表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/Replacement  作者: 勘文 茅式
7/9

【第7話:最後まで】

「うわっ暑っ!」

ドームの中は熱帯森林の様になっており、これが全て魔法だとは直ぐに信じられなかった。

ぐちゃ

何か柔らかいものを踏み潰した感触がし、悪寒を感じる。

恐る恐る足元を見ると、そこにはうんこがあった。

空間だけじゃなく、こういうのも再現されるのかと少女は感心する。もちろん、皮肉の意味で。

「ご丁寧によくできてるわ」

地面でこびりついた糞を払って、中を物色する。

【これより、試験内容を説明します】

上から女性の声が聞こえ、その場に踏み留まる。

【試験は時間内にゴーレム三体を倒し、魔鉱石を手に入れます。時間内に魔鉱石を手に入らなかった場合、若しくは戦闘不能状態となった場合は、その時点で永久失格となります】

淡々と説明が進められる中、永久失格という言葉に引っかかる。

この試験に失敗すれば、もう私に元の世界に戻る手段が無くなる。

そう思うと、またもや私の体は縛られるように堅くなっていく。

だけど、これには既に慣れている。対処法も知っている。

深呼吸をし、心を落ち着かせる。

「大丈夫、私は1人じゃない」

目を開き直し、試験開始を待つ。

【試験開始まで、あと5秒前】

カウントダウンが始まり、構え始める。

いつでも、何が来ても動けるように脚に力を入れる。

【試験開始】

アナウンスと共に警笛音が鳴り響く。

音は次第に消え、昆虫と鳥の声しか聞こえなくなる。

……来ない。

目を閉じ、全感覚を研ぎ澄ます。

葉が靡く音、昆虫や鳥の鳴き声、風、水など雑音が四方八方に絶え間なく発せられている。

しかし微かに雑音の中に聞こえる不協和音。

「そこ!」

振り向き、音の正体を目の当たりにする。

敵も見つかったからか、先程の慎重な動きとは真逆に、飛びかかり噛もうと牙を見せる。

バシュッ!

