猛きしかし脆き軍神
彼は全てを薙ぎ払う、赤々と燃え、木々も消える。
「悪いな、狂。」
『気にしないで。』
「俺には仕事がある。」
彼の背後には、見える限りの荒野と焼け野原が広がっていた。
「・・・一週間、慣れて来た。右脳と左脳の交代睡眠、ヘカテーが仕込んだ反復性挙動掌握。」
最早コウキは狂気に落ちた。選ぶべきでない人殺しの道に耐えれず、精神を壊した。
その答えは、眠らずに殺し続ける事だ。
ヘカテーにも黙った事実を隠す必要がある。
アスタルトにはバレていた。
『お前が奪った英雄誕、数冊欠けていたな。私は英雄誕の発生条件も知っている。』
生態系を破壊する群れる渇望、それが彼だ。
スタンリーの狙いは何だ、人類の破滅か?
いや、恐らく群れる渇望を利用するつもりだ。
「・・・群れる渇望は災害としては異質、解決手段として頼ってしまう。」
実際は人類に破滅を齎す、生物学に相容れない存在だ。止めなければ、止めなければ。
先ずは自分だという事も忘れ。
確認出来た人数は以下の通り。
『暗雲雷鳴』ロドリゴ・ヴェスプッチ
嵐の王とも言われる詳細不明の人物、戦力として重宝されているのは聞いていたが、広範囲ではないので暗殺がメインらしい。暗殺で有名たる所以は、遺体と判別出来ぬ程粉々にする事が原因らしい。
『無一文剣士』ジュリアン・レザンスカ
・・・彼は市場すら破壊する剣を持つ、あまりに殺したが為に金銭の価値は落ちる。故に無一文だそうだ。金銭は貴賎あり、しかし全ての金銭の価値を無くしうる、手に余る存在。
『歴史的特異点』アンジェ・ビーンシュトック
歴史には必ず始まる点が存在する・・・新たな地球の第一人者、逆に言えば古いだけの人間だが、彼の時代百年だけで人口を一億人まで増やした。
『神格朝服』ベルナデット・ジリエ
強力な洗脳能力、それを対神格に絞って行使する存在。半身は石膏像で出来ており、様々な力を重ねて使える。
『東方国の女帝』エリーゼ・イニャール
多分この中で最も警戒すべき存在、純粋なスペック、かなりの間国を維持する実力が全てを語る。最低でも数百万人を殺した人物。
『多国大公』ギスラン・ウィルソン
類稀な財政力を持った一族と同様に外交力を持った一族を取り持つ子孫、その実力からそれぞれの一族を守る役目をしていたものの・・・その双方の一族は既に残っていない。
『周航王』エルワン・ブイエ
本人自体は脅威ではないが、様々な力を付与し戦わせる存在、地理や地図に詳しく、戦略や戦術では相当な手腕。・・・が、今回は少数精鋭戦闘なので前者が殆どだろう。
『災害対応』クリオ・ブラディ
対災害戦闘で一番の勝利数を誇る人物、彼の周りに自然と国が出来る程。対災害に強い剣を有している上そうだ。
優はあるものを受け取った。今回味方に出来そうな人物を探している。
「エリーゼ・イニャールの出自よ、バレないように逃げなさい。」
「おうよ、助かるぜ。」
それを簡単に読むと次の様な感じになった。
中東のハレム、これは大奥や後宮に並ぶ・・・いや、それ以上に苛烈な場所だ。というのもイスラム王朝は次の王位になれば兄弟や近親は全員処刑される。・・・生きていたとしても鳥籠制度で幽閉し、そこにいたハレムは無意味に死んだ。
次代の王、次代の王にも使え続けた・・・魔女と蔑まれてもおかしくない中、彼女はそれを通り越して神話の域に居た。全てが信用と結び付き、隠され続けた。
・・・この手の権力者は、内部の闘争では強いが外部との戦争には弱い。特に西太后なんかはそれの代表だ。
彼女は軍を率いたものの、ある人物に敗北した。
・・・インドの北、守護神として佇み続けるある人物。
カルナだ。
彼女の追われる日々が始まった、詳細不明とはいえ、一人に軍人や奴隷を費やした上で負けた。
全て奪われ、全て破壊された。
自ら命を絶つなんて事はせず、生き延び続けた。この無意味な位長い寿命は自分を苦しめるものでしかなかった。
