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継承物語  作者: 伊阪 証
軍神の渇望

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英雄欺人

王の名前にあんま気にしなくてもいいけどちょっと気分的に困る名前があったので変更します。まぁ理由は身内内での事件があってですね・・・。また身内だよ(五回目)。

キャラ設定は変更しません、名前もそこまで重要じゃないんで。

他にもクシナも同じ事があった為名前変更するべくずっと伏せてたり、プロトタイプなので変更したいものも多いですわー。

設定に落とし込める様努力するんで強引な所あっても軌道修正って事でよろ。


皇帝が依然アルトリウスの心境を考えて行った事と言ったら何だろうか、妊娠である。

まぁ未だに皇帝が女だったというのは信用されていない、公開したのは賢い人間だけに気付かせる為だ。先ず一般人は男でも女でもどっちでもいい、アルトリウスが強いからだ。彼がいる以上皇帝そっちのけで構わないとなっている。だが、賢い人間視点では違う。謁見により僅かに外見を出し、想像にあとは任せ、惚れさせる。実力があれば近付ける。

完全に魔性のやり方だ。男なら尚更効くし、女でもある程度効果は保証出来る。真偽は不明、しかし彼女は災害に匹敵する洗脳能力を素で持っている。それも外見一つで。

皇帝はそういう人だ、そういう工夫や悪行で国の頂点に立つ。言ってしまえばセコくてマセた劉邦である。逃げるどころか突っ込んで来るが。

一つ言うなら彼女のやり方は異常だが理に適っている、衝撃が全て打ち砕き、ネガティブな要素を消し飛ばす。葬式で一番存在してはいけない存在だ。

コウキは起き上がれない、立ち上がれない。体内が不足し、皮が表面だけの筋力で硬くなり、形を保っている。それをマノンが補助している。

「悪い、遅れた。・・・マノン!?」

「あら、懐かしい顔。浮気相手さん?」

「誰なのー?」

「先に治せ、乳繰り合うな馬鹿共。」

パナスが三人を止め、内臓の半端な再生箇所を治し、元に戻す。

「凄いな、麻酔無しで身動ぎ一つしない。」

「エネルギー不足なだけだ。」

「あと彼、乳酸が残らない体質だ。自然界でも見るが珍しいね。」

「遺伝されたら、面白かっただろうな。」

「・・・君も、そんな夢があったのか。」

「その権利は、最初から無かったらしい。」

「その中で新しい夢を探せばいいじゃないか、生きる限り夢も、好きな女も次々出来る。諦めて寝込んで、動けなくなったら終わりだ。人生は誰かに重くさせられたもの、本来はもっと軽いものだよ。」

「・・・でも。」

「でもじゃない、君は自由に生きれば良い、重くする連中なんて屑だ、全て自分の為に生きる屑。」

「・・・。」

「・・・そうだぞ、コウキ。」

「・・・そうね、コウキ。」

「・・・?・・・?」

「・・・そうか。」

マノンもティアマトも、パナスもそう思っているのか。

「ほら、君の全裸で走る事を生き甲斐にしてる嫁さんとか。」

「変態は除外してくれ。」

「あの子は秩序と恥辱をかなぐり捨てている訳だが、でも彼女も目的無しという訳ではない。」

ああ、なんか嫌な話だこれ。ろくでもないしめんどくさい話だ。軍神で心を擦り減らしたせいで疲れてしまう。

「・・・あの子、体をサイボーグ化するつもりだったらしいし。それをしなかった恩恵を味わい続けている。君に会えるだけで、心が張り裂けそうなんだろうね。」

「もう少しマシな方法をだな。」

「彗星、あの速さであれば記憶を全部とは言わずとも一部は持ち越せる。物理が存在する以上な。」

と言っても数値的には僅か、特殊相対性理論は300km/hの新幹線に八十年間常に乗り続けて1/1000秒伸びる程度、アルノルトは能を絡めて本来よりもポテンシャルを引き出していた、カオルコは素の力もあるが、彗星という能とも違う、恐らく神格由来の物を基底に走っている。防衛の機能として別の機構が入っているのでは?と思う。

