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継承物語  作者: 伊阪 証
はじまり
7/74

書類上の死

前回までのあらすじ。

殺すか信頼されるなら半分、食えば全部の記憶と寿命と使命が貰えるぞ!

記憶と寿命はまんまだけど一人に配布される寿命は30年ちょいが上限だぞ!

使命は目標だぞ!達成出来ないと目標の難易度次第で即死するぞ!難しけりゃ徐々に苦しむぞ!

災害がめっちゃあるぞ!全部終わらせると世界が平和にできるらしいぞ!

コウキは実は災害の1つに乗っ取られた少年だぞ!

コウキは色んな人に戦い方を仕込めたけど敵も味方もそうなったから全員死んだよ?

コウキは殺されたから心はどこにあるのかな?

ヒロインの頑張る物語、心を取り戻す物語、ここから本格的に始まります。


前振り回が二回あるので少し待つのだ。

書けるかどうかが精神に依存するからキツい。

時間掛かるから忘れる前に書き切って後から補強する形式にします。

先ずは確認と回想である。アランの継承はされておらず、死んでいないが使えないという前提の話である。触れず、語らず、必要ならばするぞという各々の信頼で解読可能なジェスチャーで示す。

「ソロモンの討伐報告、五回だ。五回別の地で討った跡がある。」

「・・・エリニューエスだ。」

その後暫く何も無いと、ジマーが疑問に思い言おうとした所、蒼髪公が言う。

「・・・ソロモンに肩入れした方が良いと考えている理由があるのだ。」

彼は狡猾故に手段の問わなさを理解している・・・その実犠牲を減らす計算高い人物でもある、兵士コストは嵩むがそれ以外に欠点はあまりない。・・・共感しているのだ、各々で違う捉えられ方をしてはいるが。

「それとも、俺達に加担するかを。」

その終わりを乗っ取る様に一旦踏み込んだロタール、彼は最低限調査をしたら東部王と交代しまた前線を荒らしに行く、副官を失った事を、知られども隠し、何も言わない。

「そして一人確保したよ、重要人物。」

ダガンは何食わぬ顔でいた、ついさっきまでいなかったろ、とか扉開いてたとか、冗談が飛び交う。そんな訳で空気が和んだ時にアルトリウスが重大発表をした。

「脚曲がりの彗星はコウキが殺さずに仕留めた。怪我も大して深くない。・・・やれば出来るをそこまで本気でやらなくても良いとは思うが・・・予想外の収穫だ。」

会議室の長は彼に代わる、馴れたが緊迫し、轟音を思わせる心拍、苦悶が他を冗談から突き落とす。・・・そして分かっていた者が先に、理解した者が次に安堵した。自衛隊の起床ラッパにも思える。

「・・・そして本人から聞き出した事だが、エリニューエスを用いて整形をする、それによって発覚した事が一つ。」

血の中にあった遺体は、違和感に塗れていた、鎧を剥ぐ前に、殺し、信頼も得てしまった彼女が警告した。感謝をすると嬉しい反応を返す、素直な子だ。・・・少し気が解れた時に、冷徹に、しかし二次感情を明瞭では無いが見せていた。

「男かつ成人にそっくりな女子供を生み出していた。」

これは複数の意味を持った言葉だ。・・・敵の弱さ、異常や警告、悪意に憎悪。・・・そして何よりも・・・。それを感じる前に次の火蓋は切られた。

「軍の副官レベルでも知らされていない、酷い話だが、その状態まで切羽詰まっているらしい。」

吐き気を催す、奇妙を通り越して気味の悪い背筋を撫でた感触。それに耳を塞ぐと、彼は話すのを止めて、他の小話に切り換えてくれていた。・・・とダガンの日記には記されている。

ただ、自分の役目を放棄した感覚が見捨てられたという憐憫の裏を感じ取り、失望させまいと努力し、縋ろうとした。



再確認を行っていた中で、疑問があった。

アルトリウスの大質量破壊について。

アポロンとプルートによる範囲を広げて衝撃を弱めるのは難しい。ジュデッカを用いてそよ風に落とし込む、自分の実際の時間経過は変わらず、唯神経や伝達、再生が早い中でどうにかなるだけで、浦島太郎にも等しい。他の剣にも作用はあるが今は未だ電力が足りず使えない。

