三日月が満ちる時
誰かが、言った伝説がある。
―――『三日月が満ちる時、月の使者がやってくる』と。
その言葉は、かねてより信じられるようになった。
『月の使者』が、誰かも知らないで。
▫▫▫
「ねぇ、ばあちゃん」
モズリが、祖母に話しかける。
「なんだね」
「今日は確か、満月だったよね。今回は月の使者ってくるのかな」
祖母は考える。
「そうじゃなぁ。信じればいずれ来る、とでも言っておこうか」
その言葉に、モズリは頬を膨らます。
「いずれ、いずれって、ちっとも来ないじゃないか」
祖母は黙りこむ。
それを見たモズリは、不貞腐れて小屋の中に入った。
―――その日の夜。
モズリは、眠れずにいた。
どうしても月の使者が、気になったからだ。
小屋の外へ出る。
空のてっぺんに、真ん丸の満月が見える。
「今回も、来ないかな」
そう呟いた時だ。
月から、モズリの所に光が差し込んだ。
「……な、何?」
そう言うのも束の間、何人かの『人』がやってくる。
どこかの絵本で見た、『天女』みたいな格好をしている。
数人が集まったところで、一人が言う。
『わたくし達は、月人。今宵のお客様は、あなた様でございます』
そう言い終えた所で、残りの人達がモズリの腕を掴みかかる。
「ほ、本当に何?お客様って?」
言っている最中から、意識が遠退いて―――
「……モズリ、モズリ」
誰かに揺すられている。
眼を覚ますと、側に祖母が座っている。
「うなされておったが、大丈夫かえ?」
「……!」
モズリは飛び起きる。
そして、祖母の服を摘まんで揺する。
「……ぼ、ぼく、月の使者に連れていかれそうになった」
祖母は、頭を優しく撫でる。
「夢じゃよ。大丈夫じゃ、大丈夫じゃ」
それから、祖母は話してくれた。
月の使者は、想像から生まれた『空想の物語』って事を。
「それじゃ、ぼくが見たのは本当に夢だってこと?」
祖母は頷いた。
モズリは、安堵したように再び眠りについた。
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『三日月が満ちる時、月の使者がやってくる』
『その姿を見たものは、月へ連れて行かれて』
『三日三晩、施しを受けるだろう』
『しかし、二度と地上へ戻されない身となるであろう』