「皇帝の鉄砲玉」
短かったので二話合同。つまり本来の予定通りです。まだミダ編折り返し地点にいないし。
昔の事件、『悪性寄生虫』と『安らかな死』の二つが組み合わさり薬物自殺が横行していると話題になった。
エルフストリートは薬に関して、材料だけは入手し易くなっていた。疑われ、念の為とフランツは調査した。あんな場所信用出来るかとも思っていた。ボードワンの故郷だから特別許していた位だ。
その時に事件が起きた、自分の周りには人が来なかったが、他の仲間に悪性寄生虫が寄生、数十分苦しみながら亡くなった。検出されたのはクロロ酢酸、口周りに付着した痕は無かった。
他にも感染した、パナスが助けてくれるだろうからと耐えていた。・・・他の仲間は、自分を犠牲にして人を助ける事を選んだ。
自分はエリニューエスという魔女だった人間がこれに使えるのではと思い探し始め、王国に赴いた・・・。
悪性寄生虫は更に広がった。奴等には知性があった。ある程度強い人間には害意を見せず、感染したのを気付かせない様にしたのだ。しかも使命は奴等に通じなかった。
帰国次第軍法裁判、死者数は特定不可、その時に王位は剥奪された。それだけでは済まされなかった、仲間は既に危険であると監禁、餓死したそうだ。痩せ細るどころか、身体に穴が空いていた。
「アルトリウスゥ!!」
「ああ、俺が・・・。」
「違う!アンタはそんな事はしない!・・・どうして止めなかった!!」
「・・・切ってやれなかった。殺してやれなかった。」
エウリピデスの逃亡はかなり前だが、彼女は先代変化の魔女、エリニューエスの代わりだった。・・・が、彼女が居ないという事は治療が不可能だと言う事だ。
「全員、お前の事を信じて何も食わずに死んだ。伝えるなと言われたが・・・守れるか、そんな約束。」
彼は出来る限りの事をする人間だ、だから信用出来る。逆に言えば妥協をしない、失敗時の損害が少なくない。
「・・・一人は早い段階で意識を失い、何とか生かせれた。ジュデッカを使って寄生虫も動かない様にしてある。」
「・・・ああ、ありがとう・・・一人だけでも・・・。」
諦めた様な言葉でも、今は一時の猶予だ。
剣の先に、ほぼ死体の状態で仲間が居た。
「ああ・・・奪わないでくれ・・・殺さないでくれ・・・。」
幻覚は消えない、腹を引き裂かれた中は覆われない。
「ボードワン・・・ボードワン・・・!!」
何故腹を裂かれている?
何故彼女は死を強いられた?
「・・・なぁ、俺はどうすれば彼奴等を助けられた?」
分からない、だが、これは全て敵の仕業だ。甘ったれたら殺せやしない。
「・・・。」
自分の人生は何の為か、もう分かりやしなかった。
善も悪も、分かりはしない。
召喚術を紐解き、そして剣を振りかぶる。
召喚術を利用して剣を少し先に送る。それとほぼ同速で居合を行い、弾いた。
疑わせる為に、ギリギリまで使わない。
「『フォトグラフ・トレイル』」
スタンが来ると確信し、居合を足に打ち込んだ。音よりも先に貫き、前回の答えを見せる。
所詮一瞬、転倒させれば無駄な時間である。
召喚術対策は行った、例え使われようとさしたる問題ではない。
ナイフが来ると確信した時、間を空けて接近の一歩を確保する。ズレるかどうか、守る為の手前か、一歩を狙って攻めるか、両方か。片方は確実に無意味になる、意識を奪えないナイフに意味は無い。
ニトロを使う、切れば即爆、そう思って出現させると、クシナが割って入る。コウキはクシナを貫きつつ、優衣を当て、引き抜いて血を止める。其方に注目させて隠しつつ彼女の口から火薬を取り出し、返品して剣の衝突に合わせ、火花で爆発させる。
「何かその刀変な物塗ってない?」
「(・・・残ってたか。)」
