第十六章:組織の正体
すべてが変わろうとしている兆しは朝霧と共に現れた──南から近づく騎手の一団が、軍事部隊の統制された精密さで進んでいた。谷の守備隊は、数週間前よりはるかに多く、よく組織されている。拡張された谷の入り口には新たな見張り塔が立ち、警報が鳴った。これは奴隷商人ではない。掲げる旗にはゴンドの知らぬ紋章、そして先頭には見覚えのある人物が馬を駆っていた。
「マエラだ」ペルが言い、強化された見張り塔から望遠鏡を下ろす。彼自身の装備も新しく、鎧は最近手に入れたものの光沢を放っていた。「だが一人じゃない」
ゴンドは見張り台に立ち、朝の冷気を頬に受けていた。眼下の集落はすでに活気づき、小さな町の喧騒が、かつての静かな避難所の面影を消している。炊事場から煙が上がり、複数の鍛冶場──コルヴェンの工房とソレク一族の新しい設備──から槌音が響く。ゴンドは近づく一団を見つめた。二十人の騎手、全員武装し鎧を着けているが、武器は鞘に収め、右手を上げて平和の印を示している。そして中央には、遠目にも間違えようのない、彼をこの道に導いた年老いた治療師がいた。
「何人だ?」ソレクが台に加わりながら尋ねる。ドワーフの鎧も輝き、従う戦士たちは手入れの行き届いた武器を持っていた──最近の物資流入の証だ。過去一ヶ月、ソレクと鉄の盟約のドワーフたちは休まず働き、谷の防御と守備隊を変貌させてきた。
「騎馬二十、徒歩でもっと続いてるかも」ペルが報告し、列を見渡す。「混成部隊──兵士もいれば民間人もいる。拡張した道を楽に進んでる。それに他にもある」望遠鏡をゴンドに渡す。「後衛を見ろ」
ゴンドは焦点を合わせ、息を呑む。隊列の後方で、頑丈な雄牛が重い橇を引き、通行可能になった道を進んでいた。橇には奇妙な装置、厚い木材、内側から魔法の光を放つ鋼鉄の帯が積まれている。ドワーフのルーンが金属に刻まれ、柔らかく脈打っていた。橇の傍らで、地形に合わせて慎重に指揮しているのは、ソレクよりさらに大きなドワーフ──身長と同じほどの幅がある。
「グリムジョー・アイアンフォージ」ソレクが息を呑み、畏敬と困惑の間の声を漏らす。「トゥリンの名にかけて、あいつがここで何をしてる?」
「知り合いか?」ゴンドが尋ねる。
「知り合い?坊主、グリムジョーは世界最高の攻城技師だ。あいつの兵器は生きているどのドワーフより多くの要塞を砕いてきた」ソレクは困惑している。「だがあいつはアイアンホルドの王冠に仕えて三十年。何がここに、数週間前はただのヤギ道だった場所に、あいつを連れてきた?」
一時間もせず答えが出た。隊列が集落の明確に守られた入り口に到着すると、マエラは年齢の半分の者のような優雅さで馬を降りた。だがすぐに注目を集めたのは隣の女──背が高く威厳があり、指揮に慣れた者の風格。鎧は実用的でよく作られ、腰の剣は使い込まれている。馬から降りると、完璧な戦闘姿勢で地を踏み、片手を自然に剣の柄に置き、目は集落の防御や新たな戦士たちの隊列、賑やかな準備の雰囲気を職業的な目で見回した。
「ゴンド」マエラが近づきながら言い、目に届かぬ微笑みを浮かべる。「最後に会ってから忙しかったようですね」
「マエラ」ゴンドは挨拶で手を握る。「雰囲気が違う…」
「戦争は誰をも変える」簡潔に答え、同行者に向き直る。「西方国王軍の元近衛隊長、エレナ・ブライトブレード隊長です」
女が前に出る。動きは訓練された戦士の流れるような所作──肩を正し、背筋を伸ばし、一歩一歩が意図的で制御されている。視線は職業的な関心でゴンドを査定し、剣の構えや動き、目の覚悟まで見定めていた。「あなたが丘の治療師と呼ばれる方ですね。思ったより若い」
「王室警備隊がウェストマーチからこれほど離れているとは思わなかった」ゴンドは慎重に返す。
