防衛戦の鬼
王の過去話東部王と南部王が遅れてるのでちょい待ち。更新する時は前の王の話の所に入れるのでよろしくね。
恋を知った者は愛の無理解に苦しみ、愛を知った者は次の愛を満たせぬままでいる。出会いは突然、継続は平穏、その差は自分にどうも馴染まない。
「あ、じゃあ子作りと金と増えた赤ん坊の世話はやってもらうんで・・・。」
「・・・優しいって聞いたのに・・・。」
「・・・いいか、王はキッチンのデザート軽食担当であとベッドメイクと風呂掃除係なんだ。」
「財務と政治と外交だよ普通。」
「財務はカンで外交はカオルコで政治は全部城主がやってくれてるよ。」
「議会制って言えば聞こえはいいけどそれ嬶天下だよねそれ?」
・・・彼女の話では、彼女も問題を抱える身。
四つの人格、彼女本来のもの。中東で過ごした際の人格・・・これは分裂状態によって起きたもの。継承した記憶を砕いて平均化したもの。そして、全ての元凶たる殺人鬼のもの。
「・・・相当昔にも継承はあったのか?」
「双子が同じ場所を怪我したり、夢とかも継承に関連したものらしいし、言わないだけで使える人は居たんじゃない?群れる渇望は伸ばせる所を大きく伸ばすし。」
「・・・成程。」
継承、それの根本は自然発生だった。群れる渇望による影響も大きいが、未知の要素やほぼ空想と言える元が存在する影響でこうなる。
「・・・もし、君が殺したくないとして、それを防ぐ方法はあるか?」
「一つの手段として、ユウキと同じ使命を継承する。」
「・・・前例以前に・・・。」
「生きてない、魔女全員が手を尽くして漸く一人でしょ?」
「・・・ユウキを魔術師に上げるのも難しい、脳細胞の発達はそこまで影響は無いが・・・。」
「・・・それか!なら、何とかしてみせよう!」
・・・彼女は聞く限り、アルトリウスの親代わりの一人、精神面はイマイチだったがあの強さを実現した大半の要因、十歳満たずで最前線を死地にした、それを親にも育てられず一人で行った人間だ。
コウキに似ている、いや、もしかしたら上位互換かもしれない存在だった。
だが、警戒すべき対象ではある、倶利伽羅剣は置けない、専用のケースで仕舞わなければいけない・・・ナイフと銃が各々二つ、対処は不可能ではない。
「・・・貴方、疑ってるの?」
「当然だ。」
「・・・誰を?」
「該当するのは五人だ。ロタールは時期的に無いからパスを作っておく。エルフ・ストリートの長も見逃すだろう。アレもアレで豪胆な女だ。流石に皇帝は巻き込めない。」
「・・・目的の真意を理解したって事?」
「・・・ああ。」
コウキが気付いた恐るべき事・・・それは、彼女の事も一端でしかないという事だ。計画にしてはあまりにも杜撰、だが、他に大目標があるとすれば話が違う、彼女は過程の一つなのだと。
コウキにはもう一つお仕事がある、先の剣士との一件で恐らく畑が金属汚染を起こし、機能しなくなる。鉱石類買取の店舗に指示し、農家含めて探させる事にした。金属を少し露出させるだけだが、これは確かに市場を壊す。
「エリニューエスの道具、確かに役に立つな。拒絶反応が一切起きていない。」
パナスが小さな背丈を伸ばし、カルテを渡す。確かに問題無い、整形手術の彼是も学べた。
「ようこそエルフ・ストリートへ、やらかしてくれた分身を売って稼いでこい、身体代はタダにしてやる。」
と言って生まれ変わったジュリアンを街に捨てる。
やはり犯罪者の処理が楽な街だ、脳を変える技術が気軽に使えるのが特に。エリニューエス自身も苦手らしいが、俺で実験して慣れたそうだ。先の道具で自動化、沈静化は見込める代物らしい。
