ビー・ハイアー
設定遵守し過ぎて扱え切れなかった感ある。
アーノルド・シュライバーに対しコウキは次の様に言った。
「復讐心の無い復讐者だ。」
彼には復讐心が無かった、自然の摂理として当然だったから言及する事もなかった。
家族が当たり前の様に殺され、その行為は自分にも認められた手段であると。
だから何一つ違和感を持たず、当たり前の様に殺した。それが正しい事だと思って。
彼に子供や妻はいた、その教育も歪んでいた。失敗とは言わない、周りから見れば優れた人間で、特別酷い暴力を振るう事も無かった。だが、攻撃に対しては滅多打ちで返し、そして対抗策も教える・・・よき父親でない、なんて事は無かった。
コウキは彼と出会い、偶に酒を飲み、似た様な案件で動く事が多かった為に同行する事が多かった。
・・・彼の詳細を、アスタルトから聞いた。
そして、教えた。。彼は全てを知って尚、ドライな状態にならなかった。取り乱し、悶え苦しんだ。
自分は彼を笑えない、似ているとも思った。
家族は守る為に復讐をさせなかった。
「だが、復讐は起きてしまった。それは変わらない。」
復讐を嫌っていた・・・復讐を知った時それに納得が出来なかった。その理屈は彼とは相容れず・・・。新しく家族を与えた、常識を教え、彼は真っ当な人間になった。自分のした事に向き合って生きていた。
その矢先、暗部王の都合で彼は再び同じ道に落ちた。家族は確かに死んだ、これで三度目も有り得る。
「アナベル・シュライバー、君はアナベルだ。あだ名は・・・『アナ』か『ベル』でいいだろう。」
「・・・はい。」
記憶は精神的ショックで忘れ、新しい家族ではどうにもならなかった。しかし、自傷行為だけが残った。
「何を隠しているのやら・・・でも、悪い人ではない。」
コウキがどの様な人間かだけ知り、そして優しく笑う。朗らかさの裏に凄惨な事故があった、それでもよければ笑顔でいる。
「信じて待つしかないのでしょうね。」
彼の嘗ての妻は良き友であった。その後彼女等は結婚するのだが・・・心苦しい所はある。だから自分は復讐せねば、心を打たずとも、底に影響さえあれば良い。その残滓と灰の亡骸に、目にもの見せて焦がす様を見せてやる。
だから負けられない。そう覚悟していた。
「もう手遅れだが、これ以上の手出しを許すつもりはない。」
推定千人、一日に三度助けるのを繰り返していた。楽しくも苦しくもあった。これに彼等付き合わせた訳ではないが・・・影で聞いてはいる。
「・・・作戦第一、強力な味方の確保。作戦第二、暗部王の討伐。作戦第三、狂団一掃。作戦第四、残党処理。作戦第五、王位再選の処理。」
一応自分は上司なので、カンとロタール、ローガンに指示をし、カンは見回ってマノンの罠が無いか確認、そしてもう一人の人物を探す要員でもある。ローガンは門番の役回りだ。
「失敗と確定次第次の段階を処理する。」
概括を話し終えてそう伝えると、ローガンから激励が送られる。
「災害は食い止める、そっちはさっさと済ませろ。」
「大丈夫か?災害相手だぞ?」
「災害よりヤバい女相手に殴り込みなんて死んでもやりたかねぇ。」
「理不尽の方向が違うだけだ。」
「絶対値が五十倍は違うんだが?」
その雑な激励も慣れたものだ、人命救助でよく使う為仲が良い。あと就職先を斡旋出来る。心配すべきは自分と目の前、それは確かだ。
会話内容を思い返す、エルフストリートからかなり離れていて、馬車でも数日は掛かる。機関車系のインフラは地盤と相性が悪く、寿命も短いので線路がまれに誤ったある程度、機関車は無いが、トロッコはある。頭のおかしいぶっ壊れた連中がちょいちょいいるのでそいつを使った方が早い。
「『統計上の神』という人物がいる。災害認定を受けてはいるが人類には友好的だ。なんせ本人に害意は無い。・・・あとれっきとした人間だ、確認した。災害じゃない。」
マノンに関しては念の為聞いていた。アルトリウス位しか解説は出来ない。いつか恩を返そうと、結局殴り返す事になったのだが。
「その護衛、マノン=デュ=バリーが問題だ。性格は女傑だな、『根絶やしにしてやろう!』と言えば『子など幾らでも此処から出てくる、根絶やしにしてみろ!』と煽り返す奴だ。」
