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第十五章:恩寵の重荷

勝利には代償があった。


ゴンドは若いウィレムの動かぬ体の傍らに膝をついていた。集落に最近加わったばかりの十六歳の少年──三時間前に初めて剣を握ったばかりだ。今は血に染まった草の上で、浅く苦しげな呼吸を繰り返している。


「内出血だ」シムが静かに言う。手はすでに血で染まっていた。「弩の矢が深く入った。できることはしたが…」


だが、それでは足りなかった。神聖な視力がなくても、ゴンドには分かる。少年の肌は蝋のように青白く、命の灯が今にも消えそうだ。呼吸はどんどん荒くなっていく。


周囲では、集落が戦いの傷跡を負っていた。奴隷商人たちは敗走し、生き残った者は森へ逃げ、死者と負傷者だけが残された。ヴォス隊長も倒れた者たちの中に横たわり、高価な鎧も怒りの前には無力だった。


本来なら勝利の瞬間のはずだった。だがゴンドの肩には見えない石が積み重なり、倒れた仲間一人一人が背骨に重くのしかかる。


「何人だ?」と尋ねる。


「七人が死んだ」ペルが報告する。声は冷静だが、どこか遠い。「十二人が負傷、うち三人が重体。ウィレムも含めて」間を置く。「もっと酷くなっていたかもしれない」


だがウィレムは死にかけており、他の二人も重篤な状態で横たわっていた。


ゴンドはウィレムの胸に手を置き、馴染みの神聖な力を探る。それはすぐに現れ、温かい蜂蜜のように流れた。光は少年の体内の損傷を探し、内出血、砕けた肋骨、深い外傷を癒そうとする。


治癒が始まり、黄金の光がウィレムの体を包む。傷が反応し、血管が修復され、骨が結合していく。一瞬、胸に希望が灯る。呼吸が安定し、頬に色が戻る。


その時、意識に対する優しくも否定できない圧力として、アラニィの声が響いた。*彼の苦痛を和らげなさい、わが子よ。しかし彼の道はここで終わる。治癒ではなく、慰めを与えなさい。彼の魂は解放を求めている。*


ゴンドの手が震える。神聖な指示は明確で、逆らえない。だがウィレムは若く、勇敢に戦った。女神もきっと彼に生きてほしいと願っているはずだ。


「いや」ゴンドは囁き、さらに力を注ぐ。「救えるはずだ。俺は…」


胸を満たしていた温もりが突然消え、心拍に合わせて空虚な痛みが残る。数瞬前まで神聖な力で満ちていた指先が、今は冷たく感覚を失っていた。黄金の光が消え、死そのものに対して人間の意志だけが残る。額に汗が滲み、魂が削られるような苦痛に耐える。努力は途方もなく、バケツで川を満たそうとするようなもの。視界がぼやけ、手が震え、心の奥で何かが裂ける。


周囲で声がする。シムが止めるよう促し、シルヴィアナがエルフ語で叫び、他の者たちがゴンドの倒れる様子に警告の声を上げる。


ウィレムの目が一瞬光り、ゴンドと視線が合う。唇が動き、聞こえないほど静かな言葉を形作る。それから胸の動きが止まり、瞳から光が消えた。


意識が遠のく中、ゴンドの手が離れた。彼はウィレムの体の傍らに崩れ落ちた。


◇  ◇  ◇


ゴンドは治療師のテントで目を覚ました。シムとシルヴィアナが傍らに座っている。


「他の負傷者は?」と尋ねる。


シムの顔には苦悩が浮かんでいた。「君は五日間眠っていた。シルヴィアナと二人で力を合わせてペスカは救えたが、シフは…」


ゴンドは目を閉じ、口元が苦しげに歪む。


「君はできることをすべてやった」シムが優しく言う。


「本当にそうか、シム?」ゴンドの声はかすれた囁き。「女神が…*俺に言った*。行かせろ、痛みを和らげろ…安らぎを与えろと。だが俺は頑固だった。女神より自分の方が分かっていると思った」すすり泣きと呻きが混じる。「そしてシフは…誇りのために…そんなことで命を落とした」


「ゴンド…」


「信じてくれた九人が死んだ。『丘の治療師』が何からでも守ってくれると信じて」シムを見上げる。目は虚ろだ。「女神が明確な指示をくれた時、俺はそれを無視した。これで聖騎士と呼べるのか?」