「一万四千年の後悔を、残したのさ。忘れない様に。」

パナスは色々語る、以前は目も向けなかったが、暗部王以来度々声を掛けてくれる。

「狂祖は狂わせる力を持っている、あれもほぼ災害みたいな存在だしな。」

先の話を繋げる様に言った。

「倒せば緩和する、それは確定だ。」

・・・つまり、カオルコの奇行も抑えられる、と。あの変な女達の活動を止めるにはこれしかないと。素だったらもう亡命しよう。北部に。

「・・・だが、君はもう挑戦者側ではない、徹底的に対策された上で戦う事になる。」

言いつけて強く縛る、肌が切れかかるギリギリに抑える。

「格下だと舐めるな、格上だと気を抜くな。」

傷口を叩き、塩を塗る。最悪なはずだが不思議と心地が良い、否定や暴力性が無い、誠意、そういうものを感じるからだろうか。



防衛拠点の中で一番脆弱と強靭を併せ持つのはエルフ・ストリートだ。行き先がなかったり、構造上そうなったり、一番扱いが難しい。だが、経済や指揮は高い。ポテンシャルだけは高いという感じだ。

洗脳の弱点、第一は神経。脳の掌握がメインの為神経をカットされる事に弱い。中枢を切り落としたら最早戦力になれず、そうなれば反射を警戒するべきだろう。

先に出さなければ負ける、それが洗脳だ。

しかし違和感がある。動きが違う、もっと無意識的な動きをしているのだ。

コウキ本人は無意識化したマニュアル的な動きが特徴で、バリエーションが多過ぎてそう見えないが日常生活は案外そうでもなかったりする。

ぎこちない、その言葉だけが残った。

全てが意識的、型に嵌めた様な動き。

コウキに洗脳は実質的に通じない、彼は無意識下に覚え、アルゴリズム的挙動で行動を支配している。

重度のものであれば破綻してしまうが、軽度のものであれば通じない。

それはそれとして色仕掛けはちゃんと通じる、リアクションが薄いだけで食欲(主にポップコーン)やもっと見たいという欲求で目を細めて見る。

「買い被り過ぎだ。」

「誰が皮被りだ!」

「抑えろリュファス!」

「何をしているのだお前等は。」

自分は現在軍神の発散を抑えるべく活動を停止、派手な行為は基本禁止、ロタールを活動させて疫病を流行らせて相対的に抑える。ロタールに対しては『狂っている』という人間の意思が介在しないのでコウキの様にならない。納得出来る、或いは理不尽と諦められたものであればそれは狂いの原因にならない。

剣に乱れはあまりない、マノンの力にも対応出来る、精度は戻ってきた。だがそれでも目立つ位に荒々しい。

荒羽々切、災害だった頃に考案した技の一つ。袈裟斬りから防御を捨て、突撃して切っては手前に向かう。それによって肩は宙吊りになる。これには応用があり、芯合わせという上位互換、振合わせというほぼ不可能な技がある。相手の傷は深手になるがダメージに大して治りは早く、不殺(不殺精神がある様な人間が使うべき技ではないが)の技である。

今回の目標は王位再選に紛れ込んだ侵入者の確保、殺害は狂祖に絞るべきだ。アルトリウスは相変わらず前線との事だが、今回は狂祖討伐には参戦する・・・つまり敵は負け確定・・・となる様に戦力を削ぎ落とさなければいけない。

元狂団員の幹部二人、アレを人質にする。上の方は裏切りとして処分した可能性が低く、もしそうだったら活性化して騒ぎが増えているだろう。息を潜めているという事は隠している、それを利用して人質化し、団員の指揮を下げる。エリニューエスが殺害用セットとパーツ換装を準備している。