エレナの微笑みは刃のように鋭い。「元王室警備隊です。王が税収で何に資金を使っているか知った時、辞表を出しました」表情が曇る。「奴隷取引が思ったより高い地位に友人を持っていたと分かりました」
ゴンドが答える前に、隊列の後方から騒ぎが起きた。巨大なドワーフ──おそらくグリムジョー──が怒鳴り声で命令し、頑丈な弟子たちを指揮して、驚くほどの速さで橇から荷を下ろし始める。木材、光る鋼鉄の帯、複雑な装置が熟練の手で並べられる。分解された状態でも、部品は恐るべき力を予感させた。ゴンドはすでに、これらがどう組み合わさるか想像できた──青銅の金具の輝き、破壊を約束するルーンの刻まれた鋼鉄。
ゴンドは、集落の住民──長くいる避難者と新たに解放された者たち──が見物に集まるのに気づいた。顔には一ヶ月前のような恐怖ではなく、好奇心と査定の色。彼らは戦いを見て、襲撃に参加し、今や積極的に反撃する住民の一員だ。部品の配列と来るべき戦争機械の予感に驚きが広がる。子供たちは震える指で光る鋼鉄の帯を指し、親は畏敬の念と共に子を引き寄せる──これらが*自分たちの*防御、*自分たちの*戦いのためのものだと理解している。コルヴェンの鍛冶場とダックスの大工班の音は、今やソレクのドワーフ鍛冶師たちの槌音と戦争陣営の産業音にかき消されていた。新たな材料と兵器の到着は激化を物語るが、同時に準備が整いつつある証でもあった。
「グリムジョー!」ソレクが叫び、同族に歩み寄る。「この狂気に何が君を連れてきた?」
大きなドワーフは作業から顔を上げ、金歯を見せて笑う。「ソレク・アイアンハート!この狂気に君が関わってるとは思ったぞ」木材と光る鋼鉄の山を指し示す。「俺をここに連れてきた理由?無実の者に武器を使う連中のために武器を作るのに飽きたからだ」
「脱走したのか?」ソレクの声は慎重だが、ゴンドは希望の色を感じ取る。
「脱走、離反、王冠の尻に金を突っ込めと言った奴もいた──好きに呼べ」グリムジョーの顔が真剣になる。「だがアラニィの聖騎士が立ったと聞き、古い同盟が復活するかもしれないと知った時…もう覚悟は決まっていた」
下ろされた部品と雄牛を指し示す。「自分だけでなく、美人たちの部品も持ってきた。本格的な鍛冶場を装備する道具も。コルヴェンが良い仕事をしてると聞いたし、ソレクの連中も忙しいようだ」──すでに煙を上げる新しい鍛冶場に頷く──「だが要塞都市を攻めるなら、石の壁を砕く武器が要る」
ゴンドの肩が伸びる。指導者の重みは今や馴染み深く、最初の衝撃は決意に変わっていた。もはや奇跡を求める避難者ではない。多くは経験を積み、新参者は職業軍人、彼の大義に引き寄せられた指導者たちだ。
「他にも来るのか?」マエラに尋ねる。
年老いた女の微笑みは謎めいていた。「この会合がどう進むか次第です。でもまず、あなたがここで始めたことを理解してもらう必要があります」
マエラは彼らを評議の場へと導いた。新たな顔ぶれを一目見ようと、すでに多くの者が火の周りに集まっている。皆が腰を下ろすと、マエラは手を上げて静けさを促した。
「この一ヶ月、私は各地を巡ってきました」マエラが口を開く。「治療師としてではなく、使者として──この谷の勝利と、解放された者たちの知らせを運ぶために。ゴンド、君たちの襲撃の噂は思った以上の速さで広まっている。」
「どんな連中に会った?」ペルが警戒をにじませて尋ねる。
「変化を待ち望んでいた者たちです」エレナが答える。「不正な法に嫌気が差した兵士、奴隷商に家族を奪われた商人、かつて名誉が利益より重かった時代を知る貴族たち。」
マエラがうなずく。「この組織は、世界の堕落に我慢ならぬ者たちが長い年月をかけて繋がったもの。でも、象徴も指導者も、皆を束ねる大義もなかった。」
「今は?」ゴンドが問う。
「今は丘の治療師がいる」マエラが力強く言う。「守るだけでなく、攻める聖騎士が。奴隷取引の心臓を突き、絶望に光をもたらし、無実の者を守る。神聖な力がふさわしい者に流れ、人の勇気がそれを現実にできると証明した男が。」
