第5章
「よし、全員そろったな」
小太りの男はリビングの奥にあるキッチンの冷蔵庫からビールを取り、全員に配りながら言った。
「私は大塚裕也。君たちの依頼主だ。」
裕也はテレビ前のカフェテーブルに置いてあったMacを開くと操作し始めた。学はテレビの電源を切った。
「君たちに現金輸送車を襲ってほしい」
裕也はMacの画面をテレビに送るとテレビに熊本市中央区の地図が表示された。その地図には花畑町あたりに赤い丸がされている。そこは数多くの銀行の熊本支店が数多く並んでいる。
「現金?」
学が言った。その疑問は当然だった。電子決済が主流だからだ。腰の曲がったばあさんでさえ電子決済を行う。現金を使うような機会なんてほとんどない。
「そう、現金だ。」
裕也は学に指をさしながら言った。
「預金準備率ってわかるか?銀行が預金に対して現金を手元に残しておく割合の事だ。銀行はその預金準備率に従って金を残しておく。ただ、それは電子マネーの流通によって意味がなくなった。現金をわざわざ引き出すような奴はいないからな。そこで銀行がし始めたのは現金を必要な時だけ他の銀行から借りる事にした。一つの現金を複数の銀行が移動しあう事で手持ちの金を全て使えるようにしたわけだ。」
裕也は言い終わると持っていたビールを一気に飲み干した。
「現金を移動させている時に襲ってほしい。」
裕也はテレビの地図についた赤い丸を指さした。
「どのタイミングで襲うかは片山に任せてある。君たちはただ片山に従っていればいい。」
裕也は話が終わるとビールを取りにキッチンへ向かった。そしてリビングに戻ってきた。その間誰も顔を見合わせる事なく、しゃべる事もしなかった。全員がこの話に乗るか考えていた。