狂団狂祖、彼の力は一部しか知らされていない、正直それだけでも手に余るが、統計的に見れば彼はそれが一部だと言い切れる、アスタルトがそう言っていた。



玉座守、知事長、皇帝、粛清剣。この国の最高峰達だが、アルトリウスは急用で不在、その為彼等三人となる。

アスタルトの一件もそうだが、今は学者の是非が問われている。

「学問は虚構でもあるし、研究も虚構である。それの虚構をどこまで埋められるかが研究者の腕だ。」

学者はある程度の余裕を前提にしなければいけないし、価値を出せるまでは時間が掛かるし、時に詐称も行う。しかも気付くまで時間が掛かる。偽造と思想、科学も思想混じりな以上、信用するのも難しい。

「生きた財政を知れ、財政家と外交家は代用が効くものではない。定義や定理だけで世界は埋めれないものだ。」

どうやら、財政は火の車らしい。新たな王もそれが理由か。金融の拡大は同時に既存の財産を破壊する。内憂外患は国家を破滅に追いやる。

「・・・学者は役に立つまで使わない、それが帝国の法規の一つだ。」

彼女は諦めた、或いは誰かに惚気ける様に言った。

「だから一つ言える。国を放棄する可能性だ。」

「・・・アルトリウスは認めないだろう、裏切るに等しいし、犠牲者も数え切れない。」

知事長はそう言ったものの、それは理に適ったものだ。金融と市場を作り上げ、暴落させた所でその史上が存在しないといけない。

利益を追求する為なら国なんて存在する必要はない。国を背負うのは命を捨てる覚悟がある人間のすべき事だ。

自分はもう、それが出来る立場ではない。誰かに守られるべき人間だと。そして、野望を果たすには国という形が最適解でないと。



全く別の場所、しかし心が決まった。

コウキとエリーゼは口を揃える。

「「戦って屈服させるしかない。」」

そうだ、自分達にとって最も使える手段は、最も磨き上げた物だろう。信じる限り倒れはせぬ、戦えぬとなったら生きる価値も無くなるのだから。

「ああそうだ、戦って屈服させるしかない。」

「ああ、戦うなら先ず先鋒からだ。ルーレットなんて小賢しい真似はナシで行こうぜ。」

エリーゼの前に立ったのは、不能という不名誉を唯一与えられ、しかしその背後には『何をしても優秀故に欠点だけが特徴となった』という人物。先王の懐刀、公爵最古参の男だ。

後期の前に立ったのは一人の剣士、無一文のジュリアン。ソードブレイカーとカットラスを握り、片方を差し向ける。



狂団の第一の手は同時に攻勢を仕掛ける事だが、それは非常に難しい。

その為、一人戦場を引っ掻き乱す要員、アルトリウスを引き受ける条件で実行、マノンも反応していない。やはりアスタルトの目を失ったのは厳しい。

だが、陽動や過剰反応は使えない、しかも実際に使えない状況でも対応力や対応速度は早い、多分マニュアル化どころか指揮系統も管理されている。

『排熱伝導長』ペア・シューラー

彼しか乱す事は出来ない。彼は脚曲がりの様な耐久性、陽より速しの様な速度は無い、だが、唯一異常な力を有している。

それは熱、排熱機構が攻撃に特化している。不可視・・・僅かに熱で歪む程度。持続的かつ、大規模で破壊的。空気の流動性、気候の破壊。

国全体が冷却の為に空気を無くしていく、酸欠、高山病が平地で多発する。強風が周辺国に吹き荒れ、戦争に向けての活動が活性化する。北部から雪が消え、溶けては洪水被害と農作物の腐食、保存倉庫の無力化が起きる。燃える様な強さはなく、しかし確実に温度は上がる。

皇帝はその事を見越していた、僅かな気温の変化から危険性を察知、過敏とまで言える感覚が偶然刺さった。

その中でその言葉に大して動いたのは玉座守と知事長。彼等は皇帝の懐刀、最低限戦える強さはあるが、公爵級ではない。ヴィルギルは最盛期の様な実力はもう持ち合わせていない。

