表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承物語  作者: 伊阪 証
ループマン・ウォーキング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/74

溜息

短縮しなきゃ良かった感はある。


光と音の対決、災害同士の戦いが完璧と究極の対決であるとすれば、此方は双方が完璧で究極の対決となる。

同じ位置に立ち、同じ場所で戦っている。打ち合っている。

剣が彼女を射抜き、槍が彼を貫く。

「拮抗拮抗!手ぇ抜いてんじゃねぇだろうなぁ!!」

手は緩めない、失血死の予感はしない、しかし血は広がっていく。叩けば叩く程力が増える、出し切り合いだ、燃え尽きて緩んだ方が負け、短期決戦の長期戦化という手法で戦った。切り札を先に切って、それで仕留める事が出来なければ負け。

・・・違う音がした、外れる様な音。

・・・ホルスターの音、それに気付けず、突撃をしてしまった。

「・・・マグナム弾、その中でも一際デカい奴だ。有効射程は5~10m、骨折は当然、44マグナムのセミオート版を少し大きくしたもの。」

眼球に叩き込み、頭蓋を壊す。

それでも、立ち上がる。それでも、戦う。

「・・・そうでなきゃ・・・だ。」

「乙女の顔ブン殴りやがって、クソ野郎が・・・。」

「男が何言ってやがる、染められたか?」

アルトリウスは遠心力に任せた蹴りが多い、元々背丈も2m程度はある・・・それでも細さはあまり無い。どうしても折り畳むのに準備がいる・・・。

その常識を打ち壊す程早く、銃撃後の先の殴りとは違う。

遠心力は袈裟斬りに近く、しかし折り畳む場合、直進、脚力に絞った一撃となり、同時に突きとなる。突きというのはガードが難しく、フェンシングなんて突き限定の剣術すら存在する。

・・・こんな所では負けられないが、無理だったか、自分にしてはやった方だ。

やった方だな・・・こりゃ。

「ここまでノコノコと近付いてくるなんて思ってなかった。確実に殺すつもりだな。」

「・・・マジか。」

・・・これは全てブラフ、耐えるかどうか、ギリギリまで攻めた。

「『鬱蝉』」

一言目は、音響の狂気。

二言目の前に、彼は逃げた。

「・・・何だ?」

「見破られた・・・訳じゃねぇな。」

アルトリウスは自分の体の制御が多少失われていたと察し、手を緩めようとするが止まらない。矛盾か?・・・いや、特に無い。

その剣は光であった、その槍は波であった。

首に刺した槍は墳血と共に打ち払われ、無意味だと察する。

「ティアマトの血か、妙に治りが良い訳だ。」

「さぁな、拾い物だ。」

片手を引き、腰を深く落とす。

天に手を伸ばし、地に伸ばした手が槍を脛真下を狙って高速で当てる。

等価交換、武器を実質無くし、何より体勢を崩した結果、空から絶望が降ってきたのだ。

指が布を裂き、それよりも早く肉を食らう。水がすり抜ける様に、それを無惨にも砕く。

「治せよ、その程度で砕ける心なら前に二度と立たないと誓え。」

煙が紐解かれた、その中から同じ様に、しかし風すら感じさせず一撃を決める。

「治すより叩け、振れ。それこそ戦いの正義だ。」

「情けを見せたら調子に乗るなぁ、オイ。」

「情けだ?後付けなら幾らでも言えるもんなぁ!」

「俺にとって他人は弱者さ、役に立つ奴、役に立たない奴。お前は論外だ。仲間にもせず戦うのが一番良い。」

鍔迫り合いは普通よりも深い場所で行われている。肩であれば骨が多少切れる位置、内臓を貫かれる時が腹にはあり、致命傷を寸止めで回避し、感覚を維持するのを二の次で打ち合い続ける。

手数は違う、アルトリウスが一撃を入れるのに対しパブロは二撃、しかし押されている。傷が無くとも骨に響き、内出血が酷くなり、血の涙と充血が全身を赤に染め上げる。

心臓を刺した所で奴は立つ、心臓を刺し続ければ殺せるが、間で武器を止めなければ首を切られる。心臓の血流で押し返されつつある、今でこそ加速として役に立っているが、決定打を無くしてくるのだ。

