1話 【 異世界召喚してきた魔女 】
異世界ってどんな場所なのかと、日頃から想像していた。
アニメみたいに事故にあって気が付いたら異世界だったとか、ゲームしてたらゲームの世界そっくりの異世界に居たとか、現実味のない日常が突如として体験する似現実な想像。
だから、もしも異世界へ召喚されてしまった時の脳内シュミレーションは自分的には完璧なものだ。
しかし
そんな脳内シュミレーションなんて物は実際に起きるはずもないのが現実だ。
朝起きて、学校に行き勉学に励み、友人と他愛もない会話をしながら家に帰り、暇をつぶして寝る。
そしてまた朝が来る。
高校1年生の青春真っ最中であるオレにとって、平和な日常がただ流れて行く。
「はぁ~、彼女ほしい」
夕暮れの帰宅道。
ポツリッと口に出たのは、正に高校生っぽいセリフ。
非現実な想像よりも、まだ現実味がありそうな願望を願って何が悪い。
『 』
時刻は夕暮れ。
空を見上げると月が昇り、夕日が沈みかける昼間と夜の狭間の時間。
偶然にも、誰も通っていない道路の真ん中で、誰かの声が耳元で聞こえた気がした。
その時だ。
「な、なんだッ!?」
突然、目の前で魔法陣のような物が浮かび上がり、オレの周囲すべてが蛍のような光が浮かび包み込んでいった。
(これは・・まさかッ!!)
来たのか・・・来てしまったのか!
このオレにも、異世界召喚がッ!!
アニメでしか見た事の無い魔法陣とエフェクトッ!
そして現実ではあり得るはずのない不可思議な現象と謎の声!!
あぁ・・遂にこの平和で退屈な日常ともさよならか。
さらば暮らした故郷ッ!
ありがとう親愛なる家族ッ!
さようなら世界ッ!
オレは異世界で第2の人生を謳歌するとここに誓う!
「・・・あれ?」
しかし、魔法陣や蛍のような光が無散して消えても、オレは何の変哲もない、いつもの帰宅道の真ん中で突っ立っているだけだった。
「え? えぇ・・噓でしょ??? あんな思わせぶりなアクション起こして置いて何の変化もなし? 異世界は? 魔法は? チートスキルは? オレに惚れてくれる綺麗な女の子は??」
おっと、思わず本音が出てしまったが、それは置いておこう。
それにしても、ここまで大まかな出来事を起こしておいて何もないとは。
神様も気まぐれな物だ。
どうですかご気分は。
期待とやる気に満ちていたオレの心は氷河期のように冷え切ってしまいましたよ。
「せめて、運命の相手くらいと出会うキッカケで会ってくれればいいのに」
そう言って肩を落として足を進めた時だった。
「なんだ。 思ったよりも簡単に来れたわね。 異世界」
夕日は沈み、月明りが輝く夜空と変わる。
道に並ぶ電灯に明かりが点いて、俺はその下で空を見上げて立っていた。
いや、空に浮いている人物に目を奪われていた。
星のように煌めき風になびく長い銀髪に、宝石のように輝く紅い瞳。
そして誰もが見惚れる綺麗な顔立ちは、美女という言葉が驚くほどしっくりくる。
「さて、実験は成功したんだもの。 ここまで来たのなら検証しなくちゃ、ね?」
箒に乗って浮いていた美女はゆっくりとオレの前に降りてくると、重力を感じさせない足取りと着地した。
思ったよりも小柄である事から、一瞬気圧される大人びた顔立ちのせいで年上に見えたが、思ったよりも年齢が近く見える。
まだ、道路には誰も通ってくる気配さえ感じられない。
まるで、世界に2人しかいないかのような感覚さえ思う静寂の中、電灯のスポットライトの下で2人は視線を合わせる。
「初めまして。 ボクは魔女。 君の恋人となる者だ」
自分を魔女だと名乗る少女は、クスッと笑みを浮かべてオレを見上げた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
もしよろしければ評価、ブックマークのほど、よろしくお願い致します。