リトゥン・イン・ザ・スター
文化の衰退には条件がある、だが、間違いなく言えるのは上流階級が関わると崩れるという事だ。特に似非者であれば酷い結果になる。
コブラ効果という言葉がある、端的に言えば経済活動において政治的意図と政策は必ずしも一致しない・・・つまり目的通りにならないという事だ。
文化は森羅万象、一切合切、古今東西、津々浦々を集めた千差万別の偶然。それを有象無象のものと侮り、金稼ぎの手段にした瞬間に崩れ始める。
古い上流階級であればそれが悲惨な結果にしかならないとノータッチでいるが・・・。
ポリティカル・コレクトネス運動で何故視聴者が離れる様な真似をしても続行するか、それは株式という手法が問題だからだ。
現在社会は上下の格差が酷い、世界の富の大半は一部だけが握っている。人と人の間で速さに百倍差がある・・・可能性はあるが・・・そこまで差はないと考えるのが常識だ。だが、金銭は違う。金銭は数百倍の差が常識の様に存在する。99.9%の視聴者よりも、0.1%の金持ちから株を得られれば会社は持続出来る。それで活動家だのと自称名誉を付与して税金を引き出してしまえば間接的に視聴させているも同然。似非上流階級が文化を壊す結果になる。
視聴者の為に。
そんな目的を忘れた文化なんてゴミだ。
だから、自分はアニメスタジオを組織し・・・。
気付いた頃には、炎にスタジオは沈んでいた。
目を覚ました時に、素朴な美女に会った。それも自分が眠ってから一万三千年経過したらしい。放射能が弱まり、活動も楽になったとか。
彼女は良いものを食って、良いものを選び、良いものと関わった。平凡から要素を伸ばしただけの女。
彼女は工廠公と名乗っていた。
もう1人の男、アルトリウスは盗賊狩りの返り血で酷く臭かった・・・自分がPTSDを起こした時・・・。
彼は瓶の水を浴びて、血を払った。傷一つ無く、そして完璧な肉体をしていたのを覚えている。
カートゥーンを生々しく、凛々しく、燦々とさせた様なその一秒が忘れられない。赤が消える様を一度見ただけでトラウマは全て消え去った。
わざとやったのか、そうも思っていた。彼の行動は後でもどういうものか分かっているかのように儀式的に解決をする・・・文化人類学の頂点に立つ様な人間だった。
「前に進めたなら、明日も前に進め。越えていく人間は美しいものだ。」
そう聞いて自分はアニメスタジオを新たに作るべく忙しくしたが・・・。
「絵が・・・描けない。」
失われた。絵の実力が失われた。
「私の絵を描くと良い。」
工廠公はそう言った。
自分は描き終えた時、実力が戻っていると考えた頃に、一度何も見ずに描いたら当然の様に彼女が居た。
自分は彼女に惚れていたと気付いた。
そこから百年程度、アニメーションを行う人材は居らず、一番近いのは着ぐるみの人形劇、目を隠していないのが駄作に見える原因だろうか、酷いものだった。
「・・・アニメーションはやはり必要だ。」
「ん?じゃあお金出そうか?」
「いや、もう絵は描ける、頑張って金を稼ぐさ。」
工廠公は確かに公爵の中で随一の金持ち、玉座守に匹敵する影響力がある。
描き続けた、それは苦ではなかった。変わり果てた人類は、小さくて可愛らしい者が多かった。身長が70~210cmもあったが、地球の状況が変わったのでメートル法はあまり使っていないらしい。一応ポンド・ヤード法で我慢しているが、それも難しいそうだ。人体が一番頼りになるのに人体がこのザマだ。
一日に何枚も絵を描き、それをじっと見る子供もいる居た、偶に格好付けてインクを岸辺露伴の様にぶち撒けてしまう、子供の顔面に吹き付けない分良いが、手塚治虫の様な張り付いた描き方は苦手である。あの食い入る様な描き方、憧れではある。