北部は災害と王位再選の参加者六人がアルトリウスに食い止められていた。いや、逆だ。何とかアルトリウスを食い止めていた。
『暗雲雷鳴』ロドリゴ『歴史的特異点』アンジェ『神格朝服』ベルナデット『多国大公』ギスラン『周航王』エルワン『災害対応』クリオ。
前中後衛、分けて戦っている。実際その形が一番まともな結果になる。
満身創痍極まれり、指は消え、足は皮一枚、内臓は失血で抑えても焼いてももう血が足りない。災害によって武器を無理矢理落としたのは良いが、傷を少し与えられる様になっただけでスピードは上がったし、剣を奪おうにも届かない。
ロドリゴの太陽のプラズマに匹敵する拳も、アンジェのアルトリウスの過去を再現した一撃も、ベルナデットが半身をヒビだらけにしようと、ギスランが今までの武器全て使って砕かれようと、エルワンの指揮で組んだ複合した災害の一撃であろうと、災害と戦い続け理不尽を超えてきたクリオでも。
彼には届かない、多少は傷付いた程度か。
やはりアルトリウスは防御が異常、これで衰えたのか?寧ろ老獪ですらある。
「災害のストックが切れるまで一時間無いぞ!?」
「無茶言うな!一秒でも狂ったら死ぬんだ!!」
拳を向ければ迎撃され、より強いしっぺ返しを受ける、鋼鉄に匹敵する肉体は何一つ通さない。
災害を複合して耐久力を上げようと数分で四肢すら留めず粉砕する。彼の前で生きていようが生きていなかろうが、実体ある限り確実に敗北する。
「・・・おいおい、誰も出て来ねぇのか?」
予想以上、アルトリウスを前に帰れた敵は居ない、だから分からない。最高戦力をアルトリウス相手にぶつける事は初回以外はしないのが基本だ。
「・・・撤退用意。」
一人を生贄にして敵対する位なら、全員で逃げる。
そう六人が決めた時、不可視の剣が、光が、雷が僅かながらに貫く。
「土産だ、部下・・・ではないが後輩に負担を掛けさせる訳にはいかなくてね。」
砂塵だ、離されたがジュリアンもそこに居た、その金属片を握り、そして高速で投げる。風切り音すら聞こえない、光だけが頼りになる投石。狙いは当てる事、致命傷にしたら逃げられる。
「暫く寝てろ、どうせ数日後には死ぬんだからよ。」
吐き捨てた言葉に、掛ける言葉もなく・・・。
南部は焼け始めた。勇猛公、月下公、鋼鉄公、壮麗公、南部王、彗星、狂団。各々が最大規模の攻撃を仕掛ける。
勇猛公と鋼鉄公は嘗て功績を分け合った友人達である、敵将を討つ事と敵地を改良し自陣にする事を得意としている。妖怪という竜種や夢魔に並ぶ希少な血を持ち、狐の妖怪混じりの勇猛公、鬼の混じった鋼鉄公という特徴がある。
月下公と壮麗公は遠征公の少し前に入った人物で、母子関係にある。月下公は継戦能力の鬼、アルトリウスの直属部隊に匹敵する。その中でも夜の活動、ゲリラ戦、破壊工作をメインとし、正面戦闘を避ける傾向にある。壮麗公は彼女の子で、正面戦闘を避ける為に囮として運用される、防御と維持において最高峰の部隊となっている。彼等は普通の人間である。アルトリウスの子孫であるという一点を除けば。
月下公は弓を携え、鏑矢を引く。
「『ヴァンガード』」
鏑矢が強い音を鳴らす、それだけではない、周波数が別れており、混血の人間であればまた違う情報や指示を得る、矢に絶対音感を宿し、場所次第でも音を変える。事前に知っている土地限定だが、かなり有効な技だ。
「『エクスプローラー』」
矢のそれぞれ、非殺傷用と殺傷用で名を分ける。エクスプローラーはその後者、軍事用の矢、軽く致命傷を狙う必要がある弾頭の細い『針』、重く当たれば確実な傷となり、食い込んでは離れない飛ばない弾頭『鈍』。
