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13話

 アリシヤに『じゃあ、聞くけど。アンタは本当に初めて会った日なんて分かんないでしょ!!!』と問われて、律は正直どう答えるべきか分からなかった。


 初めて会った日……か。

 天城に限らず、人と初めて会った日のことはだいたいうろ覚えだ。

 パッと思い浮かぶのはその人と楽しかった時の思い出だったり、辛かった時……なにかしらの感情が動いた時だ。これではもう初対面ではない。

 自分の場合、初めて会った時に余程のインパクトがないと記憶に残らないみたいだ。

 思ったままを正直に伝えよう。


「あぁ、分からない。でも君は僕の知っている君だったよ」


 律は心の底から穏やかに笑った。

 思い出せる記憶の全てが偽物だとしても、やっぱり似ているところがあって懐かしい。

 まったく違う人間だと思えなかった。

 アリシヤが律の言葉に驚いている。


「なにそれ……」

「わがままで感情的だけど、困っている人を放っておけない……人のために怒れる優しい君だ」

「……なにそれ、褒めてるの? 貶してんの?」


 アリシヤは律を睨み、不満そうに口を尖らせる。

 どうやら悪い意味にとったらしい。

 慌てて律は謝った。


「褒めたつもりなんだが……難しいものだ、下手ですまない」

「はぁ……ほっんと、下手ね。でも嘘つかれるよりはマシだわ」


 アリシヤは懐かしむように微笑んだ。

 律は嘘という言葉にピンときた。

 天城に『自分に嘘をつくの?』と問われた日もあった。

 あの時に似ている……もしかすると?


「やっぱり、君は僕のことを思って怒ってくれたのか?」

「はっ、はぁ? 違うわよ!」

「違うのか……すまない」

「そうじゃないわ! 違うの! 私が…………だから、アンタが謝る必要ないわ!」

「正解ではあるのか?」

「……そうよ」


 なぜだろう、アリシヤはとても悔しそうに口を尖らせる。

 この癖、天城もよくやっていた。

 やっぱり、名前は違っても中身は同じなんだ。


「なに笑ってんのよ! 馬鹿にしてる?」

「いや、嬉しいんだ」

「はぁ……?」


 感情が顔に出ていることに気がつかないほど嬉しかった。

 この感情にもう少しだけ浸っていたい。

 やっと、実感がわいたんだ。

 だが、神様は噛み締める時間を与えてくれないようだ。


 先程から()()()()()妙な音が聞こえる。

 アリシヤはこの音に反応していないから聞こえていないと思う。

 次第に音が大きくなり、まるで女がすすり泣くような声が!!!


『うわーん! 律しゃーんが死刑になっちゃーいまーすっ!!!』

「もしかしてミシアーナさん?」

「誰よ、この女は……と言いたいところだけど? 律が死刑ってなによ?」

「聞こえたのか?」

「こんなにうるさい声だったら、イヤでも聞こえるわ」


 アリシヤは腕を組み、フンとそっぽを向いた。

 ご機嫌ナナメのようだ。

 律はすすり泣くミシアーナに訊ねる。

 

「ミシアーナさん、どういうことか説明してもらえるか?」

『それが! 聞いてくださーい! 先輩達ってば、どーでもいいって言うんですよー! まったくアテにならなくって私調べたんです! そーしたらドツボにハマったみたいに律さんのバットエンド説濃厚になっていってもーうっ私っ! 心が折れちゃいましたーーー!』

「アンタ、長いくせに話の中身がないわね」


 アリシヤの鋭い言葉にミシアーナのHPが削れた。


『はうっ!? 辛辣過ぎまーす! あとこの人、誰なんです!?』

「アンタこそ誰よ?」


 ピリついた空気を察知した律が代わりに紹介する。


「こちらが天城……じゃなくてア……」

「アリシヤ・ノーゼットよ」

『えっ! あの天城さん!? しかもノーゼット家のご息女なんて! 律さんやりましたね~!』


 ミシアーナの飲み込みが早すぎる。

 それに、ミシアーナのいう”やりましたね”には違う意味が込められていそうな言い方だ。


「こちらステータス課のミシアーナさん」

「ふーん。通りで姿が見えないわけね」

『あれ? あのお二人はどちらに?』

「ミキトさんとエーフェナさんとは……色々あってはぐれてしまった」

『そうなんですね! また会えるといいなーー!』


 律とミシアーナが話している間、アリシヤは一人椅子に座った。

 とても退屈そうに冷めたお茶を一口すする。

 律はなんとなくこの話を続けてはいけないと思った。


「ミシアーナさん、話を戻すんだが、手に入った情報について教えてほしい」

『いーんですか? 覚悟できてます?』

「あぁ、もちろん」

『えっとーー私が調べた限りでは、禁術所有者にロクなことが起きてないんです! 昔話で術を封じた巻物を巡る争いで命を落としたり、使用しなくても術が勝手に発動して村も山も全て吹き飛んだなんてことも! 一番グロかったのは……禁術に溺れて呪いの一部になってしまった話ですね……』

「面白い昔話だ」

「どこも面白くないわよ?」

「日本昔話も悪いものが痛い目を見るからな。やはりこの世界にもそういう話があるのかと思った」

「ふーん、怖くないの?」

「……昔話は昔話。だが、気をつけようとは思っている」

『逃げようと思わない感じです?』

「あぁ」

『よかったーー! それなら、ショック受けないですね! 私いっそ、この世界から逃げちゃえば戻ると思ってー裏で何度も律さんの初期化手続き(シャットダウン)したんですけど全部無効になりました~!』