「お前は、俺とは違う。」

彼は言った。

戦場を超えて英雄となり、尚落ちぶれず、そして未来に期待されたが為に記録を抹消された存在。

それに真っ向から戦う実力者・・・しかし、それは偶然と才能に満ちたものだった。

「違う、心と、体と、何より、愛が違うんだよ!!」

アルトリウスは、ティアマトとの契約はしたが、親交を深めたのはそれよりも先、なんせ精神が崩れ落ちていたも同然の時だった。

それを見抜いてマノンは拒否した、それに自分も納得した。・・・であれば、彼は愛されていない。分からない儘失った。

愛は現実でさえ打ち破る。それが壊れるとしたら、一瞬の彗星の様な恋しかない。

愛が心臓を回す、血を送り、そして息を延ばす。

「愛を知らねぇお前は、俺には勝てやしねぇ。」

パブロの目が、一直線を見渡す。

倍までテンポを上げ、三撃を防御、一撃を攻撃、それぞれ単純化して補い合い、破り込む。流れの変化を感じた、僅かに傷が増える中、自分は流血以外に傷が増えなくなった。

アルトリウスは攻撃的な状態である、そこには他にトリックが混ざっていた。

パブロの戦略、その一つはサイケデリック・ロックを利用した道具であった。超遠距離音響兵器。念の為十六台仕掛け、五台は無人爆撃機に詰んだ。索敵カメラと組み合わせる事で精密な運用も見込める。

「・・・途中から、目標を変えた。最初はお前を倒す事だったが、良い男に惚れちまったからな。」

ヘカテーの立場としてはどうでも良い話を聞かされた。コレが母親だったら正直嫌だ。躾で半殺しになれば上手く調整出来ている方なんて未来は想像したくもない。

「気を狂わせて戦い続ける。危険極まりないが、どっちにしろ同じだ。サイケデリック・ロックを利用した狂気放送局、名付けてインサニティ・レディオノイズ。」

聞く必要性は無いが、心に留めておく。そこ以外ストレージが無いし。

「ヘカテー、一応これは把握だけしておけ、だが伝えるな。何をしでかすか分からん。一番ダメなパターンは災害を殺した後にアルトリウスに挑む、間違いなく死ぬパターンだ。」

この言葉は自分も賛同するものだった。だが、今になってみれば、違和感のある言葉だったと気付く。



溜息とは、危険信号を緩和する為の安堵に関連した行為である。彼女はそうした後、傷口を少し治す。鈍っている、痛覚が鈍っている。傷自体は問題無いが、下手を打てば気付かぬ内に死ねる。

「・・・余計な事しやがって、胸の成長は程々にしとけよ。結構当たんだよ。」

白兵戦、それも人智を超えた代物。

人類より否定された異常、それは血を留め、継がれ、守られた。それは大義の為、利用する為でしかない。

その上で、彼等は戦う。

息切れ?いや、どちらも興奮しているだけだ。

「・・・来いよ、俺とお前、大義も正義も無く、気分だけでやり合っている間柄だからよ。」

「分かった分かった、私は正義も大義もある、いや、出来た。」

「・・・それは、良い事だ。」

「・・・だが、お前は違う。」

刀を砕くが、次の一刀が振りと同じ速度で抜かれる。油を中に仕込んであるのだ。それに対し自分は槍で応戦を続けた。

「今のお前は虚無だ、こんなくだらない手に掛かるほど愚かではない。自分を責めている、言い訳を欲している、それが今のお前だ。」

その槍は砕けない、数多の刀を前に、一度も欠けず折れずの身を見せつけた。

「・・・ああ、そうだ。」

新しく刀を引き抜き、そして光を当てる。

「分かっている、これが一番の癒しだ。これが一番の快感だ。だから殺し合いをしている。言葉で説き伏せ、解釈を探すよりも結果が全ての戦い、それが自分のあるべき姿だ。」

青い刀身が白に戻り、金属片として散る。しかし、腕も手もまだ耐え続ける。自分のそれだけは信用出来た。

「嵌る解釈で誤魔化す、それは自分を悩み苦しませるだろう。・・・そうしてでも、無理をしてでも、立ち続ける。・・・そう生きるしかない人間だ。俺はマスターピース的な人間で、憧れる対象であるべく生き、勝ち、保ち、悔い無く明日を迎える。」