特に秀でた力は無く、特に秀でた技量は無し。
鍛え続けた実力のみで、公爵に上り詰めた傑物。
狙いを定め、嘗ては前線での負傷経験が多かった敵達もやがて後へ引く様になった。戦い方、として前線に出ない様になった。彼女はある意味最も影響を与えた人物である。
矢には毒ガスが含まれており、着弾と共に爆発し、小さい範囲に撒かれる、そして・・・。
狐火が遥か遠くより一斉に焼き払った。散った命を吸い寄せ、より火力を増す。そして鋼鉄の名を冠する鬼が、息の出来ない空間にスっと入り込む。
鬼と言っても彼は妖怪の鬼ともう一つ、吸血鬼も入っている。しかし吸血鬼は人間混じり、使命の継承を起こしてしまうせいでかなり個体数が少なく、献血が趣味・・・なんて事も多い、日差しの下では多少弱くなるが、血が混ざり過ぎて気にする必要はない。酸素が無い中、敵兵の血を吸って酸素を摂取、吐き捨てて二酸化炭素だけを排出、酸素を出来るだけ体内に留める。血の重さを利用してそれを実行しているが、長時間は不可能、狂団は精鋭も多い、段々ループが成立しなくなるだろう。
空気の様に、炎の様に、その焦げた空は歪む。
「神秘は神の保証があるから使用出来る、だが、魔女の技術は明確な『科学』だ。薄氷と偶然の上に成り立った再現可能な技術。神の制限は無いし、神の恩恵も無い。」
足跡は燃える、草木は焦げる、光は真っ向より乱れる。
「法は指先で作られ、秩序は手によって成るものだ。それが武器であるか繋ぎ合いであるかは問わない。」
排熱伝導卿の熱気は、地面を焦がし始める。土に埋まる酸素が燃え、土地は沈下し、煙と火はやがて収まる。二酸化炭素濃度が上がり、呼吸もやがて苦しくなる。
「さて、戻ってきたぞ。あの男も死んだとか。ああ見えて手抜きだからな、ハルノブとかいうのにコテンパンにヤラレる残念な知性だった。」
彼は魔術師としての資格もある、言うなれば『熱の魔術師』排熱と共に世界を焼却し、炎をも凌駕する恐怖。熱が色を帯びる、硝子の様に溶け始め、赤が広がる。
「クソッ!!矢が溶けた!!」
「ガス弾が使えない、爆発が起きる!!」
その刃物に力は込めない、薙ぎ払う様に、草を落とす様に、それだけで良い。熱した金属は人肌を火照させるまで、触れる必要すらなかった。
鮮血が蒸発し、肉片が液体として飛散する。土地が歪み、地中の金属が露出し、刃物の様に飛び出る。防衛軍が一割、この初動で消え去った。敵味方問わず甚大な被害を出し、狂団も五分以上喪失、双方壊滅的被害となった。一般的に海軍は三割の喪失で全滅扱い、一日満たずでこの状況はかなり不味い、全ては公爵に掛かっている。
それでも彼等は到達する。
最初に見えたのは燃える狐の尾、そして鬼の角だ。そして三人張の強弓と黒曜石のレイダークラブも姿を現す。
言葉を切る事無く、黒曜石と矢が叩き込まれる。熱されるよりも早く、強く、予め天に向けて撃った。
排熱が、爆発する。
純粋な熱ではない、異常な熱だ。突然の出来事の様に空気が張り詰め、パニックになる。吐息が霧散する、それすら温いと散らせる。風が起き、炎が広がり、そして、息が止まる。脱水も起きる、目が渇く、喉が出ない。
近寄る事も許さない・・・かなり不味い。原始的な手法だが究極になるまで押し上げている。彗星の二番手、持て余すが為に歴史になれなかった一人。・・・当時は、帝国がまだ王国の支配下だった。使い所がないのだ。
