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継承物語  作者: 伊阪 証
暗部王動乱

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リュファス

現在アイデアの供給過多により進行が遅いです。あと就活あるし。

いつも通り明日明後日と連続投稿予定。これ含めて四話は予約投稿してあります。


一年は彼を更なる高みへ導いた。

ベルトで固定、ズボンで隠す。

青のカッターシャツの上にベルトを繋げ、ナイフと銃を隠す。ネクタイに金属棒を隠し、もしもの場合に備えて取り出せる様に確認する。赤と橙の斜線が陽の光に沿っている。

上着を着終え、王の紋章をメイドから受け取る。

戸籍が無かった自分には、新鮮で面白い日常だ。

忍という字の美しさに勝る字はない。

何故そうなるか。

刃と心、納得出来ない。

「帰って来たか。」

「存外、無事だった。」

「いやぁ、大変だったねぇ。」

「取り敢えず言われた通り整備はしておいた。」

中部王、嘗ての暗部王の席である。

王とは公よりは信用されていない者の席、逆に覆い隠すにはうってつけ。皇帝という分かり易い標的を置いておく事で狙いの方向を戸惑わせる。

アルトリウス無しで二千年は国を運営出来た実績がある、それだけで十分だ。

部下は少ない、闘、クシナ、カオルコ、カン、そこのメイド位だ。人材登用もしていない。

「化粧は左右非対称の方が良い、もっと言うならアニメとかの全身立ち絵を左右反転させると顕著に出てくる。」

「そーなんだ。」

櫛奈は幼い、メイドとかなり相性が良い。それを片目に人材登用の資金を探す。

「・・・港湾倉庫。」

暗部王の有する資金源、胴元としての儲けの一部。

港湾倉庫は銀行に並び強盗の狙い目となる。時に違法な物も紛れ、調査が続行されない場合もある。

「前ぶっ飛ばした所の儲けはそこそこだがこの事件の影響は大きい。金銭の中から出てきた王だからな。第一印象の暴力だ。」

どれもこれも一つの目的に行き着く。

玉座再選、端的に言えば公認クーデター。

・・・王への洗礼であり、下克上のチャンスである。

コウキは出自も功績も偏りや不明点が多く、ボコったのが過去で死んだから不明とか知名度低いとか、比較するにも難しい。

名前は本来カイザーシュラハト、いわば皇帝の戦いであったが王位にも適用された為変更された。

「・・・というのは建前だ。洗礼は逆だ、反骨精神に火がついた奴を処分か降伏させ忠誠心を確かめる。戦いながら交渉して人員を手に入れるのさ。」

皇帝側からすれば、王位の中に気に食わない人材が居ればそれを殺す為の刺客を放てば良い。

「カンはどうする?」

「再選に興味は無いが一応敵側として名前は残しておく。」

「カンの方が知名度は高いからな、納得。」

「単純に戦ってみたいってのもある。」

「望む所だ、勝てるまでやり合おうとも。」

帝国に存在する諸問題はそれだけで済まされない。前々からの問題があった。

「公爵の空席だ、忠誠心と実力で後者を優先、どちらもあれば良い。・・・それを確保出来るかどうかで王の素質を見極める。」

アルトリウスからの言伝、議会の総意。新たな公爵を引き入れた場合、認めるとの事だ。終了宣言を前倒しに出来る保険でもある。敵が居なくなるまで、或いは一定以上の危険度を示した国及び同盟が相手が宣戦布告を行った場合に停止する。

