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継承物語  作者: 伊阪 証
軍神の渇望

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中部王:優しさの鎖

もし、貴女が見ているのならこれを覚えていてください。

「優しく秀で」「考えて察し」「快く戦い」「一心不乱に熱狂する」

彼はその様な人間であったと。

彼は、優しく、誰にでも甘い。勿論自分自身も例外では無い。

鷹鷲、木野、国田、笠木、生川、明神。

コウキの生まれは四国だとか、四国には謎が多い、特に縄文時代、邪馬台国或いは何らかの勢力が存在しないとおかしい、と。海底よりは信憑性もある、山陽・山陰、近畿、九州。諸勢力が存在する中間地点。

高知のどこか、淡路島までなら何とか。

コウキと初音はそこで出会った。

レイチェルという母親代わりの女性と共に過ごしていた、気弱とも言い難いが、絶望した感じがあった。

でも、いつまでも覚えていなかった。

翌日には忘れ、全ては元通りに。

しかしそれは覆された。彼女は自分を成長させてくれる、愛情を与える事で自己愛を教えたのだ。

コウキは愛が無ければ成長を起こさない。そしてその在り方は愛に縛られる。

昔の話だ。ほんの昔の。



彼は毎日会っても些とも名前を覚えてくれない。

見た目が良いとはいえ、もう愛想も尽きた。

別れる様に言おうとしたが反抗もしない彼が気に食わなかった。だから自分は怒った。


その翌日、覚えている事は無かったが、泣き腫らした目の湿り気、そして腕に強く握り締めた跡があった。覚えてもいないのに名前を読み続け、呼び続ける。

だから私は、彼を好きになった。


翌日からは覚えていた、だが、他の人間はレイチェル以外は思い出さない、少し独占欲が湧いた。

彼は腕には色々な傷があり、機能としては万能、汎用性が高い。自分は戦火の中、もう親と会う事も無いからと去った。


戦火は何時でも緩やかに着火する、数年掛けてじっくりと、確実に。

だから戦争は国家の手段として便利だ。

「思っていたよりも簡単」と人命を減らす。

「思っていたよりも余裕」と経済を忘れる。

「思っていたよりも好調」と前線を進める。

平和ボケとは、戦争の規則性を忘れる事だ。

恐ろしい事に、戦争の当事者は誰もが平和ボケをしているという事だ。

真実の為にメディアを作ったから、支配者はメディアに真実を言わせない方が良いと操作する。それと同時にメディアは真実を伝えない方が良いと気付く。

戦争は価値があった、兵士となる人間を差し出せば、金になる。経済は死んだが、金の価値を理解している人間が多かったら格差も無い。

だから自分は追われた、親という悪魔に。

コウキはその出来事の中でも助けてくれたが、いつも忘れる。


コウキとその親は知らず知らずの内に接触していたが、記憶力に関して理解していた。逃走する際の観察眼に違和感を持ったのだ。

そして、一つ頼まれていた。

「明神初音、うちの息子だ。自慢のな。」

別に衝撃ではなかった、知識としてのオスメスはあるが、それ以外は無い。経験則も捨てられた。

「どうしたら女装癖を辞めると思う?」

その質問に対しての答えは単純な発想と扉を蹴破る強引さと突拍子もないものだ。

「簡単だ、犯す。レイプしろという意味じゃない、快感であった方が良い。」

「ほう?」

「四六時中盛る事はない、女装癖と快感を結びつける事で勝負服にし、ルーティンとしての癖をつける。」

コウキは、異常だった。それもそうだ、災害として三百年近く生きた人間。成長を止めるまで愛情を枯渇させ、退行したが以前の記憶は残っている。


明神初音を奪還する、金の縁で十人程度、前線に送らないという約束で一人連れ出す事に同意した。

しかしその全ては覆される。

明神初音の身体は既に変わりきっていた。

「『ボルバキア・グリーン』」

群れる渇望は生物の破綻を起こす。

競走を引き起こし、一世代一世代の差を酷くする。回転を円滑にし、遺伝を選択する。

優生思想は人類を破綻させるのに最適なシステムだ。戦争として並行して考えているとしたら尚更似た発想だ。