壮麗公、月下公、勇猛公、鋼鉄公。

四人の公爵が同時に動き出した、夜が始まり、日がやがて閉じ始める。その先に潜む冷徹な金属が排熱を邪魔し続ける。

「激戦区になるぞ、南部は。」

アルトリウスとそれを狙う人物が集う北部、コウキと無一文の剣士が衝突した東部、女帝と不能公が交戦する西部。ロタールが巡回し、控えにマノンとハルノブが佇む中、公爵も常に待機している。



袂を分かつ事件があった。

彼は公爵等の立場が無く、秘密裏に立てられた軍を扱う人間のトップ、アルトリウスは目立つから駄目だが、影の英雄として軍部では一二を争えた。

恐るべき事に、それまでの間彼は力を推測させる断片すら残さなかった。逆に断片すら残さなかったから答えを出された。よく目の当たりにする、災害のそれであると。



それでも戦争までは時間がある、場所を決め、戦う。流石に立場もあるし、向こうも軍神に関してあの様な出来事があってはならない、その為帝国内で、起きない様にメンテナンスをしてからと約束した。

ハルノブを参考にカオルコが因果の逆転を再現する。

仕組みとしては一般相対性理論、加速により時の順序を歪め、光以上の速度になる。

予告アリでも難しい、その筈だった。

「・・・フゥ。」

胴体を一閃する刃物の通りが、見事に防がれた。

「・・・手の色か。」

「よく分かったね。」

手の色は血の量次第で大きく変わる、それで上か下かを判断する。横でもある程度上げる以上、血の色が変わる。因果の逆転故に逆に弱点、結果が見える為に警告となる。陸上選手には反応が早過ぎてフライング判定を食らった男もいる位だ。災害としての補正もあって反応出来る。後は居合で合わせて打ち返す。

