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7.用件

*****


 夜のセントラル・シティ。フランクが贔屓にしているバーに向かった。店の表には黒服の男たち。「ダグラス・ファミリー」の構成員だ。知っている顔を見つけた、ジョシュ――。もう三十路を迎えたはずだが、少年のような顔立ちは変わっていない。ごつくなったように見える。しっかりトレーニングしているのだろう。急ぎ足で近づいてきたジョシュに、セスは「話はフランクから聞く」と告げ、店内に足を踏み入れた。ドアベルが平凡な音を鳴らした。


 カウンター席――フランクの右隣の丸いスツールに、セスは腰掛けた。フランクは前を向いたまま、「よぉ」と挨拶をくれた。カウボーイ――バーボンのミルク割りをすする。セスがオーダーしたのはオレンジジュース。おれが酔っ払うわけにはいかないだろうとの判断があった。


 切り出されるのを待った。

 も一度、グラスを傾けたのち、フランクは話し始めた。


「ウチの幹部連中が次々に殺されて困ってる」


 少し驚いた。まさかとの思いが頭の中に広がる。このセントラル・シティにおいて、ダグラス・ファミリーに吹っかける組織があるとは考えられない。知り得る限りはそうなのだ。パワーバランスに変化が生じたのだろうか。相手はどこの誰なのだろう。なかば怪訝に思いながら、セスは「どういうことだ?」とフランクに先を促した。


「剣呑さで売るイースト・シティがここ一、二年で急に大人しくなってな。『ブルー・ドラゴン』っていう新進のマフィアが牛耳ったってことだった。でもって、奴さん方、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いだって話でな、セントラルまでなんとかしてやろうって躍起になってるわけだ。まあ一言で述べまうと、えらく活きのいい連中だってこった」


 セスは「だからといって、ダグラスの幹部がやられるほどなのか?」と訊き――。


「数を問題にしない奴がいるんだろう。言ってみれば、凄腕の殺し屋だな。おまえと同じさ、セス――いや、『白い死神』」


 白い死神――「業界」ではそう呼ぶニンゲンもいたなと思い出す。セス自身の性質――アルビノに由来する呼び名だ。


「セス、どうか死神に戻ってくれないか? 報酬は期待してもらっていい」


 正直、報酬うんぬんはどうだっていい。ただ、自分がなにもしないことでフランクが殺されてしまうようなら後悔するに違いないとは考える。そうでなくとも、「無職の男」は、そろそろヤメにしてもいいのかもしれない――と、考える自分もいなくはない。


「頼むよ。俺はまだ、死ぬわけにはいかない」


 セスは「わかった」とだけ告げた。

 現場復帰に際して、特に不安はなかった。



*****


 先方――「ブルー・ドラゴン」が「会おう」と言ってきたらしい。場所はストリップクラブ。街の東部にあたる一角にあるらしい。フランクいわく「すでにウチの勢力圏に食い込みつつあるんだよ」とのこと。それは面白い話とは言えないだろう。


 エキゾチックな感のある華やかな衣装に身を包んだ女性がポールに身体を巻きつけ踊っている。肌の露出はそれほど多くない。上品な店らしい。しかし、しっちゃかめっちゃかに発光するミラーボールだけは下品だ。目がちかちかして、どうにも好きになれない。


 ガラス製の長いテーブルの向こうには「ブルー・ドラゴン」の幹部を名乗る、ウェイという男。まだ若い。三十のなかば程度ではないだろうか。脚を組み、余裕綽々といった表情だ。軽薄そうに見える。性格だって恐らく最悪だろう。この男を幹部たらしめる要素はいったいなんなのだろうか。ウェイの隣には背の高い細身の男が立っていて――お世辞にも若くは見えない奴さんは何者だろう。黒ずくめの風貌。危なっかしい雰囲気を漂わせていて、禍々しい紫色の湯気みたいなものを全身から立ち上らせているように見える。「業界」のニンゲンであることは間違いない。腕が達者なのも間違いない。


 ウェイが口を開き、「早速、話に移りましょうか。化かし合いは嫌いでしてね」などと言った。慇懃無礼に振る舞うところは評価できない。フランクは「ええ。用件を聞きましょう」と丁寧に返した。大人だからだ。


「この街の東側、すなわちセントラルを半分いただきたい」

「それは無理な話だ、ウェイさん」

「力で奪い取ることも可能ですが? 事実として、もはや『ダグラス・ファミリー』は鳩のようなものだ。しかも両翼をもがれた」

「本気で言っているのか?」

「西側には手をつけない。これは譲歩ですよ」


 フランクはソファに腰掛けたまま右足を上げ、その踵をテーブルに叩きつけた――天板のガラスが砕け散る。「やってみろよ、小僧」と凄んだ、フランク。短気でもなければ怒りっぽくもない。キレてもいいシチュエーションだというだけだ。


「ミスター・フランク、提案があります。おたがい、いたずらにコストを割くことはやめにしましょう」

「おまえは『家族』をコスト扱いするのか。まあいい、言ってみろ」

「私の隣の人物、ギィといいましてね。ご存じありませんか?」


 フランクはそれなりに驚いたことだろう。

 セスはセスで険しい顔になる。

 ギィ、「伝説の殺し屋」の名だ。

 モグリでなければ誰でも知っている。


「そちらは『白い死神』さんでしょう? お噂はかねがね」

「なにが言いたい?」

「ですから、我々の命運を二人に託しませんか? ということですよ」


 ややあった。その間にすべての要素をきっと考慮した上で、フランク結論を出した。「やろう」と乗った。こちらにいっさい目を向けないのは信頼の証。そうだろうとセスは思う。


 ミラーボールの光が、ウェイの邪な顔を映し出した。


「よろしいのですね?」

「ああ。俺はおまえほど臆病じゃない」

「臆病? 私が?」


 ウェイの笑い声は高い。耳にキンキン響く。


 ソファから腰を上げたフランクは、無言で場を後ろにする、歩きだす。セスは続く。またウェイの甲高い笑い声が聞こえた。強欲で狡猾、頭も悪くない。そういうニンゲンは決まって人望がないものだ。そうである以上、やはりギィは金で雇われたのだろう。プロ意識の強い人物だと言えなくもないが、そこに俗物さを見ることは決して困難なことではない。


 やってやろうとは思わない。

 やれるさとは思う。


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