「望む形に変え、最短を突き詰める。」

生物という形は、彼の前には粘土でしかない。

その粘土に理想があるならば、最短経路とバックアップを保証する。

ただし、全てではなく、強引に叶えるのも当然だ。

煩雑な願いは、その後を保証出来ない。

世界を平等に価値あるものにし、平等に価値を無くす。

価値の差があれば争いは生まれ、争いが無ければ生の価値は落ちる。


故に彼は軍神、そうでなければ世界は回らない。

彼が軍神でなくなった日には、世界が破綻していく。


枷を解き、あるべき姿になった初音の手を握った。

「行こう。」

彼女は、彼を恐れた。

それは忘れるから、その嫌悪も覚えられない。

自分は愛情を放棄した。愛情が無くなった。

彼の成長は、また停止した。


結局その選択はどうなのか、迷い続けた、彼は怖く恐ろしい人だ。

「初音さんは、どういう人なの?」

「私は・・・いつも遅れた人間だ。迷っているから間違える人間だ。」

そんな話を昔した。女装も責務から逃れる、不一致ではなくそうすれば誤魔化せるというだけ。

「でも、追い上げる事が出来るから、その持続次第では大きくリード出来るし、時間も掛からない分学習し易い。」

この後手後手を褒める人間なんてコウキ以外に居ないだろう。

自分はこの根本に気付いた。今何故彼の性質を見抜けたか。その差異が少しばかり、身を預ける。

枠組みだ、彼は愛で稼働する不思議な機械、温もりが与えられてエンジンとして動く。それを支えるのは相互的関係である。彼は封じ込める事で恩恵ばかり引き出せる。案外長続きしない沈黙だった、今でもそう思っている。

若しかしたら彼に男であった事が嫌になった原因なのではないか、と。

自分がすべき事は、自分を見つめ直す事。

もっと単純で、軽率に。

もっと性悪で、悪辣に。

変えてもらったからではない、生かしてもらったからでもない。

只、愛おしいだけだ。

心に思った訳ではない、無意識な愛おしさ、独り言に出る愛おしさ。

糸し糸しと言う心、然して戀なれば。

「二人だけの秘密だよ?」

と、二人の関係を締めた。

これが自分の答えだと、言い切った。

その事を、彼は一生忘れないだろうから。



優衣という人間は、コウキの中に眠った技術を切り開く人間であった。

国安村には未だ着かず、淡路島に到達した彼等。

そこで遭遇した。

「爆発五分前の核爆弾だって。」

「・・・。」

「・・・。」

不発の水素爆弾、しかももしもの場合にリモートで作動する下手な作品、火力は本物。

コウキはノータイムで唱え始めた。

「『輝ける七つの海』」

赤の粉塵が広がった、そして小さく戻っていく。だが、奥深くが見えない。

「『赤色明星』」

衝撃で少し吹っ飛ばされた。赤の中に光があった。目を劈く異常な光が。

「『爆風消化』」

半分程度溶けたコウキと、中身の無い爆弾。

「・・・何とか、出来た。」

「・・・ストック使い切っちゃった?」

「百万人分は使い切った。」

「ま、いっか。生き残ったし。少し治るまでは待ちましょ。」

「・・・ここいらは人が多い。」

「いつもより判断が早かったのはそういう訳か。」

誤差が見える程度、それは自分の精進の余地か、知識量の余地だ。指摘としては正確でありがたい。

「最近人自体の気配は増えているが居なかったりというケースも多い。」

「死体が増えて精度が鈍った?」

「それも考えられる。」

自分の考えるべきは人の石化技術だと思う、錬金術の様な話だが、石児とか、前例が無い訳ではない。子宮内で母体を守る為に石灰化するというものだ。

エイリアンの子供だの言うのは多分これだと言われ、話を盛ってメディアに話し、混乱どころか遺児に対し冒涜を施す。

「・・・汚染による多発も考えられる。」

人間の石化は、現実的な範囲だ。人で作られたテーブル、と言われているものもある。

「人っぽいものがあったら戻してみたら?再構成する感じで。」

「やってみるか。」

実際、プラスティネーションという人体からプラスチックを製造する技術はある、体内で血管周りを塞ぎ止血するとかの運用が可能だ。骨折しても最前線にすぐ復帰出来る。元々死体が石油になってプラスチックになったからそうなるのは十分有り得る。