音響が血管を抉り出し、血が爆発する様に四散する。立って話し、刀を振り落とせば今の所折れなかった槍でさえ欠片程度壊れ始めた。

「その為に、誤魔化す事はしない。解釈等という猪口才な事であれば尚更だ。」

目に細い光が入る。その狂気に応え、下腹部を蹴り、そして崩れた体勢に回し蹴りをする。

「・・・それも答えだ。責めはしない。」

僅かに掴まれた足を治し、欠片を音で整える。

「だからと言って私の正しさは変化しない。」

俯いた顔を見る事は出来なかった、自分はいち早く立てていた。アレは肉体的ではない、精神的なものだろう。

「・・・折れるには、もう遅いんだ。」

近付けはしない、心が折れた所で彼奴が戦えない訳が無い。脳内でアルゴリズムを組んで殺しに来るだろう。・・・今は徹するしかない。

「折れる事は出来ない、負ける事は出来ない、だからせめて勝ちの数を減らし、確実に追い詰める。」

脆く、悲痛な呟きだった。

「俺には、それしか出来ない。」

それと心拍は遅く、しかし周囲でも確実に分かる。

「愛で負けようと俺には意地がある、目的を果たす為に意地を通す。」

再生と膨張、刺した場所にはどちらか分からない血だけが付着していた。

「意地を守り続け、戦い続ける。その一部に愛がある。」

これが答えだ、彼の、そして、これからの。

「俺には愛以上の支え、守るべき未来と人々が居る!!」

刀を握り直し、首を切る直前で槍と衝突した。

「槍を御せるのに突きが甘い、棒の戦いでバランスの悪さに慣れていない欠点が見られる。」

「刀は剣じゃない。力を入れ過ぎだ、丁寧に、糸を通す様に考えて切れ。回す様に、空中に絵を描く様に。」

防御は無し、教える様に晒け出し、より苛烈に積み続ける。彼等に流儀作法は無い。只管に強く、そして孤独な存在だった故。だからこそ、仲間と友人の尊さを知っている。強さ故に戦い方を知らず、戦い方を教え合える仲を喜ぶ。

受け入れ、戦い、殺し合うのだ。そこにはプラスの感情しかない。

継承が許した殺し合い、それを喜び、本気を使い続け、切磋琢磨と極限状態の行使をする、それが彼等であった。

血は何人分流れた、肉は何キロ飛び散った。それすらも考えられない戦いが強く再び燃えたのだ。



自信満々に遠距離戦へ持ち込んだ筈だった、だが、相手が悪かった。

コウキの本領は殴り合い等の白兵戦ではない。エマとの出会いの時は態々面倒な作業をしてでも銃を作っていた。

彼の武器は弓か銃、それがベストなのだ。武道寄りな彼だが、弓は長弓ではないものを好み、銃は信頼性があるものを好む。

「・・・余剰の水で出来るのは・・・。」

一度集めた水、それを弾丸にする。アンモニアを混ぜ込み、黄色に変化したそれを腕に込める。

無音、しかし多少臭う弾頭。

恐れるべきはその威力。

「・・・!?」

掠るだけで肌が奪われる。ライフリングが特殊で外と内で異なり、内部で削られる。アンモニアを血管中に撃ち込み、危険性は爆増する。威力に対して狙いがかなり浅く、致命傷を回避する為に毒を受け入れる選択肢を誘発するのだ。

「何処だ!?」

周りを見渡しても何も存在しない。誰も居ない。

一つ忘れていた、飛び道具を使うからといって遠距離で戦う訳ではない。

地面の真下、墓穴を掘る様に砂が散る。爆発する様に腕が相手を掴む。そして彼は顔を出す。

コウキは災害としては異質で、基本的に白兵戦で戦って来る。それであれば確実に仕留めるべく殴り合いに来るだろう。

それは先に読まれていた。その被害すら甘んじて、コウキを殴る。

「『災害爆縮』」

複合的な災害の特権、二次災害に変わると使えないという欠点こそあるが、この技は問答無用という言葉が似合う。生物的核爆弾と言える代物だ。肉体を破壊する近接、遠距離では精神を破壊する。

