【第8話:隠される真実】
ドームから出ると魄麗ではなく、黒色のスーツを着た男性が待っていた。
「試験合格おめでとうございます。司令がお待ちしておりますので、司令室までご案内致します」
黒服の男は丁寧な口調で一礼する。
しかしこの場に魄麗がまだいない事に疑問を感じ、司令官の会う前に魄麗の所在を聞くことにした。
「その前に銀髪で犬耳の青年をご存知ないですか?用があると言って、まだ帰ってきてないのですが」
「魄麗様ですね。司令に確認するので、少々お待ち下さい」
黒服の男は人差し指と中指をこめかみに当て、何かブツブツと口を動かす。
会話が終わったのか、黒服の男は一礼してこちらの方へ体を向ける。
「お待たせしました。司令から許可を得ましたので、魄麗様のいる能力測定室までご案内致します」
そう言って黒服の男は、この部屋の入口側と真反対の方向へと歩き始めた。
「ところでその能力測定室って何なのか、説明して貰っても?」
「能力測定室とは実際に、室内で何体かの魔物と戦ってもらい、室内に配置された複数の測定器によって身体能力や魔力量などを測ります」
「へぇ…。意外とハイテクなのね。でもなんで魄麗がそんな事を?」
「おや、聞かされてないのですか?」
「?」
「でしたら、これ以上の事は言いかねます。魄麗様から後に教えて下さるでしょう」
黒服の男は魄麗が、私に何かしらの理由で隠してる事を察して何も言わなかった。
やっぱり魄麗は何か隠している。
なぜ言ってくれないのかと信じてるとはいえ、些か腹の虫が悪くなる。
「魄麗様は決して貴方に隠している訳ではございません。言えない決まりとなっているのです」
顔に出てしまっていたのか、黒服の男は私の顔を見てそう言った。
私もその事を聞いて、少し悪い事をしてしまったと心の中で反省する。
チン
ベルが鳴り、階数のアナウンスと共に扉が開く。
「魄麗様のいる能力測定室は、奥のブロックとなります」
そう言われるがままに真っ直ぐと進んでいく。
周りは床と天井以外ガラス張りで出来ており、そこから見下ろす形で、中で人が魔物と戦っているのが見える。
見慣れない光景に圧巻されている途中、黒服の男の足が止まる。
横に設置されたパネルにカードを当て、機械音と共に扉が開いた。
更に奥に進んで行くと、見覚えのある後ろ姿が見える。
「まだ開始されていないそうですね」
「魄麗!……にあのゴーレムは?」
岩肌に人型、ゴーレムで間違いないのだが、試験で戦ったゴーレムとは形が異なっている。
「あれはゴーレムの上級種、ハイゴーレムですね」
「上級種!?上級種のゴーレムが五体もいるじゃない!」
上級種ということは、あれほど私が苦戦を強いられたあのゴーレムより強いということ。
それを五体だなんて…………。
【戦闘を始めて下さい】
天井に設置されたスピーカーからアナウンスが聞こえ、ガラス越しから魄麗を見る。
魄麗は歩き始めて徐々に加速し、ハイゴーレム達に向かう。
するとハイゴーレムは魔法で稲妻を放った。
ハイゴーレムが放つ稲妻は凄まじい閃光を発して魄麗の方へ向かうが、魄麗はそれを難なく躱していく。
その躱された稲妻がそのまま後方の壁にぶつかり、轟音と共に振動がこちらまで伝わってきた。
「なっ!?試験の時のゴーレムよりも魔力が桁違いじゃない!」
威力の高さに驚くのも束の間、残りのハイゴーレム達が岩、炎、水、風とそれぞれ違う魔法を発動させ、一気に魄麗に当たる。
「魄麗!!!」
爆音と共に煙が周辺を覆い尽くす。
「ちょっと!能力測定にここまでやる必要ある訳!?」
やり過ぎだと怒りの矛先を傍で見ていた黒服の男に向ける。
すると黒服の男は、落ち着いた口調で私に向かって言う。
「測定にハイゴーレムを使うという事は、それほどに魄麗様の実力が、通常よりも逸脱してるという事他なりません」
ほらと煙幕の方へ指を刺す。
私は目を細めて凝視していると、煙の中からふらりと影が現れる。
そして煙はその影を避けていき、影の正体を露わにさせた。
「な、なんで?」
ゆっくりと歩くのは先程一斉に攻撃をくらった魄麗だったが、見る限り魄麗の足先から頭部にかけて、傷一つ見当たらなかったのだ。
その時、一瞬ドンと大太鼓を叩くような鈍く低い音が聞こえる。
またもやハイゴーレムの攻撃かと思い、視線を移す。
「…………え?」
二体、ハイゴーレムが地面に倒れている。
しかも切り刻まれた様にバラバラに。
そしてハイゴーレムの周りで何かが蠢いているのを微かに目で捉えた。
三体、四体と次々と倒れるゴーレム。
そして歪曲に宙を舞う銀色が、最後の一体に迫る。
ガァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!
呻き声と同時に魄麗は勢い凄まじく、飛ばされるが空中で体勢を立て直す。
「なにあれ……」
ゴーレムが放ったのは魔法ではなく、単なる咆哮による衝撃波だった。
「おそらく、あれはボスゴーレム。ゴーレムの中でも最上種とされるものです」
感嘆とし、黒服の男はゴーレムの正体について解説する。
「なんで測定にそんなやつ使うのよ!?」
いくら何でもやり過ぎだろと言わんばかりに喚き出す少女。
魄麗の身の心配をし始め、ガラスにへばりつく様に中の様子を伺う。
先程の衝撃波で室内の端近くまで飛ばされていたが、埃を被った程度で外傷はなかった。
ほっと安堵して胸に手を当てるが、状況は何一つ変わっていないと改めて気を引き締める。
「魄麗……」
少女は心配そうに見つめる。
するとあのゴーレムが魄麗目掛けて猛進してきたのだ。
物凄い速さで迫るボスゴーレムは、既に魄麗との距離を十数mまで近づく。
魄麗は未だ突っ立っているままで、ずっと迫り来るボスゴーレムを見ているだけでいる。
距離は既に数m。
目と鼻の先の距離だ。
「魄麗!!!」
ぶつかる。
そう思った時だった。
消えた。
さっきまでボスゴーレムの目の前にいた魄麗が、姿丸ごと消えてしまったのだ。
ズガガガ
ボスゴーレムの胴体が、真ん中から滑り落ちた。
一体何が起こったのか分からずに困惑するが、魄麗がボスゴーレムの後ろにいたのを確認すると、瞬時に理解出来た。
「き、斬った……」
魄麗は鞘から刀を抜くとこからボスゴーレムを両断するまでを、あの一瞬でやってのけたのだ。
ゴーレムが遅かった訳では無い。
見た感じでは自動車と同じ速さで迫っていた。
そして実際にゴーレムを斬った私なら分かる、ゴーレムの岩肌の頑丈さを。
それをましてやゴーレムの最上種と言われる奴の胴を、紙を切るが如く、いとも容易く斬り伏せてみせた。
その神業とも言うほどの美しい技に見惚れ、感激するが、ある事が思い浮かぶ。
「……あの時、手加減してやがったのね」
何時ぞやの真剣勝負で手を抜かれた事に気付き、眉間にシワを寄せる少女であった。