破片の飛ばない内に民間人を拾い、身体がボロボロになり、助けれなくなった人物は選択を聞き届けた。

多くの住処は失われた、命もまた然り。衝撃波が血を乱し、砕く。・・・その結果、血の海が広がっているのが第一の要塞で広がっていた光景だ。

・・・結局のところ、被害に対抗するのは無理だった。絶望に耽ける時間だけは多く、無駄を忘れさせる。

問題はその後である、突如半数程度消失した感触があった。・・・余った分は地面に刺さり、クレーターを形成し、地震を起こす。

間違いない、コウキとユウキのいる要塞はそもそも射程圏外だったが届く前にエネルギーとして吸収された。

「・・・ソロモンか。」

「・・・っ!」

「姿も知らず、今日初めて会ったのに怖気付くだぁ・・・?」

「全兵構えっ!!」

「遅い!!」

抜刀は何よりも先に、剣閃が陽の光を鋭くする。一刀両断よりも、両断の痕跡が目立つ、自身は影で、英雄は光、兵団を裂く突きと歩幅、兵士を突破した先に居たのは英雄、そしてそれが状況を同じくしてくる。

迫れ、迫れ、迫れ、来てしまうぞ、来てしまうぞ。怪我で離脱した帝国兵士は喝采を口にした。

物で対抗すれば物を壊し、力で挑めば力を以って覆す。脳を使えば脳か力で、不負英雄(まけずのえいゆう)、そこにあり。

赤熱の肌が鎧の下より出で、掴まれれば火傷に陥る。力で押し負け、柔らかさは焦げて役に立たぬ。押したのでは無い、引いた、兵士の遺骸が己に向かって倒れてくる、その中に引き込み、遺体の山に埋もれ、彼の赤熱は黒を役立ぬ程度に照らす。

息は灰色、兵士の内臓が破裂する音がする。

昼にして夜以上の暗黒が、一度の絶望の記憶が刻と共に塗り替えられる。

・・・彼の英雄の名はアルトリウス。

敗れず、死なず、奪われず。

ここまでの恐怖を感じる事があっても、彼がそうする行為をした事は無い。本当に・・・した事は無い。

謝罪の言葉が届いた頃に、命は絶えた、記憶の中で閉じこもり、最早自分が戦う選択すら取れず、ただ怒りを当てられていた。


確かにその過程に抵抗は見られなかった。だが、魔術王が強いという話は聞かない、今迄虎の子として一切出ていなかったのだ。・・・自分が強いかどうかは一度度外視しよう、逆に他の元帥が速攻で倒したとしたら寧ろこの速さは妥当である。

「で?どうだ?」

「本物じゃないだろうよ、だが、彼奴の側近周りは本物だ。・・・あの言語を変換する奴はいない。王国を指揮する人物は表向き居ない事になる。」

「・・・これはどっち側を騙そうとしているんだ、目的が読めないな・・・。」

「殺し過ぎてノウハウが足りてないなんて事も有り得るし、向こうから押収したマニュアルには『奴等は人じゃないから殺しても無罪である、殺したとしても記憶や寿命、使命は奪われず、闇に葬られる。野蛮なのは使命が無いからである。』・・・亡命者もいるのに、スピリチュアルに傾倒し過ぎるからこうなるんだよ。」

「・・・神のいない国と神のいる国、特異点定理迄広めれば科学も進展するだろ。」

「それが出来たら世話ねぇよ、無理だ無理。」

「これ以上は集める意味が無い、一旦解散にして通知はメルリウスの部下に。」



皇帝の耳まで届き、具体的な案は飛ばし、大まかに議論させるべき内容を通知する。

「・・・ソロモンは偽物だけで構成されている?」

壇上の部下の一人は報告を不審に思った。それも仕方無い、宰相にして拒否権を持ち、そうするべき立場であるからだ。

「背水の陣は韓信が最も活躍させた策と言って過言ではないだろう。だが、それまでは愚策とされ、基本的にやってはならないものであった。士気頼りというのも良くない。だから尚更取らない筈だ。」