「・・・再現性が自分には無い。」

「そうだね、コウキはこれでも重さ重視な剣だし。」

チューニング問題無し、調子自体は相変わらず良いが、メンタリティがイマイチ、予想以上に自分の心が疲弊している。それもそうだ、軍神の影響が重い。

「今はどうなの?」

「マノンが内臓を外付けして不安定化を防いでくれている。前までの状態なら良かったが今の状態で人体として手を抜くのは駄目らしい。」

力はガタ落ちとまではいかないが暗部王と同じ実力があった場合、多分勝てない。だが、継戦能力は増した。防御メインの立ち回りや、味方を行使した立ち回りになるだろう。

「・・・あと、その分少しは人間的になれたかな。」

「前々から人間っぽいと思うよ、ベッドの上だと特に。」

「リュファスとかカオルコに比べたら個性ないじゃん?」

「なんでそれと比較しようとしたの?ねぇ?」

彼女に触られる度に、心は満たされる。だが、心に大穴が空いているのもまた同じだ。

「・・・これから、国がどう続くかも分からないけどさ。どうしようか、一緒に生きるとして。王位が奪われるなんて事も有り得るんだよ?」

あの強化プラスティックの鎧は無い、生身の彼女。唯一相棒と言える様な師弟関係、愛と信頼が紡ぐ感情。

「未来を考えるのって、面白いね。」

「・・・。」

自分にとっては、未来は見えなかった日々だ。何時だってどうでもいい、そんなものだ。

彼女と手を繋ぐ、重ねて置いて、そして互いの近くになる様に歩み寄る。座って国を見据える。

「この壮大な地を握るのは貴方、世界という中の一部。でも、確かに広大な場所。」

その世界を染め上げて、軍神を殺せ。

ああ、だから未来は考えるのが楽しい。

「一分一秒の先ではなく、一日一月の先へ。」

広大な世界を支配する方法は、もう教えて貰った。

「・・・ああ、自分が英雄になる道筋は確かになったよ。」

「慣れてないのに、得意なんだね。」

「君が居たから、じゃないか?」

そうして世界は広がる、そうして世界は群れる。

「次の戦いも、ちゃんと勝たないと。」

「ああ。」

勝つ為に、手を尽くすべきだろう。



翌日、最初の戦いが始まった。

『戦争王』コウキと『無一文剣士』ジュリアンが先陣となり、正式な戦いが始まる。

カットラスとソードブレイカー、そして倶利伽羅剣と優衣。

王位再選、第一試合。

「・・・見せつけてやるよ。」

戦争から、乱闘に。人はどこか戦いを望む生き物だ。それを戦争以外で消化すれば良い。

軍神を抑える事が出来るとなれば敵にも利がある。その結果がこの乱闘。


森羅万象、有象無象。

一切合切、斬り伏せよ。

古今東西、栄枯盛衰。

千客万来、殺陣の踊子。

彼より秀でたる剣となるか。

「新たなる王、お前はそれ程の実力者なのか?」

呼吸を込めて長く構え、力を抜く。

刀光剣影を切り開く、倶利伽羅剣と優衣というの名の湛盧之剣。正真正銘、秋霜三尺の二振。

遊刃余地無し、覚悟して振れよ。


光は狼狽える様に散り散りになる、迷う様に跳ねて曲がって進み出す。

その剣は光だ、打ち付ける度に金属の破片が散っていく。そして空気が燃え出し、爆発する様に広がる。流星光底のコリジョンが起き、刀とカットラスが弾き返される。

夷険一節と捲土重来の剣は同じ質量をしていた。

攻めは交互に繰り返される、片方は鏃の様に鋭く突き刺し、倶利伽羅剣が問答無用で撃ち落とす。それをソードブレイカーは受け止められないとカットラスで、諸刃の正面を打って返す。

光を掻っ切るそれぞれの二本目、順調に刃物は刺さる。光が橙色に輝き始めたかと思えば、それは黄金色に変わり出す。

『ゴールド・ラッシュ』

彼の持つ凶悪な技、市場を破壊する原因。

鉱石の配置を動かし、鉱脈を歪める。根本は強力な電気にあり、地球の核の構造に手を出し、表層部程度だが動かしうる。実際の効果は小さいが『金が発見出来た』という事実が人を狂わせる様に、それは確かな影響を持つ。戦う際には常時それが発生し、刀身の鉄が磁石となって機能する。この地は使い物にならないだろう。

『スーパーノート』

レシートの要領で紙を偽札にする技術、紙の種類が違っても焼いたり削ったりを自動で行いほぼ完璧な紙幣を作る。更に金貨銀貨も例外ではないので紙幣以外も警戒する必要がある。

「・・・刀の方向がズレる原因はそれか・・・。」

優衣は今回使うべきではない。手放すべきだ。

「彗星!」

「あいよっ!!」

「・・・!?」

カオルコと呼ばず彗星と呼んだ、それに反応した。

「やはり手を組んでいたか。」

倶利伽羅剣のコピーを受け取り、持ち手を鎖で縛り上げ、口で鎖を締める。

機動戦術、倶利伽羅剣の推進力維持を利用して前方か左右に限定されるものの進む事が出来る。

敵はその速度を磁力の利用によって実現している。

その剣に宿すは秩序と善意、そして誠意。

その愛に戦う、溺れる様な剣は・・・。

誰かの光となる、美しい剣なのだ。

征服する様に届き、朝服する様に沈む。上から下へ、そして下から上へ。

「・・・素晴らしいッ!!」

隠し手も、奥の手も、尽く使いたくなくさせる。自分が勝つ為に用意した手段を厭にする。

だから派手に倒したくもなる。

これが戦いであるというのを忘れ去らせる、この上ない戦い方だ。惚れ惚れとする・・・冷静さと熱血さが両立した、迫真の剣である。

彼にとって、群れる渇望とは・・・オマケに過ぎない。最も恐れるべきは彼の実力と、その影響力だ。

何よりも活き活きした、正義の剣。

弧と線が描く模様は振り子の様に秩序的に進む。並んだ様に、繋がった様に、しかしフーリエ変換の様に秩序の中で自在に動く。動作がアルゴリズム的であるのにも関わらず、先が読めない。