私はソユーズムリトフィルム所属の人間であった、風刺アニメはお手の物だが、風刺はあまり楽しくない。大人な笑いは知識ありき、それは突き詰めれば言語上のものになってしまう。
自分がすべきは絵本を突き詰めたアニメーションだ、絵画と僅かな説明をする様に、そのアニメーションと向き合うべきだ。
考えさせるものに風刺なんてズルはしない、自分は兎に角描き続ける。そしてその中で僅かに書けば満足だ、嘲笑って解決もせずに終わらせる様な人間はこの世界で生きていけない。
こうしてアニメスタジオは完成した・・・だが。
唯一かつ頂点に立った時、アニメスタジオは瓦解した。思想は崩れ始めたのだ。
「工廠公が燃やしたと仮定するとアリバイが何一つ見つからない。株も一番有していたし、保険も掛けていた。燃えた時に一番儲かるのはあの人だった。」
結論から言えば、原因は暗部王関連。諜報組織であると知っていた人間の仕業だ。だが、彼自身はそれに関与しておらず、クリエイターとして打ち込む事で諜報組織である事実を否定する要員、いわば拷問用の人員である。生贄とも言う。
「彼女は違うって、精神から信じた、そうでなければ死ぬと言った。」
それを知らなかったのだ、そして、今後知る事もない。彼はクリエイターとして完璧だった、能力ではなく、精神の話だ。作り出す事と、そして無尽蔵の体力を引き出す未熟さがあった。その未熟が仇になった。
「・・・でも、事件に関して調査した資料と記録が大量にあった。自分に知られない様に。」
彼女は正しい人間だった、悪ではなかった。
自分を恨めという風に黙り、語らなかった。
執念で動き、怒りで描く。風刺をさせる様に追い詰める。自分はこれが辿るべき道であるかの様に示された。
どうして、どうしてだ。彼女は何故そこで自分の首を絞めながら最適解を採ってしまうのだ。
それはひとえに貴方を信用していたからだ、それに気付く事は無かった。
以上がミハイルという人物の過去で、ウィリー・スタジオが燃えた経緯である。
実質的に懐かしい臭いがする。以前よりも女臭いという一点だけが違う。
「んー!コウキー!会いたかったぜー!久々際っ際よ本当に。」
「(察の方じゃないのは言ってなかったな。)」
自分は無関係だが、利用出来る限りを利用しよう。であれば話すべきではない。思考からも排除する。
「記憶を分割した。精神構造が単純だから分割されてもあまり影響がないんだよ。・・・探すのにはかなり苦労した。太平洋だった筈だが渡り切るのに最大距離の倍以上泳いだ気がする。オーバーターニング循環最高!とでも言っておくか。」
「(常人は泳がねぇんだそんな所。)」
「・・・ま、何か困ったら私に言ってくれ。やる事は無いからお休みにするつもりだ。」
今戦ったら押し倒せる、その位には弱い。元から体力は桁外れにあったが、耐久力自体は脆い、そんな気がしていた。
「身体は頑張って前のに似る様に努力した。強さは全然だ。ほら、あるだろ?ボスが味方になると弱くなるパターン。例外なんてミツ〇タノヅチ位なんだわ。」
「通常攻撃が全体攻撃で何体でも組み込める元ボスは好きですか?って事だな。」
雑にお茶を作る、ベスの冷却水であるという事は黙っておき、渡す。
「セキュリティはどうやって破った?」
「そこまで細かいのは張ってなかったから地下水路から行った。」
「冷却水プールか。」
「CPUに三秒位停止信号を仕込んで送れば問題無い、後半からは休止状態だった。」
「・・・確かに問題無いな、弱点だったか。」
「冷却水は命綱だからな、止めるにも止められんからセキュリティとして上手く機能させれないだろう?」
「ま、そうか。一応ラジコンカメラでも張らせておくか。」
そこを通る場合固定砲台を越えなければいけない、まぁその時点で無理がある。手の打ちようがない、一応強制開通様にベスが標準の一つと言っていたが、案外ここも脆い。