一人は弁舌で説得を試みた、それに納得したと指で指し示し、次に移る。

「ソロモンは魔術を用いれる、それに記憶毎作り替えてアスタルトの分析無しにエリニューエスを行使出来る。」

魔女の名を挙げた、次の標的にして、最重要人物。その名はエリニューエス、又はエウリピデス。擬態や変化を研究する彼女は人間の形状変化を本人が絵を描く様に出来るのだ。・・・原子レベルから始めるという欠点を除けば、楽なものである。

「・・・何が背後に居る?」

そんな彼女は飄々とした、束縛を嫌う逃げの師である。逃げては逃げて、何時しか消えてしまう。突然の強迫観念に駆られた人間である。

「ソロモンを虚像認定。全て影武者であると広めよ。」

無駄だと確信した皇帝が一蹴、議論はここでするものでは無いとした。・・・そして閉口した臣下は、会議場に移動し、各元帥へ召集令を出した。



ダガンとロタールは合流して確保した城に自軍を搬入、防衛に当たらせる。

「日記のこの部分に関しての記憶は?」

「問題無い、存在する。」

「産まぬ人間は一人じゃない。そういう事だ。・・・お前の記憶以前って事は相当昔だな。」

「・・・知らん内に始末してる可能性があるんだよなぁ。」

「死んだ人間くらい覚えてやれよ。」

死んだ人間のチェック、その方法の一つである。ノートが提示され、それを眺める。しかし一人で話しているのか?と勘違いされ時々人が寄ってくる。透明な何か、ヒントは熱気位しか無い。とはいえ視覚情報上はシュールなものになる。・・・その度に疑いを持つとキリがない。

「ノブレス・オブリージュって事だ。メシアという言葉がある。メシアは産まれて何をするかも分からないし、称号という訳でもなく、必ず産まれてくると確定した上での話になっている。私達が害獣を殺し、益があれば確保、不快という感覚を除けばあれらを適切に運用する。また、人間も上位種や上位者が守ってくれる、助けてくれると考えているのだ。」

考察と研究を深め、得た情報。確信は出来ないがこうなっておかしくない。その為に別でコウキを殺す手法を練っておく。アルトリウスだけに徹底的に策を練っている可能性もある。

「産まぬ人間は明確な上位種である、また、妖精や肉食獣を殺した。・・・つまり、我々という種が滅びかけている証明になるのだ。」

「・・・又は、アレが異端なだけか。」

「国境で区切った人間に種類がないというのも分かったな。これを国際学会にいるスパイに流し込み荒らす為に一応使わせてもらう。」

「良いプロパガンダだ。」

一旦別れ、各々他に伝えるべき人物に手を伸ばす。



彼は言った、冷酷だが、無機質では無い。抑圧した上で言う。・・・願いを聞き届け、努力を尽くし、その末に辿り着いた道として。

「産まぬ人間にユウキを継承させ、解体し全員に使命を継承させる。産まぬ人間を踏まない上で、本来彼自身で試そうとしたのがユウキの願いだった。・・・だが、コウキという最適解が産まれた以上、ユウキは其方を願った。」

彼は地獄を行く者。当然の様に自らに罰を課す。

「だが、タダという訳にはいかん、こうなった以上、彼もその世界平和の礎になると約束しよう。彼とコウキを以て、平和を確実な物にする。・・・これはユウキには黙っておいてくれ。」

疑ったクリストフ、それを聞いた所で信じれる訳がない。

「本当にそう言ってたのか。・・・具体的な伝言とかじゃないのか?」

そして、話を変えるように言った。

「お前無しに世界はやっていけるか?」

「全世界の王が俺の一部を継ぐ、それだけで結構。桁外れの英雄を分割した所で英雄は英雄だ。数日居ただけの戦場も聖地にされるんだから、血肉の1%なんて価値がまるで違う。」