シムが答える前に、シルヴィアナが口を開いた。エルフの穏やかな顔には困惑が浮かび、古い瞳にはその日の損失より深い痛みが映っていた。


「来なさい」簡潔に言う。「見せたいものがある」


彼女は戦場から離れ、集落を抜け、かつて神聖な力の練習をした古い神殿遺跡への斜面を登る。ゴンドは後に続いた。まだ弱っていたが歩けた。いつもの瞑想場所を通り過ぎ、シルヴィアナは今まで気づかなかった道を辿ってさらに登る。


小道は深い森を縫い、時折置かれた石だけが目印だ。高く登るにつれ、集落の音は消え、古い木々を渡る風の囁きだけが残る。


「どこへ?」ゴンドが尋ねる。


「答えのある場所へ」シルヴィアナが答える。「あるいは、正しい問いが見つかる場所へ」


やがて巨大なオークの木が支配する円形の空き地に出た。樹皮には深い溝が刻まれ、一本一本が数え切れぬ季節の物語を語る。豊かな土と成長するものの香りが空気を満たし、頭上の天蓋は遠い声で古い秘密を囁く。枝は生きた大聖堂のように広がり、根元の樹皮にはゴンドが知る印──平和と慈悲の女神アラニィの絡み合う円──が刻まれていた。


「アラニィの聖騎士には、それぞれ繋がりを示す木がある」シルヴィアナが言う。「女神は私に、あなたのためにこの印を刻めと命じた。これがあなたの木」


ゴンドはゆっくりと木に近づき、指で刻印の溝をなぞる。樹皮は温かく、すぐ下で生命が脈打つようだった。「これまでに何人の聖騎士がいた?」


「思うより少なく、世界が覚えているより多い」シルヴィアナの声は何世紀もの重みを帯びている。「皆、今あなたが直面しているのと同じ危機に向き合った。神聖な力がすべての苦しみを防げない瞬間、選択の重みが耐え難くなる瞬間を」


「彼らはどうなった?」


「重みに潰れた者もいる。自分が恩寵に値しないと信じて召命を捨てた」シルヴィアナの目は遠く、記憶を辿る。「他は力に溺れ、人間の関心を超越した存在だと信じるようになった。どちらも同じ終着点──聖騎士の本質の喪失だ」


ゴンドは古い樹皮にもたれた。粗い感触がわずかな慰めになる。「他は?壊れもせず、力に狂いもしなかった者は?」


「最も困難な教訓を学んだ者たちだ、ゴンド。この力は…すべての涙や死を止めるものではない。アラニィが私たちには見えぬ大きな流れを見ていると信じること。時に真の慈悲とは…手放すことだ」


その言葉は槌の一撃のようだった。「それで俺は…何をすればいい?ウィレムが死んだことに『仕方ない』と頷けばいいのか?傲慢で女神の目に唾を吐いたことを?」


「ウィレムが死んだのは彼の時だった。アラニィは彼の魂が解放の準備ができていると知っていた。七人の善き者が死んだのは、代償を知りつつ悪に立ち向かったから」シルヴィアナは優しいが容赦ない表情で向き直る。「逆らったのは悪意ではなく…愛からだ。だが神聖な知恵は人の理解を超えている」


「救おうとして、自分が死にかけた…」


「それで、神の意志と人の想いが食い違う意味を学んだのよ」肩に手を置く。「神々は私たちに判断を覆す力ではなく、より大きな目的に仕える力を与える。問題はすべての人を救えるかではない。心が反発しても神聖な導きを信じることを学べるかだ」


ゴンドは目を閉じ、言葉の重みが降りかかるのを感じた。遠くで集落の音がする。人々は再建し、負傷者を世話し、次に備えている。損失にもかかわらず歩みを止めず、互いと、彼が灯した希望の中に強さを見出していた。長い間そこに立ち、古いオークが苦悩の無言の証人となる。やがて立ち上がり、手足のこわばりは心の痛みの鈍い反響となって谷へ戻る道を辿った。


