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継承物語  作者: 伊阪 証
ループマン・ウォーキング

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48/74

海の先

今日は四話連続投稿だからあと一話あるぞ

コウキはリコ・ルドルフを記憶注射の使用によって記憶を全て破棄させた。タイムパラドクス耐性持ち除けばほぼ全てに影響を与え、勢力を崩した。

タイムパラドクス耐性はアンカーに近い、時間を戻してでも一度殺した事実を改変させない様にするのだ。『確実に殺す為に人類が縫い付けた罠』であり時間を超えた記憶の保持という長所と殺す事の無問題さを作り出した。殺しても修正されず残り続け、問題無く運営される。



アーマー、迷彩服、ガスマスク、機関銃。

「配備は良いか?」

「問題ない。」

全て戦闘で使い切る、その予定だ。

「重機関銃は狙撃銃としても運用可能だ、出来るだけ弾丸の消費は控えろ。」

彼等は女子供にも銃の使い方を叩き込んでいる。

そして、全員を動員する。

「・・・さぁ、戦うぞ。」

泥沼を掻き分け、顔を汚し、前に進む。ここはインドネシア、その中でもゴールデントライアングルと関連が深い場所。目を付けられていたが、諜報活動と政党の介入でより厄介な場所となったらしい。・・・噂には聞いていたが、クローン工場、アンドロイド工場があったとは・・・。

息を呑み、無線を起こす。

「生川、前線を押し進める。出来るだけ左右交互に、進み次第移動だ。無線をアンテナで安定させる。一番安全だが、それを失敗すれば進行は鈍る。手を抜くな。」

国安軍、コウキの影響を受けてきた人類の最高峰。麻酔銃を100m以上でも扱える・・・跳弾を当てる以上の技能、怯まず恐れずの進軍、底無しの体力。

あらゆる面からも最強と言える軍、尚拡張性がある軍が真価を見せた。

「先の自転異常で怪我した人員を医療班に、医療予備班を進行班に組み込み、突撃班は依然変更無し。」

「・・・敵側も敵側だ、数で劣るが質は勝っている・・・その質がどれほどの差か分かりかねる。」

「ガス対策も始まった・・・煙幕として使う?」

「引火性だから投げ捨てて火を着けろ、前線を崩して陣形を変える。」

一点特価と追撃。薩摩の亜種。囮を先行させ、分離した後衛が総叩きにする。

「バリスティックシールドを背負え、前進を止めたら処理が遅れる。暫くしたら煙幕発破、アルゴリズムがなんとなく分かってきた。多分分離したら動きが減る、追加の敵を恐れて動かなくなるだろう。」

予想を進め、敵の武器から重火器を使えない状況と判断、ほぼ白兵戦で進めつつ、銃器を使うよう挑発する。

「ネットワークシステムが無い、ディープラーニング用か?」

工場はあるが、隠す為に外に機械が無いのは理解出来る。それ以外にケーブルらしきものはない、発電所が近くにある・・・。

「ワイヤレス送電機・・・無線ノード。無線ノードってそんな意味だったか?結構な距離使えるな。」

「・・・インプラントを外から充電してるのか、クローンの内部はインプラント塗れ・・・重いのに説明がつく。」

インドネシア軍、国際的な評価としてはあまり良いとは言えない。オーストラリアが日本とインドネシアで連携を強めると批判する程度には信用が無い。・・・まぁ、地図的に見れば当たり前だが。

「ゴールデントライアングルは生産地から市場に変わった、金自体はあった。ワの連中の残党とかな。・・・こっちにも手を伸ばして工場を動かしていたな。」

だとすれば、その背後には契約があるだろう。

・・・例えば、今浮かぶ飛行要塞が次来る頃には実行支配し、土地を占領するとか。核兵器使用によって陸上は大半が使い物にならない、アンドロイドやインプラントは壊れる。人間もゴイアニアの様に段々と蝕まれる。

「・・・コウキの支援以外する事が無いと思っていたがそうでもないらしい。」

武装を見るに対空装備が半数、それ以外は地上戦特化、以前立ち寄った時問答無用で攻撃された、危険度はかなり高い。そういう部族だと無視していたが、射撃精度を高めるべく訓練をしていたらしい。