だが、今は違う。問答無用で世界地図を塗り替える赤として爆発出来る。それは誰も認めはしないだろう、国際的な非難によって圧政でしか覇権を握れないだろう。
だが、自分は焼く事が出来る、幻影として、悪夢として。軍神になるのは俺だ、世界各地に神話がある様に、世界各地に別の神がいる様に、別の軍神を作る事が出来る。
爆発なぞもう慣れた、この矢がなんだ、この炎がなんだ、この金棒も、血も・・・全て擦り傷になる。
血は流転する、しかし、血は絶えず入れ替わる。
新しく血が生え変わる様に、自分は新たな自分を見つけるべきだろう。
アルトリウスへの挑戦、及び帝国への挑戦。第一に帝国を壊し、勝敗問わず破綻するまで歩く。四方の王国だけではダメだ。
そう、熱の判子を地面に押し付ける。力強い闊歩と共に、赤色に鈍く輝く地に別れを告げる。
西部は空白の儘・・・ではなかった、災害の侵略が起きたと思えば止まり、全く進まない。寧ろ押し返される。
伝染、連鎖、破壊、病死。
その名は『暗号的病』。
ほぼ無毒の人工病原菌五種に感染させると発症し、死ぬ。その五種は飛沫、経口、粘膜接触等全てで感染する。
「対災害用にも使える凶悪な代物だ。人体には無害、いや、少し発動させるのが難しい。」
ロタールの色が辺になる、虹の様に、宇宙の様に輝き、青に沈んでいく。黒に行き着き、その水底にある青が胎動し、漏れ出る様に染め上げる。
南近くはまた別で、不能公がスタンバイ、ワイヤーは仕掛け切った、エリーゼにもそこそこダメージを与えたがあの女は殺すべきじゃない。
・・・とまぁ、彼は忠誠心こそあるが、それは先王や国に対するもので、現皇帝に向いたものではない。
「・・・やはりあの血族はろくでもないな、野望に光り輝き過ぎている。早死にして違和感はない。」
半殺し程度に抑えたら七割殺しで返された。腕が痛むがその程度なら気に掛ける必要はない。
「・・・前回の災害群、アレには知性が足りないとの事だが、指揮官級の奴もいるのではないか?と予想している。ローガンやロタールも指摘していた。」
ならば、自分のすべき事も確定している。
「第一にエリーゼ、奴には毒を仕掛けておいた。即死ではないがじわじわと効く、敵なら妨害に、もし取り入るつもりなら切っ掛け作りに丁度良い。」
ワイヤーの結び目を解き、光の進行は元通りになる。
「有効射程内だ、エルフストリート、コウキの土地だな。」
全て読み通り・・・と言うよりは消去法。他の連中と手を組むとなれば工廠公と知事長、玉座守だが工廠公にはワイヤー発注の余裕があったし、知事長は王位再選用意で、ヴィルギルは金融が動いていないなら先ず有り得ない。
「・・・それか『剪定公』マノンか。」
アレは疑っても仕方が無い、ワイヤーで縛っても一発芸する余裕があるし、巨体の癖してやたら滑る程度にはグラマラスさに欠けるし、何より呪詛返しで首を落とされる。
どうやら味方らしい、それも、コウキ個人。帝国の味方とは言えないが、東方国が敵となった状態ではあるだろう。
閃光を放つワイヤーが出てきたが、もう十分だ。これで存分に殺しに行ける。指揮官級とやら、殺しに行ってみるが吉だ。
首が落ちた、バウンドして、不能公のものが・・・。
「・・・案外、脆いものだな。」
「ほう、お前はバカの一つ覚えというものを知らんらしい。」
切れた声がした、その人間が話す筈がない。それは首が切れていればの話。三秒ルールを遵守して、ワイヤーで首を強引に繋ぐ。吉川線に見える位に強烈に締め上げ、強く繋いだ。
「コウキとやらが毎度毎度首を落とすからな、彼が敵になった状況を想定して跳弾対策と首切り対策位はしている。」
