【第2話:選択】
「おーい、大丈夫?」
何が起こったのか分からず、少女は口を開けたまま声のする方に目を向ける。
すると今度はこれでもかと言うぐらい目が開いた。
透き通る銀髪に、息を飲む程に美しい青色の瞳。
きめ細かい綺麗な肌で、それでいて程よく筋肉の付いていて……
「綺麗……」
「ん」
少女はすぐさま口を手で塞ぐ。
あまりの美貌に、ついつい口に出してしまった。
顔が熱い。今自分がどれだけ赤くなっているのか……考えたくもない。
「ご、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。それより、なんでこんな所にいるんだ?それにその格好……」
銀髪の少女は下から上へと視線をやって、私の服装を不思議そうに見る。
「やっぱり見た事ないですか?」
今着てるのは私が通う高校の制服だ。一目見れば、直ぐに制服だって分かるデザインだ。校章だって付いている。
私はやはり異世界に来たらしい。
「私はこの世界の住人ではありません。原因は分からないですが……気付いたらここに」
まさか実際に異世界物の定番中の定番のこのセリフを言う機会が訪れるとは。
そしてこのセリフの言った後は、大体不審がられて連行若しくはその場で殺害か、相手が慌てめくかの2つに分けられる。
少女は次に起こる事を予測し、前者が起こった場合に備えてのシミュレーションを頭の中で行う。
「じゃあ君も神隠しにあった人なのか」
「え?」
襲ってくることも、慌てめく事無く、落ち着いた口調で銀髪の少女は、あたかも私以外にも異世界人がいるような発言をした。
「神隠し……それに君もってどういう事ですか?」
銀髪の少女が言うには、数年前から異邦人が現れる事例が相次いでいるらしく、その事を神隠しと呼んでるとか。
大半の異邦人は魔獣に食い殺されるか、途方に迷ってそのまま絶命することが多く、保護されるのはほんの僅かと、元の世界とは違って、人間が下に位置するヒエラルキーで出来た世界であると分かった。
「元の世界に戻る方法は無いんですか?」
「残念だが、ない」
分かっていたが、言葉にされるとやはりそれなりにくるものだ。
「……だけど、君が零部隊に入れば何か分かるかもしれない」
「零部隊?」
「ある任務の為、各地を回って調査している部隊だ。その部隊が今人員を募集していてるんだよ。そして零部隊は国際機関に所属しているから、普通じゃ手に入らない様な情報に、入れない場所にも入れる」
確かに、この地での私の立場は何も保障も後ろ盾もない、どうしたくてもできない身である事に間違いない。
零部隊に入れば、円滑に情報収集ができる。
「入る条件は?」
「あるけど、君は既に満たしている。あとは入隊試験を受けて合格するだけだ」
頭の中で数多の憶測が渦巻く。
もしかしたら零部隊なんてものはなく、この少女が言うこと全てが、でっち上げかもしれない。
無謀。
そう言われても仕方ない。
帰れないかもしれないという恐怖と不安が、私に寒さを感じさせるのだ。
考え込んでるうちに私は、さっきから黙っている少女の事が気になり始め、顔を上げた。
「……」
少女は先より1歩か2歩下がって私を見ていた。
そして少女の何気ない行動を見て、決心する。
「やります」
銀髪の少女は微笑み、私の前に手を差し伸べる。
「ようこそ、この世界へ」
私がその手を握ると、どこからか心地良い風が吹いて、茂みを靡かせていった。