ジローラモ・セガートは石化技術としていたが、これに錬金術程度の知識で辿り着いていたのではと予想出来る。

「タンパク質ではあるから逆行は可能だ。」

「問題無さそうだね。」

「現地民から知識を聞き出せれば良いんだが・・・。」

どれがどれか分からない、加工出来るとしたら人間の原型は留めない。



薙刀を持って、大和撫子と言うには物騒、着物はカルタ取りの様な。

「絶対切られる。」

「大丈夫行けるってコウキなら!」

「何やったら人間があんな目をするんだ。どう考えてもダメな目してるよ、血に植えてるよアレ。」

「親が石化して血をかけたら生きてる感じがしたエリザベート・バートリー伝説が再現された感じね。」

「尚更行きたくない!!」

「じゃあ私が行く。」

「それは駄目。」

「どうしろってのよ・・・。」

「一緒に行こう。『猫と和解せよ作戦』で行こう。」

そろそろとゆっくり、一秒1センチの一進一退の攻防、向こうが疲れるまで粘りつつ前に進む。

「このタイミングで言うのもなんなんだけど薙刀持ってる女の子っていいよね。」

「サク〇大戦は終わった、さっさと進め。」

「うぃむっしゅ。」

別に敵意は感じないが体力自体は減ってそうだ、もしもの場合は先の未消化分を主砲にして打ち込む。従来の火力で出す訳ではない、もっと仕組みを単純化して打つだけだ。遠隔ではなく近距離で確実に仕留める。此方の場合風圧で上から来られても問題ない、その際に焦がして使い物にならなくなると困る。

「コウキ、何かした?」

「している、洗脳でどうにか出来ないか試行錯誤中だ。」

そこで一つ分かった事実もあった。・・・それをコウキは黙り、しかし先よりも強い歩調で前に進んだ。



そのあと暫くした頃にコウキは二人で話すべきだと前置きをし話す。

出会いの話を掘り返し、どうでもいい事なのに彼は慎重に語る。石化に関してご執心らしい。

コールドスリープは正常に動作するか不明だし、石化も戻るかは分からない・・・が、半分程度の利用は可能だ、それを利用して自身に流用するとか。

優衣の身体を治したものの、家族や周辺の人物は修復不可、動かなかったのは石化が進んでいたかららしい。

何故か、その答えを明かすのはかなり後の話だった。

「彼女は水素爆弾に搭載されたOIだ。」

「・・・Oiって何?Aiの亜種?」

「ああ、オルガノイド・インテリジェンス。寿命は短いが消費電力が少ないCPUの代替品として注目されるものだ。」

人間でない、自分よりも質が違うものが出て来た。元男と災害と水素爆弾のパーツだ。自分が霞む。

「不発の原因はこれだろう。長期保存する事が多い核兵器でOiは相性が悪い。消費電力を抑えてそのスペースを利用して・・・って感じの事をしていたのだろう。クラスター爆弾というよりはHE、直撃させる使い方だ。水素爆弾でしか消し飛ばせない何かがあったか、ここである必要があったか。・・・不明点は多いし、多分明かすのも難しい。」

「なんて?」

噛み砕いて説明してもらった上で一つ聞いた。

「進化の対象はOiも該当するって事?」

「・・・それは確実だ。なんせ・・・。」

自分でも分かる、彼の知識豊富には負けるが、徐々に慣れたからこそ後悔してしまいそうな一言を聞いた。

「群れる渇望の進化はAiも例外ではない。」

「・・・え?」

「量子や電子からと思っていたが違うらしい、群れる渇望においてアレは生物であると認定された。」

災害とはいえ、コウキは例外に近い。自分は少なくとも人類の滅亡に必要な過程、ここで離れればより危険な状況にしかならないだろう。・・・と彼と一緒にいる。だから分かる。