土を落とし、災害の指揮官に向き合う。
「『狂団狂祖』だな。」
「お久しぶりです『不能公』。」
「アルトリウスに追い落とされた軟弱な若輩者か、大層な名を名乗りよってからに。」
「それはそれは、不名誉な名誉の方が言うと違いますな。」
「ハッハッハ、他人のネーミングセンスが劣悪だった私と、本人のネーミングセンスが劣悪だったお前とでは違うぞ。」
夕日とワイヤーが光沢を放つ、もう片方は手を包み青の陽光を出し始める。
「名前の伝染力に一か八かを試す様な青臭い馬鹿になど、同じにされたくないわ。」
「いえいえ、夜の事情が明らかになる様な王女に手を出したペド野郎の事に青臭いと言われるのは吐き気がしましてね。」
現れるは産まぬ人間、僅か0.1秒、ワイヤーの攻撃に合わせて受け、二度目の束縛時に熱で即座に焼き切る。
光ファイバーのワイヤー、目視はほぼ不可能切ればフラッシュで動けなくなる程度に害を与える。焼き切れようと光が届き続ける。
続いて出るは栄光の血肉、光に光で返し、完全に中和する、展開は0.1秒以下、まだ十分ストックはある、触って伝染させるのは無理だったが、そこまで有効とは思えない。麻痺が効かない可能性がある。
地面から飛び立ち、ワイヤーと思しき箇所を踏み、切れる度に同じ事を繰り返し手を引きつつ再度構える。
災害に堕ちた訳ではない、狂祖は災害の力を行使する事が可能なだけだ。災害研究のデータは彼由来の物が多い。
一種につき十秒、一日毎にリセットされる。・・・そう、災害の力を行使可能としている。任意で開始と終了を設定し、練度も高く、0.1秒あればある程度の重症なら回復可能。致命傷は慣れていないが、それでも一秒程度。自分の様に技量が必要という訳ではない。
災害の基本は複合、だが、競合も起きる可能性が高い。あくまでベースは人間、キャパオーバーになるだろう。最大火力であれば最大百発、こちらは挙動がワイヤーを基本にしており、見抜かれにくく、躊躇わざるを得ない。
設定されたのは杜撰な悪意、魍魎の課題・・・そして、最後の災害・・・最果ての道。
ワイヤーだけじゃヤバい、不能公ロベールも流石にと躊躇う程。特に最後、一度も見た事が無いどころか、今後見る事も無いと思っていたもの。
全ての災害を倒した人間が変わり果て、その最後の災害となる。それこそ最果ての道。産まぬ人間を食らい、群れる渇望に出会い、殺し、それ等の完全上位互換である究極の勇敢を倒し、太陽である破滅の日照を最後又は惑星が破壊される前に消し去る。そして他の災害を葬り去り、漸くなれるもの。・・・現状、それが出来る人物は一人しかいない。
先んじてワイヤーを解気、手足を切った。深刻なものではなく軽傷、しかし失血が酷くなる様にした。証拠が残せるし、分析も出来る。ロベールは少し方向性を変えた。
ワイヤーの光を切ると、全く違う場所に立つ。最初からそこには居ないと、ワイヤーは構える必要が無い、その一点でこの様な荒業が出来る。
「駄目だ駄目だ、こういう奴は学習というものをしないから負ける。」
再度確認しよう、不能公の一番の長所は何か。
それは、その場にいる必要がないという事である。彼は罠を設置するだけで良い、それが強みだ。また、同じ様な人物が存在する。それは遠征公ロタールだ、彼は病を撒き散らすだけで良い、その場に留まる必要性が無い。
彼等は変装して離れる一団に注目し過ぎた。そう、エリニューエスに。誰が誰か把握出来ていないが、居るであろう人物だけ予想してしまった。
ロタールの箇所は攻めてはいけない、そう避けた結果、不能公の位置を見失った、そして錯覚した。