・・・自分を守るのは、確かに簡単だ。

これの規模はどうなる、半径数十kmで収まれば良い方かもしれない。

何を差し出せば良い、自分には足りなかった。

何度も繰り返した、徐々に弱る熱風は降り注ぐ。

・・・一つ可能性が過ぎった。地球を一巡したのか?と。

「・・・それは無い。」

熱量の減少量が計算と合わない。

濃縮して撃つ、外を隔てる何かがある。

コウキは苛立ちと憎悪を重ねる、そして攻撃が苛烈になる。

「・・・クソ・・・。」

大振りに地面を切り崩す。剣の性質を利用し、推測を強いる。ハッタリ程度にはなるだろう。

危険、そして未知。確証は無く、安心も出来ない。

彼自身が彼を追い詰め、その感情は暗いものとなる。

解決方法が見当たらないなら、敵討ちとして済ませるべきだ。

それは揺らぐ事無く反撃として、それを支える一直線の禍々しさに続く。

示現流よりも猛々しい、故に必要とされない領域の武術、そして、災害としての機能行使。

一進一退、それが相応しい。災害の数としては向こうが上だが、全ての災害と比較して異常性に満ちた、産まぬ人間の絶対性に匹敵する強さがある。

複数の災害による進化ペースでやっと追いつける成長力、そして、宿した人間の強さ。

災害爆縮で起きたのは個体数の増加、災害としての強化。拡張性がそれを上回る。

ランダムで発生する病、災害としてスタンダードな性質故可能性として最も有り得る。


遠巻きに彼女は、山頂から眺めた。

「・・・アルトリウスとパブロの戦いは確かに気に食わない、だが、お前は例外だ。」

マノンの根幹は恐怖にある。そして神罰的な理不尽さがある。実力不足の中、恐怖を与え、それによって弱点を見抜くという方法でそれぞれの信頼を得ている。

精神的摩耗は、時にどんな強者をも屈服させる。

しかし、通用しない者には何処までも通用しない。

問答無用でその摩耗を起こし、彼等を苦しめる。

カルナに護衛される中、崩れ落ちた鉱山の翡翠を拾い上げる。

「時を越えてでも交わしたいものがあるならそうすれば良い。前提を整えてやろう。」

不可視、だが、何か分かってしまう。迫り来るそれは鈍重で混沌としており、無意識に恐怖を掻き立てる。

死を呼び覚まし、冷気で壁を打ち破り、そして槍の一振で壁を霧散させた。

それはコウキにも例外ではない。

正直、敵だろうと見捨てるのは嫌だった。

自分は戦いにおいて躊躇を忘れる、殺しは嫌なのに、つい手を出してしまう。

櫛奈の時、自分は訳も分からず、瞬間的に手を出した。0.01秒程度、脳の支配が奪われて・・・。

自分においての恐怖はそれだった。

自分は災害であるという事実は変わらない、人類の害であり、敵である。有益であっても、損失が無い訳ではない。

そして、その損失が大事なものを壊した時・・・。

人間になれば、そう願った結果、クローンとして新たな自分になった。だが、記憶は徐々に失われ、コピーしただけの・・・納得が出来ない朧気な記憶だけが残った。

エマを守れず、リーツィアを手に掛けた。

・・・次こそ。

嘗ての仲間が居る、だから守り抜く。

「『輝ける七つの海』」

体内のホルモンバランスを足して調整、感情の昂りを抑え、心臓に対する負荷を減らす。恐怖を糧に、自分は手を伸ばす。屈辱故にそれを越える。

勝つ、自分なりの答えだ。

先に立ち、顔を睨む。

「『災害爆縮』!」

先よりも威力が高い、朱色の爆発。その中に黒と紅の混じった団子の様な球体が発生する。

何を狙っている?真上でないなら確実に殺す為の何かだ。

何故自分ではない。

何故俺を殺さない。

・・・察して、走り出す。その先に誰かが居る。

準備の暇は無い。恐らく衝撃信管と同じ仕組み、遠い位置で発破させるのが良い・・・が、先のを見る限り一番安全なのは手前で止める事だ。自分は手前で止められる程早く動けない。水の空を先導する赤を追う。

「『輝ける七つの海』!」

体内にストックした水分を勢い良く射出し、最初は水流で進み、行く先の水は段々と氷結させ、傾けて足場にする。

先のガスを再利用し、銃による着火と爆発。

「・・・足りるか!?」

赤の上、爆発させて落下と丁度タイミングを合わせる。

相手が分かった、貴婦人の様な双眸、しかし素朴な田舎娘の様、化粧も無しに色気がある。

・・・ここにいる時点で強さは桁違い・・・他に自分が前出会った気配がある。

見惚れていると発破に迷った、強さが格別かどうかは兎も角、耐えられるというビジョンは無かった、結果撃つ事は出来ずに終わった。

丁度目の前で爆発する、今は背中に展開して何とか守り切るしかない。生成はギリギリ、構築が間に合わず、背中が焼ける。失敗した。・・・一応は防げた、だが、着地しようとする前に受け止められる。

