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継承物語  作者: 伊阪 証
はじまり
6/74

D=R

タイトル間違えてたY

「・・・すげぇな彼奴。」

「雷に打たれても死なない・・・!?」

四肢を直線にしつつその上に心臓が来ないようにしている。そして高い場所にいる事で落とし易くする、自分を餌に雷を釣っている。

「遠征公ロタールだ、各地で見た戦術を我が物にして戦う。『国土を広げ過ぎて経済危機を起こした戦犯』と言われた時期もあった。」

「千年当主の名に偽り無しですね。」

「その事実を伝えれるのは全ての国旗を塗り替えた時だけだ。」

一方でロタールの方はどうか。

「(まだバレてねぇまだバレてねぇ・・・よし、時間をピッタリに合わせて行こうか。)」

・・・ロタールに切り替わってはいなかった、若干の血縁があるのと、衣装を豪華にし当たりにくくする、昔のポーランドで実際に採用されていた当たり判定を大きく見せる戦術である。彼は副官の方で、その衣装に甘んじて誤魔化しているだけ、つまり本物ではない。進軍方向で予め誰が指揮をしているか知らせる、その点は問題無く行えている。この作戦の問題点は他元帥、アルトリウス除くに見つかると不味い。完全に言っていない状況で続行しているのだ。

自身と同じ方向に進む敵軍が一人、馬上の人物である。銃弾を切らしている以上追い付くしか手段は無い。はたまた投擲で全てを投げ捨てるか。・・・誤魔化している状況では非常に不味い。

風は常に此方側だ、敵は撤退をさせないという狂気の戦法に出ていた。

その中で剣を短剣に持ち変えた、投擲には向かない、精々30メートルしか飛ばない武器・・・だが、発想を変えよう。

・・・雷をコイツに降らせよう、真上ならば座標が一個不要になる。馬を驚かせれば残りは追い付くだけだ。

耳栓そしているものの、光は対策出来ていない、その僥倖に賭ける・・・!

「届くかっ・・・!」

・・・ただ、剣は届かない、風を裂く一点が貫く事すら放棄し、当てる為だけにギリギリまで届かせる。

刹那、剣は撃ち落とされた。雷にではない、銃弾に、だ。風を裂くもう一点があったのだ。

Range of Alain. アランの狙撃が届く距離、5km内に入っていた。元が散弾銃の癖して高速弾で高精度、一般流通するものとは違う試作機、故に見誤った。

「遠征公ロタアアアアアル!!!!討ち取ったりぃイイイイ!!!!!!」

槍の光が僅かに上を走る。・・・全ては一度に無に返された、記憶の奪取は失敗し、代償として命を支払った。

断面が見え、意識を失った。



少し雨を拭い、隣にひょっこりと出てきた馬を撫でた。林檎一つ余った為渡した所、すぐに全て食べられた。

「・・・さて、頼めるか、パンゲア。」

少し見て、性別を覗く。性格と性別次第でルートを決める。

「牝馬か、珍しいな、牡馬ばっかだったに統一されていない。・・・お前勝手に来たな? 可愛い奴め。」

耳を動かした様を見ると、何となく状況が把握出来た。少し馬としては軽量、凡そ700kg位か、濡れた地面に沈むが、他の跡に比べたら全然マシである。蹄も薄くないし、馬体は左右対称、皮は少し厚いが、競走用じゃないなら十分だ。

「妖精の血筋が混ざってるな、物覚えが良い訳だ。銃弾に気を付けろよ、痛いからな。」

問い掛けつつも、疑問を仮定と経験則で絞り込む。対応を迅速にし、試行回数を増やす。自分の耐久力を活かした戦術である。・・・又の名を苦行と言う。



ソロモンが連れ込めた将は少ない、王国側、今で言えば教皇の様な立場の人物に起因する。若手の才能があるもので、叛逆しやすいであろう者、決して強くない者。副官は偶然討ち取れたに過ぎないが、日露戦争でも同じ様な事はあった・・・追い詰めた末の勝利として、扱えば良いだろう。

「・・・何故だ、何故奴は来ない・・・!?」

単独による周辺にある要塞陥落の知らせ、兵士を減らした中で叩かれたのだ。火傷と火事、剣と銃弾、僅かな護衛は惨殺されていた。・・・復讐の心当たりは決して少なくない、ハイスピードに記憶が重なる。緑の外套が僅かに残る。

家族がいるものは撤退不可を確信しただろう。

警戒する彼女は『脚曲がりの彗星』の副官、吸血種、サキュバスの類である。名前は単純で覚え易いが、名前を覚える必要は無い。アルトリウスは直ぐに追いつくだろう。

警戒し過ぎて胃を壊す様な人物で、行動が後手後手になるが心配を掛けさせない分ミステリアスに見える。

第二の副官は教皇の様な野郎の回し者で落ち着きはあるが一周回って気怠げな男になっている。コイツも別に覚える必要は無い。


さぁ、英雄の帰還だ。狙撃部隊を迎撃するのは単独・・・一つ足しておこう、元帥の位には条件がある。・・・そう、それ即ち単独での戦役経験と一定の戦功であり・・・それ即ち自身の軍が崩壊した際粛清として全員を殺す能力があるかどうかの基準として使われる。数千万の兵士は、三十人満たずと等号で結ばれているのだ。

「コウキとユウキを監視するのはアイツの役目、場所も割れているだろう。」

会話の中に平然といる、だが、発言も何もしない。気配が殺されている訳では無い、誤魔化せているのだ。・・・基本的に人を殺した人間の気配は隠すつもりのない者には誤魔化せない。

「妨害をし続けた人間と信頼を積み上げて裏切った人間の罪は等価値だ。」

調子に乗った人間が、侵略の報いを受ける。その刃の名は『ジュデッカ』、地獄の底を冠し、それに相応しい剣である。一刀が兵士と兵士の間を割って下される。処理した遺体と思っていた所に、神はいた。

「お前の正体が何であれ、腹を物理的に割ってそこから聞いてしまえば良い。」

血塗れの鎧と腕その血が自身のものと知った頃に命が途絶える。なんと残酷な事か。

「・・・要塞のルートと内部設計は一通り覚えている、この様に地面に道を隠すのは容易い。」

血流が体表に現れる、殺した数よりは遥かに少ない血の数だ。酸素を吸った赤黒い色、反射的に槍を振ったが、瞬間的に35%程度の筋肉が膨張、鎧の隙間から布が薄く見える、そして強く掴んでいた己が信頼に裏切られた、姿勢を崩すと抱き締められる安堵が・・・拘束具に成り果てた。膝を下腹部に、二三打が、一度目に無防備にしてしまった股関節周辺は砕かれ、頭部には両腕を足した拳が降り、頸椎辺りが死に悶える。