「該当者多いなよく考えたら。」
「突き抜けれた奴は異様にスペックが高いものさ。」
本体・・・ではないが同程度に厄介なのが一人。
「統計上の神・・・は聖書の神と性質が同じ、神罰や恩恵を再現可能な人間だ。」
彼女の『神罰執行』は彼が居ないと起きない。アルトリウス曰く使った所を見た事がないとの事。無意味そうというのもあるが。
「マノンはフィジカルスペックが高い訳じゃない、能力全振りという奴だ。侮ってはいけないが想像しているよりは脆い。」
この言葉に関しては後で嘘だと理解する。全然弱くはない。・・・ロタールよりは弱いが、自分よりは強いだろう。クローンだから鍛えるのが追いついていないのもある。
「あと災害に対して強い、産まぬ人間を死に最も近付けられる存在だ。・・・殺すというのは表現としては少し違うが。」
災害の由来が影響しているとは言っていたが、下手すれば埋め込んだ群れる渇望に影響するかもしれない。被弾は避けよう。
「何かは分からないが・・・立ち回りが慎重過ぎる。恐らく奴は俺に対するメタ技を持っている・・・油断は禁物だ。」
そう言い残したが・・・全人類で生き残れる奴がどれだけいるのだろうか。とも思った。以上が自分の覚えている事と考えている事だ。
その女は、デメテルやティアマト、アシアクに近い。だが、明確に違うものがある。
失敗すれば間違いなく死ぬ。殺意が直接的に感じてしまう。頭痛と腹痛が起き、吐き気を我慢しながら戦う事になる。
「『神罰執行』」
竜王の時よりも射程は短く、しかし重量が倍以上。下手に触れれば圧殺は間違いない。雷とは違う、しゃがんだのがかなり不味い状況だと示す。
何があるか、何処にあるかも分からない。
呼吸を整え、真っ直ぐに向かう。
根本はここだな、と無色の剣を掴んだ。
解除が先か、一撃が先か。打撃を喰らおうが振り下ろすのは止めない。
「逃げたら当たるぞ。」
ハッタリを掛けた、相手側もこれの範囲を知らないと確信し、剣を振り下ろす。避けた時に斜めに、そして横に振ると気付いた彼女はフェイントを掛けていた。
「(下手だが出鱈目って感じだな。)」
熟練ではない、であれば剣よりも拳の方が頼れる。
ロタールが立て直してレイピアを使った突撃を敢行、それに対し腕に刺してでも食い止めた。
「(マジかよ!?)」
猛毒と知って受け止めた、敬意すら評したくなる。
「全然効いてねぇ、即死レベルの毒だぞ。」
軽減され過ぎて却って薬にすらなっている、ロタールはそれを利用し逆に疲弊させるべきだ、栄養供給を過剰にして寝かせるまで戦うとアイコンタクトで示す。
「耐えろよ、優衣。」
『(なんか妬けるなぁ。)』
群れる渇望の洗脳自体は聞いている、時々不意打ちが入るが、防がれるか耐えられるかのパターンだ、しかも段々と劣化している。防がれるしかない状況にもなり得る。
「『ダンシング・ペスト』」
「はぁ!?」
ロタールが通告無しで大技をブチ撒かす・・・自分にも被弾している。ダンシングペストは死ぬまで踊り続ける病、赤い靴を履いては踊り続け、死ぬまで刻まれるリズムに屈し、それまでリフレインが繰り返される。
「ペースを上げる、行くぞ。」
ロタールにかなり力が入っている、前回襲われた時は・・・相当力を抜いていた。今とは全く違う。
アルトリウスから借りたマクアウィトルを持ち直した彼は、黒曜石の光を手繰り寄せる。
「『アルギローズ・ブルー』」
先からマノンに付与されている青や紫の原因はこれだ、銀皮症と言われるもので、銀化合物と結合する事により起きる病、治療方法としてはレーザー等があるが、一番の対策と言えるのは・・・日光を避ける事だ。マクアウィトルに映し出された太陽風と日光、それが彼女を染め上げる。
「ロタール、それは無しだ。」
「・・・手を抜ける程の余裕は無い。」
「それでも、だ。」
「・・・お前の事を信じる、自分が弾けたらその時は諦めてくれ。」
「ああ、キッチリ止めておくよ。」
立ちながらも苦しむマノンにメスを入れ、抵抗する腕を抑え、毒を口で吸い出す。