「これはAiを人類の滅亡に必要なものと認定されたという事だ。」

第一の機能、愛情に関連した進化促進。

第二の機能、本体を守る洗脳機能。

第三の機能・・・それは。

「『意識の生命化』、それがこの群れる渇望の第三の機能だ。」

土塊に生命を与えうる、全ての生物化、擬人化から人化へ変える恐るべき力。

多くを生かす事は、生物として当然の挙動だ。

だが、それは時に死体を蘇生する事も出来てしまう。

コウキの母はそれを理解していた、それを利用した真意を。半信半疑ながら、コウキを苦しませてしまうと知っている。

だが、コウキはそこまで複雑な人間ではない。

小さな彼女を抱き締めていた彼は、それが理由であるとも知らず、当たり前の様に抱き締められる。自分が当然の様にしたのだから、彼女も当然の様にするのだ。



最近、初音に聞かれた事だ。

「レイチェルは・・・通信工学、いや、全ての通信技術を握っている。電話やチャット、テレビ電話から手紙に石碑。間接的なものも含む。」

ずっといるレイチェルは話し掛けない、不気味な置物状態で、その理由に関して聞かなければ気が済まないそうだ。

「あれは『エピタフ体』というもの。彼女はもう死んでいる。だが、伝えるべき事を残しておく事で後世まで生き長らえる。」

エピタフ、辞世の句が概念的には近いだろうか。遺言的なものだ。彼女の技術の残したものがあれの正体だ。

「自分はまだ未熟だ、覚えられる程愛情を抱えていない。」

「いっぱい愛されてるね。」

「・・・もう少し、愛情が分かり易いと初音みたいに幸せな夫婦になれたかもしれない。」

「あはは、それじゃ私が幸せになれないよ。」

初音と優衣のメンテナンスに苦労するが、自分の様々な機能があるとまた理解する。石化した人間はストック化して治せるまでは保留している。優衣には関係無いらしいが、全裸で走ると見られるは見られるけどモテないと思い服を借りた仲である。