「これで十分か。」

進行ペースをハイペースからスローに切り替える。

「学習が早いなら利用させてもらう。」

分単位のラップ刻み、銃撃が齎す混乱の中では無意味だった。

「突き放す、逃げ切るぞ。」

「戦闘放棄か?」

「工場から引き離した、そのまま襲撃して武器の製造ラインを奪う。優衣がやりたい事があるって言ってたしな。完成した物を届けたいとか。」

工場までは獣道が多く、軍勢の配備で一応は道があるが木が戻っていたり、消して歩いた跡がある。

「地下に作られているせいで探しにくいな、発電施設が目印になると思ったが。」

「石油の産地を握っている以上火力発電じゃないのか?」

「ヤク中が煙を勘違いして集まってくるからダメだ。」

「白色と灰色だぞ?」

「白い粉で廃人の連中だぞ?」

蒸気を硫酸生成の為に流用しているという可能性もある。金属関係の工場等も兼ねているのではないかと予想している。

「硫酸使用に警戒、ガスマスクの用意とガスマスクカートリッジを後衛は持っておけ。」

機関銃の制圧射撃には二種類ある、前進しながら撃ち続ける、バイポッド等で止まり撃ち続ける。

古い銃の場合夫々に特化した物があった、塹壕戦というのもあるが、泥が詰まって壊れる事は多かった。間違えて数十万丁が役立ずと罵られた事も。

使い方一つで混乱を起こせる。

「砂塵爆弾発破用意!」

50m上まで砂を飛ばし、横方向にも散らす。そして銃を詰まらせ、破壊する。

「グリッターを使ったチャフも兼ねている、センサー機器がどうなるか見物だな。」

光沢が散った所でもう一つの機能を使う。

「フラッシュもオンにしろ。」

グリッターに光を反射させ、一帯を照らす。

「反撃用意、殲滅開始は各自で判断しろ。」

相手の状況は分からない、分かる必要は無い。ラーニングの甘いAiなど取るに足りない、基本的な戦術で落とし込み、殲滅する。

「随分と舐められたもんだ、こっちの仕事に必要な道具を取りに来たのに手を煩わせる真似したがって。殺害の確認は不要だ、チャフ影響で死んだフリが出来ない。」

交戦終了、一時間満たずで遂行した。

「工場を探す、怪しい物を全て報告しろ。整備道具を使え。」

掘り抜き、地下を探す。海上に太陽光パネルが見つかり、ケーブルを見つける。

「・・・山の中か。」

「入口あった!」

「爆薬で壊せ。単純なシステムの可能性が高い。警報が鳴ったら音が漏れでる場所を探して別の突入箇所を見つけろ。取り敢えず五十人、内五人は工兵として行け。」

入口を吹っ飛ばして穴を開け、警報が鳴るかどうかを確認し、入る。

「警報装置がないから問題なさそう。」

「用具庫の可能性か、壁を壊せるか確認しろ。」

「・・・いや、問題無い。既に破棄されている。電源が切れている。」

「・・・爆薬分損したな。」

本当にあっさり終わってしまった、呆気ない気持ちになる。一応理由はある。アルトリウスが災害の特徴と思わしき『人間を大量生産する』という情報を聞きつけ行ってみたが特に関係無かったと分かり数が七割程度以上消し炭になったのだ。・・・学習するにも常軌を逸していて何の役にも立たない対策しか出来なかった、寧ろ余計な事を学習し邪魔になったのだ。

