぶ。「囁きの輪が動向を見守っています。思わぬ同盟者が現れるかもしれません」
「エルフか?」ゴンドが問う。
「他にも。古い盟約が動き出している、二柱が並び立ったあの時代のように」彼女の目がゴンドを捉える。「だが、支援をまとめるには時間がかかるでしょう」
「我々にその時間はない」エレナが一団に加わりながら言う。「二千の兵が一月で来るかもしれない」
ゴンドは顔を見回す──共通の大義で結ばれたドワーフ、エルフ、人間。最初の勝利で戦えることは示したが、本当の戦はこれからだ。
「ならば、こちらから仕掛けよう」ゴンドが言う。その声は自分を超えた何かに満ちていた。言葉は確信に満ち、響き渡る。「移動中の縦隊を叩き、谷に来る前に殲滅する」
それはゴンド自身も予想しなかった言葉だった。驚きが周囲の顔に浮かぶが、女神が自分を通して語る時、疑うことはしないと学んでいた。
「これまでは攻撃を待っていた。隊商や補給線を叩いてきたが、今度は奴隷商人に戦を仕掛ける。不意を突き、捕らえる」
他の者たちは畏敬と畏怖の入り混じった目でゴンドを見つめ、その奥に彼自身も知らぬ何かを映していた。やがてシルヴィアナが小さくうなずき、ソレクや他の者たちと新たな計画を語り始める。それが呪縛を解き、皆が新たな目的に動き出した。
一団が散って知らせを広める中、ゴンドは中央に立ち尽くす。葬送の薪は燃え尽き、残り火が闇に揺れていた。
今回は七人の死者。終わるまでに、あと何人が倒れるのか。
だが集落を見渡すと──武器を鍛える工房、戦いを学ぶ訓練場、解放を目指す評議会──思いがけず、胸に何かが灯った。
希望。
彼らは職業軍に勝った。家を守る自由な人々が、どんな軍勢にも立ち向かえると証明した。今や大陸中から同盟者が集まりつつあり、彼らには本当に、勝機があるのかもしれない。




