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11.止まり木

*****


 サウス・シティのカジノ街――いっとう高いホテルの屋上――ナイトプール。「ダグラス・ファミリー」の女連中、たとえば構成員の女房やら多くの娼婦やら――が、両手で水を跳ね上げ遊んでいる。年に数度、フランクが彼女らの労をねぎらうべく大盤振る舞いするのだ。さすが、思いやりを知る男だ。彼のそういうところが、セスは嫌いではない。


 プールサイドにジョシュといる。スイートルームではファミリーの幹部らがカジュアルな会議を行っていて、その間、暇だろうからということで、フランクに「女の肌でも愛でていろ」と言われ、だから二人して突っ立っている。


「いい夜ですね。星がよく見える」


 どうやらジョシュは女にあまり興味がないらしい。

 バイセクシャルとの噂は事実なのだろうか。


「伺ってもかまいませんか?」


 言ってみろと、セスは答えた。


「どうして、またフランクさんのボディガードをしようと思われたんですか?」

 矛、あるいは盾しかできないからだ。

 だってそれしかやってこなかったのだから。


「ほんとうにそうなんですか?」


 ……いや。フランクが「親友」と言ってくれるから、そばにいたいだけなのかもしれないな。


 先程から女どもとプールで大いにはしゃいでいるプシュが、「セスーッ!」と両手を振ってみせた。セスは手を振り返し、すると隣のジョシュがくすくす笑った。


「まさか、異性を伴っていらっしゃるとは思いもしませんでしたよ」


 それはそうだろう。

 セス自身にとっても予想外だった。


 セスが「セントラルに戻る」と告げた折、プシュは「わたしも行く!」と即答した。積み上げてきたもの――仕事だったり友人だったり、そういった、ある種の財産を、プシュは気持ちよく放り出した。いよいよ殺し屋と関わるのだから危ない目に遭うかもしれない。永遠に続くものなどないのだから、好意だっていつか消え失せるかもしれない。そう警告した。しかし、「どうしても一緒がいいの」と強い眼差しで言うばかりだった。


「いいですよね、プシュケさん。とびきりです。セスさんにふさわしい女性だと思います」


 それは違う。

 どうしたって冴えない男に、プシュは絶対、もったいない。


 出会ったときは、まるで痩せ細った青虫で、弱くて、いかにも脆そうで、すなわち情けないだけの生き物だった。だが、プシュは自らの言葉と行動で道を切り拓いた。自分の力ですくすく育った。


 そして、やがてはさなぎになり、羽化に至り、綺麗な綺麗な蝶になった。あとはその大きな羽を使って、飛び立ってもらうだけだった。


 しかし、プシュは留まることを望み、選んだ。


 あの日、初めておたがいを求め合ったとき――初めて交わったとき、セスは左の目尻からひとすじ、涙を流した。「愛」を知ったような気がしたからだ。


 セスという男は止まり木だ。

 この世で最も美しい黄金の蝶の、永遠の止まり木――。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても素敵な作品でした。 「この世で最も美しい黄金の蝶の、永遠の止まり木」という一文が素晴らしいですね。 美しく育ったプシュケが、コツコツと育んできたすべてを投げ出してもセスと共に生きる道を…
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