哀れだが、一番哀れに思うべきはこの事実が彼等の知らぬものと終わった点だ。

後ろから声がする。

「弾道ミサイルランチャー、最高だ。」

「M388弾頭?」

「戦術核兵器だぞそれ。無反動砲を使って遠隔で飛ばせる。条約違反だからあっていいものじゃない。」

「威力は?」

「同質量の爆弾よりちょい威力高め、放射能は半径400m内なら普通に死ねる。」

「クローンでこれ飛ばしまくるつもりだったのか・・・?」

「侵略の意味ねぇだろそれ。」

割と楽しそうな声が癒しだった。

木野は表に出て、後衛を仕切る夫々の長に言った。

「工場はそっちで使え。作戦を続行する、二手になり指揮官を変え、続行する。」

彼には彼の仕事がある、コウキの群れる渇望に必要な物を渡しに行くのだ。

最後の一押し、これが決め手になると信じて。

「死体を包み、気球を使う。」

彼は努力を積み重ね、偶然確実にする。

「自転の加速後は遠心力が、緩んだ時は重力の低下が起きた。」

拾った物を手に持ち、括り付ける。

「それなら小型ロケットで足りる。」

運が良ければ、そうなるだろう。花火は好きだった、同じ様に、それも好きだ。

「二度目に合わせる。」

空に散る様は消える様で、否応無しに人の顔を上に寄せる。嫌な気分は晴れる、奇妙な位に。

「死ぬつもりか?」

「いや、大丈夫だ。コウキが居るなら信頼する。保険を掛けてる可能性が高い。」

「・・・なら良いか。」

松林が去った後、覚悟を決める。

「・・・まぁ、想定外だろう。騙して悪いが・・・これは俺の仕事だ。先に逝く、いつか会いに来いよ、歓迎してやる。」

少しでも遠く、少しでも速く。

そう意気込んで高く、高く山から飛び降り、投げ切った。ブースターが起動したクレートは高く飛び、気球で遠くまで進む。


そんな彼等を引き裂くように、満面の笑みで戦う彼等が突っ込んで来た。

「腰ガックガクじゃねぇか!誰と遊んでいたんだ!?」

「災害製グラマラスボディに興奮するとか終わってんな!一人で腰振ってろ!」

木野はより強く吹っ飛ばされる。山が二つ塵となり、既に倒れた木々が破片として飛ぶ。

「何か居たか?」

「確認するまでもないさ。」

倫理も常識も忘れ高みを目指す。絶頂に置き換えればセックスと何も変わりはしない。醒めやらぬ興奮も、逝かせるという渇望も、痛む事も、治す事も。

そして、気持ちが良いと互いに思っている事も。

最初の妻は用意されたものだった、どちらも互いに友人程度の関係しかなく、読み書きを教えてくれた信頼はあった。フランス革命で彼女は死んだ、それをどうも思わなかった。だが、今だから呆気ないという言葉が別の意味で感じられる。

次の妻は性欲に関して教えてくれた人だった。身体に興奮し、その衰えない身体の正体を知りたいと言っていた。・・・だが、彼女は出産時に内出血で死んだ。

悲しくはあった、哀れではあった。だが、足は止めなかった。殺してきた様に、死は当たり前だった。

平和を知って、隠された時にその重みを知った。

だから高揚する、こんなにも死なない女が居る、パブロを継いだという割には独自路線、パロディ以上のオリジナリティを誇る。

これは罠だ、群れる渇望の影響だと見抜ききった。

洗脳は伝播する、殺意を鈍らせて邪魔をするのだ。

幻覚等を起こされたら厄介だ・・・早めに解こう。

目の前に立ち塞がる子供を切り捨てて・・・。

・・・幻覚は、過剰じゃなかった。彼の何時も見る派手な爆発の様なトマト祭りよりも赤染めのものじゃない。

「・・・嘘だろう?」

高揚して確認出来なかった。焦燥が心臓を狂わせ、止まない拍動がジュデッカを引き抜かせる。相手に素早く刺し、時間を凍結させて出血を食い止める。

「おい!来い!!」

「・・・誰だ?・・・何してんだマジで!!」

「ティアマトの血があるなら使え、問答無用で上書き出来る。ジュデッカを抜刀するからそっちでやれ。」

「ああ、分かった。」

ギリギリ気付いた為真っ二つにはなっていない、だが、半分は行っている。

「・・・なんだこれ、機械か?」

「ジュデッカを緩めた方が良いか?」

「CPUから探る。」

聴診器と言うよりはエコー検査の様に探り、内部を詳細を伝える。

「・・・分解は簡単だな、一個一個がナノマシンだ。」

本体は問題が、機能が少し厄介であった。

「・・・寄生虫には宿主を操る奴もいる・・・コイツがこの子を操作している。」

気が立っている時を狙い、殺させるつもりだった。

「分解して外す、記憶を消すのは苦手だがどうする。」

「・・・何者かが俺を邪魔するべく嗾けたんだろうよ、だから消すな。これ以上関与しない為に。」

この争いを狙ってこうした人物が居る、それが一番の懸念事項だった。だが、彼にとっては些細な事だ。

「戦いはどうする?」

「・・・止める訳ねぇだろ。」

「そうでなくちゃお前らしくねぇ。」

師の教えに従った刀、それが再び抜かれた。二天一流を見せ、更に刀の持つ異常性を全開にする。

これが銓のトラウマとなり、アルトリウスを恨む理由となった。

戦場に怪しげな影が出始めた、目的の分からない連中だが、敵であるのは間違いない。

邪魔であれば即座に殺し、寸止めで確認する。

「・・・やるぞ、パブロ。」

「望む所だ。」

最終ラウンド、関係の深まった戦い。最早勝ちなど関係無い、満足するまでの殺し合いとなった。無法な戦いとなったのだ。勝利条件なんてとうの昔に納得するべく立てた大義名分に過ぎないのだ。