「いや、若干トーンが違うな、純粋な人間じゃないんじゃないか? 整形技術は現状無い・・・。」

トーン、というのは近いからそう形容されただけである。化学が未発達の場所の場合、加工方法が固定化され、それに合った形状が作られる。・・・あまり良いとは言えない。時には尿を用いる場合があるなど、衛生的に考えればNGなものが多いのだ。

「メルリウス卿、言いなりにさせろ。」

『・・・残念だが少し難しい、戦意を削いではおくよ。』

「助かる。・・・それで、戦況は? それ次第で司令を送る。」

『思っている程進んではいない・・・決死の覚悟と言う奴だろう。基礎がガタガタな分、上がり幅はあったがこっちの軍に重大な損害は無い。』

「アランは重大な損害に入らん・・・新設した部隊が活躍してる訳じゃないからな。」

『・・・割と冷徹だねぇ。』

「冷徹と狡猾は競争がある場合必須の技能になる。俺が憧れた英雄の姿なんてどこにもなかった。・・・微々たる人間が少し助けてやれば良い、それ以外はシステムで助ける。・・・見捨てる理由は無いが、見捨てるのと同じ行為でさえ善意で行える様に正当化するよりはマシだ。」

『・・・彼は助けられるべき対象かな?』

「助けられていたらこんな所に来る筈が無い。」

『そうだね、時間軸を基本にした流刑・・・かのナポレオンも流刑にされた・・・死刑にはされなかったが、死刑にも等しいかな。』

「文明は既に崩壊した、新しい環境に耐えられず死んでいく人間の方が多い。甘ったれた知識だけで世を支配出来る訳が無い。・・・殺すべきかはまだ決めていなかったが、手を汚す必要が無くなったのは僥倖だ。」

『酷い事を言う、それで?実際は?』

「想定内だ、彼奴には荷が重い・・・というより密偵があった、王国よりも向こう、危険と言われ辿り着いた者は誰一人帰ってこないと言われる彼処に行った記録があった。」

『・・・ふむ、見れるかな?・・・いや、無いな。』

「・・・俺は殺すべき相手がそこにいる、記憶から残りは聞けば良い。」

『・・・ああ、拒否された理由が分かった気がするよ。』

「王国は産まぬ人間に使命を継承させて自身以外を滅ぼす様に仕向けるだろうよ。・・・それに便乗される可能性がある。近い内に鍛えたコウキを実践登用する、弱体化著しい相手なら狂団を煽れば現状のスパイで事足りる。」

『その為に何か工作したと?』

「通る為だろうな、スパイに記録が無いから別口でやっている。・・・そして時間は恐らく・・・三日以内。これが一番分からない所だ、現状最速の蒸気船ですら片道二日掛かる道程・・・。」

『・・・確かに工作しただろうね、』

連絡を出す、簡易的なものとして訓練した鳩を使い、送る。紙面に書いた内容を実行する様司令部に指示を出す。・・・この手段は最前線に送れない点と遅さ、そして毒に対する耐性が無い為基本的に実行されない。・・・だが、今回毒は使われていないと確信出来た為、この手法も使えると参謀側も確信出来る。

「・・・本物は裏切らずとも利敵行為を行っている。ダガンに通信要請、アラン本人の無条件殺害許可を出す、破綻を採用、W&O(武器と作戦)は問わない。」

そこから十分程度、遺体を一人一人タグ確認と分別、記憶を辿り探し、警戒は怠らない様にはしたが、気分が沈むだけで、無駄なストレスにしかならなかった。

「赤信号、是認だな。」

そそくさと終わらせた所に煙が上がる、狼煙とは違う、鼻につく色。攻守の変更、詰まった所は防衛に、柔らかい所は攻撃に、将にすら適用される推奨策である。

「身体の不自由な人間の精神を補強し乗っ取らせる。気分はどうだ?僅かに残った吸血種とやら。」

防衛、ここにアランはいなかった、その事実から逃げたと判断して尋問に切り替える。そして短剣を城壁・・・と言っても床の隙間に差し込んでいるだけだ、相手の腹を椅子に座り、呼吸がしっかり出来る様に衝撃に変えた。

「・・・私を殺しても犠牲者は減らん、好きにしろ、早く殺せ。」

目を開くと悠久の宇宙があった、涙にすらない恒星の如き光る砂がある、人体の細胞と比較して若干スケールが大きいのだ。馴染む為に同じになってはいるが、細胞においてはそうはいかないらしい。魅了とは言うが若干違う、好奇心を愚弄しているのだ。そして彼は笑った、スケールが大きい分単細胞じゃないか、と。

「嫌だね、殺すには理由が存在しないとな。理由でも説明してみろ。言えないだろう?生きる理由しか見つからないだろう? それを一般的に覚悟が決まってないって言うんだ。分かったな?」

笑われた際に何か言える訳が無い、茫然自失の中にあった自身の根幹がただ一人自分を支配していただけである。・・・達観と超越、全く違う世界、心にすぐ踏み込めるが、楽園の様な感覚があった。

・・・そして意識が一瞬遠のいた。

「・・・お前の兵士は無駄死にだ・・・。」

他人の記憶が己を支配し、どちらにも肯定出来ない自分は、やはりクズだ。

「やはりス・・・お前はそう思うか。・・・確かに命は直ぐに無駄になる。しかし、殺した事に意味は薄いが継承した事に意味はある。」

現状最も理解した感情に充てられる、自身の信頼から身を落とした先で、自身の信頼を肯定される。・・・それが、嬉しいのだ。

「・・・お前の死も、活用してみせるよ、こんな些細な事で恨むかよ。」

「え・・・?」

自身の心に侵入していた事がバレる、目を向けられた際、残った意識が衝撃で起きる、先と全く違う、平穏な触り心地、拍手の最初の様な、達成感のあるもの。

『他人の危険性が除去し終わったからさっきの現象はもう起きないよ。』

メルリウスの言葉を聞き届け、彼は自分に目を向ける。諦めという言葉がここまで魅力あるものになったのは人生には存在しない。・・・私が目を向けた時には、既に体の殆どが使えなかった。・・・だが、最後の望みを僅かに果たせた事に喜びと克己を宿す。

「この戦争の死人の記憶は全部理解している、目は逸らさん、忘れる事は無い。・・・俺を恨みたければ恨め、仇で返してやる事は無い。」

何を以って英雄たるか、思い知った。思い知らされた。・・・行動原理の差が、対応の差が、被虐が愛を寄せる。自分は惚れたのだ、剣を向け、殺意を剥き出しにしてきた相手がこんなにも正しい人間であると知った為に。

無闇矢鱈に殺す訳では無い、殺すに足る理由を以って漸く考え、説き伏せ、生かす。

手馴れたナンパにも思えた、自分は少し失意を思い出すが、前との違いに流転を予感した。段々と怒りは覚め、自分は伝説上の英雄の手を取っていた。

そして命は途絶えたが、崩れた様な動きが最期になる事が無く、全く今迄の死と別物に思えたのだ。

「酷い遅延行為だな。」

膝枕で死に行く彼女を見送った、そして宇宙が消えた頃に目を閉じ、脱力した身体に花を添え、遺体が辱められない様に彼は持ち帰る。・・・記憶を探り、彼女の家族は居なかったのだ。