数時間後、旧太平洋。ポイント・ネモに到達。
核汚染した太平洋を泳いでる時点でマトモではない。サモア戦争以来島一つ残っちゃいない場所だ。ニュージーランドは一部陥没、ハワイは半壊、日本は七割消滅。救いなんてある訳がない。
それをどうも思わずに突っ切るオーバースペックが世界にはいるのだ。
「原子力潜水艦・・・といっても武装は魚雷のみだ。ヘリポートとヘリ、小型潜水艇はある。」
「機銃があるキャンピングカーって感じだな、イマイチ慣れないが。」
「事故っても誰も居ないから問題無い。」
「取り敢えず一回素潜りすっか。」
潜水艦はベスが簡単にしてくれている。AT潜水艦という事だ。排水量で見れば大した事はないが、10人位なら生活可能である。給料と報酬が全部消えたが。
「はいピンポンツリースポンジ。」
「気軽に水深3000mまで行くな。」
思ったより弱くはなっていない、が、戦闘用ではない。神格と契約したか、強さを差し出したか。それに関して聞いたら、答えた。
「ああ、その通りだ、神格に強さは明け渡した。」
以前の様に心は読んでこない、それが妙だったが・・・。
「アレは自分の物であれば有効、二回目三回目の人間には適用されないがパブロとして育てた技能は記憶コピって全部差し出した。群れる渇望の成長分しか残ってない。音系は大体失われた。」
「最低限出来るって感じか。」
「最低限って?」
「神崎銓の救出、今の所ずっと探していたが見当たらないんだよ。・・・だから手を借りたい。」
自分は取り敢えず悲しみが原因であるかのように振る舞うが、不安が本質である。そしてついでに頼む。
「魚雷に詰めるからソナー役やってくれ。」
「もっとマシな案はねぇのか?」
「浪漫と効率を求めた結果だ。」
「分かったよ。」
倉庫の箱から素潜り用のグッズを幾つか取り出す。リブリーザー、ライト、そして筒状の何か。
「マスキングテープか?それ。」
「うん?ああ、これは時計だ。」
「嘘だろ?超薄っぺらいな。」
薄いテープを切って、回しきってからはめ込む。
「テープみたいに切って、貼って使う。有機ELディスプレイを活用して実際に機能する。ワイヤレス充電対応でここのバンドが書かれた下にバッテリーと基盤がある。」
「すげぇな・・・お前が作ったのか?」
「こういうのはベスの領分さ。完全防水だからそれを使って指示する。」
カット箇所で切り、余分な箇所を繋ぎ合わせる。
「ストレス値がどっちも高い、しかも急激に上がった。」
「どうかしたか?」
「前例があるというか・・・。」
吐き気が起きた、それは以前にはなかったものだ。嘔吐自体は起こさなかったが、段々と悪化する。
「ジョーの奴と同じだ、しかも強化されている。」
深海だからというのもあるが、これは異様だ。
「じゃあ、コイツを持っていけ、ストレス軽減の音楽だ、チューニングはしてある。」
「チューニングラ・・・。」
「いや『新世界より』だな。そしてそれはチューリングだ。」
彼等は銓を探し、生川という謎を解き明かす。そうだ、神崎銓は実在の人物、同条件、同位相とか・・・取り敢えず説明出来る理屈が欲しい。神格であるというのが原因だろうが・・・神崎家に何かがあったら大事になる。銓以外は世界の脅威となりうる兵器を有している。そういう事が無ければいいが・・・取り敢えずは約束を守るという目的がある。
カンは戦略的には強いが戦術的には甘い、コウキの教えこそあれ、銃創は五箇所、致命傷は無いが続投は不可になり掛けた。エリニューエスのサポートがなければ離脱は確定していた。
「壁尻で遊ぶな。」
「もうちょっと強めに・・・。」
闘は無傷、衣服にだけダメージを入れる器用な事をしていた。銃創を受けてほぼ破れていない向こう側のコウキを見ているとどれだけ戦ったのかが目に見えて分かる。