『(効いてなくて良かったね。)』
アルミニウム1gの方がまだ高いと言える位生産されているそれだが、効果自体は弱くない筈だ。特産品としては改良不足かもしれない。
剣の戦いは分が悪い、召喚術を使ったショートカットが非常に厄介、特に近付けばほぼ確実に弾かれる。
自分の速さでどこまで誤魔化せるか、それに関しては腕の限界もある。損傷率が不味い、表面は覆ったが、内部が不味い。内出血の箇所が出始めた。
「クシナ、飛ばす準備だ。」
「任せて。」
居合を構える、倶利伽羅剣を渡し、二刀流で立ち向かう。優衣を構えたクシナは居合の状態で待機、そして爆発からの弾着に合わせ射出される。
靴に居合を耐えさせ、同じ速さで飛び、居合が弾き返えされる位の速度で向かう。偽物の帝都、偽物の宮殿、その偽物の玉座まで。
最速最短で繰り出される豪脚は優衣すら打ち砕かんとし、王宮の中心にさえ届く。速度は100km/hを超え、頂点に突っ込む。
屋根が崩れ、壁が割れ、光が入る。
「良い。」
「・・・陛下!」
「コウキ、待っておったぞ。」
無駄に腹が立つ。一応玉座を背に守る。
判断より先に目を潰す。召喚術は一対多の場合効果が違うだろう。見える限り実行可能、マノンの様な躊躇は無い、リアが巻き込まれるのは許容出来ない。探りはナシ、もう決めるしかない。
「・・・おい。」
「まだまだ元気そうだな。」
「誰に手ぇ触れてんだよ。」
暗部王が無駄に騒ぐ、その言葉は大して聞き入れない。
手を恋人の様に繋ぎ、肩を寄せ合い、見せつける。
多分奴は皇帝に関して何らかの気持ちを抱いていたが、この皇帝の事だから下劣なのばかりだろう。
『(もう少し信用したげようよ。)』
「(どう考えても俺が放置したツケだろう。)」
やはり皇帝に何かある、と言っても重大なものではなさそうだ、アスタルトが妨害を受けているとはいえ、他人であればそのアクションも把握出来る。
召喚術を捨てた我武者羅な剣、それを振り払うのには苦労する。実力もあるが、彼にとってはその剣はチャチなもの、極めれてもおらず、満遍さもない。
快く躱し、身を直ぐに翻して当てる。もうこの剣さえ不要、半狂乱にはこれが似合っている。
「これ以上お前は何を奪うつもりだ。」
「知らん、お前の考えも理解出来ないなぁ。興味も無い。」
「このクソ野郎が・・・!」
自分は何となく察した、この人間はあまりにも知見が無い、正義と言えるものが歪で脆い。
自分は奴を殺さなければいけない、その正義はあまりにも足りないものだ。
脳天を突き刺す、それでも倒れないと相当な精神力だ。アドレナリンか、能力か。
或いは、生き方か。
コウキは見えてこそいるが、自分という人間もまた相当に終わっている。
生き方が終わった連中として、何の差があるか。
コウキのペースが落ちる、損傷率が限界に達する。疲労分が一気に瓦解しそうだ。
倶利伽羅剣が衝突の度に相手の剣を削ろうと、刃先は元に戻る。失血ギリギリだが、問題は無い。あとは意地だ。意地次第だ。
「『輝ける七つの海』」
コウキではなく、リアがそう言った。
「『最果ての始まり』」
集約される様に、血が徐々に戻る。
『多分共有、痛みも血も共有されている。』
「群れる渇望のリンクだ、ワイヤレスで繋げられている。」
問題無い所か、やり過ぎてしまうという問題が浮上した。剣を一度叩き込むだけでは済まない、ラッシュだ、拳で行うべきそれを無作法に剣で叩き込む。太鼓を派手に打つ様に、料理で肉を解す様に、その剣は四方八方から叩き込まれる。
その銀色が光り輝き、白だけが残る。剣は次々に通り過ぎ、そして光は三秒後に停止する。
徐々に対応し始め、停止し始めた要因が直ぐに分かる。手元へまた打ち込み防ぎ、耐えていた。