保険に関して整理をしよう。

爵位格上げ、特殊な爵位を含めて最終的にはこうなる。

粛清剣、壮麗公、蒼髪公、不能公、遠征公、隻腕公、工廠公、勇猛公、月下公、鋼鉄公、玉座守、知事長、立法院、夢幻公、空席。

今回で事実上アルトリウス軍が解散した。そして分割し配属された。王国という未知の技術を用いていた脅威こそあったが、今はそれが無い。

闘とカンに向かって言う。

「で、俺の作戦だ。」

察の作戦、今回得た縁を使う。

「公爵にパブロ捩じ込んでみようと思う。」

「・・・なるほどね。」

アルトリウスの提案、逆に言えばアルトリウスだけを納得させれば良い。恐らく一瞬接触した女、マノンも可能性こそあれ、難しい。

「パブロという人物はそんな奴なのか。」

カンは知らなかった、犯罪者ではないが即死ギリギリで生き延び、冷凍保存されてなんとか生存出来た・・・生前は普通の人間であったが訓練はしてある、ある程度戦う事が出来るのだ。・・・この国の上の方なので、かなり上澄みの立場である。

経営やインフラが本業、建築関係の扱いが上手い。地震は少ないが木造建築の物珍しさで発注する者、遺跡の調査等を行っている。

・・・というのもこの大陸は嘗てのユーラシアからアフリカ北部、セイロン島や日本を海無しで結んだサイズだ。メルカトル図法の方が近いまである。アルトリウスの救出後、金属が沈み、軽い物は上に、そしてその際に遺跡の断片が上に来る。知識アリでも分析は絶望的。歴史は覚えている限りしか受け継げないのだ。

彼の役目、彼の目的。その根本は自分の境遇を知る為、そして今後同じ事を起こさない様に語り継ぐ。

王になるつもりは無かったが、実力はあった。・・・そこで自分は王を委ねたのだ。

だがやはり、本心ではないが一度決めた為に叶えたいとも思うのだ。それに感化される程度の事はあったのだから。

「一つ特殊なのは飛び地である点、異例の状態だ。・・・此方の弱みだが、異議は唱えられない。相手側は文句を言うだろう。」

公爵が中立である理由、それは監視だ。侵攻の犠牲を補填する、そして逃亡から集合を繰り返し、敵は強化される。良くも悪くも、核は成功であった。それ以降に逃げる選択に意味を持たせなかったのだ。

「・・・不利な状況でどう手を打つか。暗部王を狙うにはどうすべきか。」

戦力確保、及び拡充。帝国において、思想とは住む場所、それぞれの国に経営方式があり、国民は自らの土地の思想を変えるのではなく移住して変える事が出来る。

「(ハルノブは行使するタイミングじゃない。だが、暗部王の強さは未知数。少なくとも戦い続けている時点で上から数えれる程度ではある。)」

アルトリウス含めて大半が交戦していない、本人に対してはゼロ、ゲリラ戦術を行使する傾向がある。

「中立宣言は逆に言えば干渉出来ない、どれだけ勢力を乱してもいい。同時に意表を突いてみようと思う。」

コウキの答えはそれ、勢力を増やし、帝国内でのトラブルが起きようと知った事ではない。もしもの場合はアルトリウスが何とかしてくれる。寧ろこれ前提で話を提示しているとも考えられる。

彼自体、暗部王の勢力を測りかねている。狂団は幹部にすら手の内を明かさない、元々狂祖も王位の人間、拷問と薬物を取り入れ、戦争を有利に進めた。三人の王に追放された。しかし支持は未だ強く、復讐の意も込めて拷問は続けられた。

