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第2話 メイドのお仕事

「あ、ミュエル。そこの食器片づけておいて」


「わかりました」


 カルミアがすでに洗った食器がシンクの端に溜まっていました。それを手に取り布巾で拭き取ります。


 そうして拭き終わった皿を後ろの食器棚へ片づけていく。


 最後の一枚がどうしても届かない。大皿を一番上の段にしまわなければならないのですが、わたしの身長が小さいせいで置くことができません。


 どうしましょう。周りに目を向けるも台となるような足場もない。


 わたしが困り果てていると、


「俺が置くよ」


「あ、ありがとうございますキース」


 一八〇の高い背丈で楽々と皿をしまってしまいました。


「いいってことよ。それよりも、朝食美味しかった?」


「はいとても美味しかったです!」


 旦那様が起きる前にわたしたちは準備を始めます。その時先に朝食をいただいていました。キースさんは厨房を任されているこの屋敷のシェフです。全ての食事を彼一人が担当し、わたしたち、メイドの分まで作ってくれています。


 豪勢ってわけでもないですが、今日はミネストローネとパンのスライスに濃厚バターでした。


 彼の料理を食べると、一日頑張れるような気がしてくるのです。


「食器はあらかた片づけといたから」


 カルミアが手をハンカチで拭いながら近づいてきました。


「すみませんおまかせてしまって」

 ぺこり頭をさげる。


「気にしないで。別に慣れてるし。にしてもまたキース料理の腕上がった?」


「だろ? また俺うまくなったかも? 料理だけに。なんちって」


 ぷっとカルミアが失笑しました。


 キースも白い歯を見せて顔を綻ばせます。


 キースさんはカッコいい見た目で、意外とお調子者のようです。


「寒。寒いわ〜」


「うっせ。カルミアだけご飯抜きにしてもいいからな」


「そ、それは勘弁を~~」


 二人の満更でもない空気感。


「仲いいですよね、二人とも」


 まるで旧知の仲みたいだ。


「ああ。キースはあたしと同じ時期に入ったやつだからさ。同年代の人周りにいない

 し。そこで暇つぶしに話していたらなんかね」


「そうそう。暇さえできれば仕事の愚痴ばっかで。俺の耳がタコになっちまうわ」


「あの説はどうも」


 カルミアがわざとらしく謝る。


「エデンもなにか話したいことがあれば気軽に来ていいぞ。お菓子があればあげる

 よ」


「え、お菓子ですか⁉ わたし大好きです‼」


 わたしはキラキラ目を輝かせました。


 お菓子が食べられるのであれば、たまに来てもいいかもしれません。


「そうなのか。じゃあいくつかお菓子用意しとくよ。そういや、昨日暴動があったら

 しいな」


「そうみたいですね。議員の市民に対する態度がなっていないとかで」


 旦那様に新聞紙を渡す際に、ちらりと見えた記事にそう書かれていました。


「それで、その議員がうるさい市民に向かって魔術を放つ武力行使に走ったとか。死にはしなかったが、一ヶ月は身体動かせなみたいだしな」


 さっきまでの楽しげな表情が不満の色に曇ります。


「酷い話だよねそれー。魔術使えるからってさ、偉そうに」


「しかも警察の対応も。注意するだけして何もなしとか。どうなってるんだよ」


 声に静かな怒りが籠っていました。微かに、恨みが込められているような気もしま

 す。


「あーあ。まだ魔術が使えていれば、少しは違ってたのかな」


「それなぁ。あたしも魔術使ってみたい」


「でも魔術を使うには魔力がなきゃダメなんだろ? 俺には無理だな」


「あたしも魔力なんてほぼないし」


 この世界に魔術が存在しているのは確かです。しかし、みんながみんな、魔術を扱えるわけではありません。むしろ扱えない人の方がほとんどでしょう。


 魔術を行使するための条件として、個人がもつ特性と魔力要領・濃度が関係してきます。


 魔力容量や濃度は生まれた時から決まっており、訓練によっては増やすことはでき

 ますが、それもほんの数%ぐらい。


 扱える人はもともと両親が魔術師の場合が多く、大抵上流階級ばかり。もちろん生まれた子供も親の影響を受け魔力容量も濃度も高くなる。また政府によって魔力を持

 つ子供は魔術の学校へ強制的に入学させられるので、自然と魔術の道に進む。


 ミュエル様もその一人。


 魔力があれば高収入が期待される軍へ入隊できたり、研究機関で働けたり、警察に

 なれたりと贅沢三昧。


 反対に魔力がない人々はというと、魔術とは無縁な生活を送り、生涯を終える。

 こういう事もあり、魔力がない人々を蔑む風潮が上流階級の層で起きていました。


 けれど旦那様は一切の差別もなくみんな平等に接してくれる、大変懐が深い方です。


「もし魔術ができたら、あたしは水でウォーターベッド作ってみたいな~」


「俺は炎でかっこよく燃やしながら中華鍋ふりまわしたい」


「なにそれ? それじゃ魔術の意味なくない?」


「炎の種類によって料理の質も味も異なるんだよ。魔術の炎で料理してみてなぁー。

 なぁエデンはもし魔術が使えたら、してみたいことある?」


 子供のように興味津々に尋ねてくるキース。そんな無邪気な好奇心の視線に耐えられず、さっと目をそらしました。


「えーと………どうでしょうかね……あ、まだわたし仕事が残っているので、失礼しますね!」


「おうそうか。手を止めて悪かった。仕事頑張れ」


「はい頑張ります!」


 わたしは急いで厨房を出ると、ほっと胸を撫で下ろしました。


 魔術の話になると、どう反応すればいいか困ります。


 ……さて。もうそろそろですかね。


 周囲を確認し、人が居ないことを確認すると、ふーと一息つきわたしは目を閉じる。


視覚拡張サテライズ】【精神支配ガイスト】――【起動ブースト


 その瞬間、脳内に二つ俯瞰映像が映し出されます。一つはミュエル様が通うクリティス魔術高等学。もう一つは旦那様の務め先である宮廷魔導総会だ。


 実は、庭で見つけた鳩に、視覚拡張と精神支配を付与させました。他生物の行動をコントロールしつつ、その視界を共有することができる。


 得意技の一つです。


 わたしの仕事はただのメイドではありません。


 貴族の方々を守るために軍で特殊な訓練を受けた衛兵。


 通称「月影」。


 これが誰にもバレてはいけない、わたしの秘密のお仕事です。


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