「今の所は冗談で済んでいるが野生動物の交尾は命懸けなんだ。」
「じゃあ助けてよ。」
「メタフィクション的にシリアスパート以外で漏らす事はあるだろうけど心配するな。」
恐らく戦術にハニートラップを組み込んでいる、外見自体はコウキと遜色無いが・・・彼も眼光さえなければ割と女っぽい所がある。髪の長さも違う、そして普段の顔も違う。もう片方は本当に目を閉じない、一分に一度見る程度だ。目が死んで蘇った色をしている。吸光率が怪しい黒色なのだ。
一方こっちはめっちゃキラキラしてる、ガラス玉を割って乱反射させて貫通も反射もして本来の光量を越える程眩しい。
「あっちはどうしたの?」
「アスタルトの所で帝都に向かうべきかどうかの確認をしている。」
「そっちに行くか、出して。」
「知らん、先ずどうやって挟まってんだ。」
「全力で叫べば向こうが来るよ?」
「・・・おい待て。」
「大丈夫、どっちも蹴られる。」
「あれ実弾より痛いせいで五発食らってもピンピンしてんだぞおい。」
「蹴りは基本中国拳法由来、それを気絶特化にしたせいでショック死させてるからね。」
「こっちの齧っただけの技術は通用しない程度に極まってるんだよな、彼奴。」
「活用して新技作ったり自分にフィットさせているからね。」
板をへし折り、外れて逃れる。
「よし、外せた。」
「こんな酷い罠があるもんなんだね。」
「暗部王だろうな、壁尻好きってバラしとくか。」
「いいね!」
今は問答無用で合流、帝都に向かう・・・予定だったが、帝都を経由してある場所に行っていたのでそちらに合流する。
「・・・暗部王は倒せるのか?」
「無理矢理でも戦うつもりさ。」
「・・・そうだな。」
自分は何が不安なのか分かりかねた、不安は拭っただろう、恐れは不必要だろう。・・・彼はコウキとは違うのだから。
帝都より東、それもかなり遠い。自分の領土からも遠い。小国一個分のスペースがそれぞれ存在している。アスタルトの幽閉地である。
悪を暴く、アルトリウスも懸念はしていた事だ。
「俺は頭脳明晰ではない、一万四千年以上生きた所で、賢いという訳じゃない。」
驚くべき事に、災害は一割失われた。自分の時は三十分以上掛かったのに三十分で既に十人は重ねて放置されている。
「だから隠れてやってる連中も多いだろうな。」
今は自分自身を縫い付け、銃創と体内の弾丸を取り出す。
「第二波が来るからそれまでは交代で抑えておく、ローテーションで割と安定はしている。公爵の位置は基本的にバラしていないが、王位再選の中立宣言から居ないと踏んだな。」
「・・・弾丸だ、無煙火薬の奴。」
「薬剤の臭いがするな、ヘロイン臭か?」
『・・・そうなの?』
「分からんが・・・その手の耐性はある。どんな薬でも使えるものを使ったりした身だからな。」
『(クローンにも引き継がれるってどれだけ使ったのさ。)』
「あの時の影響はそれもあったか、本当に手段を問わねぇ奴だな。」
薬物に溺れる・・・継承の苦痛から脱却する一つの手段だ。合法化している箇所も多く、記憶の上限に到達する事も多ければ、使命を達成出来ずに死ぬ時は苦痛に塗れている。自分は些細な物は片付けたが、重大なものは残してある。なんだかんだ言って災害関係は処理し終えたが、内臓の改造をしても消えないのが厄介だ。血は流石に抜けない。
「こっちの心配はするな、奴が確認する手段を持たない以上抑えれば長引いてるフリが出来る。」
「部下を使って情報だけ得そうなもんだが・・・。」
「災害の中に余っ程危険な奴が混ざっているか、だな。」
災害には認知するだけでも危険なものがある、昔の公爵や王位が命を捨てて倒したケースもあれば、アルトリウスの直感で偶然撃ち抜かれた奴もいる。