逆行は出来ない、復讐の味を世界中に広めた大戦犯。

・・・勢力と被害で強さを評価するなら、アルトリウス以上のスコアを有している。

殺さねばならない、自分は王として最も動きやすい立場、信頼によって掲げられた存在。

「疲れているなら茶はどうでしょう。安物ですけど。」

「大丈夫だ、普段はそこいらの川を枯らしていた。」

「魚取り放題だな。」

リュファスの茶々が心に染みる。案外自分は疲れている、身体はまだしも、精神的に厳しい。決別が出来る程心は育っていない。それが自分の奥底にある淀みだ。

「コカインとか突っ込むなよ、稀に屋台で混ぜてたりするが推奨はしていない。」

「禁止はされていないんだ。」

「鉱山はそれ無しに出来ないから止められないのさ。南米の銀山はそれで発掘が捗った位だ。」

リュファスの方を向くと何となく予想して先回りされた。

「主人が主人とはいえ私の培われた手練手管であれば組み伏せる自信がありますので。」

「誰だコイツ雇ったの。」

方向性は合っているが数値が合っていない。犯罪組織から金を下ろしていた時に手に入れた従業員だ、借金だかなんだか知らないが、好意自体は持っているのだろう。

「メイド服ってどんなのが好み?」

「1930年代の話なんだが・・・一時期ボンテージ・ファッションというものがあった。戦後で皆疲れていたのだろう。そこから派生したフレンチメイド、ミニスカな感じのメイド服が好きだな。」

「へぇ、意外。」

「健全な身体を見ると生きた甲斐があったなって思う。」

「(知ってるか知らないかで言葉の重みが大分違う・・・。)」

「あと優衣によく着せてた。初音は嫌々だったが優衣が着たと聞いたら即座に着た。」

「きっしょ。」

「聞いたのはお前だ。」

茶を飲み干し、次のを貰おうとするが無いと断言された。

「コウキって思っていたよりも愉快な奴だよな。」

「まぁそうでもしなきゃやってられないからな。」

過去話の交換は必須だ、自分にとってはつまらないが、カンであれば知識の提供に対しそれなりの策を練って出すだろう。

「昔は何をしていたんだ?」

「・・・職業か。炭鉱業、農場が子供の頃だった。十代になってからは訪問販売、保険会社の営業、除隊されたが軍隊、生協組合、探偵事務所、傭兵、工業にいた。」

「探偵事務所は当時需要があったのか?」

「労働者側に潜入とかしていたよ、ソーシャルクラッキングみたいな仕事が多かった。」

飯を食い終え、リュファスにお盆ごと返し、上着を着直す。

「取り敢えず日課を済ます。調査結果を元に国内外の犯罪ネットワークを潰す。」

銃弾を込め、銃剣を入れた。

「追跡不可能、金額も上々。」

貸し出された部下から情報を掴み、エリニューエスは現在疲弊中の為使用せず。

「犯罪が支えている市場? 不要だな。発展を伴わせるなら別の話だが、妄信的に経済を発展させた所で幸福にはなれない。」

犯罪ネットワークと国家運営は真逆の存在。他国家と見做せる程落ちてはいない。

「国も例外ではない、壊すと困るから寛容に見るが、見切りも考えている。」

カンも遅く準備し、バッジを揃える。外套をリュファスから手渡され、これで良いか確認される。

「似合っているかどうかは分からないが・・・どうだ?ジョジョっぽかったらやめておく。」

「多分奇天烈なものであるとは分かるんでそんな事はないかと。」

「結構、何時もは大体袖辺りはもがれてるから予備の袖は用意してくれ。」

「次回から無い状態でお渡ししますね。」

「しまった、言わなきゃ良かった。」

それはそれとして話を戻す。自分の狙いは金、そして治安である。その為にやたらめったら壊すのではなく、徐々に壊しつつ、何時でも破壊出来る耐性を作る。

「犯罪市場はリスキーな程価値が集まる。一個に対し数百個の柵があり、しかしそこから離反は出来ない。」

その金は徴税だ、インフラ整備に使わせてもらおう。インフラ整備に関しては莫大な金が掛かる。整備してしまえば輸出は容易い。だが、密輸ルートを絶やさない様に抑えておく必要がある。

