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4:ボクの正体みたい

「悪かった! 何が何だか……」

「それどころじゃないよ」


 平謝りする《青白き爪》、それにいまだにぼんやりしている2頭をボクは無視した。

 鐘の音が何を知らせるのかわからないけど、福引きで大当たりが出たってわけじゃないのはわかる。なにか異変が起こったんだ。


「この鐘は……何が起こっているの?」


 アレクシアははた目にもわかるくらい動揺している。この状況を理解しているわけじゃなさそうだ。だとすると、ボクじゃなくて他の原因か。

 放置して雅を助けに行きたいと思ったけど、雅には勇者の力もある。大丈夫だと自分に言い聞かせる。それにドラゴンの心臓を使われると面倒だ。

 ボクは怯えた様子でキョロキョロしているアレクシアに飛びかかった。反応できないでいるアレクシアの胸元に前肢を伸ばした。

 一瞬だった。

 恐怖に顔を歪めたアレクシアが身を引くより早く、ドラゴンの心臓にボクの爪が触れた瞬間、強烈なイメージが眼前に浮かんだ。

 まるで目の前に大画面のスクリーンが出現して、早回しで映像を見せられたようだ。時間にしては数秒だっただろう。アレクシアが飛びずさってドラゴンの心臓をつかんで抱え込むまでの時間しかなかったから。でも、ボクが見た映像はそれこそ数十年、いや、数百年もの内容だった。どれだけ圧縮されていたのかわかるだろう。脳内には流れ込んできたけど、まだ画像は解凍されていない。さわりだけ見たようなものだ。それでも、どれだけ意味のあるものかはわかった。

 これはドラゴンの歴史だ。

 そして、その中でのボクの位置づけ。正確にはボクの種族。

 ボクはドラゴンの中のドラゴン、古代から続く神祖とも言える種族だった。そうだ。雅が引いたガチャの中で、ボクが拾って渡したのはエンシェントドラゴンという種類だったっけ。


「王女殿下!」


 膨大な情報を消化できないでぼんやりしている間に、兵士たちが駆け寄ってきてアレクシアを守る。

 飛び道具のない兵士ならなんとかなる。しかし、ここで時間をかける気にはなれなかった。


「逃げたかったら逃げていいよ」


 ボクはまだ状況を把握できていない《青白き爪》たちに告げると、翼を広げた。

 と、《青白き爪》が驚いた声を上げる。


「おい、おまえ、ちょっと大きくなってねぇか?」

「そう? 自分じゃわからないな。じゃあ、ボクは行くから」


 羽ばたき、風を床に打ちつける。突風を食らったアレクシアは護衛の兵士立ちと一緒に飛ばされた。


「こ、この私を傷物にするなんて! 許さないわ!」


 尻もちをついて我に返ったアレクシアがボクをにらみつけていた。

 女の子を傷物にしたなんて人聞きが悪いな。雅が訊いてたら誤解するじゃないか。ちょんとさわっただけだろ? しかも、ドラゴンの心臓は奪えなかったんだし。


「あなたの血をこのドラゴンの心臓に吸わせるまで追いかけるわ! どこまでも!」


 そんなしつこい追っかけは遠慮するよ!

 ボクは羽ばたいて一気に舞い上がった。筋トレの効果は抜群だ。ついこの間までは崖から飛び降りて滑空しないと飛べなかったのがウソのようだ。筋肉は裏切らないって本当らしい。

 飛んだはいいけど、雅がどこに連れていかれたのかわからない。高いところから見ようとさらに高く一気に昇る。

 中層の発着場まで来ると、龍騎士たちが慌ただしく離陸準備をしているのが目に入った。全員武装して物々しい。

 さっきの鐘の音を思い出して、襲撃されているのかと確認して驚いた。

 リザードマンが森林から大挙して襲撃しているのが見える。さらに城内に見たことのない甲冑姿が見え、兵士と戦っている。

 城に侵入を許してしまったらしい。ダメじゃん。

 他人事のように言うけど、まあ、関係ないもんなぁ。

 それにしても、どこの兵士だろう? 雅から聞いた話じゃ北西側に帝国があるらしい。他の国の話は聞いたことがないから、多分攻めてきたのは帝国なんだろう。それにしたって、えらく簡単に侵入されちゃったなぁ。

 そんなことを考えながら飛んでいると、上層の発着場に続く城の廊下でドラゴンとワイバーンが飛んでいるのが見えた。

 黒いドラゴンと赤いワイバーン。どっちも成体だ。乗り手もいる。

 ワイバーンが炎を吐き出すのを見て、思わず声を上げてしまう。初めて見たのだ。

 知識としては炎を吐き出すドラゴンがいるのは知っていたが、初めて目にしたからだ。

 が、ワイバーンの足に人がつかまれているのに気づいて興奮が冷める。

 雅だ。

 雅が肩をつかまれている。あのつかみ方だと、爪が食い込んでいるはずだ。

 それを見た途端、怒りがこみ上げてきた。


「雅を放せーっ!」


 ボクは雄叫びを上げながら2頭の元へ飛んだ。


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