◇  ◇  ◇


二日後、悲しみの生々しい縁は朝霧のように谷を覆い、重い静けさが広がっていた。九つの新しい土盛りが、ここを守って倒れた者たちの眠る場所となった。ゴンドは夜明けの光が峰を照らす中、冷たく澄んだ空気の中でその前に立つ。前夜の夕暮れにも、そして今もまたここに来ていた。ウィレム、シフ、そして今や谷の記憶に刻まれた他の七人の名を、黙して弔う。肩は肉体の疲れではなく、骨の奥に沈む重さで垂れ下がっていた。粗末な墓標の木に手を当てる。『ウィレム』の名は、かろうじて読めるほどだった。


後ろで小枝が折れる音がした。


ゴンドの体が反射的に強張り、振り返る。


木立から一人の影が現れた。見慣れぬ風貌のドワーフだった。鎧は磨き抜かれた輝きを放ち、淡い光の中で流れるような文字が刻まれている。髭は鉄灰色で、小さな金属の輪が編み込まれ、動くたびに柔らかな音を立てた。腰には、抑えきれぬ力を秘めたウォーハンマーが下がっている。


ドワーフは新しい墓とゴンドの姿を見渡し、「平和への重い代償だ」と低く言った。山の民らしい抑揚がある。


「君は誰だ?」とゴンド。


「鉄の盟約のソレク・アイアンハート」ドワーフの目は鋼のようにゴンドを射抜いた。「ここでの戦いの報せが我々に届いた。そして防衛を指揮した男、アラニィの聖騎士だと聞いた」墓を指差す。「踊りには遅れたが、余韻はまだ残っているな」


ゴンドは警戒を解かず、「今ここで、君は何を見つける?」


ソレクはしばらくゴンドを見つめ、やがて視線を剣へ移す。表情が変わり、職人の興味が閃いた。


「見せてもらえるか?」と武器に顎をしゃくる。


ゴンドは一瞬ためらい、剣を抜いて柄を先に差し出した。銀の鋼は夜明けの光を受け、戦いの痕も見当たらない。


ソレクは畏敬の念を込めて剣を受け取り、胼胝だらけの指で樋をなぞり、バランスを確かめ、専門家の目で刃を調べる。呼吸が浅くなり、金属の粒子を見つめ、太い指で優しく叩いて音色を確かめる。武器の表面を愛おしげに撫でた。


「トゥリンの槌にかけて…これは人間の刃じゃない」と囁く。


「どういう意味だ?」ゴンドは疲労を忘れて問う。


ドワーフは宗教的な熱に目を輝かせて見上げた。「私は二百年、金属を扱ってきた。王や英雄のために武器を鍛え、伝説の刃も作った。しかしこれは…」剣を掲げ、完璧な刃に光が踊るのを見つめる。「鋼が純粋すぎる、バランスが完璧すぎる。刃は常識では維持できない鋭さを保ち、打たれた時の響きは地上の金属ではあり得ない調和を奏でる。私の鍛冶の域を超えている。どんな人間の鍛冶師にも不可能だ」


「シルヴィアナは神聖な意志で変化した武器の話をしていた」とゴンド。


「シルヴィアナの言う通りだ」ソレクは慎重に剣を返しながら答える。「君は神の加護を受けた剣を持っている。鋼そのものが祝福され、肉体の世界と同じく精神の領域にも存在するものに変わっている」


ゴンドは剣を見つめ、鉄から銀の剣鋼への変化を思い出す。


ソレクは剣から墓、そしてゴンドへと視線を戻す。「私は聖騎士を探しに来た。死者を見守り、その犠牲を胸に刻み、前へ進む男を。自分の魂を燃やしてでも負傷者を癒そうとし、それで自分が倒れても構わない男を。救えなかった魂のために嘆く指導者を」ドワーフの表情がわずかに和らぐ。「私は聖騎士を見つけた。味方なしには道を歩けないと、神に選ばれた戦士が学ぶのを」


「味方…?」ゴンドはその言葉を反芻した。舌に重く絡みつく。


「鉄の盟約は二百年、元帥騎士団の腐敗を見てきた」ソレクは古い怒りを滲ませて言う。「トゥリンの教えが、無実の者を奴隷にする者たちに仕えるよう歪められるのを見てきた。それは王国がゴルラッチ崇拝を禁じた時に始まった。古い邪神の信者が身を潜め、他の騎士団に潜入した。腐敗は毒のように広がった」表情が陰る。「我々は民族間の古い同盟が再び結ばれる兆しを、ずっと待ってきた」