「戻ったぞ陛下。」
「エリニューエスには接触したか。」
「ああ、勿論。」
カンは諸用で必要・・・というよりは居た方が良いかもしれないというのと、銃創を半端に治したせいでエリニューエスが失敗する可能性を示した。
自分はアスタルトの部屋に向かう、一年もすれば仲は良くなる、元からコミュニケーションを放棄している事が多い彼女だが、情報を減らしてからは表情豊かになっている。
「あははは!ナニソレ!!」
「良いでしょ?皇帝のハメ撮り。」
「サイコー!じゃ、これを渡しておくわね。」
と、変なやり取りが多い。
「末端から染まってる、王は多少ダメだろうけど、除外出来るわ。」
暗部王の残党は絶対に残る、数は不明だが対策しない訳にはいかない。
「ウィリー・スタジオ、スタジオ系会社の頂点。関連会社含めて調査なさい。」
と言った、これはどちらかと言えば情報を握っているからというもので敵対組織ではなさそうだ。彼女の選択はそうらしい。或いは情報は大して得られないと暗に示しているか。
「あとヘカテーの母は調査不可だ。私だと彼女の存在自体は分かるが観測は出来ない・・・現実から除外されてる上に物質としての動きがないからな。」
これは以前の取引だ、前回対価は払ったが詳細を調べると言ったものの、それでも情報が手に入らなかった。現在存在する人間に絞られる筈だが、データ不明の子供は居ない。流産だったらカウントされる。異質なものであれば簡単に見つかる筈だ。
「あと私は間違いなく違う、子を産めないからな。股を開く時は快楽目当てだけだ。」
「やだ。」
「私も竿姉妹や竿母子なんてお断りだ。」
自分にだって好みはある、少なくともお前じゃないと言える。そしてついで感覚で愚痴られる。
「緩くなったよな、貞操観念。継承もあるけど頭のおかしい男女が増えたよな。」
それは事実だろう、継承が引き起こす繁殖行為と他生物が混ざったが故に僅かでも繁殖の遺伝子は変わる。・・・売春はそう考えると繁殖抑制の象徴にも思える。娼婦という金銭を対価にすることで繁殖行為以外に時間を割かせる仕事、そうなるまいと下賎な職と蔑み侮辱し、女は悪足掻きと夢を見る。
自分にはそれが無い、構造的にしてしまうのに、そこに目的意識を加えた、より酷い結果になったのだ。
「・・・ま、そういう事だバカ二人。」
「え?」
「うぇ?」
「自覚はしとけよお前らなぁ。」
一瞬気を逸らして戻った所で、もう一度仕掛ける。
「あ・・・ドレスが外れ・・・。」
また引っ掛かった彼等に目をやる。
「・・・頭のおかしいバカ二人、こんな罠に引っ掛かるなよ単純だな。」
「いや全然気にしてないから。」
「期待して損したぞアっちゃん。」
「おいコウキ・・・いや最初からそんな感じだわ。」
だが、これは別の意味も含んでいる。
「・・・そうでもしなきゃ生きていけない、か。」
才能や努力、それ以上に打ち続けた精神がある。生まれの不幸を才能に変えた・・・下手すれば誕生する事すら有り得ない英雄だ。強いて言うならカルナ位だ。
一旦その与太話は止め、暗部王とどう戦うか、どう処理するか。戦力は余っている・・・一応。そして避難は済んだ、更に災害がいる以上迂闊に手を出せない。
最後のチャンス、そうなると踏んで全力でベットする。勝てなければ帝国は終わる。
今は信じるしかない、それだけだ。
「ハルノブと魔女を動員すれば良い。魔女は裏方中心で回せ。」
認知に関する阻害を的確に出来る彼女達であれば容易だ、そして力の関係上封じていた彼を起こす。
「ロタールは今危険だ・・・暫くは寒冷地にいた方が良い。そしてこの時に限って彼を使わない手はない。」
毒、病が彼の主軸。無意識下に発してしまう事もある・・・季節次第で大きく変わる。今は相性が悪く、使いにくい。