・・・彼の言葉は、こちらの方が信用出来てしまうのだ。



未だ戦場の処理が終わっていない頃。

「ダガン、すまない。」

「結構だ、元はアランの奴が悪い。」

「お前位しか騙し討ちが出来そうな人材はいなかった。今頃向こうでは感化されて洗脳したか判別したりをスパイから聞いた情報で行っているだろうな。」

「醜いねぇ、貴族同士の軍隊が出来ないから。」

「兵士は練兵だが強くはない。魔術の命中率はベテランならば接近戦は九割弱、中距離戦は七割強、遠距離戦は三割弱、超遠距離戦は一割満たず。新兵なら接近戦八割、中距離戦五割、遠距離戦と超遠距離戦は一割満たず。こっちのベテランが殆どを占める野砲部隊とライフル部隊に比べたら低い。接近戦の拒否又は接近専門の人員を別で立てるかが今回の反省だな。」

「・・・せめて盾は仕込んでおいた方が良かったか。」

「非殺傷リボルバーもついでに慣らしとく?」

「いや、アランから拒否される。」

「・・・仕方ない、死んだ人間の願いを踏み躙るのはいかんいかん。」

「ランタンシールドとか鏡で直接照らすとか。関節技位なら簡単に仕込める。・・・体のサイズを考慮したら間違いなく無理だな。・・・実力は不明瞭だ。」

「最後に質問だ、お前の勘で答えてくれ。」

「何だ?」

「アランは死ぬべくして死んだか?」

「寧ろ生きる為に死んだ、と言った方が近い。」

一人言を少し。英雄とて疑問はある、早期解決をしてしまうから優れている、過程は全て同じ、眠りもせずに終わらせ、実質的な永遠の中で生きる。・・・分からない、分からないのだ。己で解決出来ない為にヒントを集める、当然の様だが、ここを怠る事こそ人間の最も大きな差異である、どれだけ人間の価値を定められるか、という事だ。

「・・・アランも見抜けなかったか、俺の計画は。・・・だがシャーマンとやらはいい情報をくれそうだ。アランの見た目をした遺体も無い、時間が無いが、想定外か、段々暗号じみてきた。」

言葉にして思考を固めた、準備を終え、やる事はやった。ダガンがお手洗いを済ませた後に戦後処理の内容を渡した。・・・そして、少し悪の笑いを見せる。

「引渡しを条件にするなら此方もそれなりに手を出させてもらおう。狂団の幹部も正直チョロい。」

振り向いて言った。

「愛狂に連絡を取る。所在は?」

「南部王領地南です。」

「良し蹴破ってくる。」

彼の指針は以上である。

さて、次はコウキについての話だ。



戦術もそうだが、ソロモンと手を組む意味は無い。エリニューエスも重要だがそこまでリスクをとる必要もない。シーレンに欠ける中では陸地の確保と農業生産を拡大させる必要があるから整っていると良いだけである。

「・・・条約内容、誰が考えたか。」

文句を垂れた。

「さっさと滅ぼすか、手加減も必要無し。」

文句は計画に変わった。

「・・・仮面を剥ぐのは未だだ、未だ。」

自分を勇気付け、決意を確かにする。

そして地下牢の扉を開ける。

暗室、そして最低限生かすだけの衛生環境がある場所。脚曲がりの彗星を鎖で繋ぎ、武器も防具も別の箇所に氷漬けにする。

扉の外には皇帝直属の近衛兵、実質的に同じ立場である兵士長ヴィルギルが鍵を渡して、会釈をし、通る。

「皇帝からの命令だ、分かっているだろう?」

「疑う事は無い、だが、気を付けろ、牢を二度破壊している。・・・念の為脚と腕は折った、動く事は諦めたが、攻撃的と言うよりは防衛しようと必死だな。己の身を守ろうとしている。」

「・・・問題無いな、吸血種の懸念があるから交代して検査を受けておけ。」

「ああ。」

暗き扉の向こう・・・酸素が少なく温度も低い、そして陽の光が届かない。そんな場所だ、直ぐに疲弊し、倒れてしまう。四則演算が無理難題と誤解する環境で、彼女はそれを保っていた。