姑息な手で続けた戦いも、もう終わりだ。召喚術の対価もストックも切らし始めたらしい。連戦だろうしな。唐突に血を吐いたが、毒を懸念して避ける。
倶利伽羅剣は燃える、幾度も燃え、殺意を滾らせて向かう。
「忘れたのか?お前をどうして殺そうとしているのか。」
これはアーノルドに。
これはリュファスに。
これはリチャードに。
これはシャルロットに。
以下略として、ここに集めた人間も暗部王への復讐の為に集まっている。
「「『輝ける七つの海』」」
二人はそっと言う。
「「『偏見的拒絶』」」
彼等に幕が張られ、そして爆発は起きる。銃弾だけではない、自決用の手榴弾だ。
偽物が崩れ始め、しかし玉座が残り落下する。
「リア、見ていてくれ。」
「限界だろ、ヘマすんなよ。」
「限界だからこそだ。」
半分位は消耗しただろう、残りはトドメか。
召喚術は体内にも行える、逆に言えば、先に肉をクローン等で用意すれば直接埋め込み代用出来る。それを利用して立ち上がった。剣を振る力は無い、召喚術で何とかして動かす。多分先の喀血は内臓を入れ替えた際の拒絶反応か自分のものを一度抜かれた可能性がある。だが、自分も立てはしない、見続けて、殺されようと継いだ奴が殺す、その為の筋道を立てておく。
ある程度の切れ目があるなら、二度目でやれると剣を入れた。だが、そこには無限にも等しい、詰められない箇所があった。
「『輝ける七つの海』」
コウキが剣を掴み、睨んでいた。
「『金過玉生』」
剣は砕かれた。幾つもが首に刺さって尚話し続け、生き続ける。気圧され、崩れる。彼は理解出来なかった。目の前のコウキという人間が。同じ筈だ、同じ筈なのだ。
暗部王の醜い姿には理由があった。
上流ではないが中流階級出身、武家に近い。
政治的権力を持ち、議員に昇進。その中でも正義感から鉱山の問題等を強く取り上げ、対抗した。
調査の度に体は蝕まれ、医者の一族と結婚し、その子が暗部王となった。
・・・酷いアレルギーを持っていた。大体のものに過剰反応を起こし、栄養素を補うべく別の食べ物から、僅かでも摂取出来るならと大量に食っていた。
そして父や母から遺伝する病に感染し・・・顔は、崩れる様に変質した。
雷電の神格もあるとはいえアルトリウスが一万年居るにも関わらず発展が乏しい理由・・・それはヒトの性格であった。殺しに興味を持つイカレ野郎は中々お目にかかれない。だが、切っ掛けを数個増やしたらどうなるか。母数の少なさ故倍になると予想出来るだろう。・・・アルトリウスは国の一部こそ信用しているが、それ以外に興味は示していない。
数が多いが故に歩調が乱れる、古いシステムの方が搾取に効率的、理由はその様な邪なものが多かった。
変えたかった、助けたかった。
自分の望んだ世界になりはしなかった。
彼等も同様に、目指していた。
アルトリウスが強いだけの役立ずであるなら、裏切る他無い。
光る様な剣、風の様な血飛沫、貫く様な眼光、鈍器の様な脚。コウキという人間はどこまでも自分を追い詰めて来る。
口にするより遥かに苦しんでいる、その筈だ。弱音は全て吐いて、抱える必要の無いものは戦場に持ち込まない。
精神的の追い詰める事は、彼にとってストレスでしかない。しかも、そのストレスは多少故に彼のパフォーマンスを最大にしてしまう。剣も銃創も、その場で結び直す。
コウキと同じ様に愛した人物が死んだ、方や殺した。仲間を亡くしたのも同じだ。
その上で、コウキの方が上だった。根本が違う。
片方は死んだ仲間という執念、もう片方は英雄になるという栄光だ。
これは武道ではなく戦いである。
コウキの歯が食らいついた、砕けた剣や鉄を食み、それを口に仕込み刺した。
