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48話 最終段階

「ウソ、だろっ……?」


 俺は目を見開いた。倒れるニーニャとスペラ、魔王に首を掴まれるレイア姫。俺が勇者アークを助けるために抜けてしまった10秒やそこらの間に、形勢は一気に傾いている。


「ニーニャっ! スペラっ! ──姫ッ!」


 全力で魔王に向かって駆ける。そして槍を向けて最速のスキル『雷影』を放つ、がしかし。


「ふんっ! 技のキレが無いな!」

「なっ⁉」


 魔王を守るように立ちはだかったガドゥマガンによって容易く弾かれる。


「どんなに速かろうが、そんなに心が乱れてちゃあ軌道(きどう)予測も簡単ってもんだ!」

「邪魔すんじゃねーよッ!」


 早く、俺は早く姫や仲間たちを救わなければならない。三邪天ごときに時間を取られているヒマなどは微塵もなかった。『流水千本突き』、『雷影』、『クアトルデント・フォーサー』。俺は次々とスキルを繰り出した。


「グゥッ……‼ 効くぜェッ! だが、魔王様には手を出させはしねェッ!」

「クソッ! どけぇッ!」


 何度も何度も攻撃を繰り返すが、しかし。ガドゥマガンは防御に徹してひたすらに時間を稼いでくる。


「ガドゥマガンよ、この場は任せたぞ?」

「へっ! この命が尽きるまで粘ってやりますよ!」


 魔王はそう言い残すと宙高くへと飛んでいく。レイア姫を連れて、中庭を飛び越えて玉座の間のある城の頂上めがけて飛んでいく。


「まっ、待てッ!」

「おっとォッ! 行かせるかよォッ!」


 魔王の後を追おうとするも、しかしガドゥマガンが俺の前から立ちはだかって離れない。


 ……このままじゃマズい! 魔王カイザースは『計画の最終段階』と言っていた。それがゲーム上のシナリオと同じだとすれば、すでに魔王は【太古の魔本】を入手しており、レイア姫に秘められた力を使用して【太古の魔術】を発動しようとしているということだ。


「キサマは行かせられねェなァ。魔王様の計画達成まで時間を稼がせてもらうぜェ!」

「クッ……!」


 ……俺が魔王を追うにはコイツをどうにかしなきゃならない。だけどそれには大なり小なり時間がかかる。

 

 ゲーム上では、勇者は魔王が【太古の魔術】を発動する直前、間一髪でレイア姫を取り戻していたため、実際に発動はしていない。だが、その際の魔王の行動を思い返す限りでは、恐らくその魔術を発動するまでの時間はそうは掛からなかったはず。どうする? どうすればいいっ?


「──『クリティカルバッファー』、『身体能力向上+』」

「ウッ⁉」


 唐突に、スドン! と大砲のような音が響いたかと思うと、ガドゥマガンの体が横へと吹き飛んだ。そしてそのまま勢いよく王城の壁へと衝突して、ガレキの下へと埋もれる。

 

「ニ、ニーニャッ!」


 俺の前に、透明にしていたらしいニーニャのその体が徐々に現れていた。何かを蹴り飛ばしたかのような体勢だ。今のガドゥマガンへの一撃はニーニャがやってくれたに違いなかった。


「良かった……無事だったのか!」

「まあね、なんとか……」


 恐らくスキル『気配遮断+』で潜みながら近くまでやってきたのだろう。見れば、つい先ほどまでニーニャが倒れていたはずの場所には身代わりらしきガレキが転がっていた。


「くっ……」

「ニーニャっ⁉」


 ガクリ、とニーニャが膝を着きそうになるので支える。その時、首の(えり)のすき間から見えた背中は青く腫れ上がっていた。それによく見たら利き腕の右腕も満足に動かせない様子だ。


「お前、大怪我してっ……!」

「あの魔王とかいうやつ、別格だったわ。アタシやスペラじゃ歯が立たない……!」


 よろめきながらも、ニーニャは俺の肩に手を置くと城のてっぺんを指さした。


「行って、今のうちに」

「はっ⁉ いやでも、それじゃあ……」


 ガラガラと城の壁のガレキを崩して、ガドゥマガンが立ち上がるのが見える。ヤツのレベルは45だ。現在レベル41であり、さらには手負いのニーニャが敵うとは思えない。


「バカ! 迷ってんじゃないわよッ! 親衛隊でしょッ? 隊長のアンタが行かなくて誰がレイアを守るのよッ⁉」

「っ‼」

「行ってきなさい。ガドゥマガンはアタシが倒す」

「ニーニャ……」

「大丈夫、死ぬ気はないわよ。信じて」

「……スマン、頼んだッ!」


 俺はそれだけ言うと魔王が飛んでいった方をめがけて走り出す。


「待てェッ!」


 後ろからガドゥマガンの声。しかしヤツは追ってこない。代わりにガキンッ! といった鉄を削るような音だけが響いて聞こえる。きっとニーニャが命がけで足止めをしてくれているのだ。

 

 俺は振り向かず、乱戦の繰り広げられる中庭を駆け抜けた。

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