「あら、可愛らしい。心配しなくて結構でしてよ。」

堂々と立って倒れない様に支えた。背中を使い守り切った、焼け爛れて筋肉が見える状態だろう。

「強く生きなさい、貴方を待っている人はまだいるのでしょう?」

そう言って迫り来るアランの片腕を掴み・・・。

腕を引き千切り、連鎖的に内臓を引き出す。

継承が存在する以上、この世界でが内臓の方が重要である。『切られた腕を自分と言えるか。』の問題に対して許容範囲が広がったのだ。・・・これは矛盾を起こす。再生においてどちらを動かすべきか。

産まぬ人間であれば増殖として再生を行えるが、群れる渇望は別々の内臓で成立する為に引き出されると破綻してしまう。

相手は分からないが、災害としての根本を狙う。・・・そもそも肌の硬さが違う、傷は付けられるが奥深くを抉り出せない。

「足りない物は、誰かに頼るべきでしょう?・・・分かっているなら、行きなさい。」

話せば血が出ると喉を抑えられ、頷く事すら許さない。だから笑って示した。自分の作戦は彼女に筒抜けだったらしい。

「私はその感情を知っている。だから、信じて突き進みなさい。」

肩を持ち、恐怖に耐え忍ぎ、そして前に進む。

追い詰められる、そう言える感覚がしない。ルール上の戦いで強かった、それだけでなく張り合いの勝負でも立ち続ける。

・・・それは何より、試練と苦痛があったから。

擦り減らなかった環境で生きてきた、しかし数度の瞬間的な苦痛。・・・彼の若さ、苦しめられ続けた訳では無い童心、やんちゃとも言える。

鉄は熱いうちに打て、そういう事だ。

「少し下がってろ、ラプラタ川の河口よりも遠い位が良い。」

「お言葉に甘えて・・・じゃあね。」

「・・・ああ、本当に助かった。善行はするもんだな。」

「ええ、そうね。」

よろよろと前に進み、武器を拾い直す。銃剣を外した儘使う。消防斧を腰に下げ、銃剣一つに絞る。

「・・・来いよ。」

下から上へ目を光らせる。更地になった結果、戦いやすくなった。どちらもそれは同じだろう。




アランは言った。

「何故だ・・・。」

その声は、恐怖に打ちひしがれていた。吟味するまでもない。

「怖いさ。」

コウキは克服を半端にしていた、忘れる事で我慢しているだけだった。

「怖くても前に進む、寧ろ怖いからこそ前に出る。」

武者震いにも、恐怖にも見える。それは覚悟だった、目を合わせるのに監視カメラの様な奇妙な動きで睨む。覚えれば怯える程、戦術と戦略を組み立てる。眼光が脳裏を離れず、恐怖に追い込む。