『我儘を聞いてやるのが君の信念だろう?・・・そりゃあそうなる。・・・それで?大丈夫かい?』

「休憩は怠っちゃいけねぇよ、ちゃんと時間刻みでやっている。馬の持久力からしてあと45km以内をスプリント無しで済まさなきゃいけねぇ、騎馬戦になったら俺単独の方が強い・・・色々考えたらこっちの方が良い。」

準備の確認、そして最後に言葉を掛ける。死んだ人間には聞こえないが、餞というものだ。

「何れ来る世界の破滅や自身の失敗も・・・現在の問題を忘れ去ってしまう事に比べたら軽いものさ。・・・せめて安らかに天に登れ、お前達にはお前達の神がいる。・・・俺等には分からない事だが。」

少し冷たく、しかし優しく問い掛けた。やり飽きたミサの様に、信心は無いが清廉な巫女の様に。

『・・・そろそろ移動準備をした方が良いかな?』

メルリウスは翌月の話に切り替える、夢と現実を行き来する者であるが為に苦労は絶えない。そしてそれを理解している彼に言った。

「次の作戦、災害に対抗するのは俺で、攻撃を確保するのはお前で良いな?」

『ロタールがついでに楔を打ち込む場所を確保しているよ、どうするのかな?』

「利用はする、兵站を第一に、防衛力は要塞につぎ込め、災害とその根元には俺が対抗する。・・・コウキとユウキは任せた。・・・今から彗星を追い詰めに行く。」

記憶は全て炙り出した、これで材料は十分、殺すに足る。そう確信して彼は動いた。

少し後、馬に跨った彼は叩きはせずに手網で身体を支えてはいるが無理に走らせる事はなかった。

「・・・パンゲア、お前以外は一体何処にいるか分かるか?」

首を振った、口を割っている訳では無い、理解した上でこうしているのだ。

「・・・他の連中はセン馬だからな、まぁ、ビビるかもしれない。」

セン馬は別に気性が変わらない者、落ち着く者、寂しがる者とそれなりにホルモン供給に勤しんでいる機関を失う訳で、男性ホルモンに依存しないものの気性が荒い場合は意味が無い。生物的システムとして気性が荒い生物を種馬にするのは当然である。

「ソロモンの一枚上手か、仕切り直そう。」

彼が気付いたのは予想外の更に予想外、大災害にこれは外せぬ、自然現象の王座とも言える存在。

「・・・地震には慣らしてなかったな。大雨においてはこっちも危険だ。・・・道理で被害が多い訳だ。」

爆音が多く響くと思っていたが、この様な事情があった、訓練不足かと思ったが、生物的に優れていたからこうなったのだろうと後になって思うのだ。



この国は幾つかの公爵家とサルマナザール家の血筋から皇帝を選出する。公爵家とされるのは軍人で将軍位を持ち、一級要塞を七つ以上所持する必要がある。その一級要塞の一つ、ポチョムキン要塞、研究者の花園と言われる女性重視の街である。具体的に言えば、出産に対しケアと支援を行うというシステムの為、男女関係無く扱っている。・・・また、ここの城主はチェルノボグの母、生命の魔女ティアマトであり、その管理は厳しい。少年十字軍という悲劇が原因で作られ、子供の管理を徹底する。思想の植え付けを行わないという保障はどこからされているのか、正直未知の部分が多い性で信じられている訳では無い、これが魔女の欠点である。・・・そんな実質的な学園都市に一人。前に紹介したクリストフ、彼はここの出身である。

「文字通りロジックボム、注射器一つで出来る代物・・・。実用化は追い付きそうか?」

「無理だ、研究の三番手がアランなんだぞ。」

「・・・アランは皇帝陛下に直接話をつけていた。・・・実用化されるペースの遅さ、軍事行動が起きた事。戦争の一歩前、そこで捕虜として殺され、考え直させる。・・・どう考えても割に合わない。行動ログと記録から割り出してくれるか?」

「了解、期限次第で割り当て人数を変更する。」

「三日だ。」

「よし、三桁だな。」

兵士志望者はこの街にはいない、将校になるなら叩き上げとして防衛をする訳にはいかない。

「・・・とはいえなぁ、発電機や機械に制限が掛けられているのがやはり・・・。」

「仕方ないだろう、定期的に核兵器を処理しているせいで電磁パルスが発生するのだから。」

「・・・安全だから・・・ねぇ?」

「この場所も最近漸く作れた・・・労働力確保の目処がやはり・・・。」

上層部の議論程政治的意味が強い、科学の知識保管に際し重要人物であるアランからの知識を収集する下っ端にはあまり関係が無かった。彼は高身分の出身では無いが実力だけはずば抜けており、賄賂とゴーストライター活動で研究に寄与している為この地位にあった。

「教授、こんな企画はどうでしょう。」

軍部の通信技術以外はあまり発達しておらず、ラジオ以前と考えて貰えば良い、新聞ともう一つのメディアが存在する。それが『スタント』だ。

安全性の証明とスリリングな企画、実験を兼任しつつも商売に最適な広告。

「・・・いや、少し危険だ、エンジニアに数人派遣しろ。」

エンジニアは時々度が過ぎる事がある、研究職もそのブレーキを掛けれない事も多く、時に不信へ繋がる。リテラシーを一貫するという目的を抱え持つ、せめてそう誓った。・・・自分の身可愛さと言われても仕方が無い。

廊下と渡りが交差している所で解散、その先に面倒な人物がいるので自分以外は解散したのだ。

「ティアマト、どうした?」

「『お母さん』だろ?」

この人物は母と呼ばれる事に快感を覚える変態である。

「(助けて・・・!)」

切実な願いは届いたがもっと早く救いはないのだろうか。若干DVじみた悪質な救済が目を眩ませる。

「クリストフ、何があった?」

チェルノボグは少しガスで火傷しており、その治療に専念している。・・・威力相応の代償がついた訳だ。・・・本当にDVじみて来た。

「前線からの告知でアランが裏切った可能性があると。」

「何?・・・そうか・・・。今チェルノボグが手元にいる分には良い。」

ティアマトは切り替えた、少し自身を疑う様に視線を合わせられた。圧を掛けられる程の体格差、背丈凡そ2m、アルトリウスを肉弾戦で手に掛けられると噂され、服の下には古傷があると伝えられる。・・・そんな人間と対等な会話をしようとは思わない。