首を切るべく振り下ろされた剣は鈍り、僅かに切り口を開けた。しかしそこから一歩も進む事は無かった。力だ、刃を通さぬ力。首を狙ってくると分かった上で首一つで耐え凌いだ。
剣を握る、そして砕く。針が如く曲げて砕く。
不意打ちと混乱する程に覆い隠した情報、全てこの戦いで出し切り、次苦戦しようと構わず、先を向ける。
銃口がコウキの脳天とフランツの下腹部に押し当てられる、その中で脳天に当てさせない様に僅かに突っぱね、その姿勢が崩れる中でも銃を撃ち抜いた。当てたのはコウキだ、ライフルを地面に押し当てて撃った、拳銃だったとしても当てていた。
竜王が宿る正真正銘、本物の倶利伽羅剣を前に、ボードワンという飾りは両断される。
復讐心が本気で燃えている。
正義と、実力と、報復。
それが出来る人間が目の前にいる。
自分を納得させるよりも大事だと錯覚しがちな、他人を納得させるという事。
それが出来る人間が目の前にいる。
鞘に込めた儘の剣を下へ下へと、続けて叩く。
何度も何度も、背中が折れようと真下へ振り続ける。
ラッシュなのに爽快感は全くない、段々と刃は鈍る。その報復は物悲しい、その復讐は呆気なく終わる。醜い、綺麗な人間が行おうと、底が見えぬ程醜い。
「俺は皇帝の鉄砲玉だ。」
皇帝が座る玉座で、そう言い放った。
「弾丸にハッピーエンドなんてある訳ねぇだろ。」
誰よりも皇帝を信じ、玉座にて迎え撃った。
「そうだ、贖罪は誰にでも出来る。」
カンは嘗て確かにその言葉を聞いた。
悔しく思えたなら、それは贖罪の意味を大きく変えるだろう。屈辱を乗り越えて、人は人となる。
「アルトリウスは贖罪の為に走り続けている、過程もすっ飛ばして一点だけ見据えている。」
自分の必要な事も忘れて走っている。
「俺にも分かる、分かっていなかったから、自分は誓った事も破った。もう半端な生き方は止めて、傾倒しようってなった。全部の夢を果たす必要なんて無い。」
コウキは、本質が彼と同じだ。自分とは違う。
「今は亡き相手に代わって、他の人間に謝っても良い。許す事も、許さない事も出来やしない。」
自分と彼の差がそれだとしても負けるのに納得は出来ない。それが悔しくはあったがもう力は入らない。
「未練があるなら言い残せ、果たせるなら果たす。」
そう言われると、言葉が溢れ出そうだが、矜持に掛けて黙る。
「苦しみ続ける事は、許されないだろうな。」
彼自身の独白を聞いた、コウキの苦痛も溢れ出ていたが、明るくもあった。
「贖罪は、自分自身を許す為の儀式でもある。」
リーツィア、一瞬だが、かなり人生を彩った。彼女程良い人間は居ない。嘘か真か知る事は無いが、可能性の全てを考えたい。
「分かるさ、幻覚や幻聴に苦しんで前も向けないなんてざらにある。」
あの王国の日々は、二年で消えやしない。二年程度で癒えやしない。彼女は美しかった。優しかった。
「俺は前を向いた、たまーに思い出すだけで満足する。」
自分の人生はそんなものではない、そんなものではないのだ。彼女一人に揺らがない人生にするのが彼女の為なのだ。
「考えてるだけで割と幸せだ、そんだけの物を与えてくれたって胸の内で分かるんだ。分かる以上の事は出来ないんだ。」
涙に悲しみと言える感情は乏しく宿っていた、そしてそれはどこか嬉しい、今の幸運が為に僅かな喜びを示していた。
「そうした所で喜ぶ人間は、他人の損を喜ぶ人間位しかいないだろう。」
それは俺だ、俺こそそういう人間の代表なのだろう。
「俺は、過去も未来も目まぐるしく回して生きる。そんな時に止まっていられるか。」
眼光と歯が噛み合った、敵意であるのに優しいものになった。
自分は脱力し、諦めた。
「俺は・・・てっきりお前が羅生門をくぐるのかと思っていた。だが、そうではないらしい。」
あの炎は、自分への殺意だと思っていた。