・・・情報通りじゃない、反撃も攻撃も出来ている、だが、一切引かずに反撃される。

「先の彗星を余程信頼しているらしい。」

「他の狙いはもう潰したさ。」

多分これはハッタリだ、だが、彼は酷く調子に乗っている。傲慢ではない、喜びと激情だ。彼はこの上なく喜び、エンジンが動いている。彗星と何らかの関係にある。個々に活動し、最大限を発揮する。実力者だけが出来るチームワーク。

ソードブレイカーを主体にする、そして手を伸ばす。

カリフォルニアの略奪よ、オーストラリアの遊戯よ、その黄金に人々は目を失う。

遥かなる黄金の理想郷、黄金狂を。

ソードブレイカーをコウキの肩目掛けて振り下ろし、それぞれの刃が奥深くに食い込む。鈍ったそこをカットラスで連打し、奥深く、遂には浅く、腕を千切る様に落とし続ける。

「純金の剣に、人々は見蕩れるだろう。」

「純金で狂う様な瞳の奴か・・・ションベンでも興奮出来そうだな。狂ってやがる。」

その王は、痛みに一切動じない、奥歯すら噛み締めず、倶利伽羅剣で頬と耳を抉る。

「暗部王程ではないか。」

治療用の鎮痛剤は禁止されている、最近は治療において麻酔を使わない事も増えた。だからもう慣れたも同然だ。

「お前等の『帝国仲良くぶっ壊そう作戦』のせいで苦労してんのに手を煩わせやがって。」

ソードブレイカーを片手で引き抜き、地面に打って粉々にした、次はカットラスだと言わんばかりに、剣を向ける。

「肩に針刺した程度で喚くな、雌蚊の様に振る舞うな、うざったらしい。」

彼女と自分の間にあった愛、もう不安定であっても構わない、自分には支えてくれる人がいる、王という孤独は、王という国の支えを得た。

「『軍神解放』」

「・・・は?」

「問答無用だ、お前がどう考えようと知った事ではない。軍神を歪めないなら積極的に使う。」

「・・・嘘だろう?」

「残念だが、この力、結構便利なんでね、試すだけ試してみるよ。」

先の報告では彼自身も消耗する、即座に使える訳ではない、抑えつつ行使するだろう。銃か剣か拳か、どれが来るか。どの味方が支援してくるか、どの手で干渉してくるか。あまりにも手数が多い、だが、手数と同時にデメリットも多い。破壊範囲も、手札開示も、そして、国民感情も軍神の暴走も。国を消耗して彼は力を行使している。その限界も来ている。武術・武道の対策も、能力の限界もやがて見える。数、結局は数なのだ。アルトリウス究極の個であると同時に集大成、個人にして圧倒的な数を内包している。コウキにはそれがない、数はあるがムラもある、そして継続力がない。所詮そよ風なのだ。

その爆発を凌ぎ切れるか。

銃だ、火薬の臭い、それがこちらを向いている。消音器装着済か・・・。

間合いを取っては撃たれる、構えているかどうかも不明、圧倒的復帰力を備えている、彼は腕を服の下で千切って片方を銃の用意に使っても違和感は無い。

近付くが吉、そう踏み込んだ。

さて、コウキの思考に切り替えよう。

先にハッタリを使い、その時点でハッタリの程度を把握してその後も同じ様な物と予想するだろう、ハッタリに不確定要素を混ぜ、先とは信用度の全く違うハッタリをかます事で信憑性を上げる、カードから消した瞬間だと理解し、それを利用した。

