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4.誕生日

*****


 二人の暮らしは四年目を迎えた。プシュが心身ともに健やかに成長するあいだ、セスは「無職の男」を続けていた。カタギの仕事に就こうとは思わなかったし、金がある以上は働く必要なんてないわけだ。「働かざるもの食うべからず」とはどこぞの貧乏人の卑しい泣き言なのだろう。


 プシュはまもなく十八歳になる。大したことではないのかもしれないが――十八――理由もなく、その数字は特別であるように、セスには思えた。


 せっかくだ。

 プレゼントを用意しよう。


 下品な言い方をすると、金に糸目をつけるつもりはない。とにかく自分が「これがいい」と感じて選んだものを贈りたい。そう考え、プシュのお気に入りである「マキナ」――ブランドショップに足を運んだ。セス自身、自分の風貌はいささか「特殊」だと思っているのだが、店員の若い女はとてもにこやかに近づいてきた。「恋人さんへのプレゼントですか?」などと知ったふうな口を利いた。


 服の似合う似合わないはいまいちイメージが湧かない。アクセサリーなら問題がないだろうと考えた。「カタログがあります。お持ちしますね」とのこと。手渡され、それを開いた。ピアスにリングにネックレス。暗い世界の住人でしかないセスにはどの輝きもえらく眩しく映る。ぱらぱらとページをめくりながら、「プシュにはなにが似合うだろう」と真剣に考えた。これがいいと決めた商品は店にはないとのことだった。


「申し訳ありません。限定品なんです」


 だったらカタログにも売り切れの旨を記しておけと思った次第だが、店員が問い合わせた結果、「本店、セントラルにはあるそうです」ということだった。「早速、お取り寄せしますね」と言われ、しかしセスは断った。「自分で取りに行く」と言った。


「えっ、いいんですか?」


 いいんだ。

 どうせ暇を持て余しているのだから。



*****


 夕食――自宅のダイニングテーブルでプシュと向かい合いながら。


「あのね、セス、明日の話なんだけど……」


 言いにくそうにするプシュに、「なんだ?」と訊ねた。


「夜にね? ミゲルがパーティーを開いてくれるって……」


 ミゲル。どこで出会ったのか、それに何歳でどういう顔貌なのかは聞かされていないが、話からして、最近、プシュと非常に仲良くしている男であることは知っている。


 パーティー、パーティーだ。

 どうあれプシュが祝ってもらうことには大賛成だ。


 ミゲル。

 うまいことプシュの恋人におさまるような男であればいいのだが。



*****


 セントラル・シティへ――。目当ての品は首尾良く買うことができた。知り合いに顔を出していこうかとも考えたのだがやめておいた。いまの自分はセントラルのニンゲンではない。休業中でもある。早いところ帰宅したくもあった。


 小さな白い紙袋を助手席に乗せての帰り道。


 プシュは今夜、パーティーだと話していた。だったら物を贈るのは明日の朝になるだろうか。こういう場合、小さな寂しさくらいは感じていいのかもしれない――が、どんな後ろ向きな感情よりも喜びや嬉しさのほうがずっと大きい。十八を迎えた記念に朝帰りくらいしてもらってもかまわないのだ。プシュの幸せを早いところ確かめたいという思いは切実さすら伴っているのかもしれない。とっとと親離れしてもらえると助かるとも言える――否、じつはもう、プシュは一人で十二分に生きていけるのだろうか――そのうち、はっきり答えは出るだろう。


 片側一車線の長い長い直線道路。左右を林に挟まれている。この道を通るのは何度目のことだろう。また通るのだろうか。それとももう通らないのだろうか。ラジオから聴こえてくる、のんびりなカントリーミュージック。野暮ったさしか感じなかったはずなのに、なかなかどうして、いまは多少、心に響く。年を取った証左なのかもしれない。


 ――対向車線、前方から車、大きなトレーラー――横滑りするような格好で行く手を塞ぐ――完全に塞がれた。舌打ち。止む無く車道から逸れる。林の中を突っ切る――が、そのうち大木に正面衝突してしまった。ハンドルにしたたかに頭をぶつけた。皮膚が切れたらしく、血が額を伝う。無念。車は完全にオシャカだ。朝早く家を出たおかげでまだ日はある。ウエスト・シティも遠くない。


 新しい車は後日買うとして――しかたない。歩くか。


 歪んでしまった運転席のドアを、セスは強引に蹴破った。



*****


 プシュの帰宅は遅かった。といっても、日付けが変わる前だった。「ただいまーっ!」と元気な声を発しながら、急いた様子でぱたぱた近づいてきた。セスはソファの上で横になっていて、彼の顔をプシュが覗き込んできた。「ただいま、セス」と言い、にこっと笑う。ヒトを惹きつける、あるいは男を「その気」にさせるだけの威力を帯びた笑顔だ――と思う。左の肩に提げている大きな紙袋には仲間や友人からの祝いの品が入っているのだろうか。


「おでこ、どうしたの?」


 プシュが額の絆創膏に触れてきた。「なんでもない」と答えると、「心配です」。本当に心配そうな、あるいは不安そうな顔をする。テーブルを挟んだ向こう――一人掛けのソファに座っても表情は晴れない。心配性な一面もある。


「これはなあに?」


 不思議そうに首を傾げたプシュ。テーブルの上の箱に気づいたらしい――否、嫌でも目が行くだろう。細長く白い箱だ。装飾はされていない。本当に細長くて白いだけだ。シンプルな物のほうがいいと考えた。


 セスが「開けてみろ」と言うと、プシュは丁寧な手つきで箱を開け――。


「わあぁ」


 中身はネックレスだ。蝶を模したデザイン。小さくはない。あちこちにダイヤがあしらわれているから――計1カラット。


 プシュの感極まった表情――なんとも言い難い顔。込み上げてくるものがあって、涙をこらえているようにも見える。


 セスは「ハッピー・バースデー」を微笑みとともに伝えた。


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