「本命以外の実を切る、良い珈琲はそうして作られる。さぁさぁ、どうだろうか。」

王としては冷酷で狡猾こそ良い。自国以外であれば尚更。

凄く悪い顔をしたコウキはここでしか見られないな、と闘は笑っていた。



コウキはやはり強い、殺しを躊躇ったあの日の影は無い。彼自身、何故躊躇ったかをユウキに説明出来なかった。

「エマの武器設計図・・・か。」

彼女の設計図はかなり高く売れる。未発表であれば値段は芸術品に負けず劣らず。いや、彼等にとってはそれ以上の価値を持つ。

敵は粗方片付いた。金銭を持ち帰る方が苦労する。紙幣であればマシだが、宝石類の方が多く、体積的にも其方の方が楽。

「・・・私が処理をしておくよ。」

「工廠公、マネロンも任せた。」

「・・・王位再選があったな、0.1%は貰ってく。」

「そこまで多く欲しい訳じゃないから大丈夫だ。」

「エマの墓はちゃんと作っておきたいのさ。」

「・・・同感だ、付き合いが長い方に任せたよ。」

自分は本当に英雄かと問われたら、答えられる自信はない。自分は英雄としてあまりに残虐。

だが、それは語られない。英雄は偶像であり、信仰である。

切り捨てる、また切り捨てる。馬車に戻り、顔を下げる。

「疲れた。」

「同感だ。」

つまらない、その感情も僅かながら残っていた。

「ま、そう感じなくなるよりはマシだ。私はそう思っている。常時疲れっぱなしでそれすら出てこなくなったら地獄の始まり・・・って感じだ。」

「おばさんが言うと説得力ある。」

「お前また搾り取るぞ。」

「この国の皇帝と公爵には頭おかしいのしか居ないよな。」

「アルトリウスで平均化してるまである。」

多分一番の弱点は胃痛になりつつあるが局所的に無能な味方。自分を引き入れた理由が同僚にマトモなのが居ないからという説が出てきた。

「確かに日々治安が良くなっているが・・・移住数は多少増えた程度だな。」

「それに関しては仕方の無い所がある。別荘もカウントされるから富裕層ばかり、そして戦争で前線に出ている分引っ越す連中も少ない。・・・あとは・・・すぐに分かるさ。」

ふと、馬車に揺れながら彼女は言った。


長い長い午後、神代に起こされた奇跡。

眩む程に暑い昼と、悴む程に寒い夜。

矮小になった人、身に余る程広い世界。


「・・・昔、遺跡にそう書いてあった覚えがある。」

「『羅針盤の遺跡』だ、よく分からん施設だったな。ほぼ風化していた。」

カンが補足する。

「アニ〇イトカード使えそうだな。」

「それはらし〇ばんだ。同人誌が神話になったらどうすんだよ。」

「ギリシャ神話だって流れほぼ同人誌だろ。」

「そうだったわ。」

馬車で寝転んでいる・・・いや、よくそんな事が出来るなと思ったが馬上で寝た自分が言っていい言葉ではなかった。

「スローな生き方になっちまうのさ。どうしても。だからお前の一気に変えて動かす、それがどうも馴染まない。だが、面白いし新鮮だ。」

胸に指を向け、心臓の近くに触れられる。殺意ではなく、愛情によって寄せる。

「常に気を張らなきゃいけない環境だったからな。強迫観念みたいなものだ。」

「俺もそう長生きはしていない、足して20が精々だ。寿命は問題無いし数百年生きた奴等に精神で負けちゃいねぇよ。」

「君達もまだ若い、若いのにそれだけあれば十分さ。」

カンは言葉を暫く忘れていた。その言葉は自分にも劣る、破滅願望への道だ。いや、英雄は本質的にそうかもしれない。否定もできなかった。

「生き延びていたか、足を切って逃げられない様にはしたが、有益かもしれない。」

強い、つまり上の立場。そうでなくとも伝令の役割を持っている筈だ。郵便屋が武装している時代もあった、戦力としては上の方だろう。

拷問の前に、確かに彼はこう言った。

耳を疑ったが、理解出来ない訳では無い。俗に言う解釈不一致が起きただけだ。その言葉とは・・・。

「謝る事は誰にでも出来るものだからな。」

無慈悲、しかしその言葉は一筋縄ではいかないものだ。正しい様で正しくないとも言い難い。はっきり言えば『分からない』『理解出来ない』ものだ。



夜、城から城下町を見る。エマの狙撃銃の補正も行う。その時背後から声がした。

「主人、悩みであれば・・・この私に。」

「・・・すぐに見透かされるだろうから、言っておくか。」

勘が妙に良い奴は居る、思考として経験から値を取り出し、どうせ見抜かれる。復讐と悪意で満たされ、それによって歯車は動く。この世界は好きではない。そして、それと同様に思う事がある。