助けられた、あの顔色が死んだ、僅かな笑顔と筋肉質だが細身・・・青ざめた腕に。
不死身と言われるあの男、アルトリウス。
恐らくは奴が我が軍を破壊し尽くしたと。
その報復の為に生き延びていた。
「・・・早速やるか、新武器お披露目。」
『歯弾』『鈍銃』『狂剣』『暴槍』『従盾』『無鎧』
一つは白い銃弾、火薬らしき臭いはせず、硝煙反応も出ない。音もしない。一つは拳銃、大型だが上記の弾丸の性質上反動は無く、再生機能を利用して弾丸を吐き続ける事が出来る。一つは剣、張った糸の様に発散し、展開する。一つは槍、相手に接触すると酸により貫通し、拒絶反応と炎症を起こし破裂する。一つは盾、持ち手さえあればそこに吸い寄せられ、使い方次第で壁にもなる。一つは不可視の鎧、僅かに端に色を塗って何とか分かる様にしてある。
「災害を数十個、遺体をリサイクルした上に上物だけを厳選した。」
と言っても再生するのに時間が掛かる、燃費は悪くエネルギーも相当。群れる渇望はかなり節約気味だが、それとは大違い。エネルギー消費は並行して使った方が節約出来る為、これが一番抑えれる。
遠距離、近距離、防御。その全てが最上級。
「察はやはりGPSを警戒していなかったか。」
察が国境外れ、東方国の東端に、狂は帝都近く、闘は保険として近くに待機すべきと言っていた。
外側も外側、海に隣接する国々の内陸部、その国境が破壊され始めた。剣や歯、クレーター。
一つ言えるのは、全ての国はこれ以上前進出来ない。秩序が乱され、歩調は崩れた。
呼び戻すか、進めるか。
先のリストから二人削除された、そう、二人は裏切る事になった。
「・・・被害規模から察の方に行く。攻略可能性が一番あるからな。」
彼もそのように予想していたが、一日でそれは覆される結果となった。
不能公、蒼髪公、中部王(狂)、変化の魔女。彼等四人は相変わらず馬車で進む。
一番警戒すべき、同時に警戒しなくていいのは『東方国の女帝』である。東方国一位、最も人を殺した女。その寿命は宇宙よりも長い・・・とか。
「徒党を組んでいると思うか?」
「いや、ない。」
「その心は?」
「把握した上で牽制している。多分一番乱れたのはマノンのせいだ、裏切りの警戒をしているんじゃないか?」
エリニューエスは回復要員、それ以外が基本戦闘となっている。
「四人で攻略する。戻るまでに片付け始めても問題無い。」
「何をしていたんだ?」
「ローマ式カルタゴ農法と治水設備破壊しまくって一部に助かる程度の食糧を入れておいた。取り立てたら破綻、取り立てなくても破綻の二択に追い込んである。あと労働力をエリニューエスの芸術作品にしたりロタールの血をちょっとだけ川に流しといた。」
「多分最後が一番効いてる。」
エリニューエスは片手に本を持って言った。
「そうだ、私最近自分の既存のやり方が鈍くなったから新しい方式も作ったよ。」
「と言うと?」
「元々は原子間結合の調整だったけど難しいしね。」
「変わったらどうなるんだ?」
「四肢と内臓を別人と入れ替える。」
「福笑いじゃねぇんだからさ。」
「制限を設けれるから例えばアルトリウスと百人ノ軍隊を連れていくとランダムで百人からアルトリウスの拳や蹴りを混ぜれる。」
「悪夢か?」
「人数増えなくてもやるぞアイツ。」
中々凶悪な感じもする、拒絶反応で怪我させる事も出来るが縫合が丁寧なので切り離そうとしても切り離せない。
「あっ、シフォンドレスのおねーさんだ。」
「おだまらっしゃいクソガキャ。」
「同族嫌悪感ある。」
その子供が切断されると予感し、踏み込んで助けた。
「・・・誰だ!?」
「・・・敵だな。こっちで戦う。」
不能公は前を向いた儘だ、だが、襲撃者は次々と落ちていく。
「甘い、誰も彼も甘過ぎる。」
彼は最も先代皇帝から信頼された、古い人間だ。公爵の中で最も秀で、信用に足る。
察の異変が同じタイミングで巻き起こる。彼の根本が何か分からない。
軍神が目を覚ます、それは歪に、望まない形で顕現する。