ゴンドは周囲から信仰と希望が集まるのを感じた。その奥に、差し出された規模の大きさへの戸惑いもあった。
「どれくらいの数だ?」静かに尋ねる。
「近隣だけで二百、十数の集団に分かれています。大陸全体なら数千、呼びかけ次第で数万にもなるでしょう」エレナが淡々と告げた。
桁違いの数字に、ゴンドは自分の集落──せいぜい数百──しか知らぬ身として、興奮と畏れが入り混じるのを覚えた。
「見返りは?」ソレクが実務的に問う。
「勝利だ」グリムジョーが即答する。「奴隷取引と腐敗の終わり。今より良い世界を築く機会。」
「小さな望みじゃないな」シムが静かに呟いた。
「だからこそ聖騎士が必要なのです」マエラがうなずいた。
議論が続く中、ゴンドは周囲の顔ぶれを見渡した。ここにいるのは、かつて助けを求めてきた絶望の避難者でも、ただ悲劇に追われた者でもない。戦略と覚悟を持つ、決断した者たちだ。
その重みは、謙虚さと同時に圧力も与えた。
「もう一つある」エレナが声を上げ、場の空気を切り替えた。「最近の動きに対する敵の反応について、我々が掴んだ情報です。」
輪が静まり返り、視線がエレナに集まる。
「クリムゾン・カンパニーの襲撃は偶発ではなかった。あれは試し──こちらの力と弱点を探るためのものだった。ヴォス隊長が戻らなかったことで、権力者たちに強い警告が伝わった。」
「どんな警告だ?」ゴンドが問う。
「君たちが本物の脅威だということ。単なる奴隷商の妨害者ではなく、その根幹を揺るがす存在だと。敵は動き始めている。複数の軍団、協調攻撃、支援者への圧力。」
「どれくらい猶予がある?」ソレクが尋ねる。
「数週間、長くて一月。だが次に来るのは、弩を持った五十人の奴隷商ではない。数百、あるいは数千の兵と戦争機械、魔法の支援も加わる。」
その言葉の重みが、場にずしりと落ちた。ゴンドは内に力が高まるのを感じ、守るべき者たちへの脅威に応じていた。同時に、恐れと迷いを切り裂く明確な目的も芽生えていた。
ダックスの治癒で感じたあの光の脈動が、今も微かに残っている──ミラの回復の時と同じ響きだ。だがウィレムでの失敗も思い出す。力は無限ではない、という実感が胸に残った。
「なら、待つ必要はない」ゴンドが静かに言う。
「どういう意味?」マエラが尋ねる。
ゴンドは立ち上がり、皆を見渡した。「敵が体勢を整える前に、こちらから動く。そういうことだ。」
「それは大きな賭けです」エレナが警告する。「隊商を襲うのとは訳が違う。奴隷商の本拠を攻めれば、もう後戻りはできません。全面戦争です。」
「もう覚悟はできている」ゴンドが答える。「隠れて癒すのをやめた時、生き延びるだけでなく何かを築こうと決めた時から、俺たちは腹を括っていた。あとは、どちらの条件で戦うかだけだ。」
グリムジョーが雷のように笑い、手をこすり合わせる。「それでこそだ!さあ、この美人たちを組み立てる時が来た。俺の腕が鳴るぜ。」
「鉄の盟約は準備万端だ」ソレクが力強く言う。「武器も戦士も知恵も、全部預ける。」
「組織は?」ゴンドがマエラを見る。
老女の微笑みは誇りに満ちていた。「この時を何年も待っていました。言葉ひとつで、想像もできないほどの味方が集まります。」
決断の重みがゴンドの肩にのしかかる──だが、もはやそれは重荷ではなく、導かれてきた運命のように感じられた。
「なら、奴らに本当に恐れるべき相手を見せてやろう。」
◇ ◇ ◇
その後の作戦会議は夜更けまで続き、地図や報告書が手の届く限りの場所に広げられた。浮かび上がったのは、ゴンドの想像を超える広がりと、意外なほど脆い奴隷取引の網の目だった。