ソレクはゴンドに歩み寄り、手を差し出す。「君の勝利は神聖な力だけで得たものじゃない。人々が共に立ち、自分たちより大きなもののために戦ったからだ。それが聖騎士の真の強さ。君が起こす奇跡ではなく、他者に与える希望だ」


ゴンドは差し出された手を見つめ、ゆっくりと手を伸ばし、戦士の挨拶でドワーフの前腕を握る。ソレクは古いドワーフ語で句を唱え、その声には儀式の重みがあった。髭の金属の輪が柔らかく鳴り、一瞬、空気が意義で震えた。


「鉄の盟約は援助を申し出る」ソレクは正式に言う。「我々の武器、知識、来るべき戦いでの力を。しかしそれ以上に、協力関係を結びたい。壊れたものを再建し、かつて闇に立ち向かった同盟を復活させる機会を」


「見返りは?」


ソレクの笑みは激しく誇らしい。「見返りは、君が君であり続けること。希望を忘れた世界で、希望の灯台であること。奴隷商人とその腐敗した仲間に立ち向かい、神聖な力がまだふさわしい者に流れると世界に示すことだ」


ゴンドは内側で何かが変わるのを感じた。慣れ親しんだ神聖な力ではなく、もっと根源的な何か。孤独な責任の重みが和らぎ、共有された目的の強さに変わっていく。


「これからも戦いは続く」ゴンド。


「ああ、続く」


「もっと損失が、もっと困難な選択がある」


「ああ。しかし君はもう一人じゃない」


ゴンドは集落の方を見やる。生活の音が動き始めていた。料理の火から煙が立ち、遠くで金槌の音が響く。


完璧ではない。安全でもない。だが、それでも戦う価値がある現実だった。


「いつ始める?」とゴンド。


ソレクの笑みが答えだった。


◇  ◇  ◇


戦争評議会はその夜、中央の火を囲んで開かれた。ちらつく炎が集まった者たちの顔に影を踊らせる。ゴンドは右にソレク、左にシルヴィアナ──その日早くドワーフの到着を静かに受け入れていた──を座らせていた。ペル、シム、リラが輪を完成させる。集落は夜の日課に戻っていたが、ドワーフの到来と同盟の報せに、期待の気配が空気に漂っていた。


「奴隷商人の襲撃は偶然じゃない」ソレクが切り出す。「クリムゾン・カンパニーは大陸でも屈指の奴隷商人組織だ。重要な報酬と確実な情報がなければ動かない」


「誰かが俺を狙って雇ったんだな」とゴンド。それは疑問ではなかった。


「ああ。奴らが戻らなければ、雇い主はさらに大きな軍勢、より良い装備、より冷酷な者たちを送るだろう」ソレクの表情は厳しい。「猶予は一ヶ月、いや、それより短いかもしれない」


「なら備えが要る」ペルが言う。「防御を強化し、戦士を増やし、逃げ道も…」


「いや」ゴンドの声は静かに、だが輪の空気を切り裂いた。「もう逃げない。もう隠れない」


輪は静まり返り、全員の視線がゴンドに集まる。彼は彼らの疑念を見ていた。ウィレムの死以来、自分を苛んできた疑念だ。


「これまで俺たちは受け身だった」ゴンドは言い、皆を見渡す。「攻撃を待ち、壁を直し、死者を悼んできた。それは生きているとは言えない。ただ…終わりを待つだけだ。だが、それでは足りない。奴らが鎖を振るう限り」


シルヴィアナの古い瞳がゴンドを見つめる。「何を言いたいの、ゴンド?」


「俺たちが怯えるのをやめる。戦いを*奴ら*に持ち込む」声は力強く、だが疲れた決意が滲む。「奴隷商人、その背後にいる者、腐った仕組み全てを焼き尽くす。そして灰から何かまともなものを築く」