「コウキ、お前が使え。何か考えがあるんだろう?」
それで、彼が無力化出来る環境に向かい、そこで任務を果たす。・・・とはいっても広域に影響が及びないだけで近距離であれば有効、下手すれば自分も死ぬ。
「暗部王、仮にも王だ。帝国の支配を受けているとはいえ同等の権利を与えられた王だった。」
公爵と実力面では同等の人間、嘗ての中部王であり、その力は決して弱くない。自分は数で上回るべき、そう判断した。そうすれば取り敢えずは勝てる。残党が混ざる懸念を減らし、王を孤立させる。
「アレは追放された存在だが、向こうで味方を付け・・・恐らく、お前が言った通り災害の可能性がある。背後にスタンリーとやらが絡んでいるんだろう?」
残党以上の厄介者、それが災害。想定外ではない・・・備えてはいる。だが、長期戦になれば人は住めなくなる。
「俺等は別の場所、別の時間で戦うが、敵は同じで、目的も同じだ。だから折れるな、曲げるな。その心意気に応える準備は出来ている。」
自分は優に相談を持ちかけるつもりでいる、災害の後処理が出来ない可能性を否定する強さがある人間を呼ぶべきだと。パブロを探すつもりだが、代替出来る人間でも良いと補足して、探してもらった。
パブロは神崎銓の回収、此方で暗部王の暗殺か戦闘を行う・・・予定だったが、災害を倒すのを優先する。一応コウキという事で参入する。作戦変更は決定的だ。その手自体は考えている。
「寄り道だ、先にそっちでやっててくれ。モーターボート借りて察に接触する。」
『計画通りに。』
「ああ、幸運を祈る。」
『そっちの方が心配ですから、ローカル・ベスはちゃんと展開してくださいよ?』
「分かっているさ。」
エリニューエスに頼み全身を修復、兵站としては後二度が限度と言われ、それも三割が消し飛ばされた前提。四肢の内三本持ってかれたらほぼ死だ。いや普通そうだが、耐えようと思えば割と耐えれる。青酸カリも含んで暫くは死なない。死ぬ時は多分何人か道連れになっている。
「ベスの提案で一人追加で狙うべき人間が居ると言われた。パブロは昔の実力が出せないから空城には良いが期待は出来ない。実力を取り戻すまでは出せない。」
「・・・ろくでもない予感はするが聞いておくか。」
「ああ、分かった。じゃあ言おう。マノン=デュ=バリーを倒す、恐らく最適解はそれだ。」
世界最強、それは間違いなくアルトリウスだ。だが、それに並ばずとも近い敵はいる。その一人が彼女だ。
「・・・こっちは帝都の事案を闘と済ませる。その間にケリを着けてこい。厄介な相手がいるが逆に弱点でもある。」
「おうよ。」
彼女は勝ち目がない。それはあくまで殺し合いに限った話。殺し合いでなければ勝ち目はある。
「マノンだけを表に出してパブロの攻撃に類似した痕跡を残しておく。」
「空城は実施か。」
「そっちの方が説得力があるんだよ。」
「工作は任せた、一応伝えてはおく。」
「・・・一応お前自身のユニークな戦い方も確立しておけ、そうすれば空城が補強される。」
「前言ったアレがある。有効打になるかは分からないが妨害としては優秀な奴がな。」
「おうよ、じゃあ信じているぞ。」
狂の方はどうなんだと聞くと、モニターを出して確認する。信用されてるとは思えない位に遠回しな確認方法を採られている。浮気調査だろうか。
「狂は今別行動中、無意識に関してはアイツがプロフェッショナルだ、まぁ、実験中って事さ。」
狂はつくづく分からない・・・が、全員それには同意している。かなりの人数を詰めてあるというのもあるが・・・。
「私は向かってくる奴から迎撃しよう。認知阻害機能も使っている。・・・そう考えるとダガンって切り札として有能だよな。」
「攻撃性能でロタールに並ぶ女だぞ。絡め手無しの出力勝負、範囲こそ負けるが一点突破で一番強い奴だ。」
