12話
ピンク髪のツインテールに赤い瞳……イアが連れてきたのはあのパレードで見たお姫様だった。
律は驚きのあまり席から立ち上がったまま、時が止まったみたいにお姫様と見つめ合い続けていた。
待ちくたびれた王妃は手を叩いてこう言った。
「さ! 二人とも席について頂戴! 本日の主役がお揃いね!」
「お、お母さん! 話が違うわ!!!」
「ふふ、なんのことかしら?」
「とぼけないで! こいつを追い出してほしいって私言ったじゃない!」
不満げなお姫様は律を指さす。
律はすかさず、頭を下げた。
「初めまして大字律です。パレードの日、怖い思いをさせてしまって本当にすみませんでした!」
律の謝罪にお嬢様は腕を組み、ため息をついただけだ。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「最後にお願いがあります。君の名前を教えて頂けませんか?」
「……それを聞いてどうするつもり? 悪いけど、アンタが求める答えは出てこないわ」
「意地悪しないで名前くらい教えてあげなさい。律さんとってもいい子よ?」
「コホン! 奥さま」
「あら、余計なことをしてしまったかしら?」
「お嬢様、わたくし達は少し離れます。一度、お二人で話し合いをなさったほうがよろしいかと……」
空気を読んだ給仕の女性は王妃とハーヴェンの背中を押してその場をあとにする。
だが、王妃が去り際に名前を名乗るよう念を押した。
王妃に促されて、お姫様は渋々口を開いた。
「……アリシヤ・ノーゼット、私の名前よ」
「満足した? 早くここから出て行って」
律にはアリシヤの不機嫌そうな口調と帰るように急かしてくる言葉が天城と重なった。
顔も近くで見てはっきり分かった。
天城と見間違うほど似ている。
なぜ追い出そうとするのか理由を知りたくなった。
それに大事なことも聞きそびれている。
「もうひとつだけ、聞きたいことがあるんだ!」
「なに? さっき最後って言ったじゃない」
「これが本当に最後だ。僕は人を探してここまで来た。君みたいにピンクの髪で目が宝石の翡翠みたいな色をしている天城咲という女性を見なかったか?」
「…………知らないわ」
アリシヤは律の問いにすぐには答えなかった。
明らかに考えたような間だ。
なにかを知っているのかもしれない。
「どんなに小さなことでも、見かけただけでもかまわない! どうしても情報がほしいんだ!」
律はもう一度頭を下げる。
しかし、アリシヤの冷淡な態度は変わらない。
「はぁ……アンタってホント鈍いわね」
「鈍いアンタにも分かるように言ってあげる…………天城咲は存在しないの」
「……え?」
律はアリシヤが言っている意味が分からなかった。
律の記憶には確かにあるのに天城が存在しないとは一体?
「どういう意味だ?」
「アンタ、私を見て思うことがあるんでしょ? それが答えよ」
律は考えた。
アリシヤを見て思うこと……?
天城に似ているけど、目の色だけが違う……これが答え???
謎が深まるばかりだ。
「天城みたいなアリシヤさん? アリシヤさんみたいな天城? つまりどういうことだ?」
「つまり、私を天城咲だと思ったんでしょ?」
「うん」
「それ…………あってるわ」
「えっ、えぇ!?」
あまりの衝撃に律は目を丸くする。
状況も飲み込めないが、とりあえず天城と再開できたことを喜ぶべきか。
嬉しいけどワケが分からない感情がぐちゃぐちゃだ。
ただ、天城がお姫様なのはとてもしっくりとくる。
「よかったわね、アンタが探している天城咲が見つかって。アンタはもう日本に帰れるのよ」
「いや、ちょっと待ってくれ……聞きたいことが増えた」
「なに?」
アリシヤは長話になると察したのか、席に着いた。
律も冷静になって席に座る。
「じゃあ、天城咲という名前は?」
「……私の偽名よ」
「そうか」
律はアリシヤの言葉に安堵した。
連れ去られたわけではなく、この世界の住人だった。
本当は日本に一緒に帰るまで……だったが不要みたいだ。
それに最初の目的だった天城を探す目的は達成した。
「騙されていたのに怒らないの?」
「なんで怒る必要があるんだ? 君が生きていてくれて良かったよ」
生きてまた会えたそれだけで嬉しい。
紛れもない律の本心だ。
「……ねぇ」
「なんだ?」
「アンタが私に向けるその感情がつくられた物だって言ったら?」
「ははっ……? まったく意味が分からない」
律は頭を抱える。
感情がつくられたもの……偽物といいたいのか?
「アンタがここまでたどり着いたってことは、少なからず私に好意を抱いている。その好意を抱いたきっかけはなにかしらね?」
好意を抱いたきっかけなんて覚えていない。
だが、近所で同い年の幼馴染みということがきっかけで話すようにはなった。
「……幼馴染みで同級生?」
「嘘よ」
「だとしても君との記憶は僕の中にある。これは本物だろう?」
「さぁ? どうかしらね?」
アリシヤは鼻先で一笑する。
律にはアリシヤがなにを考えているのか分からなかった。
分からないということがとても怖い。
「……説明してくれ」
「説明なんて要る? これからもずっと他人なんだからどうだっていいでしょ?」
「いや良くない! なにかワケがあったんだろう?」
「はぁ? 鈍いにもほどがあるわ!」
アリシヤは頬杖をついてため息をついた。
まるで話の通じない人間に呆れているような……苛立ちも少し混じっている。
律からすればそれに懐かしさを感じていた。
やっと天城に会えたような。
「ワケなんてない、ただ都合がいいようにアンタの記憶をいじっただけ……もういいでしょ、早く帰ってよ!」
「どうして帰らせようとするんだ?」
「……っ、私は……」
「え?」
アリシヤのぽつりとこぼした言葉を律は聞き返した。
「……さようなら。アンタがちゃんと日本に帰れるようにハーヴェンに頼んでおくから」
アリシヤが席を立つ。
話すことはもうないという意味だろう。
律も立ち、アリシヤの手を掴んで引き止める。
「待てよ」
「離して……」
「まだ君に感謝を伝えられてない」
「……だから! それも全部嘘だって言ってるの!」
アリシヤは律の腕を振り払い、震えながらこう続けた。
「じゃあ、聞くけど。アンタは本当に初めて会った日なんて分かんないでしょ!!!」
それは絶対に答えることのできない殺し文句だ。
連載開始から早五ヶ月……作者自身が一番驚いてます。
自分の理想ではもう主人公は城を飛び出しているはずなんですが……なんででしょう?なかなか進まない。
私も読者さんと同じく早く進んでくれと思ってます。
ネタバレしたーーい!!!
王様の耳はロバの耳ーー!!!
冗談はさておいて、マジの話。
一話で本当は天城と律の中学時代を書いてから……と思ってたんですが、早めに異世界話に進むべきなのかなと。そんで二人の回想シーンばかりに。
ちゃんと書いた方が喪失感、絶望ダメージがここのネタばらしで出たのかも。
どちらにせよ、中学前全部偽物の記憶で一から二人の関係を進展させていくのには変わりない。
が、今回は痴話喧嘩でもどかしいと思いつつ。
アリシヤ視点からはやっぱり辛い。(明日、天城過去編を投稿します。)
辛いのとは早くおさらばしたい派なんで!めちゃ早で書いてみたぜ!
雑かもしれんが大目に見てね……。
今日から三話分を毎日投稿します。
この三日間を楽しんでいただけますと幸いです!