「カオルコ・ムツ。起きろ。」

「・・・何よ。」

「俺は全て聞いている、ギブアンドテイク仕掛けに来た。王国に忠誠心の無いお前にだ。」

床を這っているなんてものを期待してはいない、壁際に寄り、向くことはない。

「惚気話の記憶もしっかり継承されている、お前の副官、やはり吸血種だからか疚しい記憶ばかりだな。」

「・・・見るな。」

「残念だが無理矢理こじ開けてはいない、彼女は口説き易い・・・いや、境遇が厳しかったんだろうな。王国の程度が知れる。」

王国を貶す、彼は為政者でもある。外交を放棄した各国を侮辱し、敵対を止めない。

「依頼するのはコウキの護衛、回せる手が無いからな。」

暗い中での笑顔は、非常に怖いものだ。

「・・・信じるか、普通。」

「そこで本人を連れてきた。だから話し合うと良い。」

通路への扉を開き、扉が閉まった後に先よりも少し小さく開く。

『俺は子供の話には立ち入らんから精々話し合うと良い。』そう伝えられた彼が入り、オイルを継ぎ足す。

「久しいな、彼女が起きない内に話終えよう。」

「・・・?」

「変な奴を継承しただけだ、気にするな。」

「貴方は本当にコウキ・・・ね。間違いない、絶対。今度こそ幻覚じゃない。」

「自分に似たのが多いのか自分が割とメジャー側なのか、解答次第じゃ若干凹むよ。」

「偏屈さはコウキそのものです。」

「そんな覚え方をしなくても良いじゃないか。」

「私は陸奥薫子、覚えていますか?」

「こんな所で会えるとは思ってはいなかったが。」

「ええ、そうですね。ここは西暦で言えば16000年頃、14000年焦らされたので今にも犯してやりたいと思っています。」

「運動のし過ぎは欲への自制心に影響が出るから気を付けろ。三大欲求なんて特にそうだ。」

「・・・貴方の変化の無さには本当に安堵します。・・・もう少し近付いて。」

『見てみろよヴィルギル!彼奴らこんな所でチューしてやがる!ロマンチックだな!』

『いや接吻じゃなくて単純に近付いているだけだと思うが・・・。』

『夢が無いなお前。』

「(背後からおぞましい気配がする。)」

「依頼も受けるけど、もう少し話を聞かせて。」

「ああ、分かった。」

そうして束の間ではあるが希望を見て、今後の準備、少なくとも心理的なものから始める。

コウキが離れたら後、彼女と英雄は交渉を再開する。

「釈放に条件を付ける、第一に他戦力と合流したらヘカテーを用いて廃人にする。第二にコウキが殺された場合無条件に国境を破壊する、狂団の一部を送り込み戦争に持ち込もう。第三にお前が裏切った場合、今回の戦争の捕虜、その内千人の記憶をお前に継承させる。手段は蒼髪公に任せておく。」

脅しではあるが、守れない事は無い。最初は単純に危険、二番目は有り得ない、三番目は以ての外、実質的に見捨てられた先の戦闘、恩情も迷いもない。寧ろ向こうを裏切ってやりたい気分だ。

「どうする?」

そして回答は想定を超えるものとして返却する。

「貴方の思っている程私は甘くない。」

心意気をより深く語る。彼女には勇気があった、彼の為という大義名分、そして何よりも重大な私情が。

「受けるわ。なんなら条件をもっと厳しくしてくれても良い。」

「例えば?」

「本人から5cm離れたら即死とか。」

「(ティアマト族だったか此奴。)」

少し思い悩み、ぴっとり密着潜入も面白くはあるが他の目的に対し停滞してしまう所があるので却下した。そして他の作戦をキッチリ伝える。

「駄目だ、何処かしらで彼奴が誘拐される可能性がある。武道は長期戦を想定しているものでは無いのが殆どだ、お前もきっと短期決戦で負けたタマだろう。長期戦になる。寧ろ話して複数人でパスした方が良い。」