「修羅道が如き生き方をする決意。その臭いがしていた。」
あの炎に自分は罪を出すのだと、罰の象徴だと思っていた。恐怖は彼の望むものではなかった。戦いでは執念深いが、そこでは武道を嗜む者と言った所か。
「そうではないのか、安心したよ。」
姿勢を少し直し、諦めて首を差し出す。
「自分は生きるべき人間じゃないらしい、介錯を頼む。」
「応。」
ボードワンを救えなかった、その罪を皇帝に詫びた。
「すまなかったな、もう少し早くに気付いてやれれば・・・。」
「・・・陛下、アンタってそんなにも美しかったのか・・・隠していたクセに・・・。」
「この美貌はそこの人間が育てたものさ、良い人間に巡り会えた私はそうなれた。」
涙が溢れていた、死の間際は見慣れた筈だった。
「自分も・・・ボードワンに会えたから、少しは良い見た目になったかな・・・。」
自分は最後の最後で死にたくないという感情が溢れ出したが、自分にそんな権利は無い。
「仲間もそうやって出来たのかな・・・。」
涙を拭った、そしてコウキに言い残す。僅かに数分で覚悟を決めた。
「新たなる王よ、お前に一つ伝えておこう。」
復讐を完遂させる前に茶々を入れられるのはよくある。我慢して聞く。
「文明が以前ほど発展していないのは『代用品』が発生したからだ。」
思っていた内容とは違ったが、殺す覚悟は揺らがないし、揺らがせるものではなかった。
「インターネット以外にも代用されているものがある。」
その言葉は後で考えろと言われた。
さぁ、終わりの時だ。
彌陀の剣、倶利伽羅剣は燃え盛る。それは罪を焼く剣であり、彼の象徴。鈍重だが派手にあらず、何者をも平然と断つ剣。
「この一刀にて屠らせてもらおう。」
剣は引き抜かれ、炎と燃え、修羅を彩る。この二人の間にある信頼は、憧憬か、慈悲か。少なくとも、良い感情ではあるだろう。
「一思いにやってくれ。」
光と花はそれでも祝福をする。コウキの炎は罪を焼くだけの火、暖かく、殺しはしないものだ。
「『輝ける七つの海』」
振り絞った剣を振り下ろす前に、二つ追加する。
「『無痛革命』」
そしてもう一つ、遺体を壊さぬ様に消す。
「『花と散る命』」
花や灰となり、消失した。
糸が切れる様に倒れ、上半身だけでも倒れぬ様に優衣で粘る。倶利伽羅剣を使ったらマントルまで真っ逆さまである。その中でも力強く剣を振り下ろし、そして丁寧に止めた。
マノンの傷や疲労が残る中、エリニューエスも下手に切れない。内出血は多かった。
「・・・はぁ。もう無理だ。疲れた。」
「あ、王位再選の参加者は隠す為にも戦っている可能性があるので要警戒との事です。」
『接触時に異変があったから私を過信しちゃダメだよ。』
「・・・。」
「寝て聞かなかった事にしてる。」
クシナが近くに寄り、破裂しそうな心臓を徐々に遅らせる。
「しょうがないかぁ。一緒に寝よ、ね?」
カンも仕事を済ませたらしい、闘は優から手紙を受け取り、今回のフロートを使って賄えと支援が来た。
「王位再選を続行させる。だが、場所をエルフ・ストリートに絞って狂団の残党と暗部王の残りカスを組ませる。」
「ねりけしにケシカス入れるみたいな?」
「ああ、そういう事だ。」
コウキは目を閉じた。暗くなっていく感覚がする。
「ホントにどうしたの?」
「失血。」
「はよ言えやああああ!!!!」
「仕方ねぇだろ頭回んねぇんだから・・・。」
リアにも質問した。
「なんで居たんだ?」
「せめてもの餞さ、アレを否定する程人の心を捨てた覚えはない。」
「そっか、そりゃ素敵だ。」
傷口を塞ぎ、そして首元に寄る。
「よくやった、私の恋人。」
「よくやったさ、俺の大好きな恋人。」
あと一歩、傷を何とか防げたが、一応ギリギリの戦いだった。ほぼ計画通りだ。