影が、女のそれに変質した。姿形、髪のなびき様もそうだが、ドレスがあまりにも絢爛なものだ。長く、風に吹かれては崩れた様に思えない。
彼女の本質は影、影は光無くば出る事はない。そして影は人を食らう様に彼等に届く。
「・・・さぁ、契約通りに。」
アマテラスは彼の背後から、黒のベールが剥がれ落ちて姿を見せる。
「クリオとロドリゴ・・・。」
つまり、自分の出自がバレている可能性がある。或いはクシナの方が残っていたか。
陽光と剣、天叢雲剣の対極が如く。
仮想環境『月詠』を設定し、光の出力を上げる。
森林は燃え始めた、そして、月が黄色に近くなる。それは燃える様な熱さと光を持ち続け、月と言えるものでなくなる。
その月が輝くのは、日に近い時だ。
あそこまで戦い続け、痩せ細ったとも言えないコウキ。内臓はほぼ捨てた、だが、栄養剤の作り方が分かったから問題ない。
その人間は鬼となった。背後の光は彼を影にする。
構えから繰り出すまで一秒も掛けなかった、ロドリゴは確かにそうした筈だ。断頭剣、ギロチンよりも前の貴族の処刑における象徴的なもの。エクセキューショナーズソード。平面の様に広く、首を斬る為に作られた剣。
それを優衣でぶつけ、剣ごと腕を斬った。
「・・・はぁ・・・はぁ。」
コウキは無傷だが、血を吐く。体力が持たない。・・・だが、そんな暇もない。
限界の中で克己する、不思議と彼は死なずに立ち続ける。時間の経過と共に身体は戻り、やがて最低限を取り戻す。
倶利伽羅剣と優衣に持ち替え、速攻を仕掛ける・・・だが、優衣の方だけは弾き返された。
指先は無いが、処刑用の斧を紐で縛り持っている。
同じ事をしたのでよく分かる、これの欠点は持ち替えが難しい、筋がズレ易い。
そう、尚更自分のした事を見直さなければいけない。
首に剣が入った、呼吸が停止、三十秒のタイムリミットが発生した。剣の切られた持ち手の無い長い刃を、腕に突き刺してこちらに向けた。
間一髪で深入りを避けたものの、喉の反応が悪い。
肉片が一個たりとしてない筈だった。
コウキは土壇場で燃える様な魂に火を灯す。
災害を呼び起こし、一瞬の内に窒素が減り始めた。
首を切ろうと落ちやしない、アマテラスに巻き込まれようと傷が付かない。
リミッターを外し切った。生と死の境にて、彼は暴走を起こし始めた。
コウキという軍の神格・・・軍神を。それは如何に振舞おうと彼の勝利に収束する。
「古き時より贈り物だ、お前の内なる情熱を冷ますのに最適なものをな。」
災害対応クリオ、否、カルナの後継者。
宇宙から一つの槍を落とす。
コウキは王として作ってしまった。軍神としての信仰。群れる渇望の素材として、誰一人気付かない儘に。
自分が自分を誰よりも理解しているから、こうなると分かっていなかった。
だから、自分自身で目を覚ます。
アマテラスは影に引く、ロドリゴが剣を刺し、クリオが槍を当て切った。彼等は決して弱くない筈だった。弱くない筈だった。だが、軍神の前にはあまりに脆弱だった。
地球の3%が、白紙になった。
その上には土しか残らず、全て消え失せた。
「・・・はぁ、はぁ・・・。」
何かをした訳ではない、自動的に瞬間的な爆発、そして蒸発させた。残響も無い、一瞬の破壊だった。
望んだ事でも、祈った事でもない。
「コウキ!どうしましたの!?」
衣服も無いが、恥ずかしい所も残っていない。身体の大半は消えたが治り始めている。
「・・・軍神は絶対に勝利に導く・・・勝利の形も内容も問わず。」
マノンは外側から抑え止血し、内容物は自分の貸せる分で代用する。取り寄せれるものがない、少し苦しいがこれしか今は無い。エリニューエス程上手くは出来ないが、何とかやってみせる。
「貴方は軍神ではなく、一人の王、そして小さな子供。・・・何より、哀れな人間。」
「・・・。」
「苦しんでいるのは分かります。」