素早く刀を抜き、正確に敵の首を切り落とす。

血と共に地面に着いた首を見ると、目が赤くて口元が大きく裂けた狼だった。

「どこぞのゾンビ犬よ」

どこかで見た事のある風貌に気を取られていると、後方からさっきより多い音がした。

先程切った狼と同じ狼の群れが来ていた。

ガルルッ

喉を鳴らし、こちらを睨む。

「来なさい」

刀身に付いた血を振り払い、腰を低くする。

すると狼達が一斉に走り出し、こちらに全速力で襲いに来る。

数は20……いや30程か。

自分をそのまま丸呑みできるほど大きく口を開け、鮫のように無数に生やした鋭利な牙を剥き出す。

狼達の猛攻を右へ左へと次々と躱していき、頭、首、心臓や肝臓、的確に致命傷を与えて殺していく。

ジュゥ

「っ、!」

肩に奴らの唾液が付いたようで、付着した部分が焼かれて穴が空く。

「これはうかうかしてやれないわね」

地面も自分と奴らの足跡のせいで、次第に荒れていき足元が不安定となる。

長引けば長引く程こちら側が不利だ。

それにこの先ゴーレムも倒さなければならないと考えれば、これ以上に体力を消耗させる訳にはいかない。

少女は高く飛んで、狼の群れ全体を目で捉える。

円時雨まどしぐれ!!」

魄麗の時に使った円状の斬撃を放つ技。

その斬撃が次々と狼達を切り刻み、やがて辺り一体が赤く染まっていく。

1匹残らず肉の残骸と化した事を確認し、奥の方へと走り出す。

上空を見上げ、試験終了までの時間を確認する。

「残り5分……」

未だゴーレムに遭遇できていないという焦燥感に駆られる。

速度を上げ、気配のする方向へと向かう。

森林を抜けて平野に出る。

すると岩肌をした人のような形をした三体がいた。

「あれがゴーレム……一気に三体とはラッキーね」

探す手間が省けたのはでかい。しかし違和感を感じる。

試験であればバラけさせるのが道理なのに、なぜしないのかが頭に引っかかる。

残り4分。

考えても時間は待ってくれはしない。

「一気に片付ける!!!」

勢い良く地面を蹴り、風を切る。

そして両手で刀を持ち、勢いに任せて大きく左から右へと振りかざす。

「取った!」

勝利を確信した瞬間だった。

腹に強烈な衝撃が走り、そのまま後方へと転がっていく。

「がばぁっ!!?」

何が起こったのか。確実に取った一撃だった。

即座に顔を上げ、状況を探る。

すると一体のゴーレムが合掌をし、地面から拳状の岩を出現させていた。

「チッ、魔法使い」

自由自在に岩を作り出すのは厄介だと判断し、そのゴーレムに目掛けて駆け走る。

ゴーレムも少女の動きに反応し、次々と岩を出現させるが躱され続けられる。

そして目前まで距離を縮めると、今度は囲むように複数の岩を出される。

「馬鹿ね、こっちよ」

既に防がれるのを見越し、ゴーレムの背後に回り、一太刀で胴体を両断する。

そのままゴーレムの上半身はゴロと落ち、静止する。

「まずは一体……!」

次に左にいたゴーレムを倒そうと目線を向けた矢先、顔面に風の当たる感触がした。

少女は咄嗟に躱したが、今度は胴体目掛けて蹴られる。

体を即座に移動させ、衝撃を和らぐ。

それでもみぞおちを軽く殴られた鈍痛がし、呼吸が乱れかける。

「……」

たった連続の二撃で伝わる、手練た身のこなしに冷や汗をかく。

魔法を得意とするゴーレムに、肉弾戦のゴーレム……となれば、もう一体の方はきっと……。

そう考えていた時、両断して倒れたゴーレムが、眩い光と共に起き上がっていく。

「これで合点がいったわ」

ゴーレムをバラかせず、三体一緒にさせた理由はこれだ。

一体だけではそれ程強くないゴーレムだが、明確に役割が決められた三体で一緒にすれば、バランスが良く、連携の取れた攻防ができるという訳だ。

残り2分。

もう時間が無い。

惜しまず、全てを出し切るしかない。

「慣れてないし、上手くできないけど一か八かか!!」

この半年間、何も身体能力を高めただけでは無い。

魔力の使い方もみっちり魄麗に教えこまれた。

魔力は何も魔法だけに使うものではなく、魔力を全身に巡らませ、身体を鋼のように固くしたり、身体能力を底上げさせる使い方もある。

私の場合は魔力ではなく霊力という、魔力とは違った系統の力らしく魔法は使えない。

だから身体強化に専念することになったのだが、身体強化は緻密な力の操作が必須な訳で、結局修行終わり際まで習得が間に合わなかった。

目を閉じ、体全体に巡る神経、血管諸共全てを感じ取る。

そして徐々に霊力を体の中心部から出し、血液のように全身に巡らせるイメージで、五体均等に分散させていく。

「出来たわ!!」

全身が少し熱く感じるが、身体がさっきまでとは大きく変わって軽く感じる。

なんでも出来てしまうような高揚感で、頭がいっぱいだ。

ドッ!!

思いっきり踏ん張ると、踏み込んだ場所から地面が割れた。

「まずはお前!!」

飛びかかって治癒ゴーレムを斬り込もうとし、刀を振る。

バラバラ

と小間切れにされたゴーレムの破片が飛び散る。

他二体のゴーレムは漸く反応を開始させ、一体は少女に殴り込む。

「遅い」

空中で体を捻りながら、ゴーレムの腕を切断する。

そして背後に着地し、突撃しようとしたが地面から岩が飛び出し後ろに回避する。

残り1分を切る。

ガァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッッッ!!!!

ゴーレム達が雄叫びを上げ、目を光らせた。

同時に無数の岩が、今までとは比べ物にならないどの大きさで少女に迫る。

もう一体のゴーレムも繰り広げられる岩に負けじと猛進してくる。

少女は迫り来るものお構い無しに、全速力でぶつかりにいく。

次々と襲ってくる岩を躱し、斬っていき、着々と距離を縮めていく。

そして躱しきった直後、叫びながら猛進するゴーレムと合間見える。

ゴーレムの拳を避けながら、強烈な回し蹴りを浴びさせる。

ゴーレムは数十メートル、空に浮きながら吹っ飛んでいき、少女は尽かさず追撃を狙う。

しかし横から巨大な岩拳が少女を吹っ飛ばす。

「がっ……!!」

吹っ飛ばされる中、残り時間が30秒を切った事を確認し、体勢を立て直す。

少女は、吹っ飛んで未だ伏せているゴーレム目掛けて走る。

岩が絶え間なく立ちはだかるが、何とか辿り着きゴーレムを背負い、魔法ゴーレムの方へ走り飛ぶ。

案の定、さっきまで放たれ続けていた岩の猛攻が止まる。

グァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!

「うっさいわね。耳元で叫ぶんじゃないわよ」

背負っていたゴーレムが叫び、もがき始めた時、少女は地面を滑り、勢いを殺すとゴーレムを前に投げ飛ばす。

ガッとそのまま魔法ゴーレムに衝突し、二体が重なり始め、

「奥義:指矢針ししばり!!!」

少女は刀を二体諸共に突いた。

それと同時にゴーレムの体に大きく穴が空き、魔鉱石が2個転がり落ちる。

バッと空を見上げる。

「時間は!?」

0.0000

計時器は0を連なっていた。

「そん……な……」

膝で地面を叩き、血が滲み出る。

口を震わせ、目は瞬きするのを忘れたかのようにずっと開き続ける。

「あ……あぁ……」

耳鳴りもし始め、少女は頭を抱える。

終わった。

その言葉だけが、今頭の中にある。

前が見えない。何も見えない。

まるで真っ暗のように、周りが見えなくなっていく。

できなかった。何も、できないまま終わるのか。

無心で地面を強く打つ。

鼻から、目から、口から穴という穴から溢れ出て、地面を濡らす。

……。

………。

…………………。

【鑑定の結果】

…………?。

ふとアナウンスが聞こえた。

「え…………?」

【映像鑑定により、ゴーレムが倒された際の残り時間は0.0018秒です】

「え、え……え?」

【四苑九十九を合格とし、試験を終了致します】

「あ、、、」

頭の整理が追い付かず、上手く聞き取れなかった。

だけど、これだけははっきり聞こえた。

「合格」

終わりという言葉が頭の中で永遠に流されていたのが、次第に消えていく。

それにつられて身体が起き上がる。

そして拳を上にあげて、言う。

「やっったわ!魄麗!私、やったわ!!!」

顔が涙でぐちゃぐちゃのまま、少女は歓喜した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