「『赤鱗』」
其れは、古い妖怪の名である。古び捨てられた神社に住み着き、参拝者を邪魔し、やがて終わらせる大蛇。知名度の低い神程効く一手だ。
「軍神とやらにはお前も認められていないらしい。」
信じさせる為に不能公から考えるべき事や口から漏らすべき事、全て指示を受けていた。そしてエリニューエスが離れた際に、その姿を現す。ロタールは近付かずとも分かる、逆に言えば近付かないが故に仮定しか出来ない。
その結果、彼はまんまと嵌められた。
猛毒を流し続けるが、災害で意味が無い、流し込むべきは暗号的病、災害の力にデメリットを起こす。
騒がしき王、幾千年の先、終局的愚行をセット、無駄な悪足掻きを全力で貫く。
ロタールにも同様に、弱点がある。それは神格であること。最低限を極め、寄生生物や細胞を住ませる事で補っているが、やはり脳が貧弱、質量が軽い分正常に機能しない。戦った経験が無ければ覚えてない、暗記する際の順序も入れ替えられ、どれか出て来ない。どこに仕込むか、どこから来るか。
・・・その手は、白く眩しいものだった。受け止める暇もなく、全身が複雑骨折に苦しむ。
幾千年の先、それは二次災害の一つで、進化の停滞を起こす群れる渇望の真逆に位置する存在である。
そも行動には、幾千年の威力がある。鈍重で、確実な、未来からの一撃。・・・対価として手が腐る、再生に切り替えても中々治らない。最近漸く時間が調整出来る様になった程度には難しい。
ただ、狙うとすれば一度落とした首、再生させたが抜糸はしていない、そこを狙ってくるだろう。質量と細菌の影響で既に治っているが見誤る筈だ。
悪意の玉座、魔鈴の打手、究極の勇敢。
二次災害のオンパレード、必中の攻撃にする。・・・究極の勇敢は産まぬ人間の完全上位互換、此方は最果ての道と同様に規定数災害を殺す必要があり、その数なんと一万、地球が枯渇する量を狩り尽くすか、省エネな奴を狩るしかない。前者二つが防御の弱い悪意の玉座、大き過ぎるだけでギミックに気付けば簡単な魔鈴の打手。暗闇に塗り変えられた世界、反響する音、その中で首を狙い、究極の勇敢が持っていた剣を振り下ろす。
その剣は、光速度不変の原理を正しく機能させない。
先ず、この原理の正確な意味は『時間及び空間を足して秒速30万kmとなり、それ以上にもそれ以下にもならない』つまり交通の際にある速度制限とは全く別の上下する事がない速度制限が存在する。
光であればそれを空間に割り振り、空間において秒速30万kmで存在する。一方で止まっている人間は時間において秒速30万kmで存在する・・・いや、未来に向かっている。
これが特殊相対性理論に繋がるので、速くなればなるほど年齢の経過は止まるという訳だ。だから中間にも出来る。
斬りつければ達磨落としの様に時間と空間の配分が変わり、近付けば血流の鈍りで身体へ、接触すれば時空が歪む剣となる。
究極の勇敢は後にも先にも彼一人、そう・・・。
身体が本能から忌避し、近隣の山々も川も、若しかしたら全く別の生態系さえ作ってしまう程の危険物を垂れ流す、それは血や臓物、糞尿は含まれていないので細菌の楽園にはならない。
神経の汚染が先か、足の崩壊が先か、精神の破壊が先か・・・タイムリミットが提示される。その刀を抑えるまでのと、病が災害を越すまでの。