マノンは彼に近寄る。限りなく万能、アルトリウスよりも神に近く、強さ以外の点で負ける事の無い女。無法な強さを以ってして尚出来ない事もある。その最たるものが、人を助ける事だ。
「私が何とか出来ますから、もっと頼るべきでしょう。馬鹿。」
「・・・嫌なんだ。」
「何が?」
「母親も・・・母親代わりも良い人だ、マノンも・・・だから。」
助けた事は、仇になった。
「戦い続ける中で生きる位なら、それ位なら全員殺してしまいたい。」
一人で出来てしまう、それは時に失敗を招く。だが、実際人間は頭数を増やしても大抵は烏合の衆になるだけだ。先進国は200程度の国を作って10あれば多い方、全員がというのは有り得ないが、組織があろうと人間は混沌に埋もれる。
彼は王に相応しくない。実力で判別してしまった、情や利益を優先した。その結果、信仰を悪化させた。それを責める事はしなくても良い、自分も発端ではあるのだ。
「(・・・災害としての精神性が残っている。やはり警告通り。しかしどうにか出来そうなのも事実。)」
軍神を抑え込む為にリソースを全て使われる、それが一番恐れるべき事だ。
「軍神は因果すら書き換えて確実な勝利を引き起こす、世界最強が俺達である限り同時に軍神は最高峰の信仰を受ける事になる。」
魔女は単体で成立しない、科学の末に恐怖され、信仰されるが故にかけ離れていく。
「恐怖し、悩み、信じられ・・・そして。狂った存在だと。」
人類史は、全て戦争に行き着くものだ。
分断が敵意を産み、ストレスを産み、抑圧と発展を促す。
人類はいつまでもその発展に甘える。
その争いを保つが為に彼は狂う。
人類の発展、それに深く関わった軍事・・・彼が群れる渇望に相応しい。
各国は勝利する為に彼を殺さねばならない、『向こうを勝たせた上で殺し、確実に犠牲を出し敗北する』事が必須になる。城を差し出せば城一体どころか先の様な蒸発が起きる。人物を犠牲にするならその人物が終了されるまで・・・。
今までは幸運にもその様な被害は起きなかった・・・。
コウキを復元し、しかも群れる渇望を消耗して制御が外れた。繰り返される戦争に人々は諦め、憎悪した。
二人は消え、その他多数も巻き込んだ。
「・・・予想以上、ティアマトの血を何故か有していたり、他にも異常な箇所がある。報告を済ませた上で問うか。」
光により数日間の盲目状態、脳の停滞を付与する。
「お前は何か知っているのか?魔女。」
「何か知っていたらこんな場所には来ませんよ、公。でも、これだけの威力があるとなれば・・・。」
アマテラスの推察は、理屈は不明だが納得は出来るものだった。
「神格、魔術師、災害。三種類が重なっているんじゃないですかね。爆弾解除より面倒いですよ。」
神格は信仰をベースに、魔術師は科学、今回であれば彼の武道に対する知識、そして災害というそれ等の補助。
「軍事的な兵器は『程良い殺傷能力』と『対物性能』が必要・・・そして彼は、その殺傷能力が軍事的な視点ではほぼ完璧。」
太陽光・・・正確には恒星の魔女、強引に抑え込んで心拍数を一日に一度まで落とし、尚燃え滾る炎を凍らせて鈍らせる、そんな人間だから理解出来る。彼はそれ以上を抱えているのだ。
「戦争では犠牲者も多いですがそれは許容量を超えたりして見捨てる必要があったり、勝利する為に寄り道した対価であったり・・・その影響が大きい。」
解決するビジョンが見えない、恩恵によって緩和され、少しマシになった彼女とは違う。彼はデメリットばかり、信仰されればそれには九割の悪が付与される。百害と一利、それが軍事だ。
「平和は戦争を悪化させる猶予期間だ、戦争は無駄に長引く、政府は戦争が起きない様にする役目があるけど内戦も戦争も政府以外起こす事はない。」
戦争が続く限り、平和が訪れる限り、彼は続く。
「軍神という、人間の想像した怪物。」
人間という獣を煮詰めた果てに存在したのは、人間よりもおぞましいと望まれた軍事だ。目を逸らす為に彼は作られた。人類が正しくない限り彼は正しくなれない。