「私は櫛奈をそこまで好いてない。」

好意は無い、だが、愛情や使命感はある。それは根本にあるものと思考が合致した結果だ。

「洗脳で陥れ、彼女もまた私を洗脳する。アダムにイブが用意された様に・・・自分は用意され、無理に繋がれた関係しか作れない。」

リュファスは隣に座る、石の壁を、それぞれ反対方向に足を伸ばし、コウキは城壁下数十mを見下ろし、一歩進めば真っ逆さま、経験はあるから五点着地の準備は出来ている。ミュージカルの悪ノリよりはマシだろう。

「殺したという罪悪感で踏み留まっているが、今も犯したいとずっと思っている。自分はそれを許す事も、是とする事もない。」

思わされている、先ず犯す穴も無いというのに、理性を外した様な殺意が与えられる。

「俺は何時死ぬか分からない、田舎で閴暮らしてくれた方が俺は安堵出来るというもの。」

リュファスが向き直り、そして同じ方向に揃えられる。そして語る。

「王、私は貴方に出会えて良かったと思いますよ。」

その目には、英雄の姿が映っている。派手で美しく、僅かに泥臭い。知識と知恵も優れた存在。そして、何処か浅知恵で浅慮、それをものともしない、考え無しな優しさ。

「一族で縛られ続けた宿命、テクニックという支えは重要なものと知ってました。経済学者が巫山戯て私の経済効果や犯罪抑制効果を調査して唖然としました。」

世界の一分が彼により構成されていれば、この世界は平和を極めた異常な文明となったろう。彼の英雄性、その考え無しが生む被害は同類が少ない為に起きる仕方の無い事だ。

「・・・自分は大事だという重圧があった。自分が去った時、その街は壊れるという確信があった。」

ギャラクシー・ブルーの髪色、夜には馴染む。際立つ目の色に魅入られる。

「・・・私を華麗に助け出した貴方には惚れましたよ。」

カチューシャを自分の手で外し、恥ずかしいのか顔を胸板に埋めて言った。

「雇った事に若干怒りを示していた、冗談だとは分かっています。でも、言いたかったんでしょう?」

それは、意図あってのものだと見抜いて言った。

「私にも、自由であって欲しいと。」

『責任感か、その気持ちは分かる。重圧もある。』

『君はその重圧が作り出した、ダイヤモンドだ。』

『俺はダイヤモンドを塵にしたくない。』

彼はそう語っていた、それ以降、私は彼に仕える道を選んだ。

「私は自由になって、ここを選びました。お供させてくださいね・・・ご主人様。メイド、リュファス。誠心誠意お仕え致します。」

そう言い残し、唇に触れて引き返す。自分はそんな事を言うだろうか、と思い返したが覚えはある。心の中のリーツィアが怒りそうな案件だ。

「・・・素直なのは良い事だ。」

コウキはずっと疑問に思っていた事に気が付く。

「・・・リュファスって男性名じゃなかったか?」

闘はいつでもニコニコした状態で黙った儘である。

一度抓ったが痛そうな顔もせず、餅に匹敵する伸びを見せたので諦めて半端に離す。



アルトリウスにも動きがあった。氷風呂から出て、火傷を覆い隠し、部下の夫々が丁重に確認する。

「竜王とやらを狩りに行く。」

それがもし災害の種類であるなら、殺す理由には十分だ。産まぬ人間は変化しない分逆に信用出来る。新たな災害の可能性もある。

「前準備としてあの体積を一時間以内で殺せる兵器或いは武器が必要だ。」

眷属から採取した血によって生物としての種類、そこから推定する硬さを探る。