「嘘は決して言わない奴だ、だから言われた事に則り、隠し事は多いだろう。だが、彼奴は自分自身の為に行動する様な奴ではない。歪な叶え方をする奴だ。」

自身の信頼を勝ち得たのか、恐怖を和らげる様にそっと抱き締められそうになったが、拒否し、嫌っている訳では無いが無性に嫌だと言った。

「案外反抗期止まりの人間はいるものさ、私にとっては人間の成長なんて些細なものだ。」

「説得されても同意しませんよ。」

「信頼の築き方だよ、こういうものは。」

「惑わさない事が一番の信頼の証明としてください。」

「ふーん?へー?ほーん?」

「それで?アランはどうするんだ?処分?」

「・・・そんなに旅の思い出は無かったんですか?」

「ここで個人の事情とやかくで殺すのを躊躇うのは国益を損なう行為だ。・・・私情は二の次、迷惑を掛けるつもりはない。」

「・・・捕縛方法を模索します。」

「無駄な犠牲は一人たりとして許さん、良いな?」

「・・・。」

「娘がこういう性格なのは心配するな。主に彼奴のせいで目の届く範囲に犠牲者が出ないって信頼しているだけだ。」

「なっ・・・!?」

「二年目にゃ心配もしなくなってデレデレになっちゃってまあ。」

「うっさいこの馬鹿!」

見事に腕を一歩一歩押さえ、小突かせすらしない。

「・・・犠牲は結果を出す行為だ、加速を繰り返し、次の成功の準備をする。失敗は成功の母とは言うが、試行回数を増やす、無駄な憂いを断つ。生命は死ぬが故に進化を許す。・・・その一人でしかない。命は不平等だ、損失の違いはあるが、所詮どれも有象無象の一つに過ぎない。」

母は語り掛ける、生命を司る名を冠し、人の身にして最も神に近付こうと禁忌に挑む、勇気ある者としても最も敬意を払うべき存在だ。

「勿論、私も、お前も、娘も・・・奴も、アランも。・・・全ては平等な犠牲だ。そして平等に価値がない、感情移入と自身も同様にミクロな価値であるから不思議と大きく感じでしまう、それだけだ。

・・・だから、継いでくれる者を信じろ、お前も、相手も、小さい事しか叶えないし、叶えれない。」

神の視点から全てを突き放された。落胆でもあるが、同時に慰めと導きでもある。

自分が黙り込んだ時、彼女は優しく笑った。これが変わる訳が無い。

・・・クリストフは、社交性を削ぎ落とした様に研究に没頭した。・・・彼は使命に答えない罰として死に至った。


「・・・コウキ!」

「ダメ!・・・あいつ絶対マトモじゃない!」

掌を思わせた掌底、予想より狭い範囲に痛みを与える無力化とは程遠い戦術。気絶は気絶でも失血を狙っている。基本の動きは武道的だがどうにもぎこちない。殺しに来ている。

「・・・変ね。」

彼女が『脚曲がりの彗星』本人である。銀が個性の風味をした目と毛、肌は錆ついた様に爛れた様になっており、そこは全て包帯で巻かれている。僅かに端が見えているのだ。

「・・・ユウキ、絶対に来ちゃダメ。」

「でも!・・・相手は僕を殺せないから!」

「個人レベルで守るかどうかなんて確定しているわけないでしょ!?」

「う・・・。」

剣や銃は無い、ナイフが三本、一本はハッタリの模造刀の様なもの。

そして一本も未だ抜かない、ベルトで固定された儘にして相手との実力差を見る。

不死とはいえ、彼を傷付けてはいけないのだ。

相手は迫る、決して近い訳じゃない、フィールドは城塞内部、そして二城は最低でも離れている、兵站の補給地。

兵力の削れ方が少ない、天然の要塞が故の間違いがあった。犠牲者の推測法は未だ確立していない状態であった。

この城の兵士は足りない、そして無駄な犠牲を呼ぶ事になるだろう。ユウキの使命の有効度合いに入ってしまう。

「・・・。」

あの時の再現、相手に自身の場所は割れていないが、いることは把握している。

敵がどの様な人物かも知らない、もしかしたらソロモンという大災害を起こしうる人物かもしれない。ただ、脚を固定した女であるという事、固定しているからそこを破壊するのは難しいだろう。

城壁に触れて内部を見渡した相手の背後を再び狙う。

先の様な日による誤魔化しは効かない。あの女は感覚を鈍くする事で速度を叩き出している、捨て身な戦術をしているとも考えられる。

そもそも彼女の顔をよく見なかったから先の様な掌底を間違えて叩き込んでしまった訳だが、それは仕方が無い。手際の良い暗殺は攻撃対象に足る技術だ。

今なら行けると確信した、不安と困惑犇めく中、打倒以外に道は無い。相手をどこかで見た事があるが自身は幼少期以外は記憶が無いと言っても過言では無い。

ただ一つ違うとすれば、相手が演技する能があるかないかを見破れなかった事である。余裕綽々と臆病が目に見えて分からない時、錯誤しうる。

「明確な弱点、それは握力。握力は鍛え方もあるけどそれなりに筋肉の長さも必要、貴方の場合50が限度、こういう風に砕けるの。」

「・・・う、ぁ・・・痛いッ!」

先の足音から体格の差を予想された、この死んだ目は演技に慣れた目、宝塚とは違う、自身が自身を抑圧した、諦観の二文字が走る。

自身は弱い、本当に弱い。・・・ただ、諦めて良い理由にはならない。もがいた、腕を捻ると折れる音がする。力で対抗しようとしているのではない、力が入っていない場所から潰す事で弱い地点を明確にしている。油断をしない強者だ。

蹴った、殴った、それでも意味は無い。ユウキが察して出てきた時に・・・失望が。

貪欲が、逃がすべきという声を無視した対価が取られた。

意識が朦朧とする中で、自分は恐怖と勇気を呼び起こされる。

『恨んでいる訳じゃない。だが、張り合い甲斐というものがある。』

殺人の対価、自身の過去。

『俺に身体を返せ、俺が解決する。』

やってしまった事に終わらせないと立ち上がったのだ。・・・涙を出す前に主導権は奪われた、存分に泣いても良いと受け取り、自身の実力不足を痛感する。

首元を狙った一撃が脳震盪を起こす、カバーは出来ている、バランスに大事なものであるが為に弱点にならないようにしている。・・・つまり普通は狙わない箇所だ。

つまり技術が未知の状況に際し、瀉血が主流の文明レベルなら、耳、首、肩のどれかを狙えば良い。脳震盪の代用にはなる。猫騙しの応用にも出来る。

「・・・この猿真似をぉ・・・!」

「ああ、聞いてなかった、すまんな。」

顎と肩を逆方向に逸らし、そのまま肩に手を移し、自身も上下を変える。そして一本背負いに切り替える。胴体蹴り勢いを付け足す。

そもそも攻撃に当たらない前提で作られている時点でリーチを詰める戦術は非常に相性が悪い、とはいえ知識が無い訳では無い。警戒は怠らぬ様に。

「武道を12年、以上だ。苦手なのは考える事、得意な事は女に懐く事だ。」

そして名を告げよう、自信満々、だが、どこか謙虚な振りをして言った。

「俺の名はコウキ・タカハシ、未成年にしてオリンピックを制する実力者だ。・・・表舞台には殆ど出れなかったが。」

壁に刺されたナイフ一本に捕まり、それを鞘に納める。

相手が飛び上がる前に仕舞ったと思われた別のナイフを当てる。やはり感覚の鈍さは草食動物と同じ様な視界で設計されている。距離感や奥行は見誤る様だ。

来ないならば迫ろう、話し掛け、重要な対話と思わせ混乱させる。相手が真っ当な軍人であればある程攻撃に支障が出る。ただし防御は怠らない筈なので鎧通し等を基準に他の技を用いる。