そして嬉しそうに答えてやった。

「だから別の枷として彼奴を誘惑する数人の美女を用意した。」

「ぶっ殺すぞ。」

「ティアマトに俺の女性体でも作らせようかな。」

「ごめんなさいヒロインレースに参加するなら少しでも選択肢減らしたいの。」

割と本気な意見に笑う事は無い、表向きは。人員配置を何となく伝え、役目を確かにする。

「・・・カレンは妊娠確定なので撤回、メリュジーヌは対策出来るけどそっち全振りだから隠密、実質一人だけだな。」

そして役目に具体性のある、そして想定した物とは違う目的が与えられた。

「もう一つ言っておこう・・・。」

それを聞いたカオルコは衝撃を受け、目を顰め、そして渋々承諾した。・・・彼女のは納得し難いものであったそうだ。

そして最後の話、彼女の身体について。

「修復して貰える?それも取引?」

「それは少し確認したい事がある。ティアマトとデメテル曰く身体をどう修復するか、鎧や固定器具を用いた以前の状態か、お前の昔の身体・・・遺伝情報から導いたものか。」

彼女はきっと即答する。彼を守るべく命を尽くすだろう。だから考えておいて、話を遮り、言った。決意を変えないのが彼女の長所で、呪いなのだ。釘を刺し、一度示した。

「警告はしておく、役に立つ云々ではなく、お前は遺伝を伝えるものとしてその姿をしている。皮や皮膚、姿形は全て後世に託すべきと形成された方舟である。・・・そしてお前の姿は俺のお墨付き、美人という事だ。そしてお前は少なくとも恋心の類を忘れていない・・・最低限治す為に一度は聞いたからな。

それを捨ててはいけない、という事だ。」

無理難題は誰にでもある、どうしようもない時、最も頼れる人間・・・例えば、利害を無視する関係性があれば話は変わる。・・・時に希望を見せ過ぎてはいけないが。

「・・・私はコウキの弟子、恋というのは愛情が熟成した反動としてのもの・・・ですから、少し・・・我儘ですが、両立させてはくれませんか?」

彼女はコウキに対し実力不足と痛感していた、きっと己は生贄になるだろう、であればせめて一秒でも長く立てる様にしたい。脚を曲げてでも走った過去、その次は身体をどうしようと、と思ったが、それは早計だった。最適な道と、偶然。彼は国という関係性すら些細なものと見過ごす人間なのだ。これも全て些細な事、故に拾い、故に忘れぬ。然して彼は英雄足るのだ。

「良し、応えよう。そういうのを待っていたんだ。・・・一応ヘカテーでストッパーは掛けておく。麻酔代わりだが痛かったらちゃんと言えよ。」

「・・・痛くても良い、彼の為なら。」

「破滅願望は良くない、どうしてそこまで尽くすんだ?」

「生きる目的を全て果たして、未練が一つあった事に気付いた、そして眠りについた。一万年は長くなかった。だけど、眠っている間彼を忘れる事が出来なかった、だからこれは単なる保険、自分が若しそうであったらに過ぎない。」

「物見するタイプか、それも一考だ。うんうん。」

「私が好きじゃないと理解しても、目的として価値がある。結局は自分の為。」

「強く成る、其の為に私は右往左往を繰り返し、迷いすら盲信し、生存本能に準ずる全てを満たす。誤りではなく、予備の目標だから。」

「それの真偽は問わんよ、俺としては恋する少女に加担しておくと将来に希望が持てる。」

彼が扉を開けた時、相手を殴ろうという覚悟すら緩んでいる事を知る。



暗き場所は彼に近い、そして無意識に扉は開かれる。眠りの時だ。彼女と交代したと思ったが、やはり反動か、それとも夢か。

日の届かぬ地底、暗き闇の底、しかし色白にして真逆の人、彼女・・・であろうか。髪質も手が加わったものだが、どこか古い。古いまま未来に持ち越され、形をなお保つ。イコンや仏像の類、その表現が一番近い。

口を開くと、目の前に立っている。

「コウキだね、私は銓、神崎銓だ。」

本質を見抜く様にして言う、自身の身体に違和感があった時、胸に指を指される。・・・そして、これは自身の死んだ頃の身体と思い出す。

「私は世界のシステムに携わる・・・エンジニアで部下だよ。人々のね。」

蘇った訳じゃないから、喜ぶのは止してと微笑みを向けられる。少し安堵に走ると、何気ないハグをされる。・・・憐憫が思い起こされる、挨拶としては自然ではあるが、それ以上に危険な予感がする。自分に、そして相手に。