「時間を稼ぐ必要がある」ゴンドが口を開く。「隊商や補給線への襲撃を倍に増やす。解放した隊商はそのまま我々の剣となり、敵は守りを分散せざるを得なくなる。補給隊を叩けば我々は強くなり、奴らは弱る。」
「それで奴隷商の谷への攻撃を、我々の条件で迎え撃てるまで引き延ばせるはずだ」エレナがうなずく。
「そして、こちらから戦いを仕掛ける」ゴンドが口元に険しい笑みを浮かべる。
「鍵は沿岸の都市だ」エレナが大きな地図の印を指し示す。「ブラックウォーター、ウェストポート、アイアンヘイヴン──奴隷が集められ、出荷される拠点だ。ここを潰せば、奴隷取引全体の根を断てる。」
「言うのは簡単だが、あの都市には壁も警備も政治の後ろ盾もある」ペルが皮肉っぽく呟く。
「だが、我々は何もないところから始めたわけじゃない」ゴンドが割って入り、集落を指す。「これまでに襲った奴隷商の作戦は、すべて我々の力になった。クリムゾン・カンパニーだけで弩が五十、剣が二十四、鎖帷子も十分手に入った。」
ソレクがうなずく。「ああ、隊商襲撃で得たのは武器だけじゃない。奴らの金庫から奪った金で、作れないものも買えた。」
「脱走者は自分の装備を持ってくる」エレナが付け加える。
「壁は壊せる」グリムジョーが光る鋼鉄の帯を叩きながら自信満々に言う。「警備も突破できる。政治の後ろ盾なんざ……」肩をすくめる。「城が瓦礫になれば、守りようがない。」
「都市を壊す話じゃない」ゴンドがきっぱり言う。「解放するんだ。違いは大きい。」
「ああ、そうだ」ソレクが同意する。「だが解放には時に力が要る。問題は、どれだけの力を、どれだけ正確に使うかだ。」
戦術や戦略が飛び交う中、ゴンドはふと、これから巻き込まれる人々のことを考えていた。解放されるべき奴隷たちだけじゃない。奴隷商でも奴隷でもない、ただの人々──店主、職人、農民。都市が壊され、支配者が倒されたとき、彼らはどうなる?
「その人たちはどうなる?」とゴンドが尋ねる。「奴隷商でも奴隷でもない、ただの人々は。店主や職人、農民……我々が都市を壊し、支配者を追い出したとき、彼らは?」
一瞬、場が静まり返る。やがてエレナが口を開いた。
「それが解放と征服の違いです」静かに言う。「征服者は巻き込まれた人々を顧みない。解放者は彼らを解決の一部にする。」
「どういう意味だ?」
「古い体制を壊すだけじゃなく、新しいものを築く手助けをする。より良い生き方、より良い社会の形を示すのです。」エレナは集落を指し示す。「あなたはもう、ここでそれを始めている。問題は、それをもっと大きな規模でできるかどうか。」
ゴンドは火の明かりに浮かぶ顔を見渡した。元兵士、避難者、ドワーフの技師、エルフの伝承守、盗賊、司祭、治療師──皆、過去を超えて何か新しいものを目指している。共通点は、生き延びたことと、鎖を断ち切ったことだけだ。
「できる」ゴンドは静かに、だが確かに言った。「やるさ。」
◇ ◇ ◇
会議が終わろうとしたその時、集落の端から緊急の叫びと苦しむ人々の声が響いた。ゴンドが地図から顔を上げると、シムが険しい表情で駆け寄ってくるのが見えた。
「ゴンド」司祭が呼びかける。「門に家族がいる。ミルヘイヴンから逃れてきた人たちだ。何日も旅をしてきて……」言葉を切り、顔を曇らせた。「祖母が、もう危ない。」
ゴンドは胸の奥に神聖な力が満ちるのを感じた。
「案内してくれ」そう言って立ち上がる。
家族は集落の入り口近くで身を寄せ合っていた。三十代の夫婦、六歳から十二歳ほどの子供が三人、そして即席の担架に横たわる年老いた女性。遠目にも、死が迫る灰色の顔色と、諦めきった体の苦しい呼吸が見て取れる。空気には病の匂い──熱の汗と、もっと深く重いものが混じっていた。
「ヨリクとミラだ」シムが静かに紹介する。「子供たちはタム、ベス、フェン。そして担架の上がヨリクの母、ネッサおばあちゃん。」
