11.止まり木
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サウス・シティのカジノ街――いっとう高いホテルの屋上――ナイトプール。「ダグラス・ファミリー」の女連中、たとえば構成員の女房やら多くの娼婦やら――が、両手で水を跳ね上げ遊んでいる。年に数度、フランクが彼女らの労をねぎらうべく大盤振る舞いするのだ。さすが、思いやりを知る男だ。彼のそういうところが、セスは嫌いではない。
プールサイドにジョシュといる。スイートルームではファミリーの幹部らがカジュアルな会議を行っていて、その間、暇だろうからということで、フランクに「女の肌でも愛でていろ」と言われ、だから二人して突っ立っている。
「いい夜ですね。星がよく見える」
どうやらジョシュは女にあまり興味がないらしい。
バイセクシャルとの噂は事実なのだろうか。
「伺ってもかまいませんか?」
言ってみろと、セスは答えた。
「どうして、またフランクさんのボディガードをしようと思われたんですか?」
矛、あるいは盾しかできないからだ。
だってそれしかやってこなかったのだから。
「ほんとうにそうなんですか?」
……いや。フランクが「親友」と言ってくれるから、そばにいたいだけなのかもしれないな。
先程から女どもとプールで大いにはしゃいでいるプシュが、「セスーッ!」と両手を振ってみせた。セスは手を振り返し、すると隣のジョシュがくすくす笑った。
「まさか、異性を伴っていらっしゃるとは思いもしませんでしたよ」
それはそうだろう。
セス自身にとっても予想外だった。
セスが「セントラルに戻る」と告げた折、プシュは「わたしも行く!」と即答した。積み上げてきたもの――仕事だったり友人だったり、そういった、ある種の財産を、プシュは気持ちよく放り出した。いよいよ殺し屋と関わるのだから危ない目に遭うかもしれない。永遠に続くものなどないのだから、好意だっていつか消え失せるかもしれない。そう警告した。しかし、「どうしても一緒がいいの」と強い眼差しで言うばかりだった。
「いいですよね、プシュケさん。とびきりです。セスさんにふさわしい女性だと思います」
それは違う。
どうしたって冴えない男に、プシュは絶対、もったいない。
出会ったときは、まるで痩せ細った青虫で、弱くて、いかにも脆そうで、すなわち情けないだけの生き物だった。だが、プシュは自らの言葉と行動で道を切り拓いた。自分の力ですくすく育った。
そして、やがてはさなぎになり、羽化に至り、綺麗な綺麗な蝶になった。あとはその大きな羽を使って、飛び立ってもらうだけだった。
しかし、プシュは留まることを望み、選んだ。
あの日、初めておたがいを求め合ったとき――初めて交わったとき、セスは左の目尻からひとすじ、涙を流した。「愛」を知ったような気がしたからだ。
セスという男は止まり木だ。
この世で最も美しい黄金の蝶の、永遠の止まり木――。