「結構仲良いけど何かあったのか?」
「昔助けられた仲らしい。」
「やっぱフラグって大事だな。」
ユウキに伝えれる程の情報は無い、と彼は語るのを止めた。
問題が起きた。・・・というのも危惧自体はされていた。東には急進的に勢力を作る国がある。
「不味い・・・東部戦線が崩壊した。」
「・・・マジか。」
「公爵は全体に一人、追加で東部に一人送る。ロタールに任せた。」
狂団相手がかなり厳しくなった、しかも暗部王の残党混じり。
「中部王コウキ、お前は玉座守及び知事長と組み暫くは狂団に備えろ。」
作戦は決定された・・・が、一ヶ月程度は休暇、仲間をまた集め、王位再選の再開を待つ。
優は引き上げ、パブロの手伝いに回る。
「母親か・・・ああ。」
闘の構成で一番大きい部分、コウキ自体は彼女に育てられた訳ではない。先代幻想の魔女として探ったレイチュル・タカハシが上手く把握してくれたから育てるのに問題が無かったのだ。
「イカれサイコババアだ、兄弟全員種違い、正直自分が混ざってないなら生かす価値は無い。損得勘定で動いて来る分マシだな。」
散々な評価だが、サイコである事に間違いはない。夫を愛した上で即座に切り捨てられる。そして切り捨てるのが最適で命を捧げさせる位に心を支配しておく。
「少し重くなったか、じゃあ別の話だ。特に使命。不老不死が実現出来るって言ったよな?」
パブロが釣竿を引いて話を切り替えさせる。何分も糸を巻きながら言った。
「コウキ、お前は何となく気付いているんじゃないか?不老不死を防ぐべく生み出された能の根本に。」
「・・・!」
「ヒトが死に怯える、その理由は魂に刻まれている。」
パブロはとんでもない事実に気付いていた。
「お前達は覚えている、だから死を嫌う。」
もしそれが事実ならば・・・現存する人類種を全員殺した上で『倫理的に正しい判断をした』と称えられるだろう。それも大半の人間が非難出来ないであろう形で。
「・・・ベス、緊急会議だ。有機物ではない幹部級以上の端末を全員集めろ。終了次第即時撤退し会議を行う。」
神崎銓の回収が終了次第即時帰還、棺は取り出せたが、以前の位置にもいるか念の為に確認する。
カルナの死は、いつまでも偽装出来るものではない。死んでいるので群れる渇望の影響は殆ど受けず、そこそこ粘ったが逝ってしまった。
「・・・勢力が大きく乱れます。群れる渇望によって進化が多発、それによる未知の実力者も発生しうる。」
「・・・それまでにこの大陸を平定する。嘗ての友・・・乗っ取られて離反した友を終わらせてでも。」
アルトリウスは覚悟を決した。
「作戦を決して止めるな。材料は満ち足りた。後は調理だけだ。」
仲間も体裁を繕い、覚悟を決する。
「・・・ペースを上げる。全力で着いて来い。」
その彼の背中を追って、気合いを流し込んだ。
スタンリー陣営も当然会議を行う。
「遂に死んだか、残党を残したのは評価出来る。」
結構メンバー自体は優秀な筈だが、役立ずな位何者残さず死ぬ連中だ。酷い話というのも分かる。
「時間は十分だ。あと、情報も確かめておいた。」
というのはマノンを落とすならアルトリウスでいい。彼がそうしなかったのは不要だからかか、迂闊に攻めれないから、多分やつの場合は後者だ。
「破滅の日照はアルトリウスを殺せる。止められたとしても、ほぼ確実に持って行ける。」
マノンのパイロキネシスが最高光度に達した場合、彼を殺せる。心臓を大半消し飛ばしても生きている人間だ、その程度では足りない。
「戦略を練り、一年掛けて仕込む。立て直しに手間取って攻めれない内にやるしかない。」
勝つ為には手だけでは足りない、命を尽くして粘り込め。
「こっちが時間稼ぎをする、そっちは任せた。」