ゴンドが膝をつくと、老女の目がかすかに開いた。弱っているはずなのに、その視線は澄んでいた。息は浅く、肺の奥で水音が鳴る。「あなたですね」かすれ声で囁く。「治療師……私は言いました、どうしてもあなたのところに辿り着かねばと。」
「おばあちゃん、無理しないで」ヨリクが声を震わせる。「治療師が来てくれた。きっと治してくれる。」
だがゴンドが老女の胸に手を当て、神聖な力の流れを探ったとき、別の何か──心の奥に静かに、だが確かに響く存在を感じた。アラニィの声が、ささやきのように、しかし澄み切って響く。*彼女の時は来た、我が息子よ。痛みを和らげてやりなさい。ただし魂をこの世に縛ってはならぬ。彼女は役目を果たした。*
ゴンドの手がわずかに震える。指示は明確だった。ウィレムの時と同じだ。だが今度は、逆らえば何が起きるかを知っている。
「分かりました」女神だけに聞こえるほどの声で呟く。
完全な治癒の力ではなく、ゴンドは手から穏やかな温もりだけを流した。骨を繋ぎ命を呼び戻す光ではなく、痛みを和らげ、安らぎをもたらす柔らかな輝き。老女の呼吸は楽になり、顔の苦悶も消えていく。病の匂いが薄れ、雨上がりの野の花のような清らかな香りが漂った。
「楽になりましたか?」優しく尋ねる。
ネッサおばあちゃんは微笑み、衰えた体にも関わらず目が明るい。「ええ、ずっと楽になりました。痛みが……消えました。」家族に顔を向ける。「みんな、そばにおいで。」
家族が集まると、老女は弱いが澄んだ声で語った。「……よく聞いておくれ。私はもう、何週間も前から覚悟していた。病は──あの町を出る前から分かっていた。」
「おばあちゃん、そんなこと言わないで」ベスが涙声でささやく。
「静かに、お前たち。聞きなさい。」ネッサは一人一人に目を向ける。「私がここまで持ちこたえたのは、あなたたちが私を必要としていたから。進み続ける理由が、旅を続ける理由が必要だった。もし故郷で死んでいたら、あなたたちは諦めていたかもしれない。治療師を探す意味がないと思ったかもしれない。」
ヨリクの顔が崩れる。「それでも来ていたさ。子供たちのために──」
「本当に?」ネッサが優しく問い返す。「それとも悲しみが、お前に危険すぎる、無理だと思わせたかもしれない。私は知っているよ、我が息子。お前はきっと、留まる理由を探していた。避けられないことを受け入れる理由を。」
震える手でヨリクの頬に触れる。「私は残った。あなたたちが希望を必要としていたから。そして今……もうここにいる。安全だ。子供たちは自由に育つ。」
ゴンドは家族の顔に、悲しみと理解が交錯するのを見て、目頭が熱くなった。火の明かりが老女の穏やかな顔を照らし、刻まれた皺を柔らかく浮かび上がらせる。
「もう、準備はできているよ」老女はかすれた声で言う。「次の世界でアラニィに会う準備が。」
目を閉じ、呼吸が浅くなる。夜の空気が静まり返り、世界が息を潜めたようだった。やがて胸の上下が止まり、顔は火の光の中で安らかだった。野の花の香りがしばらく残り、やがて夜風に消えていった。
家族は泣いたが、それは絶望の涙ではなく、静かな受け入れの涙だった。互いに抱き合う家族を見て、ゴンドはゆっくり立ち上がる。神聖な知恵の重みが、そっと肩に降りた。
「正しいことをしたな」シムが静かに声をかけ、隣に立つ。「私は見ていた。苦しみを和らげ、無理に命を引き留めなかった。その判断には知恵が要る。」
ゴンドはうなずき、あの恐ろしい日のウィレムと、シルヴィアナの言葉を思い出す。「時に、慈悲とは手放すことだ」シルヴィアナの言葉を繰り返す。「最大の癒やしは、癒やさないことを知ることだ。」
家族がネッサおばあちゃんの埋葬の準備を始める中、ゴンドはエレナとマエラのもとへ戻った。これから成すべきこと、その重みは計り知れない。だが召命を受け入れて以来、初めて本当に前に進む覚悟ができた気がした。