「アスタルトが知らないとすればフィルターに引っ掛かったり洗脳能力がある。」

工廠公に依頼し、一任する。これ以上は手出しする事は出来ないだろう。

「王位再選を利用された場合に十人の公爵を使用、他王を侵攻続行に割り当て、夜間の偽旗作戦で消耗させる。」

彼は己よりも強いであろう生命に容赦をしない。容赦をしている暇は無い。



ウィリー・スタジオについて、話を漸く戻そう。

正式名称:工廠公管轄思想操作機関・・・それがウィリー・スタジオである。アニメーションによる武器の使い方等が主な仕事だったがそこが表向き解体、その中で最大のものがここである。

もう一つの事実は、コウキにそれを明かしていないというものだ。

工廠公はどちらでも良いとした、彼も恐らくは信じ切っていない。

「・・・どう判断すべきか。」

実際は逆だ、彼女も諜報機関の制御を出来ている信じていない。狂団の一件もある。

試されている、その事実には気付いていた。

コウキは間違いなくヤバい、まるで二人いる様な行動力(実際二人以上いる)。謎のコネを大量に持っている。特に軍部外では秘匿としている魔女に交流がある点で見抜かれている可能性がある。

「・・・すまない、中部王陛下が来たらそっちで対応してくれ。厳しい人ではない、愉快な人だ。」

自分には分からない、洗いざらい吐いた方が良いのか、ああ、そっちの方がきっと楽だ。

そう数十分悩んでいる内に、壁越しの声が聞こえる。

『美の神だった存在とそれを現代風にする人間の話か・・・。』

『ファッションって衣服とポーズ以外使い回せるのもあるんですけど思想的に各地の衣服を取り入れる事で統率出来ているって文化になるんですよね。』

『ソ連製アニメみたいだな。困ったら新人育成に回して完成させれば良いし、予算的な問題は一応なさそうだな。』

『ファッション系の自由都市が陛下の所有物なのでお邪魔しますね。』

『案内兼護衛を送っておくよ。』

『それは助かります。あ、じゃあ皇帝陛下の春画を差し上げますね!』

『いらない』

『・・・なるほど?』

『いらない』

『若干挙動不審になってますけど?』

『もう見飽きた』『美人は三日で飽きる』『最初っから別に興味がある訳じゃない』『美しいけど可愛くない』『アルトリウスがどこからか手当を出してる』『ヘカテーが最近言うこと聞いてくれなくなった』

「・・・。」

意外と信用はしても良いかもしれない、踏み出そうとした時に違和感を理解した。

「・・・。」

ここは、彼にとっての癒しの場である。話してしまえばそこは仕事場。どちらでも良いというのは、自分が見抜き、自分が決めろという事だ。

俗だが、体験が奇妙な程度の人間。彼がそれなりに才能を持ち合わせていたから王として成立している。

倫理、それを理解しなければいけない。自分は思想を流布するクリエイター、それならば根底に倫理が必要だ。そうでなければ腐った神話が出来上がってしまう。



その翌日の事だ、ウィリー・スタジオは全焼した。

機材が機材、燃え易い素材、燃え易い現場、発火剤に近いものもあった。だから仕方の無いものだった。

だが、トップ一人はそれを疑った、疑ってしまった。

段々と狂う、そして、段々と崩れる。

積み上げてきたフィルムリールが削れていく。

ニトロの爆発音、そして紙の発火。爆発としてはショボい、だが、燃え広がる速度はかなり早い。じわじわと一帯が火に染まっていく。どの方向からも、酸素を奪い、気付けば遅い。

