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2/Replacement  作者: 勘文 茅式
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【第5話:糧と成りて】

「いよいよ明後日か」

カレンダーで丸の付けてある日にちを見る。

「九十九?そろそろ始めるぞ〜」

「うん、今行く」

明日は1日休むということで、今日が修行の最終日。

そして魄麗と全力で戦える日でもあり、自分がどれ程成長したか、それが試せると思うと全身がくすぐったくなるのが分かる。

「九十九、この半年間どうだった?」

口をニヤけさせながら問う魄麗。

「酷い日々だったわ。雨でも嵐でもやるし、毎日泥まみれ。全身筋肉痛でも、体中からギシギシ聞こえてもアンタはお構い無しに叩き潰しに来る」

これまで過ごした過酷な日々を思い返す。

本当に散々だった。何度も死にかけたし、何度も泣いた。

だけど…

「悪くなかったわ!」

これまで生きてきた中でも、1番充実していたのは間違いなかった。

辛いよりも楽しかった思いの方が強い。

それは毎日の辛い修行の中で内心、どこか満たされていたのだ。

そして今、その日々が終わろうとしてると自覚すればするほど、目線が下に向いてしまう。

しかし、私は進まなければならない。

いつまでも憂いてる場合では無いことも、痛いほど分かっている。

私が今すべきことは、全身全霊で彼にぶつかり、成長した自分を見せつけることだ。

「行くわよ、魄麗!」

重心を低くし、構える少女。

それに対し、同じく構える青年。

「来い!」

白い花から飛び離れる蝶と同時に、試合が始まる。

〜〜〜〜〜

「はぁっ!」

「くっ…!」

鈍い金属音が鳴り響く。

少女が刀で突き、青年は最小限の動きで左に躱して距離を取る。

シュバッ!

足が地面に着く瞬間にまたもや跳び、反撃に出る。

鞘から一気に抜き、刀身が少女の胴体に迫る。

が、当たる直前に両足で強く地面を蹴り、空中で体を捻りながら、刀の上を通る。

「やるな」

激しい攻防が既に小一時間繰り返されている。

両者共に体力の消耗が見え始めるが、動きの速さは依然として変わりない。

少女が着地し、魄麗と同じく跳んで、一気に距離を詰める。

「お見通しだよ!」

来るであろう軌道と重ねる様に刀を振りかざそうとした瞬間、少女は大きく空中に跳び刀を構える。

円時雨まどしぐれ!」

少女から放たれる無数の円状の斬撃が、魄麗に襲いかかる。

しかし見えない斬撃を勘で避ける。

瞬き1つも許さず、慈悲も容赦もない。

たった一つ、相手を倒す為だけの斬撃を避けては食らい、そして宙に血が舞う。

「っあ゛!!」

出血する左腕を前に伸ばし刃先が、防ごうとした少女の刀身に当たる。

少女は勢いのあまり、足ではなく上体から地に着いて転がる。

「がは…」

ビチャ

口から胃液が出る。呼吸がままならず、立ち上がろうと力を出そうにも、寧ろ力が抜けていく。

すぐに、すぐに立たなければ。

焦りとは裏腹に、体は思考するものとは違う動きをする。

「そこまでだ」

声が聞こえ、狭ばった視界が徐々に元に戻り、そして顔の前に刃を突き当てられてるのが見えた。

「あ…」

「俺の勝ちだ、九十九」

カチンと鞘に収める。少女は顔を伏せ、肩を震わせていた。

「今日で修行は終わりだ。体を十分に休めておけ」

そう言い、少女から遠ざかり山小屋に入っていく。

バタンと扉が閉まる音がしたと同時に、少女は仰向けになる。

陽の光が湾曲して見える。

「……!」

震える唇で開こうとする口を押さえつける。

「……あ〜あ、負けちゃった」

魄麗との一騎打ちで負けた。

あの場面でこうすれば良かった。

そもそも私と魄麗とでは、身体能力に大差ある。

昨日の疲労がまだ取れていなかった。

色々と考えてるうちに、次々と不満が溢れ出る。

「違う」

半年間死ぬ思いで修行しても、魄麗に勝つこと出来なかった事実を受け入れたくないだけだ。

負けれないのに、負けてしまった自分に怒りをぶつけられないから、不満が出るのだ。

「私は正々堂々と」

私には何かが足りなくて、魄麗はそれを持っていた。

そして私の刃が彼に届く前に、先に折れてしまったんだ。

ただそれだけの事。

全力で斬り合って、全力でぶつかり合って得た紛れもない結果。

そこに不満は無いはずであってはならないんだ。

だからこの敗北を認め、噛み締めなければならない。

悔しくても、辛くても私は真正面から向き合う。

だから堂々と私は口に出して言うんだ。

「負けた」

私はこの試合で負けたんだ。

















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