「・・・殺しに来たとは思えませんわね。」
「死なれちゃ困るんだ、綺麗な人にはな。」
「思ってもいない事を。」
「(バレてた。)でも困るのは事実だ。」
針を僅かにロタールに見せ、何をしたいか確信させる。
「条件を付けさせてくれ、後一時間で負けと吐かせたらこっちの勝ちだ。」
それに命を掛ける、自分が死んでも構わないと思いながらその心臓を捧げる。
「こっちが負けたら俺を殺して王を継いでくれ。」
「・・・どちらにせよ貴方の勝ちでは・・・?」
「執念だ、頭が回らねぇからこれでいいだろ。」
血を吐き、そして青い目で笑い睨む。
「・・・それでは、手を抜く事無く本気で行かせて貰いましょう。」
いつ頃薬が回るか、それを見計らいながら準備を進める。搦手は全力で使う、それに到達するまで弱体化させる。
「『神罰執行』」
微かな声、ほぼ早口、聞き取る前に詠唱が終わり放たれる。今回は刃物、ギロチンの先っぽが大量に振り落ちる。砕くにも固く、砕けても大きめに割れるせいでそれも脅威となる。最大で200m、電車を対角線に並べても切れそうなサイズだ。
威力は全く下がっていない、やはり外付けにも頼っているという予想は正しい。魔術を参考にするとほぼ同じエネルギー量だ。
逆に突っ切る、逆に突っ込む。ギロチン次々に壊すロタール、そして指示通り自分の背を追うように投げさせる。
息を入れてその先へ、どちらを防ぐか、群れる渇望の洗脳、ヘカテー、そして先の薬。それを合計して漸く一瞬の隙が生まれた。
油断と見せかけて、剣を最後まで振り切り右手を見捨てる。右手は切り捨てられながらも皮一枚で繋がり保たれている。脳が熱い、腕が染みる。心拍数を強制的に上げ、目が血に染まる。一撃に命を掛ける。肩から斜め、短く当てる。見抜かれたら掴まれる。ロタールが反対側から刺し切った、左肩真上、真下に力をかける。自分は狙いとは真逆、首に向かって切り上げる。
・・・重い、身体スペックも低い訳じゃないがロタールに比べると一歩劣る、自分の様な小賢しいクチには強い・・・何か仕掛けがある。神罰執行の一種か・・・とも思ったが、出力自体は鈍っている。
だが、そろそろカンが決める筈だ。統計上の神とやらは戦闘力がない、人質に出来る。
「確保出来た!やれ!」
カンからの合図を受け取った、その言葉から一気に剣を入れ・・・れなかった。
剣は弾かれる様に、しかしゆっくりと押し返され、ロタールの方に限っては砕かれている。
「そういうのは無し、そうじゃなかったか?」
双方の顔面に殴打と肘が入れられ、深く凹む。鼻っ柱は折られたが、脳振盪はなんとか抑えた。
『・・・不味いね。』
「やっぱり抑えていたか・・・。」
皮一枚で保たれている右腕を咥え、剣を握らせる。
「再生までどれだけだ。」
『二分、消耗が激しいからこれが限界。』
「分かった。」
苦戦というよりは圧倒、逆転の目は全く見えない。ロタールも徐々に押されている。・・・思考を鈍らせる点に関しては大分有効、脳震盪で返せるかがキー。細いあの首を狙ってみるべきだろう。
「カン!」
「おうよ!」
人質を取ったまま突撃、完全に思考が逸れる。人質は無理に抵抗する事は無かった・・・が、妙に自分達を疑って見ている。好奇心でもないし、邪推でもない。心配している様な・・・。それはそうだが・・・。
弾丸の速度で吹っ飛ぶ拳を上に受け流し、右腕は奪われる。
「『輝ける七つの海!』」
血管だけ僅かに繋ぎが残った、ならば足りる。
「発破!」
群れる渇望で汚染と進化を繰り返した病毒が散った。肉片と血塊が悪意を持って散り、邪悪を抱えて爆散する。
ロタールが割り込んだ、彼は殴られようと倒れず、傷こそ多少あるが大半の攻撃に対して軽減しつつ・・・暖簾に腕押しというか・・・全身を同じ程度に後退りさせ、実質的に無効化している。
自分に必要な物を掴め、ロタールに刀を投げて、左肩を少し下げて胴体下を狙う。
柔道の基本は襟と袖を握る事にある。絞って握る事で相手の動きは大きく変わる。経験者目線で言えば一番柔道でスポーツマンシップがない箇所だ。時間稼ぎも出来てしまう。