「このまま本土に上陸して、山の上を目指す。」

「どうして?」

「淡路島は範囲が広いせいで一発で仕留めれない、二度に分けて打ち込まれている筈だ。逃げるまで待って落とすだろう。三日以内に落とされると予想している。」

「・・・殺意マシマシだね。」

「擬似科学なんてものを信じる連中を残すからこうなる、迷惑な信念と醜悪な詭弁で反論する奴等を消せる分、古代ギリシャの方が健全なまである。」

「偉大な目標とやらに一番近い状況だからね、仕方ない。」

自分の一番の問題は人間にしてしまう機能、兵器の停止が可能な事。・・・自分の影響と思わしき被害もある。彼女等は下手すれば人類の敵として処理される。

「差別されて抹消された土地を地名から推測し、入り込む。」

「・・・出来る?」

「洗脳機能を強めに行使する。」

京都辺りは被害が少なかった、順序を決めて国際秩序が無くなった頃に焼くつもりだったのだろう。

実際に京都まで来たが、人が多い訳ではないものの散見出来る。

「・・・学校が避難場所として機能しているだろう。」

「分かった、そっちに行くよ。」

中部地方では滅多に見ないが、近畿では穢多非人差別が根強い、人の倫理は追い詰められれば全て無に返される。

増してや京都人だ、経済的に悪くなると銀閣から何も学ばずエレベーターを漆塗りにして茶室を作り始める。そんな人間に正常な判断は望めないだろう。

陽夏に出会ったのはここだ、かなり鮮烈な思い出だった。

集団暴行事件が起きて・・・。

確か被害者以外を後遺症がギリギリ残らない程度にフルボッコにしていた覚えがある。

咄嗟の判断で群れる渇望の割り当てを強化して彼女の出力を上げた。

「何してるの?」

「出力調整、心拍数が上がると一応効果が出る。対象も絞れる。」

腕に刻む様に指で直線と曲線を引く。

「指揮者みたいだね。」

「ああ。」

周波数、心拍数、群れる渇望は例がないので比較出来ないが、自分はこれ等をベースに干渉し強化する。精神面には干渉せず、遠巻きに見る。

「やり返した時に止めるのか?」

加害者は進化以前にやられていた。かなりやり手・・・躊躇していないから身体の下に武器を隠していると思われる。

災害が来た様なものだろう、治安は最悪、人間関係を保って生活するなんて無理な話だ。平和な時代でも無理だったから尚更だ。

「じゃあお前はグズだ、ノロマだ、クズだ。」

言う前から言う後まで蹴っては飛ばし、追い付いては蹴る。

「分かっていて見過ごして、見捨てておいて、弱い、自己防衛の為の悪も許容しない。」

背中を抉る様な爽快な蹴り、蹴りと飛びに爽快さがあるのではなく、フォームが缶蹴りの様に美しい。ソシャゲで食ってける位には。

「死ねと言い放ったのも同然の癖して、何常人の振りして生きてんだよこのゴミクズが!!」

コウキは言った。

「あの女にしよう、惚れそうな位素敵だ。」

「嫌なんだけど。」

「怖いんですけど。」

「あの中で一番の当たりだぜ?」

「んー!」

「駄々るな、強引にでも連れてく。」

「やー!」

「仕方いないから連れてくよ?ゆーちゃん?」

「・・・むむぅ。」

そして表に出る。彼女に寄ったが警戒はされない。漸く洗脳が済んだ。

「この辺についさっき来た、どうも分からんくてな。」

「・・・あ。」

「証拠も消しとくよ、誰も話せないような馬鹿な理由に。」

工作を終えて前に行った、名も記憶も忘れる事無く、その鎖を繋いだ。



家族はかなり昔に亡くなった、そして何時しか群れる渇望は発生した。それ以前の記憶自体はあるが、実感は無い。生きていたという泡沫すらも。

家族が悲惨な目に遭っても、自分はそれを知らずに生きていた。いや、忘れて生きていた。

「・・・。」

自分の最初の過ちは、彼女の死だ。

御前試合にて心臓を穿った、手刀が刀となった瞬間だった。

自分は武を体得し抵抗手段とする事で以前の様な事を起こさないべく努力した。・・・だが、その結果がこれだった。

結局不殺も貫けはしなかった。

どうして?そう問われたらこう答える。

「英雄は結果によって決まるからだ。」

間違いなくそう答える。

だが、それで良いのか?

「死後の光明は知らぬ救いだ。恩恵は自分にあるものではない。」

冥府で得れない資産に価値は無い、そして、その恩恵は全て貪られるだろう。

歴史はいつだって改竄と共にあった。矛盾と異論によってそれが質される。

歴史を改竄した結果は何時か暴かれる、暴かれて正される。

「英雄程その改竄の恩恵を得るから、人類が未完成で在り続ける限り英雄は誕生する。」

そう、それは自分の在るべき理由と逆に位置する。人類を完成させ、その道程で多くを脱落させて滅ぼす群れる渇望は英雄と相反する。

英雄になれない、英雄を必要としない時代にする。

自分は何も変わらずに三百年を生き抜いたのだ。

人類に僅かな愛情を抱いて、擦り切れるまで生きた。憎いとも思わずに生きた。

もしかしたら、彼女が居なければ不殺を通せたかもしれない。だが、彼女が居なければどこかで死んでいた。

思い、弔い、そして忘れない。

自分が消え去るその日まで。



エリナ・レセップス、彼女は処刑された。

レセップスという影の歴史と共に。

「これは全て、お前の責任だろう?」

世界全体が憎んだ訳ではない、コウキなんて人間の知名度は高くなく、災害自体ひた隠しされた存在だ。公開されてから情報は歪められた。

全ては間違いだった、戒めとして歴史を歪めた。

その間違った歴史を事実と信じ、復讐心に耐えてコウキは歩き続ける。

「・・・どうして。」

人類の在り方を正す、それがコウキに与えられた役目だと信じて。

分からない、理解出来ない。納得も承認も出来ない。でも、そうしなければまた誤るだろうと。

国安村は、そうしなければ滅んでいた。コウキという存在を明かさない為に、それ以上の爆弾である自分を解き放つ事で防いだのだ。



カオルコは靴底を叩いた。

「・・・大丈夫かな、コウキ。」

彼女は彼自身の味方、人類の限界を越えた異物。彗星の名を冠する速さの究極。

先ず、コウキの本体は完全に封じている。改変前の時点でも同様だ。同じ出来事は無かった。

だが、クシナに殺されたのは確かだ。殺されたと言うよりは破壊された。結合が切れて使い物にならない状態になった。

その後、外部で動かされたと考えるのが妥当だろう。だが、それでは活用幅が広過ぎて分からない。

コウキを利用して何をしようとしたのか、それが一番気にするべき箇所だろう。

だが、一番先に出るのは・・・。

「兵器転用。」

コウキは災害、殺しにおいて特化した対人類の生命。その為医療に回すなんか到底考えられない。

自分は最初コウキが意図して戻って来たと思っていたが、聞く限りは違う、話の上では自分はコウキに関しての何かを探していた。諦めてああなった。

・・・先ずそれの根本は・・・洗脳だ。

全世界に対する洗脳が機能している、それが原因だ。

「・・・逆にコウキを確実に生存させる為。」

大半の人類はその哀れな姿を信じる、嘘だと否定される事もあるだろうが、証明は不可能、そうした所で何の恩恵も無い。否定した人間だけは遅れていき、落ちぶれる。信じて生きる全人類を愛で束縛し、コウキと繋げる。それによってこれから起きるとされた地球の変化を耐え凌いだ。