今回狩られた災害の数は千、九割がアルトリウスだから九百体作れば足止め可能となる、そして問題は百、公爵の主力を動員せずにこの結果、その内五十が一般人に狩られている。由々しき事態だ、帝国全戦力が集中した場合、万は最低でも必要。
「逆に言えば、こっちの戦争に持ち込んでしまえる。」
「・・・ま、それも一個の手段ではありますが、自分から一つ耳寄りの情報が。」
指示無しでも良いかと思ったがここで聞かないと後で面倒な事になる。特にこの科学者系の奴は。
「力の神格、数の神格、エトセトラエトセトラ・・・と契約した東方国、あまり注目はされませんでしたがここはかなりのもの、東部戦線が崩壊した原因。」
そして、と指を出した、ああもう聞きたくない。絶対長くなる。
「掘り当てるでしょうな、あの危険物を。核でもないから気付くに気付けない。」
「何だ?それは・・・。」
「CFC、クロロフルオルカーボン。所謂フロンという奴です。モントリオールで規制された筈なんですがね、中国で密造、規制すると言っては実際の所一社しか制裁をしていない。」
「オゾン層を削っているって事か?」
「そこだけかなり薄い、寿命もかなり短くなっていましてね。寿命は気温が暑かったり寒かったりすると消耗が早くなるので入れ替わるわ入れ替わるわ、東は猛者しか居ませんよ、寿命の価値も数も段違い。下手すれば帝国の数でも足りないんじゃないですかね。」
「・・・名案かどうかはさておき、海洋の神格とは何か関係があるのではないか?」
「ああ、勿論ですぜ。海は何とか維持してますが彼が居なければ海面上昇・・・南極の氷は溶けないものの海面上昇には影響し、海水が沈み、水だけが浮く。なので酸素を吸収しなくなったり海洋資源が取れなくなったり、あの群れる渇望が無ければ今頃地球は酸素不足で立ち行かなくなってるでしょうなぁ。」
狂団狂祖、この男は科学者出身、しかし実力はロタールに並ぶ。元軍部の人間にして嘗て帝国として分離する前の王国軍で頂点の位・・・元帥にあった。
大半の奴が便利だからで仕入れたが、コイツに関しては『敵に回したくないから』味方にした。災害の殺害数が多いのもコイツが作ったマニュアルが原因だ。今でこそ昔程の実力は無いし、人間関係に脆いが・・・それでも尚強い。錬金術が使えるという一点すら霞む実力者。
「王位再選は遅らせて実行するだろう。また狙われるのもそうだが、下手に攻めれば返り討ちに遭う。時間稼ぎが必要なのだから今は下手に手を出さん方が良い。」
スタンリーもスタンリーで実力者・・・だが、彼は経歴を隠している。実績はほぼ無い、アルトリウスの前では無意味。帝国を破壊し懸念材料を消し、そして自分の目的は果たせる。
「災害を終わらせるにはその手段しか無い。」
「俺はアンタを信じてるぜ、旦那。」
スタンリーとシルヴェールは拳を当て、準備をした。
全ては己が信じる正義の為に。
コウキが伝えられたのは『ある事実』と災害に備わった『ある機能』です。後者はすぐに登場するので先に言っておくと『記憶の忘却機能を削除し、管理や優先順位によって既存の状態を維持する』というものです。既に出てた覚えがある。
アスタルトの分析がリアには通じないってのは言いましたが同様にヘカテーも通用しましぇん。
リコ→知能が足りなかった
アルノルト︎→準備が足りなかった
フランツ→主人公補正が足りなかった
ちなみに全員集合したらアルトリウスがまとめて処分してくるので分散させるのは一応正解。別々の箇所で同時に攻めるのが最適解。その場合帝国の戦力を全部費やされるのとそんなに歩調合わせれる程マトモな連中じゃないからじわじわ削れて一応効果がある様に見える。
デバフ系が伴った使命の事を『アフリクション』に改称します。