「実用武術、警察だけでなく特殊部隊にも仕込まれる・・・少なくともバヨネットよりは役立つ技術豊富な技・・・。まぁ、何故か抹消されたが。」

飛び上がり顔面の蹴りと見せかけて背筋を軸とし回転、脚と腕で両腕を組み寄せ、手で絝を引き一瞬力を加える。

力が抜けた所を回転を再開、首に損傷を与える事無く肩からバランスを崩させた。

ただ、相手も抵抗はした、爆破物、器具や防御に合わせた接近戦用手榴弾。

爆風がメインであって破片はほぼ無い。リーチが大事な彗星の武器としては最適である。推測するにも相手の鎧はアルミニウム8000系ではない・・・位の些細なものでしかない。

・・・刃物も、火も、狂気の武闘には足りなかった。

コウキの熱烈な手は、火傷と裂傷に溢れている。

塗装は剥がされた、尚腕は迫る。赤の矢が如し。

寧ろ皮を剥いでまで勢いを弱めないのを表す様に。

それに掴まれた時に動揺が虫酸と共に走った。・・・実に似ている、過去に未練がましい。

「お前に殺させはせん! 俺は厄災の身ではあるが彼女は真っ当な人間だ。無為に殺す事は恥よりも質が悪い!」

「・・・ッ!!」

「怖気付いたかァ!女ァ!!」

組まれる前に仕留めよ、柔道で初手から決める様なものだ。腕が動くタイミングを予測し力を抜いて柔軟性に無茶を言わせる、骨折も利用してしまおう、そうやって脚を通り抜けた、動きが鈍く、正しく鈍器でしかない脚をだ。股ぐら辺りを掴み立ち上がると共に絡め取る。

「武道の第一は気高さと腕っ節にあらず!荒々しき心こそ武道の第一歩よ!反則行為スレスレを行う事とて卑怯じゃなし!それ即ち技術!しかしそれを己が許すか、それが第一よ。」

外道を犯した時に、彼は何も感じない。

強いて言うなら、スリリングで楽しい。

そして恨みというものに快感を覚えている様な気がしているのだ。

「来い!女ァ!!」

相撲には型が二つ、攻撃と防御の雲龍型、攻撃特化の不知火型。・・・それを暗に指し示しているのが彼の腕、決して身に寄せない、伸ばす事で当てる事を着実にする。技術派もそこまでするか。確実に当てれば問題は無いのだと見せる。

・・・と思っていた。

何だか、彼女の目は輝いていないだろうか。

彗星・・・というのは別の由来があるのだろうか。いや、そういう訳では無い。変態の類か? それだとしたら試したい新技がある。

「・・・違うな、これ。」

自身が自身を圧迫する理由を把握した、変態の類・・・と言っても良いかもしれない。自身が心に決めた一人以外に捧げるものは無い、武士の如し大和撫子、行く所まで行った女である。・・・自身も敬意を払わずにはいられない程、そして隠せなくなった程の感銘しているのだ。

