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2話

 歩き慣れたアスファルトの上。まばらに雪が残っている。

 律は見飽きた帰り道を少しでも楽しめるように電柱を数えながら、雪が溶けきらない滑って転びそうなその道をゆっくりと踏み締める。

 走り去る車のガラスに映った自分。明日は卒業式だと少し浮ついた顔だ。

 指先が冷えてかじかんで来た。真っ白な息をかけて温めてやる。少しはマシになった。

 それでも鼻の感覚が消えて頬も痛い。


 (今日も寒いな……)


 ほんの少し歩幅を大きく目的地に足を早める。

 七本目の電柱を数える頃には公園が見えて来た。

 律は一度立ち止まってジャングルジムを見てふと思い出した。


 (確か、天城にも夢を聞かれたことがあったような?)


 その時は母に憧れていたからピアニストだった。

 本気で世界一になれると自分の才能を信じていた。子供だったから仕方がない。

 天城の夢は確か……王様だった『お父さんが誰にでも優しくて強い王様なの』と言っていたのを思い出す。

 驚きはしたけど、天城がまるで宝物を見るみたいに目を輝かせるから嘘をついているように思えなかった。


 いつもは素っ気ない態度の天城が、天城は律がピアノをやめたことを知った中学生最後の日。

 涙を堪えながらこう言ったのを覚えている。


『……変よね、自分のことみたいに思っちゃって。律がずっと苦しんで悩んで、それでも続けてたのを見てたから。良かった気持ちと、律の演奏が聴けなくなる悲しさとで複雑なの』


 他人事なのにここまで感情的になれる人を久しぶりに見た。

 律も天城につられて、じーんと暖まる。

 渇いていた心が満たされるような心地よい感覚を味わったのは二度目だ。


 再び歩き始めると十番目の電柱が見えた。

 英語のZのような急斜面(さか)。コンクリートで補強された三角の法面(のりめん)が縦に二つ見える。ほぼ断崖絶壁のようだ。

 この上に洋館が建っている。

 天城咲の家はこの辺に住む人達はみんな知っている。山も所有する有名な大地主だからだ。

 それにレンガ積みの立派な洋館は幽霊屋敷として噂された。


 幼稚園の頃、天城はそれと日本人離れした淡いピンクの髪と翡翠のような瞳の容姿が理由でいじめられていた。

 きっかけはほんの些細なことで人気者の取り合い。

 人形みたいに腕や髪を引っ張られるような痛々しいもの。

 そして、親から聞いたであろう悪口や噂を言いふらす三人組をきっかけに始まった言葉の暴力は日に日にエスカレートしていくーー、どうしてか天城にだけはなにをしても許されるような空気感が作られていった。

 律はその状況を疑問に思い、天城を泣かせるやつら全員返り討ちにした。

 あの頃は喧嘩っ早くて両親は困らせてしまったが後悔はない。

 天城の笑顔が守れるならそれで良かったんだ。


 十三本目の電柱を数える頃にはもう坂の上まで登り切っていた。

 ようやく天城の家に着き、呼び鈴を鳴らす……一分ほどが過ぎた。

 律は首を傾げる。

 いつもなら出て来る頃合いだ。


 もう一度、呼び鈴を鳴らす……しかし、なにも反応が無かった。

 律の頭に『事件に巻き込まれたのかも知れない』とよぎる。

 すぐさま律は玄関ドアノブに手をかけたが、変に力の入った手が空回りしたような空虚な反応が返ってくる、鍵はかかってない。

 開けると、真っ暗なだだっ広い玄関ホール。白を基調とした内装。床には赤い絨毯が敷き詰めてある。金の装飾が施された家具。絵に描いたようなお金持ちの家だ。

 タイル張りの玄関土間に一歩足を踏み入れると振り子時計が正午を知らせる。


「……勝手に入るけど、構わないか?」


 律は一言。

 だが、返事はない。

 自分の反響した声は虚しく、返ってくる言葉はない……一つ違和感がある。

 律は身を震わせた。

 家の中のはずが異様に寒いのだ。

 奥に進むほど寒くなって、息が白く、鳥肌が止まらない。

 腕を擦って温めて誤魔化す。


「は、ははは……そんなはずないよ」


 律はあまりの心細さで呟き、誤魔化すように首を横に振る。

 この家の豪華な内装に少しだけホラゲ(某バイオ系ハザード)を思い出してしまった。

 自分の頬を叩き、喝を入れる。

 天城の部屋は二階の階段を登って右奥だ。


 部屋の前で立ち止まる。

 中から声が聞こえてドアノブを引くことをためらった。


 (入って良いものか?)


 律は一瞬だけ考えた。

 たとえ同級の女性でも部屋に勝手に入るなんて気が引ける。

 しかし、そんなことも考えていられない。

 本当にもしものことがあったら……と思うと、かじかんでいた手も自然と動いた。


「ごめん、入るよ?」


 玄関ドアよりも不自然なくらいに重く感じる。

 気のせいだろうか?

 ガチャリ、部屋の中にも聞こえるくらい大きな音をわざと立てた。

 途端、風が押し寄せる。


「きゃっ!?」

「なんだ……居たなら出て……?」

「なっ、なんでアンタが今日ここに来るのよ!! そんな予定無かったでしょう!?」


 噛み付くような鋭い口調で天城咲はなにかに焦っているようだった。

 律が意味を聞くより先に、天城に突き飛ばされる。

 ドア枠にぶつかった背中の痛みに律は耐え、たまらず天城の顔を見上げた。

 天城が顔面蒼白でただ事ではないことは理解した。


「どうした? 今日休んだ理由に関係があることか……?」

「いいから……早くここから出て行ってよ! アンタ死ぬわよ!」

「死ぬって、どういう意味???」


 律はさっぱりわからないまま、辺りを見渡した。

 女の子の部屋にしてはおかしなものを見つける。

 天井と床に円状に並んだ文字列。

 読めはしないが、既視感があった。


 途端、それは眩しい光りを放つーー、

 律が再び目を開いた時には、見たことのない外の景色が広がっていた。

 初めまして唯井ノ 龍昴です。

 (お久しぶりの方もいるのかな)このペンネームになってからはお初ですね。


 今作は初の異世界転移もの!

 魔術設定はまだプロット状態の別作品から持ってきたので今後似たようなの書いてても……ジェネリック(後発)説は圧倒的今作!……は置いといて、若干のネタバレ含む今作の見どころ。


 タイトル通り『てち転移、僕ボン』……な展開です。出来る限り凡人が制限付きで異世界を生き抜きます。禁術級魔術が暴発しないように慎重に継承方法を探す旅出たり。勇者や魔女について歴史オタから情報を聞いたり、旅をする中で幼馴染が命を狙われたり……色々ハプニングがあり〼(マス)。


 あくまで主人公の心の葛藤が中心(爽快無双しないです)。

 友達のためならなんでもしてしまう自己犠牲な主人公。完璧で天才な母の息子であることを投げ出した過去、孤独、良い人で在りたいと苦心した日々に本当の自分が分からなくなってしまったものの。転移をキッカケに他人中心だった主人公が少しずつ自分のためにも成長していく物語です。


 作品の内容と連載ペースともにゆっくりですが、よろしくお願いします。

 長文読んでくれてありがとう。またどこかで!

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