「お前に軍神なんて勿体ねぇ、俺の実力で十分だ。」

後ろに一歩引き、剣を後方に構え、バックハンド様に備える。一刀、二天一流の兵法に合わせて構える。

二天一流はあくまで二刀流としては目立つが、兵法である以上勝ちに拘るし、必ずしも二刀流ではない。他の流派も混ぜて扱う。実戦軍用武術として。

弾き返された腕の骨を捨てる様に残し、反転して前方の腕を振り切った。鋒を当てて脇腹に押し込む。

「殺さず、しかし戦えぬ様に。」

身体の関節を砕き、支えるのを不可能な状況に追い込んだ。

「雲蒸竜変!海内無双!しかし・・・いや、英雄欺人という奴か。」

カットラスもソードブレイカーも手放し、そして褒め称える。

「・・・見事だ、コウキ。」

手放しで褒められる程の実力者であると認め、王位再選の参加証明を破り捨てた。

「私は君が王である事を認めよう。」

「お前が認めずとも俺は王だ。」

次なる相手に向かっていく彼を、背中だけ見て見送った。



先のマノンと話し合った事に関してだ。

「・・・過密スケジュール作戦、とな。」

「うん、分かる?」

「・・・イマイチ。」

「貴族達の信頼を得る、というのもエルフ・ストリートは特殊過ぎて却って嫌われる事もあるし、逆に好印象の人も居るでしょう。」

「・・・戦争の金銭と、場所の確保、信頼の拡散か。」

恩恵は大きい、それは確かになった。準備を進めつつ、場所を決める。王位再選と貴族に手を貸す事を繰り返し、同時に戦争を進める。

「場所は地図で渡す、アスタルトに任せておいた、物関係は調達場所や調達済みもあるけど、人関係は任せた!」

「(ヘカテー抜きだとキツいな、これ。)」

自分の腕次第、それを知った上で前に出た。もしもの場合はリュファスで性的解決してもらおう。後でヘカテーを送り込んでデリヘル+メンインブラックして貰おう。

マノンは話を締め括る様に言った。

「コウキには皆から愛されていてほしいからね。」

やはり彼女は母親的な視点がある、独り立ちさせるのに積極的な良い人だ。どこぞの性盛りかつ分かり難い母親よりはマシだ。

だが、マノンにも、一つ問題がある。それは群れる渇望の影響を受けなかった事だ。

「・・・僕の余命は、そこまで長くないからさ。」

数年、後数年でこれを終わらせ、彼から記憶を消して去る。・・・彼には申し訳ないが、自分の心に穴を空けてしまわない様に。

「もっと早くに会いたかった・・・。」

自分の心の穴など無視して前に進んだ。それが仇になるとしても。


エルフ・ストリートの長(♀)から紹介された人物に会う、先の戦闘から二時間、縫って傷はなんとかした。肩は繋がって居ないので触られた瞬間ズレて外れる。手術系は鎮痛剤を貸して無理矢理縫合する予定だが、内容も聞いていない。

一応帝国の貴族は家系が幾つか存在した。それは置いておき、今日は・・・今日は・・・今日は・・・。

わぁー、写真で見たことある人だ。

エリーゼ・イニャールっていう敵だって会議で見た・・・。

「遅かったじゃない、もう、アルトリウスはどんな教育をしているのよ!」

不能公は居ない、撒かれたか死んだか。

「・・・心配する様な事はしてないわ。私、殺すのは得意ですけど好きではありませんから。」

息を呑んで、彼女が覚悟した。自分は不能公がやられたとなると戦いはNG、下手すれば秒殺、手を引く準備しか出来ない。

「コウキの血縁を保証する代わりに、私を助けて。金もあるし、身体でもいいし・・・殺してもいい、なんでもするから・・・。」

「・・・?」

「・・・私は、自分の国から裏切られて今ここにいる。だから恨まれたりもしない!絶対!」

勢いがやたら強い、でも誠実そうな感じがする。カオルコの代わりに欲しい。

「お願い!私は本当は私じゃない・・・!」

「待て、どういう事だ?」

「私は・・・外付けの多重人格で!望まない形で女帝になっちゃったのよ!!」

ああ、不能公はわざと負けたのか。こういう奴は見逃す質の男だ。ただ、解決しなかったという事は余程問題があるらしい。

「もう・・・誰も殺したくないから・・・。」

・・・問題があるとしたら、自分の方か。

自分のすべき事は、不殺を捨てた人間として彼女に向き合う事だった。

四字熟語をあんま使わない理由は変換にないから。

今回は特別にしただけです。

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