【9話:知られざる真実】
「はくれーい」
「え、九十九?なんでここにうがっ!?」
手を振りながら近付いてくる少女に、突然頭を殴られる。
「アンタ、どういう事か説明しなさいよ。あの時、本当は手抜いてたんでしょ!?」
鬼の形相と化し、拳を見せつけてくる少女に対し、魄麗は目線を逸らす。
さっきまでボスゴーレムを倒した人とは別人みたいだ。
「いや、その……ご、ごめんなさい。だって手抜かないと、すぐ決着ついちゃうし」
バチンと甲高く叩かれた音が廊下に鳴り響き、少女は青年の頬に赤い手型を残していき、ドスドスと歩いていく。
「ほら、さっさと司令室行くわよ!」
そう言われ、魄麗も腰を上げてついて行く。
司令室と書かれた名札の扉の前まで着き、黒服の男が口で着いたことを言うと、扉は自動で開いた。
「では、私はこれで」
「ありがとうございます」
少女は黒服の男に礼を言って、青年より先に入る。
「それと魄麗様、くれぐれも言動には気をつけて下さいね」
青年の肩をつついて、耳元で忠告する。
そうすると青年は、手の平を上に向けて肩を一瞬すくめる。
それを見た黒服の男は溜息しながら、奥のエレベーターに戻って行った。
「初めまして、九十九さん。まずは合格の祝言を。おめでとうございます」
「は、はい。ありがとうございます」
少女は緊張して返す。
司令官というのだから、てっきり険しい顔をした厳つい男性だと思っていた。
しかし実際は水色の綺麗な髪を腰まで下ろした、気品溢れるオーラを纏う可憐で美人な女性なのでした。
「アンタと言い、この方と言い…この世界は美人が多いのかしら」
「ふふ、お褒めの言葉嬉しいです。それでは早速説明へと参りましょうか。魄麗にはまだ何も聞かされてないのでしょうし」
女性は室内にある、高価そうな机と椅子の方へ手をやり私達が座ると、対面になるよう彼女も椅子に腰掛ける。
「まずは自己紹介からしましょう。私は比張宇夏と言います」
自己紹介を終え、宇夏はこの施設が何なのか、零部隊が何の目的でどう作られたのかの経緯を私達に説明した。
「この建物は臨時特別執行機構と言われる、国際組織に属するものです。その中でこの建物の主な役割は、臨時な国際問題に対して軍事的処置を施す事にあり、総じて特別軍事作戦隊本部と呼ばれています」
意味の分からない単語が次々と連なり、理解に苦しんでる中で説明は止まらずに続く。
「特別軍事作戦隊、通称O.G.は壱番隊〜伍番隊と幾つかに分けられます」
……?おかしい。
彼女が説明している中である疑問が浮かぶ。
壱番〜伍番までならば零部隊は一体何になるんだ?
少女は頭を悩ませ、チラッと退屈そうに聞く魄麗の方を向く。
「零部隊は一応O.G.に部類されるのですが、特別な経緯があってこの建物でも、極僅かな人にしか認知されていません」
女性は机の上に置いてあるコップに紅茶を淹れ始め、私達に紅茶を勧める。
彼女は手元にあるコップを持ち上げて、優雅に飲み始める。
「前から神隠しに遭った人が出現される事件が頻繁に発生しています。私達はその原因について研究し、近年漸く分かったのです。
それが世界を象る力を宿る「アナム」の力が不安定な状態となり、この世界の存在自体が揺らいでしまっているのです」
女性が険しい顔で話す一方で、少女もまた手を組んで真剣な顔で聞いている。
話が急に壮大になり過ぎよ!!!?
否、違った。
少女はこの世界が滅亡の危機に陥ってるという話を聞いて、内心零部隊に入った事を後悔し始める。
恐らくだが、零部隊の任務というのは世界を救う事なんだろう。
本当に零部隊に入って、元の世界に帰れるのだろうか?
そんな余裕あるのか?