「これ程の武人は未だ見ず、どうか私に誓い、口上をお披露目しては頂けないだろうか。」

「よかろう、お前にも見せてもらおう。・・・では早速。」

六方を一つ、足を地に。角度はキッチリ、武闘の型の為に、魅せる武闘を学んだが故に。

「死なずが故に殺されるというのはあってはならない。」

ナイフを向ける、姿勢を変え、自然体に戻す。

「俺は守る為に今を生きる、剣を向け、打ち倒し、帰投する。」

胸にナイフを、戦いの心臓を捧げると示す。

凶器を以って狂気を示す、だが、捧げられた心臓は一つだけと首を一度振られた。・・・少し、慈悲の様に、後悔の様に。

「我が名はコウキ、己が為に戦い、剣を取る者を守る。」

加速する、加速する。目に光が差した、瞬きが忘れられる。渇きである、渇望である。

「運は地に、鎧は胸に、手柄は最早足りたもの。」

有象無象を結果的に殺してしまった、言わば無駄な後悔を抱えた胸、虚像だ、自分より遥かに優れた生き方をしているその姿が嘘とは言えなかった。

「良き戦いに毘沙門天の加護よ有れ!」

自分の惚れた人間が、目の前にいる。それだけで鮮血が血管を駆け巡る。



・・・少し、不足していた。

正々堂々という信念に対しぶつけられるは非道という結末。

「アランだ、お前も分かるだろう?」

芝居を打った、アランを乗っ取ったという情報さえ伝わっていないコウキ、彼女は何も言わない、己が解決すべき問題であるのだ。

「何時から潜入していた?」

「・・・教える必要があるか?」

「結構、確信した。」

アルトリウスは佳境に立たされた、ダガンとロタールの場所を問われるが、無言の連携と結び付ける人物はどこにもいない。

「引き金を引いてみろ、アランの記憶が継がれたならお前は頭を既に撃ち抜かれているだろうよ。・・・味方を見る限りはな。」

凡そ百人に囲まれた状況、向こうの射程圏内にいるソロモン。

「其奴は誰だ?・・・少なくともアランではあるまい。」

と射抜く。黒色火薬が臭い、それでもそれ以降の行動をさせなかった。

「・・・何だ、生贄か。・・・あの捕虜はもう本国に送った。」

「脚曲がりの彗星がいる、殺すに充分だ。」

0.03秒の恐怖が来た、目の前の人物の質が変わる。

噛まれるは鼻の下から唇の横、血の動きを感じた。

「キスなんか期待すんなよ。」

痛覚で目が塞がれる、だが、それは却って光の影響を受けない状況を作るだけになっている。その一歩先にいた。

「緩んだな!」

ただ、その希望は掴まれた。

「フラッシュ・バン、キャッチ出来たのは偶々だ。」

肩で耳を塞ぐ、目は剣で隠し、反射する。ここまでの動作を一切悟らせずに遂行し、次迄には白光に鮮血が混入していた。

名前すら覚える必要が無い、無慈悲に処分すべき相手であった。合計五百人の本国からの精鋭。ソロモンとその周辺の人物を殺す為の懲罰部隊。

勝てないのはあってはならないと百人は勝ちを得るべく勝手に進む。・・・アルトリウスを知らずに。

未知に勇敢に挑む事は無防備に等しい。彼が相手になった時、どんな相手でさえ蛮勇になる。

察した魔術が飛んでくる、殺された為に最早容赦は要らぬ。

王国の魔術に帝国の技術が加わった、その協力の証明、その二国の連合にして唯一他国で魔術を使える存在。帝国の裏切り者、既に死んだ者ではあるが、その力量は今にも届く。

厄災を滅ぼす一手、対建築物の剣技。封神演義に混じっても違和感がない、神仙の如き御業。

『覇王の一斬を問う。』

一人が息絶える。

『宵は黎明へ、光はやがて我らが背後より。』

二人目が息絶える。

『天与の玉鋼五本を捧ぐ、兼重二振、無銘王、双星、焔鉄。』

三人目が息絶える。

『地はやがて天に罷り上げられる。』

四人目が息絶える。

『然して神は至らん、空を裂く剣戟を。』

五人目が息絶える。

そして剣が消失する。

縦に5キロメートル、横に1.4キロメートル・・・実の所剣ではなく、頭上に物を落とす、それを探知不可のエネルギーに変更、唯の大質量落下である。

アランの射程距離の理由はこれであった。これを撃たれる前に妨害する為であった。

絶好の機会が目の前に現れ、それに従った。

生贄を用いた儀式は基本的にその人物の将来を圧縮する。・・・分かりやすく言うならば生命保険である。人物の生産、消費を累計したエネルギーである。本来の倍になる分と、魔術のシステムであるエネルギーの変換の分も加わり、その火力は凄まじい。ただし、生きた痕跡は没収される、そしてそれに気付く人物が折らず、開発も再度行わなければいけないし、生贄が要るという事も知る事が出来ない。

風を裂く音だけが響き、それを理解する。大質量に手を止めるソロモンを他所に、英雄の剣は抜かれる。

準備には一つ面倒な過程を踏まなければいけない。・・・さて、少しそれを見せよう。アポロンを抜き身に寄せる。赤熱するそれを身体に充てると、電気針の感覚がした。

「・・・やっぱ痛てぇなこれ。治すのに手間掛けるからティアマトに申し訳ねぇ。」

心臓の鼓動が変質する、視界はモノクロに変化し、全身から赤い斑点が浮く。赤熱した身体は蒸気を放つ。

人が体を動かす際には10%程度しか使わない。しかし、彼は違う、彼は人の100%を発揮しつつ、様々な混血と記憶によって段違いのパフォーマンスを記録する。ヒトの頂、究極を体現した唯一。

一度触れれば身体を溶かす、逃げたとしても身体が焦げる。・・・深く接触すれば蒸発する。

排熱という行動だけでも害がある、使命で雁字搦めになった為に生きる、理不尽の結晶。

そしてもう一つ。

ジュデッカという剣について解説しよう。

地獄を冠する剣で、時間の歪む地獄と同一視される剣である。異様に重いのはその影響で、武器としては鋭利ではない。特殊相対性理論と同様の仕組みで機能する一方で、デメリットとして冷却があり、身体は冷たさを永劫に感じ、死すら数度の輪廻転生に匹敵する。また、非抜刀時に全てフィードバックされる。そのベースは金属のように硬い炭素である。現実の辛きに直面するが為にこの剣は地獄を指す、望みを果たす為という試練の意味もある。

攻撃が届かない、当たっても傷にならない。

抜刀時にその範囲を五十メートル内ならば書き換える事が出来、抜刀度合いによって決まる。また、時間の書き換えに関しての上限は地球の核の時間に依存する。

「蹂躙王の首を斬ったのは誰か忘れたらしいな、歴史を改竄した、その代償だ。・・・何百年前の話だから無理もない。」

無色透明に懐かしさを思い出す。その剣の色は無いが故に察しては哀れに思う。恐らく初めて見たものだ、それも尚更心に残る。大質量落下は警戒を呼べないが為に最も殺し易い、流石に雲の形状が大きく曲がった状況ではバレない訳が無い。

「・・・これ後先考えてねぇ行動だよな、事故にも出来ないし。」

核兵器の使用は第二次世界大戦時点でも充分戦争犯罪に足る行為である。何処ぞの国は称えていた様だが誕生する頃から案外変わっていないと寧ろ安堵している。・・・懐かしい歴史だ。

エネルギーの大質量は物質を伴わない、伝播して空気には影響しているが、意味は無い。自身にそんな火力は出せないし、逃がす事も叶わない。範囲も足りない。

「空気に伝播しているのか?これ。・・・エネルギーを継続して下に向け続けるのは無理がある。・・・ふむ。じゃあやり方を変えよう。」

根本的な仕組みは剣で、根元から抑える事が出来る。副官の敗北で散った中に跳ね返す。

・・・後は自身の脚力でどこまで根元に行けるか。そして証拠が無色透明の大質量一つから推測しなければいけない。

もしもの場合は飛び上がる。酸素濃度が低いと出力が足りないからあまり取りたくは無い。

距離は5km以内、走破速度を信じて挑む。ソニックブームが空と地にそれぞれ鳴るが、被害者が今の所はいない。

「最初っからチェルノボグに任せた方が良さそうだったな。」

とはいえ彼女に無茶はさせられない、数人に気付かせる事で盤面を変える。

「フレアガンで定期的に位置を確認する、攻撃位置の指定を行う。」

天に低い火が浮かぶ、そして異変に気付いた数人がそこを向く。・・・察した数人は馬を変える。敗走箇所を補修せず、そこに落とすように受け取られる。

「壮麗公、蒼髪公、不能公がやってくれるだろう。となると俺は大質量の処理だな。」

考えが鈍っている所に疲れを段々と感じてきた。ジュデッカの弊害は精神的、肉体的双方に響く。気付かない所で蝕むのだ。

念の為どちらも片付けられる様に用意しておこう。

そして何の苦労もなくほぼ着地点迄辿り着く為に天然の要塞を破壊する、突撃次第壁を超え、追わせる前に当の地へ立つ。



各元帥全く異なる場所に集合する。丁度被らない位置を掛ける様にそれぞれ平行に動く。反撃得意とする不能公、単純な防御の破壊、攻城戦含むを得意とする壮麗公、兵士の練兵と情報再造を行う蒼髪公。