火としては派手ではなく狡猾、あまりに外道。

「救助は終わったな、そう離れていなくて良かった。」

「髪が焦げ付いちゃいましたよ・・・見せれないから暫くくっついていて良いですか?」

「顔につくな暑いから離れてろ、自爆でもする気か。火傷の箇所が無いか確認してもらってこい。」

「はーい。」

倉庫付近に人は居ない、仮に居たとしても初期段階で助けられない可能性が高い。

「・・・取り敢えずは良かった、肌も軽度の火傷程度、生涯残る程ではないだろう。」

「そういえば医者の資格持ってましたね。」

「口の中は問題無いか?心拍数は・・・少し高い。」

「それは持病です。」

「そうか持病か。」

「恋煩いという奴です。」

「独身が長いと人間ってそうなるんだな気を付けるよ。」

・・・自分は何故、彼を疑ったのだろう。

分からなかった、疑って、そして、彼のせいにすれば都合良く話が締められると思っていた。

ダメだ、このままでは自分は誤ってしまう。道を踏み外してしまう。

目を逸らそうとした時、肩からトンと恐怖が押された。殺意がある様に錯覚する、しかし色白かつ血潮に満ちた締まった手が。

「・・・ああ・・・。」

「どうした、ミハイル。」

「・・・あぁ。」

その声は震え、湿気に満ちていた。水を急速に枯らしたものだった。

「お前じゃないんだよな、お前じゃないと言ってくれ。」

「何の話か知らん。」

「ああ、三徹目だとこうなります。」

「それ以上に嫌な予感がするのは気の所為か?」

スタッフの一人から離れず、見ずに語る。

「だが、一つ言えるのは友として、作家として俺の見た人間の様に信用出来るという事だけだ。」

背後が動いた。人が多い街並みでも、自分はそれに気付いていた。

「この程度で折れる奴ではない、放置していたのは勝手に立ち直ると信じているからだ。」

若干声色を変え大きくしようと気付かれない程度に上げ、更に響かせる。

「作家はストレスがあろうと書きたい限り続ける、いや、寧ろストレスが後押しとして他よりも機能する職業だ。」

向かず、待つ。殺意が真っ直ぐに向かって来たが急に停止した。

「その程度で折れるなら多分偽物だ。サイコパスな位書き続けてこそミハイルだ。そうしてでも奴は作家として描き切ると信じているとも。」

気が緩んだ隙で顔面を掴み、そして思考を叩き込む。

自分に注目させてエリニューエスを背後に回らせておいた。保険としてのプランだったが、問題無く機能した。

「エリさん、ありがとう。」

「私達の仲よ・・・でも普通に脳の一部を破壊するのは難しいから次からはやらないようにね。覚えてる人の構造はそう多くないの。」

「愛されてるって実感するよ。」

「分かればよろしい。」

自分はダメ押しにエリニューエスの体内操作で脳を作り替えた。これ自体はかなり難しい。800億個の微小管の内どれかを書き換えなければいけない、下手すれば全てだ。

「・・・。」

狂団、間違いなく奴等だ。暗部王の方は今部下の回収と調査をしているだろう。消去法でそうなる。

自分は向かわねばならない、国民を歯牙に掛ける連中を駆逐せねばならんと。

暗部王の乱がこれから展開され、そして、狂団の変がこれから展開される。

変・・・つまり政変だ。狂団は政権を奪取、そして支配者となる。これから描かれるのは、帝国の崩壊である。

私の最近の嘘は「五回浪人すると五老星になるぞ」です。やけくそ伝承。


この時代ではカルナは寿命で亡くなってます。今後も文書等で登場はしますが殺されたりはしてません。


コウキくんおばさんを悪口と思ってないんですよ。生物って基本年上を好むんで人間みたいな年下が良い!という性的嗜好って生物全般で見るとマイノリティ、とはいえ他生物でも年下嗜好の性格や傾向はあります。

だから言うなれば「含蓄がある人の言葉は身に染みる」なんです。

まぁでも工廠公もそれを理解しています。コウキくんの事情はちゃんと理解しているので「それはあまり好ましくない」と理解させる為に若干怒っています。

結構仲良い。

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