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4話

 律が開いた口を塞ぐ間もなく、テンションが高い女性の声がつらつらと一人でおしゃべりしている。

 今日の天気がどうとか、新しいお店がどうとか……そしてやっと聞ける隙が出来た。


「……すみません、ステータスについて聞いてもいいですか?」

『はーい! なんなりと!』

「僕のステータスが表示されないみたいで」

『えっ……少々お待ちください。今すぐ確認します!』


 女性が慌ただしく走り回るような音。書類が雪崩を起こしたような音が聞こえた気もしたが、律が待つまでもなく本当にすぐ来た。


『ももももっ!』

「もも?」

『申し訳ありませーん! えぇーん! 私が入力をミスしたばっかりに……多大なるご迷惑おかけしてすみませんでした!』


 手をパチンと合わせ謝る音も聞こえた。

 面と向かっていないのに誠実さが窺い知れる。


「僕は大丈夫ですから、あまり気負わないでくださいよ」

『うぅ……優しいんですね! お名前は? 私はミシアーナ・リエと申します!』

「僕は大字律です。よろしくお願いしますミシアーナさん」

『わっ、私なんかに丁寧なお言葉遣いしてくださるのは大変恐縮です。無礼を働いた私を呼び捨て敬語なしでどうかお願いします!』

「え……? いや、そんなわけには」

『いいえ、むしろそうして頂かないと落ち着きません! タメ口ウェルカムです! 上司に怒られちゃいますのでどうかお願いします!』

「……はい?」


 律はミシアーナのマシンガンスピードに言いくるめられる。

 まるで第二の政仁に会ったみたいだ。

 だが、いきなり敬語を外すのは厳しいと思う。


「ミシアーナ……さんはステータス課の仕事を最近始めたんですか?」

『分かっちゃいます? 実はそうなんです! 一週間前くらいから始めた感じで、ステータス課のお仕事を任されたのが3日前くらい? ほとんど分かりませーん!』

「なるほど……」


 少しくだけた言葉遣いでなぜかシアーナのほうから距離を迫ってきた。

 本当に新人さんなんだ。


『あっ、今詰んだって思いました〜? アハハハハッ! やだな〜私に任せてください。こういう時は意外となんとかなりますよ!』


 律が思うより先に言い当てられた。

 ミシアーナの恐ろしいほどのポジティブに早くも不安を感じている。

 ジェットコースターのような感情の起伏に着いていけそうもない。

 ものすごく失礼なことは承知の上で、この人に任せてどうにかなるように思えなかった。

 ステータス課というのだから会社のように先輩なり上司なりがいるかもしれない。

 あるいは別の課の人間も頼れる人がいるか。

 わずかな可能性を聞いてみるのも良いかもしれない。


「ミシアーナさん、他に誰か頼れる人は?」

『いたら、さすがに聞きますって〜! 今日、先輩達は指定区域外魔物召喚事件で忙しくて、カミ様もいないし……いま私、一人です!』


 律は物騒な言葉が気になってしょうがない。

 その指定区域外魔物召喚事件とはなんだ……それに、


「神様?」

『あーそれ、気になっちゃいますよね! 私も詳しくは知らないけど、そーゆー名前の人です!』

『……はっ!!! 大変ですっ、律さんっ!』


 急にミシアーナが声を上げるものだから、律は驚く。


「え? どうしたんですか!?」

『バグってます! どうしましょうっ!?』

「一体、なにが……?」


 ミシアーナが切羽詰まった声で助けを求めてきた。

 しかし、律にはさっぱり状況が分からないでいた。底知れない不安が大きくなる。


『律さんのステータスが編集出来ないんです! それ以前に真っ白でなにも出来ません!』

『律さん……こういう時どうしたらいいですか?』

「……」


 律は必死に考えてみるも、なにも浮かばない。

 なにも見えないのにも関わらず対策を考えようがなかった。

 相手の状況がリモートワークのように見えていたら、少しは違っていたかもしれない。

 ミシアーナがなにかを叩く音が律の思考を止めた。

 工事の音に似ていて、気が散るほどに大きい。


「ミシアーナさんはなにしているんですか?」

『機械をっ、叩いてますっ!』

「はい? どうして???」

『叩いて直すものって教わりましたよー?』


 律にはミシアーナの言う機械とやらがなにかは分からないが、とてつもなくマズいことは分かる。

 早急にやめさせなければ!!!


「誰から教わったんだ……壊れるからやめてくれ!」

『そうなんですか……? あっ!』

「今度はなに!?」


 ミシアーナのスピードに振り回されてついていけない律は冷静さを失っていた。

 畳み掛けるようにミシアーナは律に尋ねる。


『わぁ……灯台下暗しでーす! ここに、私の目の前に! 今、押すべきだと思うボタンがあるんですけど、どうでしょ〜か?』

「どうとは一体……?」

『押してみてもいいですか!?』

「その前にッ! そのボタンは押したらなにが起きるんです?」

『えぇ〜? 一生に一度きりと書いてありま~す! きっと強制シャットダウン的な効果があるのかも!』


 律は驚愕した。ミシアーナのコンピューター知識の無さに。

 本当に初期化みたいに元の世界に戻れるなんて上手い話があるだろうか。

 仮にこの世界がゲームであったとする。

 セーブなんて機能も見当たらないのにシャットダウンなんてしたらデータが吹き飛ぶ。

 そしたら、バグっている律自身は一体どうなるだろう。

 バグもろとも消える……つまり死ぬのでは!?


「ダメだ!!!」

『大丈夫! 心配いりませーん! 再起動したらなにもかも戻ってますって!』

「待て! 僕はっ! 僕はまだここでやるべきことがあるんだ!」


 律の制止も虚しく、ミシアーナはボタンを押した。

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