暫く後の話。

「あら、失礼します。」

マノンが真下で踏ん張りキャッチしてみせた。御伽噺を聞く限りは、自分はその役目ではないと知りつつも憧れていた、だから嬉しくもある。

「・・・。」

「昏睡状態・・・治るまで待ちましょうか。」

木野は目立った外傷は無い。神経へのダメージは抑えられず、他に骨折や脱臼の可能性がある。

「マノンちゃん、少し外す。」

「あら・・・どうしました?」

「このクローンの親玉・・・名前はドナルドだったか。アメリカで失踪した博士って有名だったろ?」

「・・・ああ、失踪芸人。」

「一回しかしてないし研究より失踪のイメージが強いからってそこまで言わんくても・・・。」

彼は別で奴を追っていた、対空装備の発注、サウジアラビアが空対空ミサイルを購入している中でも購入している組織があったと聞いて探していたのだ。度胸以前に金がある組織でないと難しい、そしてアメリカでは有効でないと捨てられたレールガン技術を日本を経由して持ち出した。

「オーストラリアとアメリカで連携して見抜いていたが向こう側も向こう側で気付いていたって事か。」

合点がいった、アメリカ内戦により諸勢力がアメリカに加担していたが、内戦状態を利用した国交形成にしか思えなくなってきた。

「・・・起きませんでしたか。」

「低血圧で死んだな・・・意識が途絶えた時点で無理はあったが。」

命は僅かだった、意識が沈み、助けられなかった。

「・・・カルナさん、彼の保護を。冷凍保存を・・・。」

「・・・不要・・・いや、無理だ。冷凍保存が先ず出来ない。進化し過ぎている。」

自分達と同種・・・環境の乱れた地球の寒冷化に対する耐性を先取りした人々が居た。・・・それも、過剰な位に。

「・・・あの少年一人の救助で満足しますわ・・・はぁ。」

「殿業務が終了次第飛行要塞操作ユニットに行く。」

マノンには分からなかった、行動原理やその意味が犠牲に釣り合っていない様が。無様と蔑み、同時に哀れと悲しんでいる。

「何を望んでこんな事を・・・。」

コウキとは大きく違う、光の無い目。瞼は閉じられていた。諦めた様にも見えた。

「・・・どうして・・・。」

「そいつは生きるのを諦めていたんだろうよ、目的を果たした、そして敢えて死んだ。」

人類の新たなる光、それは継承という名の遺産。

「・・・継承を理解して、死ぬ事で情報を伝えてアレを手渡したのさ。」

災害という人類の外れ値、労働よりも先に出産をアンドロイドに実用化させた様に、人類は繁殖を通して様々な危険を犯し、そして災害が生まれた。

その災害が生んだ人類を殺すシステム。

継承という略奪、殺害、報復、欲望を突き動かすシステム。殺し合い、守り合い、継がせる。コウキという災害が牙を剥き始めたのだ。

「・・・死んで紡ぐしかない、そうなったのだ。」

コウキという災害の歪さを見ていた、彼は人間としては素晴らしい、だが、災害としては異端。葛藤する度に人類はそれだけ数を失う。継承される時点で人類は掌握されているのだ。自分の様な半端者でさえ進化の影響は免れない。

「今更だが詫びる、君が子供の頃、フランス革命の危険性を察知して予め逃がした。だからヒトの歪んだ良心を教えられなかった。」

君はあのままだったら同じ様にすると確信した、理解出来ない様に歪めた。

マノンは無垢故、母性がある。無垢と幼さは英雄性を孕んだものだ。コウキも、マノンも・・・パブロもアルトリウスも例外ではない。

人間は完成しない、人間は完成に程遠い生き物だ。

・・・災害を探究し続けた彼にとっては耳と心の痛い話だった。

どの道彼は死んでいた、その可能性が揺らぐと思うと吐き気がする。



・・・コウキの手に届き、一瞬で食らいつくし、装填する。

「確かに受け取った、木野。」

輝ける七つの海・・・これは太陽に照らされた海ではない。寧ろ曇り空の方が正しい。

地球の内核にある溶岩が光り、雨が降り続け海となる。その様子を示している。

生物の住む場所を形成し、グレートフィルターに合わせて調整し、進化を行う。そして外界に出る。

「『輝ける七つの海』」

ならば、それがゼロであった場合どうなる?