「葬儀は死者の弔いであり、同時に生者の為の餞だ。それと同じだ。」

だからこそ、自分は指輪を外して同じ様に身構える。

「怖さこそ、人を助ける。」

機械を作ってきた時も、昔の失敗する迄の医者としての経験も。

「医者としても、エンジニアとしても。万事を尽くす為に恐れ、戦う。」

全てはそれだった、全ては憎悪の様な感情だった。そして恥の様な感情でもあった。

「恐れてこそ、人は強くなれる。」

アランを指して彼は言う。

「どちらも正しい、理屈上は成立するさ。」

銃剣を構え、腰を落とす。

「単純に決める、殴って生き残った方が正しいってな。」

一呼吸が叫びを告げる、凍り付いた様な熱気が口から漏れ出る、排熱と共に彼を叱咤する。

「集大成のどっちが正しいか!それを決める戦いだって覚悟して来い!!」

ここまで近付けば可能だ、壁も壊した、狂の考案した成功率未知数の作戦。パブロがそれを可能なラインまで引き上げた。

「『戸惑いの反響』」

全人類の喉を遺伝子組み換えで全て再現、数秒間で全ての声を配置し、反応した数を調べる。百億種から推測して過去の人間全てを再現可能なもの。

『六人だね、あの反応。』

黄金錆殺しが手に入れた災害は五種、現状の予想は魍魎の課題、安らかな死、拭われた血、終局的愚行、黎明の臓物。その五種だ。

「・・・成程。」

最初、隔てる壁が一度壊れたのだ。修復は出来たが、壊れた事に焦っていたのだ。

黄金錆殺しを他の災害で生成した虫に混ぜ、強固な壁を作る・・・といった所か。

手立ては決まった、後一歩の戦い、その準備だ。アレには時間がかかる。

群れる渇望の最大出力、世界を壊しうる一撃を。



全て、思い出す。

アランは過去を掘り返した。

一度の失敗だった。内容は忘れる事にした。

覚えているのは、遺族にも責められなかった、何も無かった。

手法を確立し、しかし医者も確率として難しいからと躊躇った。狂犬病の治療法と同じ程度の確率しかない。

・・・自分の解決手段は、機械だった。その為に一から学んだ。それは手術の機械、全ての医者の立場を奪う、医療機器であるのにも関わらずニ億円程度だった。

目が覚めたら自分は投薬され、話す事が出来なくなっていた。自分は何時しか、殺されて、冷凍保存されると教えられた。

自分は蘇ってから、医者である事を辞めた。

・・・宗教に甘え、アルトリウスに断りを入れて外科手術を捨てた。自分は薬以外で助けるつもりが無くなった。

自分にはそれ以外の災害が持っていた記憶が見える。どれも恨み節に溢れていた。自分には分からないもの、恨みという感情。どうして相手を殺そうとするのか、戦争でもなんでもないのに。戦争だからと割り切っている訳では無い、私情が酷く荒れ、そして思考の合理性が濁っている。

自分は分からなかった、一人目は家族が殺人犯を許したとか、医者視点では多く見てきた、許すのは珍しいが、一個一個が印象的で忘れられなかった。

二人目は穢れた何とかを傷付けたら排除されたとか。・・・どうやら差別をしていたらしい。そりゃそうだろう。それに少なくとも正しさはない、肯定は出来ない。他の三人は特にエピソードも無く恨み節であった。ドゥーマーという奴か。

・・・少し気になるのは黄金錆殺しの中身だ。彼は文明がもう少し続いたならば歴史書に乗るであろう人物らしい。軍人で、得意は上陸作戦と殿。泥仕合が得意だそうだ。

自分が聞くに、刑務所のスペースに困った連中が冷凍保存して未来で起こし、開拓と再興に使うという計画の一部だったそうだ。・・・しかし権力争いにより罠に掛け封印する等が横行し、気付けば権力争いに固執した勢力しか居なくなった。自分も彼も同じ立場である、それだけは確かだった。

一番の違いは、その権力争いの事実をアルトリウスが知らなかった事。自分は殺されずに済んだが、彼は違った。

彼と対話をした、その時に聞いた事は二つ。

『アルトリウスの計画』と『他大陸の存在』

アルトリウスは平和を実現する、それは分かっていたし、手段も理解している。・・・だが、一つ分からないのはその目的だった。平和が最終目標の可能性は否定出来ないが、普通考えればその先がある。経済的にも戦争状態は都合が良い。

それの仮説が他大陸の存在だ。鄭和という人物、ムスリムにも関わらず、海神を信仰していた。それの痕跡が存在し、帝国にもコンタクトしていたらしい。・・・他の大陸に渡るには海神が必須、信仰される必要があると。

自分は別の組織を立ち上げた。古いコネクション使い、人類を存続させる計画、それを利用した平和計画。

時間を戻す人物とラプラスの悪魔を用いて確実にするという提案を他の人物にされ、協力関係に至った。

「破綻したらどうなるか分からない計画、その片棒を担いでいる。」

迫り来る鬼気、災害が真価を発揮する。恐怖という枷が外れた。自己肯定により最も乗ってる時だ。

医者として、エンジニアとして、緻密な作業を行う時のテンション。災害の広域攻撃、緻密な作業を並行。手の内を明かされた所で何が出来る、災害には進化がある、断続して変わる戦局、それこそ無敵の戦い方であろう。

「その覚悟を侮るな!!未来の英雄!!」

精神を整えられた二人、覚悟は戦いの中で決まった。

マノンの強さは帝国公爵とかと同じなので格落ちなだけで弱くはない。でもロタールはコウキと同じ性格と思考だから相性が悪い。

特定の人と組むとシナジーがあるタイプで今後出ます。敵として。


コウキが殺しを無意識下で行うのは人為的なものです。


あとアランはアルトリウスが冷凍保存した連中を殺したと思ってますが違います。アルトリウスの心が折れてたとかは歴史から抹消されてる上半ば神話になってるせいで正しい情報が掴めないので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