ソレクは身を乗り出し、ゆっくりと笑みを浮かべた。「それは戦いじゃない、息子よ。それは戦争だ」


「なら──戦だ」ゴンドは火の上に誓いのように言葉を落とす。「人々が自由に生きるための戦争を。もう肩越しに怯えずに済むように」


「鉄の盟約は二百年、その時を待ってきた」ソレクは静かに言う。「我々には武器、攻城兵器、古い流儀で鍛えた戦士がいる。だが、善の軍勢をまとめる大義がなかった」


「…今がその時か?」シムが問う。


ソレクの笑みは誇らしげだった。「今、我々には聖騎士がいる」


評議会は夜遅くまで続き、来るべき戦いの計画が練られた。ゴンドは、ウィレムの死が今も胸を締めつけるのを感じながらも、倒れた者たちの犠牲が無駄にならないと知っていた。


◇  ◇  ◇


その後の数週間は、動きと容赦ない努力の連続だった。戦争評議会の決定で、ゴンド、ソレク、ペルは丘陵や警備の手薄な交易路を行く奴隷商人の隊商や補給車列への襲撃を次々と仕掛けた。


ある襲撃では、奴隷だけでなく前哨基地用の武器を積んだ隊商を狙い、作戦の雛型となった。ペルの斥候──地形と奴隷商人の戦術に通じた元奴隷たちの情報網──が、狭い峡谷を通る経路を突き止めていた。


月のない夜、ゴンドは三十人の混成部隊を率いた。谷の熟練兵、新たに訓練された若者、ソレクの歴戦のドワーフ戦士たちが核となる。彼らは影のように動き、岩を渡る風の音に紛れて接近した。


攻撃は素早く、容赦なかった。奴隷商人たちは数と地の利に油断し、不意を突かれる。矢が闇から唸り、警備兵が次々と倒れる。ソレクのドワーフたちは斧で防御を粉砕し、戦いの雄叫びが峡谷に響いた。ゴンドの剣は銀の閃光となり、混乱の中を駆け抜ける。彼の存在は味方には灯台、敵には恐怖だった。彼は警備兵を的確に無力化し、動きは無駄がない。剣を振り上げる奴隷商人の陰で、ウィレムより年上ではない若い女性が怯えているのが見えた。ゴンドの剣が閃き、奴隷商人は崩れ落ち、剣は地面に転がった。


戦いは数分で終わった。生き残った奴隷商人たちは武器を捨て、不信と恐怖に顔を歪めていた。だが真の戦利品は、隊商中央の粗末な木の檻と鎖につながれた列だった。三十人の男女と子供たちが、恐怖と芽生えた希望の入り混じった目で解放を迎えた。


この光景は、形を変えながら一ヶ月で六度繰り返された。襲撃のたびに新たな解放者が谷に流れ込む。やつれ、疲れ、傷を負いながらも、目には反抗の火が宿る。かつて静かな聖域だった谷は、新たな命と目的で活気づいた。集落は膨れ上がり、避難所がほぼ毎日建てられる。


戦う意志を持つ者は訓練に回された。ソレクは無骨な忍耐でパイクと盾の使い方を叩き込み、命令の声が訓練場に響く。ペルは影のように動く技術、隠密の極意を教えた。シムも新参者に応急処置を指導し、その手は戦いの傷も訓練の傷も癒した。鋼のぶつかる音が日常となり、ダックスの建設班やコルヴェンの鍛冶場──今やドワーフの鍛冶師たちも加わっている──の槌音が響く。


補給も谷に流れ込んだ。奪った武器が新兵を武装させ、没収した食料や硬貨が蓄えを増やす。隊商から奪った布や道具、家畜までもがすぐに使われ、成長する共同体の困難を和らげた。


ある朝、ゴンドはダックスと労働者たちが谷への唯一の入り口である狭い道を広げる作業を見ていた。岩を除き、木を伐り、危険な小道が守りやすい道へと変わっていく。


汗と土にまみれたダックスが作業を止め、ゴンドを見上げる。「人が入りやすくなった分、厄介事も増えるな」


ゴンドは頷き、変わりゆく谷の風景──活気ある作業、新しい顔ぶれ、引き締まった訓練生たち──に目をやる。もはやここは隠れ家ではない。


「隠れる時代は終わった、ダックス」静かに言う。その声には、近くの労働者たちも思わず手を止める重みがあった。「ここはもう聖域じゃない。要塞だ。灯台だ。奴らに来させろ。俺たちは、もう準備ができている」


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