理論の限界に挑戦する、左腕の膨張、そしてその空間に虚無を作る。自分の体は引き裂かれつつ、引っ張られている。

目さえ藍色のグリッター染め、そして髪色が逆巻き変化する。段々と身の中心が黒へ染まる、表面を繕う為の嘘の衣服が変化する。・・・そして、前に射出された。

「『牛飼の虚空』」

群れる渇望が可能な最大火力、進化の終了地点、いわば打ち切りの一撃。物理学上の最高速度の90%で拡大しブラックホールよりも早く到達する。0.001秒未満程度展開し、閉じる。それだけでも被害は甚大だ。

今のも賭けだ、下手を打てば銀河系が崩れる。うしかい座ボイドを冠するに相応しい技だ。

アルバートには優を介してこの事を伝えておいた、問題は無い筈だ。

三百年間の備蓄で釣り合う一撃、虚空故に引き込まれ、範囲外に居ようと引き込み殺しに来る。破砕と膨張、限界まで引き伸ばす。ブラックホールさえ生易しいと言える代物。光の侵入すら許さず、一度落ちれば上に這い上がる事は出来ない。

・・・身体の半分を奪った、丁と出るか半と出るか、半分という意味では、半しか出ないが。

首から上は消され、再生が遅れる内に第二の手を取る。

空間が修正され、テクスチャが都合良く動く。

そして一振の刀を拾った。

それを左腕で掴む。少し長めの、重い刀。

「そりゃエンジニアならこのくらい予想する。例えば、クルーザーを予め用意したり、盗まれた時用に盗聴器を仕掛けるとかな。」

答え合わせの時間だ、自分は予め提示していた。

「村の人間にしたのは暗号だ、心の因縁、相手の心臓を終わらせるという意味でそう伝えた。敢えて余分に手を明かす事で隠すべき事の様に振舞った。」

そう振る舞い、騙し切った。

「これから、それでさえ忘れなきゃいけない。・・・身体が腐り、記憶形質も機能しなくなる。」

その言葉事実ではあった、だから逆に隠しやすい。先ずあんな所で明かすものか、とっくに話していたから二度目だ。

「最初に記憶が無い、つまり戦いに必要なフィールドが無い。齟齬がある言葉で示して会話を成立させた。あいつが私の事は忘れてないんだとか言う訳ねぇだろ。嬉しいは憂いを誤魔化す言い方だ。似ているだけだが、十分だ。最後に嘘かどうかで確認をした。」

暗号解読ではMTG知識を問われたり、無茶がある連想ゲームをトップ層でも組み込んでいる場合がある。それに比べたら簡単な暗号だ。記憶は脳の一部領域・・・頭を指でつつけば感情との齟齬で違和感がある、それに気付いたのだ。

