表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

9.夢

*****


 夢を見ていた――目にしているものは夢だとわかった。


 登場人物は父と母。

 首から上がない。

 それは、二人の顔を覚えていないからだ。


 抱き上げられた、母に。

 両親の穏やかで優しげな笑い声だけが鼓膜を響く。


 作られた記憶。

 脳が身勝手に再生する理想。


 捨てられた子どもだった。「セス」という名の年老いた殺し屋に拾われ、「セス」と名付けられた。老人は言った、「俺の名をくれてやる」と。以来、老人は「名無し」と名乗った。名を失くしたまま、ある日、血を吐き、倒れ、そのまま死んだ。


 一人になったとき、思った。

 孤独を愛そう、と。



*****


 目を開け、見たのは真っ白な天井だった。

 きちんとした、いい病院にいるのだなとすぐにわかった。


 身体中が痛む。


 よく助かったものだ。

 運がよかった――以外の理由なんてないだろう。


「よぉ、スリーピング・ビューティー」


 知っている声――フランク。

 顔を左に向けると、口元を笑みのかたちにした。

 サングラス――ティアドロップが今日もよく似合う。


 セスはかすれた声で「奴はどうなった?」と訊いた。

 弱々しい声しか出なかった。


「動けなくなっているところを回収させてもらった。先方と小競り合いになりはしたが、まあ、それもこれも想定の範囲内のことだ。問題はない」


 「なら、いい」と言い、セスは吐息をついた。


「さあ、これから戦争だ。なに。長引かんだろうさ。ウェイの小僧は今頃、震え上がっているだろうな」


 セスは知りたかった。

 その戦争に俺は必要か?


「任せる」それがフランクの答えだった。「いまのおまえに必要なものはなにか、よく考えてみるといい」


 考えるのは苦手だと言うと、フランクは笑った。


「でも、決めきらなければならないということは、往々にしてあるものだ」


 まあ、そうかもしれないな――と肯定するしかない。

 考えてばかりだから疲れる、生きることがめんどくさくなる。

 だが、決断すべき状況はたしかに必ず訪れる。

 人生に絶望まではしていない以上、歩み続ける必要はあるだろう。


「おまえの生き様っていうのはまだまだ鮮明になっちゃいない。自分を彩る絵の具ってものは確かにあって、それを楽しみながら集め続けることが人生なんだって、俺は思ってる」


 まったくもって、そのとおりだろう。

 キザでクサい言い回しではあるものの、気の利いた考え方ではないか。

 


「とりあえずはウエストか?」


 そうしようと思う。


「服を用意させよう」


 そうしてくれ。


「あちらこちらと何か所か折れてる。無理はするな」


 こう見えても、案外、せっかちなんだ。


 痛む身体に鞭打つ格好で、上半身を起こした。

 額に汗が浮かぶほどの苦行だった。


 ――ああ、そうだ。


 セスは「ギィはどうするんだ?」と訊ねた。


「これまでのことは不問に付して雇ってやることも考えたが、ボスがえらくおかんむりでな。要するに、死ぬまで穴倉で拷問ってところだ。悪趣味だと思ういっぽうで、なにせ俺や俺たちはマフィアなんだからなとも思う」


 マフィアの倫理。

 殺し屋の論理。


 世の中にはいろいろな価値観があって、その数だけヒトがいる。神と呼ばれる大きな誰かが空から手を伸ばして幾らかヒトを間引いてやれば、世界はもう少しすっきりするのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読みました。 セスが無事でよかったです……! プシュがどれだけ心配していることか。 マフィアの世界は一般市井の論理ではなく、あくまでマフィアの論理で回るのですよね。 ギィもそれは覚悟…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