今回立ち向かうのは純粋なスペックでロタールに、それに加えて神罰を行使するという前情報まで貰った・・・つまり、下手すれば今から死にうる。理不尽な一撃も有り得る、その脅威に立ち向かうべく、顔を叩く。
「幸運を祈る。」
「ああ、生きて帰れよ。」
そう言い合い、別れる。カンとロタール、ローガンと向こうで合流予定だ、早く向かおう。
その山の向こう、雪の積もる大地。もう寒さは感じない程度に時間は経過した。氷を踏み締める。
太陽フレアが地球に降り、オーロラが起きる。
それだけではなかった、水分が電磁波で電気分解しギリギリの形になる。
異常な空間がそこにはある、そこは全て神秘に歪められている。
神格という紛い物ではない正真正銘の神と対峙する事になるのだ。雪山を彩るその光は・・・今にも消え入りそうな筈だった。天幕の様に降りるその先に、一人の圧倒的な個が存在する。誰か居るのにも関わらず、その存在すら掻き消す。
氷面に照らされる無情な顔は、僅かにズレて映る。
視界を真上に上げれば、目を強く細めた強敵が立っている。
ティアマトに近いが・・・別段豊満という印象は受けない。アスリートとしての体型で、しかも完成されている。肩はきっと鬼の形相をし、しかしコンパクト、必要な分以外は絞ってある。
視神経を絞り出し、標的を定め、引き金を確かに引いた。対話は不要、決定打を打ち込むまで戦う。
初撃は向こうから、受け止めて此方も返した。
受け止めた筈だが、片腕が麻痺した。ロタールと同等というのも分かる、それ程に高威力な一撃なのだ。骨折に至る前に一撃の横槍が入り、双方向から攻め込む。
それはいとも容易く振り払われ・・・そして、咆哮の様に告げた。
「何者か、神域に立ち入れる身分ではなかろう。」
「不法占拠を神域呼ばわりか?まるで聖地だな!」
「ほざけ、貴様の様な糞餓鬼は最初からお呼びでないわ!」
「駄目そうだな、酒入ったカオルコよりも会話が通じねぇ。」
脚が互いにぶつかった、会話途中から動いていたのだ。多分1秒以上衝突したら砕ける、威力があるというよりは、すぐに調節しなければいけない・・・周波数が違う上、周波数の影響も大きい。ジュデッカで無理矢理調整されているが・・・あの攻撃はこれも混じっているのかと思う。
「コウキ!代われ!」
ロタールが割り込んだ、全ての攻撃は防がれていたが、連続で攻撃を叩き込めていた。その防御を嘲笑う様に、触れた箇所から段々と染まっていく。紫と青、赤の紋様が広まる。
「『神罰執行』」
その時、知りうる全ては歪んだ。
頭上からの雷を倒れ込む事で心臓から遠ざけたものの酷い火傷が入る。ロタールはそれを剣で受け止め、足を着けずに剣を手放す。
4億ボルトは下らない、桁違いの落雷。オーロラが酷く歪む、それ程にこの目前の女は影響力がある。
顔も歪み掛けたが、それでこそ挑み甲斐があるというものだ。そう言って優衣を引き抜いた。
あと六か七話で暗部王君にはくたばって貰います。
パブロの「心や考えを周波数から読む」は簡単に言えばCPUの分析なのでそれ以外の箇所からアプローチすれば問題無いという抜け穴がある。つまりサイボーグ化で抑えれる。
パブロ自体は物理学や生物学を理解していないので量子脳理論を教えると洗脳に転用出来る様になります。
それはそれとして暫くは海底に放り出されるパブロちゃんをお楽しみください。
コウキは猥談割と聞いてくれるタイプです。交流の為に共感し易い話だったからというのはある。人によってかなり話の内容変えるので満遍なく聞いてくれる。継承とはそういうものです。
アルトリウスを『文化人類学の頂点』って過去にも似たフレーズ使ってるけど元々は私が言われた奴で、『確率論でギリ保証されてる奴』って奴です。