では、どちらが大事か?基本的に襟と答える人が多いだろう。・・・が、袖の方が技の時に使える。襟は寄せる為に使う事があるものの、寄せて投げるまで多用する袖の方が重要だ。人によっては袖を無理矢理抑えて鬱血させるギリギリまで掴む事もある。
故に片手で足りる、小賢しさの勝負で上回った。手を組んだ瞬間に転がっている指を挟み、潰した所で肩から僅かに残る右腕で引き上げ、左で引き込み、腰を浮かせて落とす。倒れた瞬間に胴体に肘を、噎せ返るまで打った。
「(身体スペックはそこそこ・・・というのは良く分かる。相手の実践経験が無いから上手く決まった。)」
針で追加の薬を打ち込む、エルフストリート特産品のろくでもない薬だが。
しかし状況を塗り替える一言が唱えられた。忘れている気さえした。
「『神罰執行』」
立ち上がるのはNG、安易にすべきではない。発動条件は何だ、それが分かるまでは動かずに道連れの覚悟で留まる。ブラフが一番厄介な行動だ。
首を絞め、そして告げる。
「俺は不殺を捨てて不敗を選んだ、その程度の卑怯は当然だろう。」
苦痛を隠す暗闇の笑みでは、涙混じりのものでもある。
「復讐の為だ、復讐の為にこの手を締めた。」
英雄になる為に凡ゆる手を尽くした。
偏在する全てを、悪徳と善行の全てを。
「そうしなければ生きられなかった、それ以外では死ぬしかなかった。」
一人逝った者だから、生きなければ。その基本的な執念が彼にはある。
そして、それに応える仲間も。
調整が済んだ、帝国準最強の彼がその鎖に巻かれた牙で殴り掛かる。毒や病魔は補助でしかない。ナイフ二本のCQC、パワーでは負けるがスピードでは此方が上。再生の早さよりも先に刺す。
再生に関しては削れた分修復が困難になっていたり、放棄したり、その様に徐々に減らす事も出来るが・・・布を無理矢理挟んで妨害してしまうのも良い。治してしまうが、それは以前の耐久を実現出来ない。
「『Paranoid behavior』」
その隙は彼によって試された。
「『Sicks sense』」
五感が崩壊する、精神がロタール以外、問答無用で締め上げられる。統計上の神だけは呆然と見るが、カンから逃げる事は無かった。
心臓が物質分泌による苦痛を齎す、両膝が自分を支える支点となる。
「何故そこにいる、何故戦う。止める事も出来た筈だろう。」
・・・分からなくもない、上澄みの人間は結局戦いたがりが多い、それの方がコミュニケーションとして便利だと思っている節もある。
「全く分かりかねる。」
知性あるもので、実態があるならば物理的に防げない限り彼の影響は及ぶ。少ない知性を補い、彼は歩く、理解の努力をする。その甘さがあった、掛かった振りをする女は、素早く足を掴んだ。
「確かに効いたが甘いな、精神的外傷は脳の構造と精神性次第で解決出来る。例えば愛、例えば殺意、例えば悪意。」
経験は最大の耐性であるが、その耐性が無効化される。その痛みを理解するかしないか、どちらにせよ痛む。負い目があり、理解出来る。それが一番辛い目に会う・・・コウキにとって、カンにとってはかなり重い。
唯一の使命と、自分の果たすべき事。
それが一番の免疫だろう。
「それ位は期待していたさ。」
片足を骨ごと引き千切られようと顔色一つ変えない、その足は呆気ない位軽く・・・10kgも無い。驚愕したが・・・すぐに合点が行った。
「『精神免疫』」
傷付いた人間程恩恵がある、ダンシングペストの派生系。カンとコウキが立ち上がった、重い足取りだが、段々と勢いが着いてくる。
「奴は任せた!」
「応よ・・・ったく。」
ロタール側としても本気は出せない、コウキやカンの害にもなるし・・・何よりマノンの力を認めたのはカルナ、アルトリウス自体が見たものではない。出すまでは認めない、少なくとも今足を切ったのはヒントになる。力が強いとはまた別だ、一番頑強な箇所が切れるというのは異常事態なのだ。
「(アスタルトの力を以して把握出来ない内容だ。)」
もっと異質な力であるのは間違いない。
目を捨て入れ替えて見物する、早くしなければ統計上の神とやらを殺すと息巻いて、紫の痣を見せる。