色々と不安要素が浮き彫りになっていく現状に、焦りと不安が入れ混じる。
「零部隊はそのアナムの力を安定させるのが目的で作られました」
…やっぱり、そうだ。
少女の予想が的中する。
「そしてこれは貴方の世界にも影響を及ぼす事態なのですよ」
「え?」
私の世界にも影響が及ぶ。
彼女の発した言葉にまた疑問が浮かぶ。
彼女はまるで、私たちの世界を知ってるような口振りで言ったのだ。
「ちょ、ちょっと待って。私の世界にも及ぶって、私がいた世界を知ってるんですか!?」
私が彼女に飛び掛るように机に手を置き、顔を前に出して言うと、彼女は私を落ち着かせようとする。
そして彼女は私が何も知らない事を知ったのか、魄麗の方へ睨みつける。
「言えない決まりだろ?」
司令に対して片手でヒラヒラと振って、気だるそうに言う魄麗。
彼女は長い溜息をしてから、再度口を開く。
「先程の続きですけど、この世界は元々1つの世界から分裂してできたものです」
少女はその言葉が耳に入った瞬間、気が遠くなる感覚を覚える。
紅茶を一息で飲み干し、長く息を吐きながら早くなる鼓動を一度落ち着かせようとする。
「すみません…続けてください」
少女が説明を中断した事を詫びると、彼女は再び口を動かした。
そして度々補足されていきながら、説明は一時間続いた。
「……」
目を開き、口を結びながらずっと下を向く少女。
「だ、大丈夫ですか?」
「……はい」
こくこくと小さく頷くが、未だ死んだ魚の目である。
少女は頭の中で説明された内容を簡潔にまとめる。
・この世界は第二世界といい、私達がいた世界は第一世界と呼ぶ
・第二世界のアナムの力が消失すると、第一世界と第二世界は、分裂する前の世界に戻ろうと繋がるが、それは滅びを意味する。
・この事態を大異変と呼び、零部隊はそれを解決する為にアナムの力を取り戻す組織。
・アナムは五つ存在し、力を取り戻すには発掘された古代神殿に供養して、五つ全て力を元に戻さないといけない。
・神隠しに遭った者は、アナムの力を感じ取ることができ、アナム収集には欠かせない。
「長い旅になりそうね……」
遠く見つめながら、今後の活動を想像して途方もない時間がかかる事を予見する。
「これで説明終わりです……が」
全ての説明が終わり、一段落つこうとしたところで、少女の横でぐっすりと鼻ちょうちんを作りながら寝る1人の青年に目をやる。
「いい加減にしなさい!!!」
バン!!!
彼女が机を思いっきり叩くと、青年の鼻ちょうちんが割れ、目を覚ます。
「チッ」
「舌打ちすんな!あんた、なんで毎回毎回私に対してそんな態度悪いわけ!!?」
席から立って大股で青年の方へ歩き、指先を青年の胸に押し付けながら怒声する。
「一度聞いた話だ。2回も聞く必要ないだろ?」
「だとしても、聞く態度ってもんがあるでしょうが!」
青年はまたもや短く舌打ちし、そっぽを向く。
「うっせぇな。保護者面すんなよ」
「ちょっと魄麗!」
あまりにもの魄麗の悪態を見て、少女も注意しようとしたがその前に、涙目になりながら眉間に皺を寄せている彼女が目に入った。
「なんで、魄麗はいつも……」
拳を固く握って気を張ってるが、彼女から発する言葉は震えて聞こえた。
彼女はそっぽを向く魄麗に対し、強く睨みつけてから席に着く。
「……説明は以上です。本題はここからです」
彼女は目を白いハンカチで拭ってから言い、私達に席に座るよう催促する。
「本題?」
「はい。アナムの収集調査についてです」
彼女が低い声で話すと、魄麗の顔が今までのぞんざいな態度とは打って変わって真剣になる。
私はこの緊迫とした2人と同様、唾を飲んで顔がやや力んだ。