「それがコウキであるとしたら、彼を殺せば問答無用で戦争を中断させられる可能性があるという事です。」
マノンは邪にも物を考えた、出来る事が多いなら、する事も多い。彼女はコウキに一年間で大分肩入れしている。
「・・・猛者達の全ては彼を戦場に引き出す、彼の動きが戦場の、世界の命運となる。」
「ここで戦争を停滞させれば、猛者しか出てこないなら逆に停戦しやすくなる。それが出来る実力も頭数もある。あとは秘匿戦力次第だな。向こうにも居るだろうし。」
マノンは不敵に笑う、彼への心配もあるが、メインはあくまでこちら、コウキに肩入れしているだけで肩入れしている相手も多い。
「どこかにある群れる渇望を彼に戻し、殺される前に洗脳し直す。極論僕が・・・私が記憶を改竄すれば良い。」
その軍神に、世界は席巻し、注目する。疑心暗鬼高揚問わず、脅かす様に。百万の犠牲を奇貨とし、その損は軽いと。
「救助してやった対価は純金でのみ受け付ける。」
「へいへい、話が違ぇよ、奥の手使って一歩も止めれないってどうなってんだ?」
「致命傷だから、じゃないか?」
「・・・致命傷を無効化する、とか?」
「その線が強い。」
偶然だ、全ては偶然だ。コウキという人間が神格であった事、コウキという人間が魔女に並ぶ学者である魔術師として武道を活用出来た事、そして、それを素材に災害を作ったが為に異常な個体が誕生してしまった事。
「誰を救うか間違えるのも、案外悪くない。」
エリーゼが覚悟したのは、世界の破壊だった。
狂団は、軍事行動の抑制時に発生した組織だ。
頭数は十万、牢獄に繋がれている人間も多い分、実質的にはそれ以上。人口からしたらかなり少ないが、軍人の数を考慮するとかなり多い。
「ローガンが凌ぎ、削ってから倒す。警戒すべきは幹部。前々から仕込んだ二人を切って遅らせた分正面戦闘を仕掛ける事を強いれる。」
不意打ちが多い、今まではそうだったが次は出来ない。王位再選で警戒されている中、アスタルトもいない分陽動は扱いにくい。
アルトリウスは身体を冷却しながら戦略を決める。彼がすべきは複数の国の対処、この世界において最重要はやはり数、継承がある以上、死は繰り返される。頭数が減れば死が質を高め、頭数が増えれば死の恐れを減らす。どれだけの生を用意し、活用出来る様に配置するか。
それ等を伝え終えた、後は瞬間的に何人持ってけるか、災害の残りが出陣してくるか、それを確認する為に彼等の背後に立つ。
全員が振り返らずとも察する。
その背後には唯一無二の英雄、並ぶ者なし、挑むのは無謀、挑まねば敗北。人類の外れ値の外れ値、存在するだけで全て乱す盤面の王者。
「アルトリウス・・・!?」
「会議を盗聴して中も見ずに判断したな。」
彼の役目は防衛か攻撃、どちらにおいても『一点で乱す』事に変わりはない。逆に対策されてしまえば彼は無意味になる。やはり数に勝るもの無し。
だからアルトリウス自体も動く、一点を見極め、初動を捻じ曲げる。
一点の筈だ、一点だけ・・・。
帝都にて、会議は続く。だが、一人振り返った。
「・・・俺と同じ気配がする。」
アルトリウスだ、気配というよりも空気の歪み、地球を震撼させるが為に少しピリつく、それを感じた。
「フェイクの可能性もある、マノンは帰還するらしいから俺が向かう、ローガンは防衛用意、それ以外は戦闘用意、ヴィルギルが以降の統帥権を握る。」
心当たりがあるとすれば狂団狂祖、奴なら同じ事が出来る。奴の力はかなり厄介、自分以外が向かうとかなり厳しい。
剣を一斉に持ち、そのままサッと走り出す。街中に佇む人々の間を気付かない、或いは幻覚の様に忘れ去らせ、恐怖でくすんだと思った足も解ける。分からずに解ける。
白を出て畑が広がる、壮大な木々が出迎える。そこに住む女は前々から察していたのかすぐに手を貸す。
「チェルノボグ!」
「分かってる!よっ!!」