炎が拡がり、夕焼けの終わりが来た。そして世界の破滅の様な赤と黒が互いに衝突する。遠くにいるマノンでさえ慌てるが、有効打にならない、アルトリウス以上の硬度の奴が存在すると、それしか言えなかった。逆に相手はそれを対策せざるを得ず、緩める事が出来ない、産まぬ人間、究極の勇敢、群れる渇望、それ等を続けるしかない。騒がしき王で撤退用意を重ね、手を引くしかない。ここでやられるの不味い。
ロタールは約束通り、殺さずに限界まで粘った。
逃げた、後ろに引き込まれる様に。限界のフリをして倒れて放置する。
「よし!!」
再生のストックがない、災害に与えられる基礎スペックは無いので再生が出来ない。だから今は夜が回るまで数秒で作った騒がしき王の物質操作で体内を変え、耐えるしかない。
ロベールのすべき事は全て終わった。
・・・作戦としては一転攻勢の箇所をどこにするか、侵攻を遅くし防衛ラインを固める。それで見れば作戦はかなり順調、しかし初動はこの際考慮すべきではない、考慮させる為には一ヶ月以内で交渉をさせずに敵軍を打ち砕く必要がある。敵の戦力上重要な人物を抹殺・捕縛、そして敵の兵力を各国一割以上喪失させる。逆侵攻は物品の押収、それに関しての準備は出来た。そして、各国の内憂外患を煽る、ワイヤーの設置も。だが、一先ず終わりということで後始末だけはしておこう。それと同時に、敵の軍人も無差別に持って行く。指でジェスチャーをし、紐解く。傷痍、榴弾、ガス、花火、信号。それ以外にも切断、打撲、様々なトラップが仕掛けられた。そして作動する。被害としては二十人程度、だが、異常な事に偶然同じ死因を発生したという情報を伝達させ、動きを鈍らせる。指揮官単位では気にならない、だが、兵卒レベルではどうだろう、全体としてどうだろう。犠牲が出るか出ないか、国別で差を出す事で裏切りの象徴にもなる。
「尻尾巻いて逃げやがったか。落ち度だな。取り敢えず今日は活動出来ない様に四肢は貰っていこう。」
紐解く動作を再びすると、それと同時に狂祖の手足が血と共に爆散する。綺麗にしか切れないのでどうせ治される、だが、射程は十分だ。災害を利用した量子もつれ移動に耐性を持っているワイヤーだ。切るのに難しい所は無い。
「『不敗公』を侮るなよ。」
彼の名誉は結構な頻度で間違えられ、皮肉にもなっていた。公爵として最も地位が高く、安定した人物。確実な勝利、犠牲は最低限、だから同時に攻撃性が乏しい。彼が居る限り、敵は負傷し続ける。
コウキはある人物を疑い始めた、それは良く似た人間だ。同じ地位で、同じ様な事をする人間。
王の誰かに、裏切り者或いは別の思惑で行動する人間がいる。
それの情報探りを行うとして、貴族の悩み事晴らしと行こう。
そろそろエリニューエスも帰ってくる、入れ替わりでなんとかしたい所だが、優は災害狩りに勤しんで武器を工廠公用に渡すとの事だ。
反撃は自分をメインに行う事になる。そうしなければ政治的な権力確保と、王位再選の達成が出来ない。エリーゼの話が本当なら弱体化又は味方化が出来る、多分今はマノンの監視も外れている。彼女にも仕事があるし、力のクールダウンや条件を整える必要がある。極論彼女はいるだけでプレッシャーになるので動かす必要が無い。
「いいのか?来て。」
「私の顔、皆馴染み深いみたいだし。」
「まぁ、そうだろうな。」
「・・・気にしなくて良いよ、デリカシー無い男なんて慣れたものだし。・・・あと、あのバカとは血縁は無いわ。」
「余程大事に向き合ったんだな。」
「・・・そんな事言わないでよね。」
一旦今日は眠り、明朝に依頼者の場所へ行く。その間も少し話してみて探るべきだと考え、手を引っ張った。
多分明日には更新出来るけどもう片方の新作にリソース割いてるのでちょい難しい。