弾丸は充分、剣の予備、馬の予備は足りている。

「壮麗公!もう終わらせたのか!?」

「終わってはいた、天然の要塞、これがちと厄介でな。川側から補給がしやすくなっている。流れ的にこっちは不利に立たされるだろうな。」

「地図にあったか?そんなもの。」

「魔術の面倒な所だよ、地図が無意味になっちまう。」

「戦闘慣れしていない分、これで凌いでいるんだろうな。」

「蒼髪公は?」

「恐らく北だ、接敵している。」

「どうする?」

「壮麗公軍!我々はソロモン討伐へ進路を切り替える!良いな!」

「良し、分かった、こっちは第二第三の撤退路を使える様に準備する。」

「武運を祈る。」

「こちらこそ。」

短い会話だが、情報は充分、休憩にも充分だった。

その一方で蒼髪公がソロモンと接敵した、しかしフレアガンでは示せないのと逃亡経路封じ込めの為に指示を送らない。

彼はサーベルを手に取り横に振る、儀式的なものでは正式に戦うというのを暗に示す、彼が上、自分が上という事は無い、間があるだけだ。

サーベルは仕舞わず、どこかで拾った普通の品だ。決まった武器を持たないただ一人の元帥。片手に薙刀、片手に槍、肩や脇を用いてそれを支える。僅かな緊張が為に誰も手を出せない。手を出せば彼の部下が殺しに来る。ソロモンの軍とは質が違うと戦術でも戦略でもない部分から明らかになった。

爆発が一つ、乗っていた馬の近くで火薬が爆ぜた。エネルギーを消耗するのか、準備をしていた様である。破片は有り合わせのものであった。槍を支えに一人を突き刺し、足とする。そのまま一回転をした頃に、薙刀で刺殺し、槍を抜く。一番似ているのはポールダンス、肉体の柔らかさだけでなく、来るであろう運動の反動が無い、ブレやズレが起きず、惰性を忘れている気さえした。

槍を両脇の下に通し、一度折る、脚で薙刀の上に、僅かに蹴って倒れぬ様に支える。下から矢が来ようと、槍が向こうと、折られた槍で対抗する。

蒼髪公は先ずハッタリから掛ける。

「俺の名はアルトリウス、お前を正義の名の下殺しに来た。」

蒼は空の色、原初の色。故に彼は蒼髪である。神性を騙り、崩す計画に繋がる。彼もまた強者ではあるが、未知数の塊であり、本名すら不詳。存在だけは確認出来る軍部の最高機密である。

「開戦の言い訳か?」

「お前の思慮不足を相手の責任にすんなよ。」

「何人お前は殺した?」

「お前の一族は殺しに加えて差別教育を行い、戦争の理由を作った。俺は報復として戦争を起こした、差別を根絶やしにするべくその教育を根絶やしにし、楔を打ち込みます、経済的に追い込む。・・・人の命、その価値の総量で見れば我々が上だ。」

「・・・やはり分かり合えんか。」

「分かり合えんからこうして戦争をしているのさ。集団の淘汰と言う奴だ。」

「考える事は無い、憎しみと戦争を楽しむ心さえあれば十分だ。・・・ワイルドハント、第二段階に移行する。」

「・・・相変わらず何を言ってるか聞き取りずれぇ・・・。」

ソロモンの啖呵は意味だけは部下に通じていた。異種間の意思疎通程度のものでしかない。

槍を振るえば長さを見誤った数人が死ぬ、突撃する程の人員も段々と居なくなる。鈍くなれば薙刀に変え、槍を剣に変える。一歩の内に二歩を刻む、動きが多く、振り幅が小さい、それでいて力が不足している訳ではなく、一撃で殺す最低限まで持って行く。攻撃や移動に関して計算高い人物である。逆に銃は上手く調整出来ないと現状では不馴れの為使っていないそうだ。弓やクロスボウは使うが、槍の投擲の方が性に合っている。

・・・古臭いが、忘れられた為に手が着けられない。何れそうなってしまうであろう相手だ。

「片付いて来たな、良し、全兵縄を掘りだせ!蜘蛛の巣を張る!」

火では消えぬ縄、水を含んでいる。雨や地震があれば気付いたであろうもの。広域と遠距離ばかりの殲滅に手間取るソロモンには相性が悪い。歩兵が動く度に妙な当たりがあり、遅いものの着実であるという違和感があった。縄と鎖が交わり、敵味方問わず何人も連れて行かれる。

「連環馬とは良いものだ、ならば私はこう使おう。」

馬に敵味方関係無く繋がれた人々を引っ張らせる。凡そ時速40、人類最速のペースで数km引き摺る。・・・しかし訓練された味方は数人の犠牲で収まるであろう。

砂煙の向こうではあるが、容赦と情けが存在しない光景が広がっていると少しでも想像し、怖気が伝播する。

スペツナズの訓練においてはトラックに繋がれて引き摺られる訓練があり、犠牲者も出ているそうだ。慣れか、殺しか、馬の数、兵の数で言えば寧ろ少数の犠牲で済む。その残虐の為に忘れてしまう理論値的な平和が、ある種の理想郷が前にあるのだ。

「さて、お前はどうする? ソロモン。未だ攻撃せぬお前に何が出来る? 俺は兵士を殺し続けよう。この手法を以って、残酷の演技をし続けよう。」

嘲笑する自称アルトリウス、場合によっては本人よりも質が悪いと感じてしまう。明確な姿形を継ぐ事が出来なかったアルトリウス、その復讐心一つで戦いに赴くのは良いが、少しは考えなかったのだろうか、それとも自身も同じ手に身をやつしているからだろうか。・・・少なくとも、その心情は分かるまいて、なんせ理解を拒否したのだから。



大質量を遅らせて撤退は済ませた、一瞬の爆発で地表に衝撃波を送るものに変わっており、分子間での動きを妨害する事で弱める事は出来たが、到底操作は出来なかった。もぬけの殻の要塞は地面毎跡形もなく、寧ろ地下に向かって要塞を生やすのかと言う位には抉れていた。・・・全身に多少の補強を行えば、問題無いか。

「・・・緊急通信、災害を確認。『黄金錆殺し』繰り返す『黄金錆殺し』、月より『鉄の雨』が発生し殲滅戦に強制移行する。」

「了解、アルトリウス卿。タスク・エイト発令、疫病災害部隊の装備を配備します。」

「ダガンからか。」

「ダガン少佐及びジマー特例中佐から同意見。」

「あの馬鹿前線にいやがったか、ジマーを殿に撤退命令、立て直しを開始する。捕虜よりも兵士の命を最優先。死体の回収は各戦医に委任、責任は俺が持つ。軍内治安が悪化しない様に俺の名義で行え。」

どうするか、は参謀本部には聞けない。自身が行うべきは今後この災害で無駄な犠牲を産まない事、災害や厄災の確認は良い、一部の辿り着く所まで進化したもの以外の災害は進化するという問題がある。

予算は問題無いだろうか、それとも飾りの功績で済ませるか。大質量処理は証明出来ないし、蹂躙王の後継が居た場合功績を凌駕するマイナスを示した事になる。

結論は・・・。

「・・・いや、王国侵攻を中断、俺以外の部隊の人間は防衛に戻れ、状況次第では防衛戦が起きる。攻撃戦は命令次第に変更。」

防衛戦で功績を補完する、その決定がベストだと判断した。黄金錆殺しは金属を混ぜ込んだ雨を媒体とする細菌の活性化、人に金属が感染する様に人も固まり、死後硬直を全力で行った様な形になる。粘膜接触以上でないと感染しない分には良いが、冬虫夏草の亜種であるという所が厄介だ、いつ胞子が危険物になるか、分かったものでは無い。