「妥当だね、最適な結果を出すシナリオとしては十分だ。」

だが、大きな欠点も当然存在する。

「コウキ依存過ぎる。」

それしかないなら避けられない。何をしたらそんな発想を採用する奴がいる。ガバガバ体制過ぎるだろう。

他にもコウキの殺害地点がアメリカであること、アリアという人物・・・そこら辺も謎だ。国安村を巻き込まない為に逃げたというのはあったが、その場合向こうで態々巻き込まれる人物を増やすだろうか。

トレーニングウェアを来て、汗の痕跡を残さない様に髪周りと排水部にタオルを仕込み、吸わせる。

「裸で・・・とか言ってるけど、心当たりがあるから自分でやらなきゃ。」

あの中にいたもう一人、排熱伝導卿。走れば身体が赤く染まり、遠くから見れば全裸に見える。

「人知れず始末しておく、それが取り敢えずは必須。コウキが狙ってるなんて分かった頃には襲撃される。出来るだけ早く仕留めなきゃ。」

「そうか、それは良い事だ。」

「うひゃあ!?コウキ居たの!?」

「怪我が治ってなくてね、リハビリ中だ。」

「自力でボルトを抜くのをリハビリって言わないよ。」

「群れる渇望の消耗で魔女頼りの状況だよ。」

「修復出来るの?」

「無理だ、前の様に体は残っていない。『緑泥』を使った以上、地中の可能性もある。」

「アレってコケ植物なんだ。」

「木は本体じゃない、本体がコケで木を補助に使って成立している。」

「へー。」

自分とコウキの差、それは何か。人間であるか災害であるか、だが、倫理や愛は何一つ変わらない。どっちも子供を作る為以外のエッチが好きで、本を読んでみるのも、武道に新たな発想を入れるのも。

「あのさ、コウキ。」

自分の出会いは遙か昔、国安村よりも前。日本で排除傾向が出る前だ。その中でコウキは自分よりも小さくて・・・でも、強さは別格だった。

何よりもあの目の光、常に均一な光を輝かせるあの目は、私の大好きな部位だ。自分に常に憧れる様な瞳に見えて、話すのにそれ一つで気分が舞い上がる。

何故コウキが魅力的か、それは洗脳が無くとも最高レベルだと思っている、心が文句無く美しい。愛する度に心が踊る。自分が整えられる様な感触がする。

彼と自分の間には、膨大な差と一寸の距離がある。・・・互いに背中を合わせて、片方に寄せて何とか見ようとするかの様に。

自分と彼は歩んだ道も、結果も違う。だが、向き合えると信じて進み、振り返る。

自分は会えたのに喜んだのではない、人間として会えた事が嬉しかったのだろう。

反対向きに進んだのが悲しいものの、繋ぎ合わせられた時は嬉しかった。未だ逆の儘、そのほのかな噛み合わなさが自分を支えている。

彼には王になって欲しくない、英雄にもなって欲しくない。それは死の道だ。自分は何時か後悔するよりも、先に止めたいと思っている。

自分はなんて言って誤魔化せばいいだろうかと迷う。コウキを止める事は出来ない、なら自分が先に進むしかないだろう。だから答えはすぐに決めた。愛と気持ちを込めて、そっと走り去る様に。馬鹿な真似だと思うが、そういう似た二人だから相性が良いのだろう。

「・・・私を信じて、愛してくれる?」

「勿論だ、その言葉で一番嬉しいのは自分自身だとも。」

「無いよ、負けるつもりなんて。」

「可愛い事言うじゃないか、それでこそだ。」

人類を愛した所で、結局自分が一番欲しかったのは一人からの愛情かもしれない。だが、今は没頭しよう。

「カオルコ、行け、勝つまで帰るなよ。」

「わぁ、じゃあ、三日も会えないんだ。」

コウキはそれでも人類を愛した、僅かな愛を返す為に。優しさの鎖に縋ったのはどちらか、それは言うまでもない。

涙を拭われた、感覚はあったが忘れていた。

コウキが涙に触れたその時。

「・・・涙だけはゆっくりなのが、君を表している。穏やかで優しい君を・・・。」

乾かずに落ちていく、痕を残し消えて行く。

そして、自分の首の前に、コウキの指が拾い切った。

初音の男っぽい所。

「男は女の最初の相手である」というのに拘るのを見抜いてコウキにアプローチしてるとこ。

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