最高火力を最高速度で六発、当たれば戦艦が沈み、人体であればそこに何があったかも分からなくなってしまう。だが、彼には突風が如きそよ風だ。銃弾を足に、そして靴の裏で弾頭を踏み、斜め上に飛び、聖剣十二束を手に取る。
怒涛の光、応報の日、空を見上げれば太陽よりも眩しい、明確な殺意を持った存在が侵入者に刃を突き立てる。先陣は恐怖と直後の万断の熱風、白の斬撃ではなく赤々と燃え盛っている。恐怖の象徴故に、問題無用で正義であると認知してしまう。差が絶望し、立場が希望を決して見出させない。
「俺を出したという事は目的ありきだろうな、それも同士討ちに近い物。裏切りの手柄。それか単純に妨害としてか。」
アルトリウスが二人、片方は偽物だが、一瞬で同じ実力があると示された。既に何人か傷を負い、引き離す様に誘導して逃がしたが、思ったよりも粘っている。こちらが本物、それに行き着く事を拒否したかった。
全員を平等に剣で重傷を負わせ、血が噴出する。何も見えはしなかった。出血から意識が遠のき、苦しむ。
その剣を地面に突き刺そうと、彼自身が異常な速さで手を折るに違いない。
彼等は嘗てのアルトリウスの友ではない、だからこの遭遇は絶望に近い。
「さて、どうしてやろうか。」
致命傷は与えない、全員殺してやっても良いが、それはそれで継承されてリセット、自分は容量不足で消される可能性があるので迂闊に殺せない。
集合しているという事は一点突破から侵入・制圧。自分の偽物(出力は本物か)に対処出来る実力者も居る。解散させた方が都合が良い、新人試しにもってこいだ。
聖剣十二束、出力上昇、範囲拡大。
砂塵が織り成す黄金の風、雲が重なり空は高く聳える。神々しい遥かなる試練は彼等に目を合わせた。雪辱の雨が降りしきり、天地の境がゆっくりと崩れ始める。
「イニャールか、酷い裏切りだな。」
「裏切り?アンタが勝手なだけでしょ?」
「誰に助けられた上で言ってるんだお前?」
「・・・感謝はしていない、悪魔に悪魔が衝突しただけよ。」
「代わりの名前もか?」
「だから嫌いなのよ。」
耳を眩ませた彼等の話は遠く届かない。
「最低最悪の姉だ、本当に。」
「優秀過ぎて嫌になるわ、こんな弟。」
抵抗したものの跳ね返される、剣を束ね一本の究極にする聖剣十二束、技術と命運の集大成、彼の実力があって漸く必勝の剣となる唯一。
「コウキはお前を逃さない、必ず。それを信じて送ってやろう。」
剣を一人以外に振るい、一人は蹴りで同じく飛ばす。川辺に流し、流れに巻き込む。
濁流の中に身は任せざるを得ない、彼が見逃した、それは希望であると同時に絶望だ、一瞬で破滅するか、じわじわ殺されるか、その選択肢を与えられたに過ぎない。
帝国に立った以上、これは運命だ。帝国で生き残る、それは敵であれば遥かな試練だ。
「・・・コウキ、か。」
あの軍神がコウキ、それは分かった。手の打ちようがない訳ではない。彼を味方にする、アルトリウスが倒れるまでじっと機会を伺う。あの狂気的存在を立たせ続けてはいけない、自分の将来が狂う。
「・・・だが・・・。」
裏切ったら、国は即座に燃える。あの国は力を底上げする為に様々な改造を施した霊の地、利用された日には・・・。
狂団とやらも危険だ、極右と極左がアルトリウスという存在を前に手を結んだ組織、奴等には洗脳らしき力が存在する。裏切り者が出て寧ろ正常。
絶望の盤面、その中に自分の求める物はある。
「・・・なんで・・・本当に弟なんだよ・・・。」
悔しくてたまらない、彼が望んだ結果か?
彼は・・・こんな人間じゃなかった。
「分かって欲しい、唯一の家族として、血の繋がりは希薄でも・・・。」
だが、彼女は三日後にコウキと衝突する事になる。
世界は残酷に牙を研ぐ、一意の為に全てを捨て去る。
平和戦記黄金編が2020/05/04投稿だったんで四年越しにこうなった。
マノンは素がボクっ娘という元々のキャラの出番が無くなった影響で引き継いで足されました。ごめんねサンドラ。