 ミシアーナが笑いながら、さらっとすごいことを暴露した。

 もしも、初期化手続き(シャットダウン)できたらどうするつもりだったのだろう。


『で、理由を調べたら、なんと! 禁術所有者の転移は世界質量上限をオーバーして不可能らしく、この世界から出ることもできなくなってるみたいです。それ以前に~禁術持ったままだ出られちゃったら危険ですもんね! 以上が今日まで集めた情報でーす!』

「なるほど」

「なるほどって……分かったの?」


 逃げも隠れもできないということ。

 それだけは確定している。

 ただし、なにもしなかった場合だ。


「そもそも禁術がどんな分からないんだもの、対処しようがないわ!」


 アリシヤが眉をひそめる。

 確かに、アリシヤにはステータスを見せていない。

 見てもらえば、魔眼の効果でなにか分かるかもしれないな。


「とりあえず、僕のステータスを見れるか?」

「……分かったわ」


 アリシヤは目を見開いて、少し考え込むとこう言った。


「アンタのバグってるわね」

「そうなんだよ! 他に気づいたことは?」

「なっ、ないわよ……強いて言うなら、[?]という技?」

「……やっぱり見えないか」

「残念がらないでよ。それよりも、技ってのがアンタらしいと思ったわ!」

「技?」


 意外な目の付け所に腑抜けた声がでた。


「律のステータスで言うところの()が、私は魔術師だから()なの」

「なるほど!」

「それにしてもアンタ、よくこのステータスで今日まで生き延びたわ。魔力(MP)1って……頬のひとつで済んでるのは驚きね」

「……頬?」


 律は自分の頬に触れる。

 痛くもなんともない……むしろ、()()()()()()()

 アリシヤは怪訝そうな顔で律を見る。


「なにがあったのか、詳しく話しなさいよ」

「詳しくと言われても……」


 律の目が泳ぐ。

 理由を言ったら相手が怒られるかもしれないからだ。

 傷を付けられたのは事実だが、悪気があったわけではないはず……。

 そうだ。代わりに今まであったこと全てをアリシヤに説明して、それとなくこの問いをかわせば切り抜けられるだろう。

 律は異世界のこと全てを話した。

 アリシヤは頷いて聴いてくれたものの浮かない顔だ。

 どうしてだろうか?

 まさか、バレたのか!?


「私は二つ言いたいことがある……まず、訂正ね。禁術が魔術師協会というより、禁術規制術者会に追われるんじゃない?」

「禁術規制術者会?」

『魔術師協会のうちのひとつです!』


 今まで大人しくしていたミシアーナが合いの手を入れる。


「堅物なルールと結婚してるような優秀魔術師しかいないわ。だから捕まったら絶対処刑ね」

「どうにか免れる方法はないのか?」

「……ないわ」


 お手上げのようだ。

 アリシヤはもう一つ続ける。


「まったく策がなくはないけれど。それで頬のことは一切説明がなかったわね、なにかやましいことでもあるの? 正直に言いなさいよ?」

「無いが……ただ僕が避け遅れただけだ」

「ふーん、ハーヴェンね?」


 なんと。

 戦ったことの一切を伏せたというのに気づいたのか。

 律は驚きが顔に出てしまった。


「やっぱり……あの鬼!」

「鬼?」

「魔術のことと罪人に対してだけは昔から厳しいのよ」


 律は想像する。

 先生のような人物像が思い浮かんだ。

 もしかすると、アリシヤに魔術を教えたのは?


「ん?」


 気づかなかったが、アリシヤが目前まで迫っていた。

 アリシヤの手が律の頬に触れる。


「……こんなにも、黒く」


 黒い?

 アリシヤにはそう見えているのか。


「火傷の症状に似ているわ。火鞠(ひまり)にやられたんじゃない?」

「火鞠とはなんだ?」

「火の玉を見たでしょ?」

「あぁ、なるほど。ハーヴェンさんは火属性なのか?」

「……少し違うわ、彼は特殊で精霊から力を借りているの。なんだったっけ……あとで直接聞けば教えてくれるんじゃない?」


 精霊の力?

 エーフェナが言っていた魔力を増やす方法か。

 その辺についても詳しく知りたいところだが……噂をすれば。


「お嬢様!!! ご無事でしたか!!!」


 長く束ねた髪を揺らしながら走る青年ハーヴェンだ。


「はぁ……最悪だわ」


 アリシヤは大きなため息をついた。

 律もなんとなく察する。

 ハーヴェンがいることで中断になるだろうと。


「お怪我はごさいませんか?」

「ないわ。ハーヴェン、怪我しているのは彼の方よ」


 アリシヤが律を指すもハーヴェンは律を見ることはない。

 そして、こう淡々と告げた。


「お嬢様……陛下がお呼びです」

三日間連続更新にお付き合いいただき、ありがとうございました!

通常の更新(月一回)に戻ります。

もしかすると一ヶ月ほどお休みを頂くかも知れません。

サークルで漫画・アニメーションの企画がありましてnoteブログ記事で進捗状況を見せたりしたいなと、漠然ではあるが今後のことを思い浮かべている。

どうなることやら?


本編は城脱出まであと少し!

危険な世界にレッツらゴー!……もうしばらくお待ちください。

ではまた!

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