「溶かして、煮て、改め、整え、戻す。」

人の姿形をした残骸が、形状を留めず、溶けて煮られている。別に苦しんでいる訳じゃない、輪廻転生の再現にはこうするべきだったのだと言い切った。

運命を結び、時に恋に陥れる感覚の正体・・・。と思うと君の時代には未だ採用されていないよ・・・と呆れられる。そして指し示した。

「あれが彼女の業、そして君の業はこれだ。」

量が圧倒的に違う、彼女の記憶にいる限りの死者は彼女が直接殺めたもの。自分は殺しを働く事はなく、間接的に殺してしまったものもあるが、護身や防衛の為である。全ては此方を向く。ここに脚曲がりの彗星がいる可能性もあったのだ。

「死を死では終わらせない、災害という自ら産んだ物を排除し、生を切り開くもの。」

銓は言う、これを残酷と思わない方が良いし、実際に残酷じゃない。これが一番効率が良いと言うのだ。・・・そして、一つ。

「人か災害、君はどちらで生きる?」

銓は問い掛けた。問い掛けた際には、自分の肩を持っていた。どう答えるか分かっているのだろう。

「・・・私はアルトリウスの敵に当る存在だが、それでも?・・・と付け加えておこう。」

大胆に言い張るが、自分は今は彼女の手に居ない。閉口しつつも考える。

因みにアルトリウスはジュデッカ無しで110m/sに対して反応し準備出来ていれば居合切り出来ます。現実にも同レベルの奴いるんですけどね。ネット上だと秒速800mのBB弾斬ったり私の知り合いからは秒速1000mで直径1cmを斬る変態が居ます。・・・お前は一体将来何を目指しているんだ。というか高速弾の初速より速いBB弾ってなんだよ。という鵜呑みにする前につっかえた話もあります。


アポロンやプルートは危険なので鞘は穴開きで、穴のないものに切り替える事でデーモンコアします。一週間以内に人間であれば体細胞が崩壊し痩せ細って死にます。入れた時間が長い程相手の機能を削れる攻撃を如何に減らし耐え忍ぶかが重要なアルトリウス向けの剣・・・というよりカットラスや日本刀に近い片刃剣。

ジュデッカは両刃で、他の物は全て片刃です。騎乗用と海上戦用。

ああ、後一つ。アルトリウスが何故薫子の恋を応援するか、そして子供を産む所まで想定したプランニングを提案しているのか、それはきっちり考えた方がいいですよ。心理的にも戦略的にも。この話で一番大事な所だし。


おまけ

番外編帝国戦力戦績から評価

皇帝ハドリアヌス

戦略:S 戦術:A 戦闘:B 兵站:A

マクロな視点ほど優れているが叩き上げなのでどっちも出来るけど相対的に見ると出来るとは言えない。

英雄アルトリウス

戦略:S 戦術:S 戦闘:S 兵站:S

問題点は参考にならないケースが多い事。どれだけ悪く言う人物であったとしても帝国の一割の軍事力を単独で賄っていると言われている。後継適性がほぼゼロだが関係ないのがこの世界。

蒼髪公

戦略:A 戦術:S 戦闘:B 兵站:D

本人の強さが今一つ足りないが道具や兵士を与える事で指数関数的に強さが上がる。短期決戦で済んでしまうので兵站は未知数。

ロタール

戦略:B 戦術:B 戦闘:S 兵站:S

順番で言えばアルトリウスの次点に強い。本人が兵士を使い潰すのとハイペースなので補給が持たない事があるのでこの評価。

ダガン

戦略:C 戦術:C 戦闘:C 兵站:C

力が基本無い、とはいえ透明化が強くそれによってほぼ全てに相性有利を取れる。軍隊を持つ必要が実質的になく交戦の必要も無いのでこの評価。

ヴィルギル

戦略:B 戦術:S 戦闘:A 兵站:C

兵站を絶対に確保出来る中でやっているので評価が低い。ただし他の水準は高い。

各王

戦略:A 戦術:A 戦闘:A 兵站:A

北部、東部、西部、南部の各王。選挙人選考権を持っておりそれに関しては皇帝よりも小さい。選帝侯みたいなもの。それ相応の軍備を持っており、負担が大きい場合本国からの支援がある。


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