血が昂る、だが、脱力していく。
最後の抵抗とはいかない、まだ戦える。
そうコウキもマノンも立ち上がった。
詳細不明、ローガンは戦った経歴が後方しかない。
先ず自分は使命の影響で半ば難しい。
「さぁて、ハッタリがどこまで持つか、攻撃手段が足りないだろうが・・・何とかやってみるか。」
艦隊装備の設置はしてある、ギリギリ射程範囲、そして対空装備も組んだ上で、戦いに備える。
暗部王は戦力を消費させる事を第一にする。であれば孤立した自分を狙う筈だ。
「『装填用意』」
連絡し、部下に回させる。
「『対空砲低空飛行標準』」
消音弾を試し撃ちさせ、推定標準を割り出す。
「・・・よし。」
来る。
来る。
間違いなく来る。
銃剣を装着し、発砲も可能にした状態で雪山に向ける。
「『雪崩用意』」
出る前に叩き潰す、それがローガンの答えであった。
これの偽造の為に里親制度を利用、雪崩を起こす為市街地を犠牲、新たな住処と職業、保険を前払いで出してある。そうだ、市街地丸ごと巻き込み、予め兵士も配置した。協力者一人に対し属軍を割り当て、反撃も既に可能である。
「そういうのが気に食わないから悪になった、王国の土地を独立させる事も出来ない三流の王。」
雪崩を切る、武器も構える。
いつだってクールに、冷静に、そして冷徹に。
殺してしまっても問題無いが、抑え気味に消し飛ばそう。
「『接敵・発砲!』」
通用はしないが、足場を崩す事は痛手になる。
スキーだろうがボードで遊ぼうがこれでその手段は使えなくなる。
暗部王の代名詞と言えば二対一振の剣、痣影。工廠公の古い作品だが、知名度はアルトリウスの剣に劣らない程度。毒を塗って切ると霧が広がり、そこにも毒が混じる・・・戦えば戦う程苦しむ事になる・・・単純な剣だ。知名度は元の所有者の影響で過去最大の政変を起こした人物・・・前皇帝だからというのがある。政変の妖刀、故に恐れられる。
トレイルを引いて地面に切れ込みが入る、紫が拡大し、赤の煙が芽吹く。広がる猛毒を防ぐ事は出来ない。
逆に、堂々と立った。
ローガンは霧の中で痣影を掴んだ。
動かさずに手を離し、痕を残す。
「騙されたな?」
実の所、掴んでいない。だが怯えさせた。
ワイヤーと鏡の単純な仕掛け、ここまでの流れで相手を一度も見ずに行った。
「解せんな、お前。」
王として持て囃された昔、彼はその地位をそう長く使わなかった。当時は王が三人しかおらず、東の王になりうる人材だったが皇帝直々に否定された。
公爵や王の大半は使命の対象外、つまり彼の仲間としての権利があった。そうでなければ先ず王にはなれなかっただろう。
その気持ちを理解する事もなかった、酷く彼は傷付いた。暗部王は霧を解き、遂に顔を出す。
「・・・帝国における拷問死、月に五万人だ。」
「兵卒の軽率な行動さ、上層部が関与するのは十人程度、迫害の報復が五万人で抑えれるならプラスだろ寧ろ。」
分かり合う事はない、迫害でそれ以上の人数を殺し、帝国支持を理由に殺される人数はこの五倍存在する。
「自滅してるだけだってのにねぇ。」
互いにマグナムを引き抜き、向き合う。
「悪に染ったとしても、正義と歴史の維持を行う為に、あの陛下が歴史で大悪と誹られぬ様に俺は立ち続ける。」
「ワルがモテるなんて真に受けんなよ、俺はイケメンだから許されてるだけだ。」
ローガンは真っ向から反抗した。互いに目前へ弾丸を放ち、ローガンには当たらず、フランツは手で止めた。
「俺はイケてるから他の奴よりも素行が悪かろうと見逃される、それを繰り返してお前とは圧倒的な差をつけた。」
ちょっとした昔話だが、その悪餓鬼時代を思い出しながら自分と彼の違いを教える。
「アルトリウスには全身の骨を砕かれた上に武器も粉々にされて敗北してからはマトモに生きる様になったさ。」
彼は違った、アルトリウスは自分を見直すように正しく叩きのめしてくれる。だから自分もそうするべきだ。
「だが、お前は最初っからその善性しかなかった、自分の中の悪を説明出来ない儘、全て善であるかそうでないかで生きた。」
先に言っておくと、彼を生かすつもりは毛頭ない。殺す。その上でしっかり反省させる。