「アルトリウス元帥、少し地図を見ていたら並びに違和感があり報告します。」

「五十人集団、そりゃ強い訳だ。兵士のコストで三十人集団までしか作れなかったせいもあるが、練度の差で気付かなったな。攻めてないのは女子供がまだ手練じゃないからだ。兵站が維持出来ない。防衛戦で手一杯なんだ。畑として開拓するにも間に合ってない・・・。」

「やはり挑発は偽物なのでしょうか・・・。」

「領事館も大使館も無いのに聞ける奴がいるか。・・・逆に言えば否定出来ないという事実を逆手に取る事が出来る、宣戦布告を正当化する、とかな。共通見解を勝手に定められる可能性がある。少なくとも国内では。」

「・・・独立国を作り帝国の支配下に置かれる、それを後腐れ無くする為に犯罪者を移住させ、治安や食料維持も最悪まで落とす。患部となる事で正当な理由に出来る訳だ。狂団が内部争いに関与する可能性があるから潜入者を増やす。という感じですかね?」

「そんな感じだ、大まかな指示は出し直すが個人で判断して挑む様に。将はその為にある。」

だが、と話を続ける。警戒すべき点を早期に伝える事を怠らない。

「・・・間違いない、次に用意するのは人質だ。」

直ぐにテントから去ってしまう後ろ姿は、いつもの労いとは大きく違う、焦燥を確かなものとして感じさせた。

「脚曲がりの彗星の得るべきものは人質だ、候補者の確認と保護を行う。」




彗星は一人、牢獄で少しマシな待遇をされていた。事情を知られていることがどうも恥になってしまう。それでも懐かしみ、心に残るものとして暖かな思い出とした。

「・・・コウキ、やっぱり貴方でしたか。」

彼女の名は・・・最早古い、二度と使わないと思い、半ば捨ててさえいた。使う事は無いかもしれないが、せめて名前を刻もう。

「昔の恩、私はまだ忘れておりません。」

私の名前はカオルコ・ムツ、昔の戸籍謄本で見れば陸奥薫子。であると。

「・・・いつか、貴方を救い出してみせます。」

歴史の抹消を真似した時に、自分の心で何かが死んでいた、だが、蘇ったのだ。自分の名前を直ぐに思い出せた事が唯の罪悪感だった様に思える。

「心をいつか拾ってみせます。・・・だから、その日まで生きていて。・・・そして、隣に立ちましょう。」

錯乱を正気のまま行う。それが本来のコウキでないと理解しつつも、向き合わざるを得ない。だが、その向き合う事に苦はないであろう。・・・思い出を掘り返そう。



皇帝は軍事演習、そして懲罰を済ませ、跡継ぎの身体が壊れる寸前まで追い込むが、それは日常的な光景であった。・・・出来が悪い、そう思う所があるのだろう。

「王国はどうなっている?」

「腐臣は存命です。」

「ならば良し、耐久戦も大詰めだな。寿命と記憶奪って魔術を確保したかったが、南北の争いが先になるだろうな。」

「戦力確保の目処は・・・?」

「無い、今回で確保出来ないなら防衛を継続、魔女の確保が終了した場合攻撃戦に移行する。税制切り替え、報酬用の売り上げを用意、物資も確保しておけ。値下げは各自で判断する様に。」

英雄に比べて正直な皇帝、信頼や信用は出来るが足りないと思うのもまた一つ。・・・だが、そう言った所でどうにもならないと考え、従ったのだ。



タール14mg、煙草の健康被害というものが無いこの世界においては酒、珈琲、煙草は嗜好品である。価値は尚更高く、勝手に作る人物も少なくは無い。

「アルトリウス卿は全て見抜いていたよ。」

上空どの程度だろうか、酸素濃度が低く、気温も決して高くない。だが、その中でも衣服は一切変えず、表情も変えない。

「この野山、防衛に最適だ。包囲戦を仕掛けたのは弱点を探る為だった、魔術を用いた結果地震や豪雨に崩れず残った。」

アルバートは戦艦一つ、試作品が故にアーマーも弱かった、だが、撃ち抜かれて撃墜された。・・・その為に少し時間を空けて挑む事にした。

「ここから最前線の都市、偽物の都市ルベルに圧を掛けて消耗させる。」

別に彼は戦術家でも戦略家でもない、寧ろ別枠の戦闘狂である。

「・・・多分、こうなる。」

そんな予想で語るべきではないかもしれない、だが、こうでなければ面白くない。

「だから次は向こう側で破壊工作をして動けなくするつもりだ。」

連絡を終えた、本土のシャーマンは暫く研究に没頭し、人海開拓に行くと宣言していた。

「・・・よし、依頼通り。ここで何ヶ月足止め出来るか。」

敵討ちでここまで心躍る事は無い、そう嘲笑する。



Q.神はいた、という所が地面から出てくる様に表現されているのは何故?

A.今回で全部示してある。そもそも第一話で示唆している。

Q.なんでコウキに好意抱いてる人が今の所女性だけ?

A.今後も女性だけに絞る予定。そしてコウキ関係の全ての男と大半の女は戦場で死んでるのでいない。

Q.コウキは人間?

A.元から人間じゃない。

前段階終わって面倒事が無くなったので本格的に進めます。実質次回が第一話。

Q.使命の記憶はどこまで続くんですか?

A.脳依存なので意識が停止すると言われている首から離れて三秒後や失血死のギリギリまでちゃんと記憶されます。

Q.ソロモンは何を言っているの?

A.王の記憶のみに継承される魔術の言語を用い、それ以外の記憶を廃棄することで奪ったとしても解読不可能にする、王位継承権を持つ人物の1人がその解読を可能にし、戦場は陣以外に行く事は無い。魔術は本質的にはソロモンから借り受けているものなので王国民を殺しても使えない、また、言語を用いる必要も無い。・・・今後細かいルールは取り扱うのでざっくりとこんな感じで。

Q.コウキはいつもあんなのなの?

A.緊張感を無くした状態で戦いに挑むとああなります。

Q.アルトリウス強くない?

A.弱体化しないTier 1キャラです。ちなみに第三部ラスボスになります。勝てるけど殺せないタイプのキャラです。優しいけど野望の頓挫を前にすると本気になるのと本領発揮が未だなので乞うご期待。

こいつ便利だから出てくるだけでチャート安定する。良く考えたらジルヴィスターと同じ枠だなこれ。



私のBA44は留まる事は知らないのだ!!

今回は大事な伏線、百話単位で回収されないものが二つあります、何年後に回収するか分からないので念の為に言っておきます。片方は850話以降で、もう片方は600話に回収予定。三百万字超えちゃう。

誰だよ棍棒と蟹間違えた奴(二回目)。

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