「心の因縁となる何かを残してくれ、武器を残せとな。」

信頼と好意から成立する関係、その脈は受け継がれた。エマの技法混じり、心臓を確実に止める刀。

「絶縁刀『国安守優衣』・・・そう名付けた。」

縁起が悪い、そりゃそうだ。だが、これ以上失われる事は無い。

剣を跳ね除け、そして、肩の上に刃を許した。

「遅い。」

田宮流 陰転切

・・・戦況は大きく変わった、だが、コウキの群れる渇望も負荷が蓄積、状況的には厳しい。それも事実だった。

『おかしい。』

『何が?』

『言語を失う病を治しているか、隠している。最初は災害由来と思ったが、アランがそうするとは思えない。該当する災害が無い。』

『・・・それはそうだな。』

『神格由来、第三勢力。厄介な事に第三勢力は誰であっても構わないから人間も対象になる。それ以外も有り得るが除外する。手筈に一つ書き加えて闘が対処で良いか。』

『分かった。』

察の手は止まらない、再度装填、予め作り保管しておいた人間四人。記憶を装填し、射出準備を終える。

「『輝ける七つの海』」

災害としてのやる事は終えた。これを攻撃の為に行う。想定外なんていつもの事だ。

「『七つの海を越えて』」

産まぬ人間が生物の最上位だとすれば、

群れる渇望はこの世の神である。

全ての生物に意味を与え、時に終わらせ、時に生かす。

それは全ての生物を愛し、同時に見殺しにしなければいけない覚悟が必須だ。

彼は愛するという覚悟を記憶に刻み、そして、見殺しの一歩先を目指す。

もう一度、そして手を前に構える。

彼は神ではない、人だ。

収斂し、人を作り出す。

時間が足りない、失敗すれば終わりだ。

だが、一度自分は契約をした。反故されなければ問題は無い。

「人と植物は生殖器とエネルギー吸収の場所が逆にある。己が生きる為に必要な行為、他者を生かすす為に必要な行為、それ等は真逆の位置で行われる。」

生きた証の刀、鞘を持って突き出した。

「繁殖、生存、それが群れる渇望を活性化させる『渇望』だ。己が生きるを徹底化した産まぬ人間とは別のものだ。」

その刀を握った手を見ると・・・同じ顔が居た。

「欲望ではなく、渇望。全ての生命は不満故にその我を持っている。」

彼はコウキだ、正真正銘のコウキ。

英雄降ろしの原点を続け、自分に力を託す。

「『禍堕罪(ワダツミ)』『厭疾罪(オオヤマツミ)』」

人間として生きる、彼の選択であった。

「人が人を貶す、最も醜い行為だ。他種であるから、性能が下だから、好みでないから。」

人間に災害にされ、災害として生きて・・・。

「所詮は他人事だ、関与せずに生きて、関与せずに死のう。社会の反動から目を背けて生きた結果、追い詰められている事に気が付かない。直接の罪では無い、だが、直接の罰が待っている。その暴走は、恐怖と強迫で動き続け、失敗して冷ややかになる。」

それでも、人間として生きたかった。

「数十人の努力で成立する地球、その最大値がこれであっただけだ。」

一度掴んだ幸せをもう一度成したい、同時に不幸を起こさないと願った。

「その正義は分かるさ、痛い程身に染みる。」

英雄としての試練、王としての使命だ。

「俺は俺の正義がある、アンタはアンタの正義がある。俺は嬉しい、アンタみたいな真っ当な奴が居て、戦える事が。」

「・・・?」

刀をコウキは構え、その植物化する人型は笑う。

「戦い成長は表裏一体だ、戦いが成長を齎す、核抑止論、勢力均衡、軍需、何でも良い。死ぬまで戦え、生きているなら戦え、それが正解だ、それが全てだ。」

コウキの構築が終わり、ほぼ同じ姿で光が消え、完成した。

「俺という進化が途絶え、人類が滅ぶその日まで生きていて欲しい、そう願っているから俺はお前という存在を倒す。」

英雄として、王者としてそう言った。

「コウキ・タカハシだけでも幸せにする、そう約束したからな。」

人型はそう言い、茶色と緑の色へ変わる。

「『美しき青の星』」

変化を終え、群れる渇望は固定された。

それを見ていた、その奇妙に魅入っていた。生物的な不可思議を・・・。



遠くにも、継がれる思いがあった。夫々が受け取った思いを紡ぐ。

「一名以外の無事を確認。」

川副の合図を受け取り、指揮官は交代した。

「受け取った、勇姿は見た。」

見渡す先に居た仲間を。

「陽夏、右翼の指揮は任せた。」

「慶一、左翼はアンタ次第よ。」

見渡した先に居た友を。

「指揮官の弔い合戦だ、弾薬を使い尽くすつもりで戦え!!」

慶一はライフルのセーフティを外し、板で固定した脚を前に進める。

「まだ戦える!生きている仲間と友の為に立て!!」

陽夏は皮一枚で繋がった腕を締め上げ、以前とは違う姿で陽光に照らされる。

自転の異常から再びこの地は照らされる。

そして、日が沈む時が来た。

暗い暗い星月夜、青の芝生が輝く一面。

決戦は終わる、コウキは期待に応えるべく。

インドネシア軍がネットワークと接続させないのはシャーマンの存在に気付かれない様にする為です。彼の体内ならインターネット機器や衛星電話を守れたりすると厄介なので。

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