「その結果、悪というものを知る事が出来なかった。悪を知らないお前は何となく裁き、何となく苦しめ、今の暗部王とかいうクソダサい地位に拘っているのさ。」
コウキとは明確に違う、彼の様な情熱はあるが、彼の様な悩みが無い。正しい方を判断しかね、しかしその場その場で答えを出せる能力が無い。時代があり、風流があり、風潮がある。
「一々悪やってるより善やった方が早いに決まってんだろボケ、常識的に考えろ。」
見下して言った、公爵として、王位に最も近い人間として。その在り方、生き方を。
「なんで俺にも誰にも話さないんだ、お前という奴は。」
そう言い放っては面倒事に頭を冷やしてもらおう。
「『Dark Hawk』」
誘爆の為に撃ったマグナムも意味が無い。そいつは爆発させる為の球ではない。
「『インプロージョン式二重射出』」
大気圏外まで面倒事を吹っ飛ばす為の弾頭。
「吹っ飛んじまいな!後はアルトリウスに処理してもらうとしよう。」
戦ったら間違いなく負ける、そう踏んだ上で戦術的に勝利をする。暗部王はそれを恐らくは引いた。最低限役目を終えている。
「コウキの闇討ちとマノンを争いに介入して味方にしようとした感じか。」
予想以上にあっさり済んだが、自分に爆破物を仕掛けられていないか確認・・・したいが手間取る動きは奴の前では悪手。
犠牲や消耗をする事で対処が楽になるが・・・様々な場所で関与する事で消耗を拡大する。
高位の命か、国の消耗か。その選択に答えは出せない。・・・何よりも理解している人間だからその選択が出来るのだ。
「次にある可能性は、災害の侵入口か。」
東か西もあるがそこは艦隊を配置している、北はバレる、とすれば南。
「・・・であれば、誘導可能だな。」
多分相手の思考はこうだ、宇宙空間を挟んで空中から奇襲を行う。災害混じりで戦うならそれが一番安全だ。
「・・・宇宙空間を挟むなら多少の猶予はある筈。」
遅延させておけば余裕は持たせられる。
それは時に一番の罠となる。
「・・・迎撃作戦か、多分位置を把握する為にも使うのだろう。」
死んだとは思えない、信用している上で彼は相手を考慮する。
「雷の魔女自体はバレている、悪天候対策は・・・多分してあるだろう。といっても雲を消したりすれば位置がバレるから使わないだろう。電子機器も持ち込めない。特にラジオ。」
アナログな方法で探して来るなら、アナログな方法で対処する。
「・・・半壊した場所があったな、利用するか。」
一世一代、他に見ないであろう方法で騙す。
その準備を行うべく、艦隊に連絡する。
その全ての条件を崩すように、山々が崩壊した・・・天候に雷が混じり、氷混じりの雨が降り出し、氷柱が空から落ちてくる。地が盛り、煮えくり返る様に動き、沸騰した水や溶岩が溢れ出す。
「・・・マノンだ。」
それ以上に対処すべき問題が発生し、痺れを切らした様に走り出す。任せるしかない、見捨てる様で心苦しいが・・・自分がいた所でロタールの邪魔になるだけだ。
ロタールに関してはヘカテーが信用していないのとヘカテーにも影響がある病を持っているので実質的に使えないという二つの要因があったり。
あとコウキが止めたのは妊娠する器官に影響すると確信したから。だから血を吸ったのは股間付近。筋弛緩剤と媚薬を同時に入れて体力を減らしている。どっちもエルフストリート特産品。
ハルノブやマノンは生まれこそアルトリウス並に古いけど冷凍保存されてる期間がかなり長かったのと基本秘匿されてるからティアマトよりも短いとか言われてる。
ローガンは前線にいない方が強いです。
暗部王は使命の効果を強くするべくコウキの近くに居続け、メンタルを乱すまで消耗させようとしてます。一番の不確定要素だし皇帝関連のものがあると狙ってます。
忘れてるかもしれないのでもう一度載せておきます。
『100%の人間』リコ・ルドルフ(故)
『排熱伝導長』ペア・シューラー(故予定)
『暗部王』フランツ・ミゴー(故内定)
『陽より速し』アルノルト・ハールマン(故)
『狂団教祖』シルヴェール・サルティーヌ(故予定)




